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071 ルスタリオ祭 9

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 <悪魔の腹の中>。それがこのダンジョンの名前らしい。
 地面からせり出している部分の高さ、横幅、奥行きがだいたい十メートルぐらい。そこに中へと続くであろう入口として、直径三メートルぐらいのいびつな円形の穴があった。
 円の縁はうっかり触れてしまうとダメージを受けそうなほど鋭くギザギザになっている。まるでサメの歯や肉食獣の牙のようでおっかない。

 ここにいるのは俺、ヒナ、シマン、ロキ、環と、エクスさんのパーティー五人と同クランのサブリーダーのパーティー五人だ。
 【エアリーズ】にはリーダーのエクスさんの補佐役としてサブリーダーが三人いるらしい。そのうち一人が先行して連絡の取れなくなった人だ。

 エクスさんのパーティー構成は【精霊騎士】のエクスさんとクラス2ジョブ【魔法戦士】の若い男性、【忍者】と【神官】の中年男性とクラス3ジョブの【魔導師】のお婆さんだ。ちなみにエルフのエクスさん以外は人間のようだ。

 【エアリーズ】のもう一組。率いているサブリーダーは【精霊騎士】のエルフの女の人だった。小麦色の肌をして銀髪、前髪の隙間から鋭い目が覗いていた。

「なんだい? 坊や、そんなにダークエルフが珍しいかい?」

 褐色のエルフと目が合って声をかけられる。
 というか、坊やって……俺のことだよな? 確かにアバターの見た目じゃ十代の俺に対して彼女は二十を少し過ぎたぐらいってところか。俺と姉貴ほどの年齢差か。
 それにしても、種族はエルフだと思っていたがダークエルフね。

「エルフ種族にも色々あるんですか?」
「タイガさん、彼女の名はレオナだ。【エアリーズ】のサブリーダーの一人で種族はエルフで間違いないよ。ファンタジー世界によくあるようなダークエルフなどの種族は<DO>には存在しないことになっているんだ」

 エクスさんが教えてくれる。

「えっ、でもダークエルフって……」
「それはレオナがキャラクタークリエイトで肌の色を調整しただけだよ」
「……そ、そうなんですか」

 なんだ、見た目をそうしただけか。

「ダークエルフというレオナの設定は置いておいて、彼女はレア出自を引き当てていてね」
「レア……出自?」

 そういえばキャラクタークリエイトでランダムに決められた項目だ。俺は平民だったはずだ。
 はて……レア出自ってなんだろう?

「…………」

 レオナさんは無言でエクスさんのほうへ顎をしゃくって見せた。エクスさんに対して「おまえが説明しろ」ということだろう。

「レオナは王族だったんだ。そのあとの種族選択でエルフを選んだから族長の娘ということになり、将来は族長を目指す候補の一人となるはずだった」

 エクスさんは苦笑いしながら答えた。

「だった……って? 今は違うんですか?」

「そこが彼女の性格をよく表しているところでね。レオナはキャラクタークリエイト後、族長候補を放棄して<エルフの里>を出奔したんだよ」
「ええっ! もったいない!」
「俺もそう思うよ。族長の娘なら様々な恩恵が与えられたり、大きな権力も持っていただろうしね」
「あたしの父親を名乗る族長の爺さんに聞いたんだよ。族長って何をするんだって。そしたら爺さんは何て言ったと思う? 『この<エルフの里>に永久に住み、民を守ることだ』って言うんだ。つまり、あたしの<DO>は森の中で始まり終わる。そう考えたら馬鹿らしくなって<エルフの里>を飛び出した」

 レア出自だけあって、スタート地点は平民と異なるようだ。仮に人間の王族なら城の中とかがスタート地点になるのだろう。
 それにしても、王族を辞退するなんてもったいないなぁ。でも、権力はあるけど自由に行動できる範囲が限られているのはマイナスか。

「ただレオナは俺が教えるまで、族長候補としてのすべての権力を失ったことに気づいていなかったけどね。何も考えずに<エルフの里>を飛び出したらしいから、しばらくは苦労の連続だったようだ。なにしろ<エルフの里>は多くのプレイヤーのスタート地点である<ハオリオの町>から遠く離れた地にあったからね。何度も死にかけたそうだよ」

 エクスさんが苦笑いしながら言う。
 レオナさんは感情が読み取れない表情で俺を見つめている。

「あ……」

 あんまり直視されると照れるな。
 俺はレオナさんから視線を逸らしつつ、他のメンバーを確認する。
 クラス2ジョブの【侍】にクラス3ジョブの【剣豪】もいる。二人は人間の青年でレオナさんと同世代に見える。あとは【神官】の俺と同じ年ぐらいの女の子が二人いた。
 【剣豪】を目指しているシマンは、さっそくジョブの質問を投げかけていた。



 異変があったのは、エクスさんのパーティーを先頭に<悪魔の腹の中>へと入って五分ほど経過したときだ。
 ここまで緩やかな下り道が続くだけでモンスターも一匹も出なかったのに、急に背後から地響きが聞こえたのだ。
 慌てて振り返った俺たちが見たものは土の壁だった。

「レオナさん! 後ろの道が塞がれました!」

 レオナさんのパーティーの【神官】の女の子が焦ったように叫んだ。

「落ち着きな。予測していた展開だ」

 レオナさんは動揺した素振りも見せずに言った。

 だが取り乱したのは【神官】の女の子だけじゃなかった。俺やシマンは目を白黒させていたし、ヒナやロキも不安の色を隠せていなかった。
 まったく動じていないのはエクスさんとレオナさんぐらいのものだ。

「みんな一旦落ち着こう。これはレオナの言うとおり想定内の展開だ。このダンジョンは外部との通信は遮断される。つまりどこかの時点で退路を断たれる構造になっている。俺たちはそのギミックを解除して他のパーティーを助けるのが目的だ」

 あ、でも仮に俺たちがギミックを解除して脱出経路を見いだしたとしても、他のパーティーは助かるのか?
 疑問に思ったのでエクスさんに訊いてみた。

「直接の助けにはならないかもしれない、だが攻略の糸口を発見できれば、それを周りの者に教えたり、攻略サイトを通して多くのプレイヤーに伝えることができるはずだ」

 なるほど。俺たちのやろうとしていることは無駄じゃないんだな。
 よし、ならば気を引き締めて挑もう。
 この<悪魔の腹の中>へ。
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