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1.魔法学院1年生

(12).聖女候補の確認

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 セウブ王国では光の精霊を伴う人物は数少なく、保護対象となる。過去の聖女も国で保護され、当時の王子の婚約者とされた。
 彼女は傷ついた人々を癒し、乾いた土地を潤し、国の繁栄を導いたとされ、国民からも敬われていた。

 今年光の精霊を召喚した者がいると報告を受け、第1王子ランベールは学院へ来ていた。

 国での保護は決定事項ではあるが、その人物の特徴や人間性を確認するため事前に面会が必要とされている。
 婚約者候補ともなり得るのだから、彼自身も自分の目で確認したいと思っていた。

 今日は研究所での会議のためアルフレッドは参加出来ず、代わりにソフィアによろしく伝えてくれと頼まれている。
 彼女が呼ばれた訳ではないので会えるかは分からないのだが、話題に出すあたり、やはり妹バカなのだと笑ってしまう。


「ランベール様、こちらです。」


 待ち合わせの場所まで誘導してくれたのは、幼い頃からの護衛レイモンドだ。
 剣の指南も受けており、王城内では常に彼が護衛に立つ。歳があまり離れていないことから、こっそり兄のように思っている。

 部屋に入ると、実技担当のデニスと少女が並んで待っていた。


「殿下、お越し頂きありがとうございます。こちらが今回光の精霊を呼び出した、サラ・ド・パーヴァスです。」

デニスに促され、サラが挨拶する。

「パーヴァス男爵家のサラと申します。お会いできて光栄です。」

辿々しい話し方と慣れてない様子から、平民出身というのは本当のようだ。

「初めまして。第1王子のランベールです。早速だけど、光の精霊を呼んで貰えるかな?」

なるべく優しいおっとりした声色で、相手を怯えさせないように話しかける。

「分かりました。」

召喚魔法を使い、光の精霊を呼び出したサラは小さな妖精を手の上に載せていた。

「光の精霊のルーシェです。まだお喋りは出来ないですけど、こちらが話しかけている事は分かるみたいです。」
「なるほど。可愛いね。サラは何か光魔法は試してみた?」

「試してみてはいますが、魔力の多い方ではないので要領を掴むまで時間がかかると思われます。」

恐縮した様子のサラの代わりにデニスが応える。


「分かった。教会の方にも声をかけておくよ。光魔法の使い手は多いに越した事はないからね。もし彼女の時間がとれるなら、教会に行ってみるのもいいかもしれない。」

 いくつか話した後、デニスがサラに声をかけ教室に戻るように伝える。



「先生、他にも何か報告が?」
「はい。殿下はホスウェイト家のアルフレッド様と親しくされてましたよね?妹のソフィア嬢とは面識はありますか?」

「いや、見た事があるくらいだな。アルから話は聞いてるけど、直接会った事はまだないんだ。彼女が何か?」
「いえ、既にご存知ならと思い確認しました。ソフィア嬢は魔力も多く、魔法の扱いに長けています。光ではなく残念でしたが、今回の召喚では風と闇の二精霊を呼び、とても優秀です。」


(無詠唱で基本属性の四種とも魔法が使え、精霊達は人型をとり、話も出来てます。って言ったらハロルドさんに怒られそうだよな…)


 王子への報告と先輩への忠誠を天秤にかけながら、義務として必要な情報に絞り伝える。
 デニスはハロルドへ先に報告し、事実確認が済むまでなるべく王家には秘匿して欲しいと頼まれていた。デニスにとって尊敬する先輩からの頼みは断りようがない。


「なるほど。ソフィア嬢とも話してみたいな。デニス教授、報告ありがとう。」


(家としての交流があれば、すぐに分かりそうなものだが。王子との交流も、兄としては妹優先なのかな。)


王子への報告を済ませ、デニスも教室へと戻る。




「レイモンド、どう思う?」

1人になったランベールは思案していた。

「光の精霊は確かに貴重ですが、あの娘はまだまだ未熟かと。この学院でどこまで伸びるかお待ちになっては。」
「待つね…ソフィア嬢が気になるな。アルに会えるよう頼んでみようかな。」

「アルフレッド様が協力して下さるでしょうか?」

 レイモンドが苦笑しながら応える。

 普段王子の側で仕事をするアルフレッドのことをレイモンドも学院時代から知っている。
 王子が気楽に話せる相手として貴重な人材なのではあるが、同時に妹を溺愛していることも知っている。


「王子としてはダメだろうね。友人としてお家訪問なら許してくれないかな。」


笑って話すランベールは部屋の外に目を向けた。





「こんにちは、ジル先輩、レオ」

 学院の中庭でソフィアはいつもの2人に会っていた。
 ちょくちょく共に休憩するようになって、お互いに名乗り、暗黙の了解で木の上の定位置で会うようになっている。
 目眩しの魔法は重ねがけしている為、ソフィア以上の魔力の持ち主が来ない限り安全なのだ。


「それ、ノアじゃないフクロウ?」

ソフィアの肩の黒フクロウにジルベールが気づく。

「そうなんです。この間召喚の授業で仲間が出来まして。この子も一緒ですよ。」

 ノアの上に翠緑髪の小さな妖精がのっている。カルディナは最近妖精姿がお気に入りなのだ。彼女のフクロウ姿も見たかったが、断られた。誰かの上に乗れるというのが利点らしい。ノアやエンギルが嫌がらないのならと自由にさせている。

「風の精霊カルディナと闇の精霊エンギルです。」

 カルディナがエンギルの上に移り、共にジルベール達に礼をする。一緒にいたレオは精霊王達に気付いたのだろう。腰低く礼を返している。
 ジルベールに気づかれないかヒヤヒヤしたが、王とは分かっていないようだ。仲良くしているようで精霊達同士で話がついたのだと分かる。

「2人共召喚とは凄いな。」

 ジルベールは意外と鳥好きなようで目がノアとエンギルを追っている。

「魔力だけはありますので。」

 少し自信げに返してくるソフィアにジルベールは笑う。

「ここも上手く隠してくれよ。昼寝には丁度いいんだ。」

 木の上の空間で共に昼食を済ませ、ソフィアが精霊達と遊んだり、のんびりしている間、ジルベールは休息をとる。
 毎日ではないが、ノアやレオの姿が見えた時はジェシカ達と別に昼食をとっている。寮でノアのことも紹介したので、今のところ特に怪しまれずいる。 
 森のような居心地の良さがソフィアには安心できるのだった。



 
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