上 下
33 / 86
2.魔法学院2年生

(32).ノアと国王陛下

しおりを挟む
 その頃、ノアはノアスフォード領と王都を行き来していた。父ハロルドに定期報告に来ていたのだが、そのまま国王陛下のもとに届けて欲しいと書類を託された。

(俺、伝書フクロウじゃないんだけど…)

と、不満に思いながらも、きっとこの書類はソフィア関連のものだろう急ぎとのことなので仕方ない。
普段はハロルドが転移して渡すのだが、領内の問題も解決しておらず疲労困憊な中、魔力を使わせるのは気が引けた。ノアも自分1人なら転移が使えるのでおつかいとしてはお安いご用だ。


 王宮の窓から覗いて陛下を見つけ、部屋に入らせてもらうと、預かった書類を渡す。内容を確認していた陛下はひと言

「なるほど。」

と、つぶやいた。


「君が、番人ノア。ソフィア嬢の師匠であり、友人とな。どうだ、わしとお茶でもせんか?」

 ニコニコと笑って誘ってくる裏には何があるのだろうか…フワッと飛び立つ間にいつもの青年姿へと変身する。


「お茶の相手が出来るほどお喋りな方ではないんだが?」


そう言いながらソファーに座ると、陛下はメイドを呼びお茶を入れさせた。


向かい合ってお茶をすすりあう2人。
陛下の方が先に話し出した。


「君はハロルドにも信頼されておるのだなあ。まさかヤツがあんなに父親らしくなるなんて思ってもみなかった。クロエがいなくなってどうなることかと思っていたが、ソフィア嬢は真っ直ぐで良い娘だ。」


懐かしむような表情で語り出した陛下に驚いたが、ソフィーが褒められたことは素直に嬉しい。


「母親がいなくても大丈夫なんだと、アルフレッドが努力していた。ハロルドはそれに感化されたんだろうな。」

「君が支えになっていたのだろう?ソフィア嬢が1人にならないよう、常に側にいたのだと聞いている。」


「友人として契約したからな。ソフィーの相棒は俺だ。まぁ、今となっちゃ周りがいっぱい過ぎて賑やかだけどなぁ。」

「精霊王が味方のご令嬢なんてそうそう居ないよ?無敵過ぎる。」


友人同士で話しているような感覚。
国王陛下相手にこれで良いのだろうか…ふと、真面目な顔つきで聞いてくる。


「君から見て、私の息子たちはソフィア嬢の相手としては不足かなあ?」


つぶやくようにボソっと言う様子を見てノアは、ああ、親として心配なんだな、国王も1人の人間、親なんだよな、と納得してしまった。


「選ぶのはソフィーだからな…2人とも魔力は高いし、王子としてしっかりしてると思うぞ?でも、ま、相手はソフィーだからな。」


ニヤリと笑うノアの表情は、完全にイタズラ顔である。


「自分のことになると、ポンコツと言うか鈍感というか…相当頑張ってアピールしないと気付かずスルーしそうなタイプだから。」

「⁈ははっ。ポンコツとな。しっかりしてそうに見えて、抜けてるのか。息子たちがどう攻略するのか、こりゃ楽しみだ。」


ほがらかに笑い合う2人はハロルドの意図に気づいていた。
ソフィアと関わっていくにはノアや精霊王たち周りから攻めていくのが手っ取り早い。親として王子たちを心配する陛下にソフィアを心配するハロルドやノア。仲良くなって得はあれど損はない。有事の際にはこの繋がりが活きてくるハズだ。
 計算高いハロルドの事だ。書類の中にはノアと話をするようアドバイスでも入れていたのだろう。


(実際【コンダルク】の中ではいつも陛下と関わりがあったしな。気さくで人情強いこの男が、自分は存外気に入っているんだろう。)

このお茶の時間も好きなんだよな、と、そう感じていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...