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067 ダンジョン創造
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<エニグマの町>付近の荒野。
<DO>の新年記念イベントであるルスタリオ祭当日に、突如として起こった新ダンジョン出現騒ぎ。
これは運営が用意したものではなく、一人のプレイヤーが引き起こした出来事だった。
タイミングがタイミングだけに、多くのプレイヤーは疑いもせず限定イベントだと思い込み新ダンジョンに殺到した。
それこそ大手クランや有名パーティー、孤高のソロプレイヤーたちと様々だ。
しかしダンジョン出現から三時間経過した現在、意気揚々と中に入ったプレイヤーは誰一人として生還していない。
ダンジョンが思ったより広く探索が長引いているのかもしれない。だか、異様な雰囲気を感じた後続のプレイヤーの中には、ダンジョンに入るのをためらう者さえ出始める。
このダンジョンに一度踏み入れたら、二度と生きて出られないんじゃないか。そう恐怖を感じたのだ。
***
――時間は三時間前に遡る。
まもなく日付が変わろうとする時刻。
<エニグマの町>からほど近い荒野の地中で、一人のプレイヤーが作業をしていた。
メニュー画面を開き、せわしなく両手を動かしている。
ライオンの獣人を思わせる頭に首から下は筋骨隆々な人間のような体、尻のあたりからはドラゴンの尾を彷彿させる鱗に覆われた太い尻尾が生えている。
その男の種族は獣人でも人間でもなく、通常のキャラクタークリエイトでは作成できない【魔神】であった。
魔神のプレイヤーザックスは地下十数メートルの地点で、ダンジョンを造っていたのだ。
これこそ魔神のスキル《ダンジョン創造》である。
「魔神の固有スキル《ダンジョン創造》か。こいつは色々と楽しめそうだぜ」
《ダンジョン創造》は町やダンジョンから二キロ以上離れた何もない場所に、新たなダンジョンを造ることができる魔神のみに許されたスキルである。
そしてザックスの視界の端にはリスタートしてから倒したプレイヤー、NPC、モンスターの合計数が表示されている。これがダンジョンを造るのに必要不可欠なコストとなるのだ。
倒した数一人(匹、体)につき、地質に関係なく十立方メートル分の地面を掘削できる。
仮に高さ二メートル、横幅五十メートル、奥行き百メートルの空間を地面の下に造ろうとすれば千人分のコストが必要になる。
さらに壁や様々なギミックを造るのにもコストが必要だ。
「雑魚モンスターのゴブリンやウルフ一匹でも、プレイヤーやNPCでも等しくコスト1か。はん、命は平等ってか?」
ザックスが《ダンジョン創造》を使用するために用意したコストは10,000を越える。
これをたった四十五日で用意した。
「さて、俺様の造ったダンジョンはいったい何人のプレイヤーを喰ってくれるか。少なくとも、かけたコスト以上は稼ぎたいところだぜ。赤字だと労力の無駄だからな」
ザックスはリスタート直後に出会ったある男から《ダンジョン創造》について教えてもらった。
それまでは好きなだけPKしてやろうと思っていたのだ。所持していた【殺戮者】の称号のように。
「このダンジョンはいわば練習みたいなもんだ。ここでたんまりコストを稼いで、もっと厳ついダンジョンを造ってやるぜ。おまえが造った<ウルカタイの迷宮>以上のやつをな」
ザックスは壁に張りついていた黒い塊に言った。
黒い塊はサッカーボールぐらいの大きさで、中央には眼球が付いていた。そして、その眼球はザックスに応えるように声を放つ。
『ふっ、そうなってくれれば面白い。俺も《ダンジョン創造》を指南した甲斐がある。しかし<ウルカタイの迷宮>は俺の最高傑作だ。そう簡単にはいかないと思ってくれ』
「未だにクリアしたプレイヤーいないらしいじゃねぇか。だが、一緒にすんじゃねぇ。俺が造るのは一度入ったら二度と出れない地獄だ。おまえみたいにクリアはできないが、脱出できる造りじゃねぇんだよ」
『俺のダンジョンも甘く造ったつもりはないんだがな。だけど雑魚をいたぶるのは趣味じゃない。俺の眼鏡にかなうプレイヤーしか相手にしないんだよ』
「そうかよ。そういえば高レベルのプレイヤーで帰還していないやつもいたな。まさか俺様にも教えてないギミックがまだあるんじゃねぇだろうな? もし隠してたら殺すぞ」
『ふっ、そんなことでいちいち殺されたらたまらないな。もちろん全部は教えてないよ。ザックスさんの発見の楽しみを奪うなんて俺にはできないさ。じゃあ、またな』
そう言うと目玉は壁にめり込んでいく。数秒とかからずに全身を壁に溶け込ませると、気配そのものがなくなった。
ザックスはそれを睨みつけたまま地面に唾を吐く。
「ちっ、食えねぇヤツだ。……そろそろ時間だな。最後の仕上げといくか」
あとはダンジョンの入口を造るだけだ。それ以外は完成している。
入口を最後に回したのは造っている途中のダンジョンを誰にも気づかせないためだ。そして誰も地下にダンジョンができつつあることなど知る由もなかっただろう。
「時間だ。これで俺様のダンジョンの完成だッ!」
ザックスは声を張り上げた。
***
マキュラリウス地方の<ウルカタイの迷宮>。
その最深部に一人の男がいた。
見た目は獣人に似ている。しかし男の種族は魔神だった。先ほどまで目玉を通してザックスと話をしていた張本人である。
「ふっ、ザックスさんの初ダンジョンは、ルスタリオ祭より盛り上がってくれるかな。ここは高みの見物としゃれこもうか」
狼頭の魔神は、部屋に配置してある別の目玉を覗くのだった。
<DO>の新年記念イベントであるルスタリオ祭当日に、突如として起こった新ダンジョン出現騒ぎ。
これは運営が用意したものではなく、一人のプレイヤーが引き起こした出来事だった。
タイミングがタイミングだけに、多くのプレイヤーは疑いもせず限定イベントだと思い込み新ダンジョンに殺到した。
それこそ大手クランや有名パーティー、孤高のソロプレイヤーたちと様々だ。
しかしダンジョン出現から三時間経過した現在、意気揚々と中に入ったプレイヤーは誰一人として生還していない。
ダンジョンが思ったより広く探索が長引いているのかもしれない。だか、異様な雰囲気を感じた後続のプレイヤーの中には、ダンジョンに入るのをためらう者さえ出始める。
このダンジョンに一度踏み入れたら、二度と生きて出られないんじゃないか。そう恐怖を感じたのだ。
***
――時間は三時間前に遡る。
まもなく日付が変わろうとする時刻。
<エニグマの町>からほど近い荒野の地中で、一人のプレイヤーが作業をしていた。
メニュー画面を開き、せわしなく両手を動かしている。
ライオンの獣人を思わせる頭に首から下は筋骨隆々な人間のような体、尻のあたりからはドラゴンの尾を彷彿させる鱗に覆われた太い尻尾が生えている。
その男の種族は獣人でも人間でもなく、通常のキャラクタークリエイトでは作成できない【魔神】であった。
魔神のプレイヤーザックスは地下十数メートルの地点で、ダンジョンを造っていたのだ。
これこそ魔神のスキル《ダンジョン創造》である。
「魔神の固有スキル《ダンジョン創造》か。こいつは色々と楽しめそうだぜ」
《ダンジョン創造》は町やダンジョンから二キロ以上離れた何もない場所に、新たなダンジョンを造ることができる魔神のみに許されたスキルである。
そしてザックスの視界の端にはリスタートしてから倒したプレイヤー、NPC、モンスターの合計数が表示されている。これがダンジョンを造るのに必要不可欠なコストとなるのだ。
倒した数一人(匹、体)につき、地質に関係なく十立方メートル分の地面を掘削できる。
仮に高さ二メートル、横幅五十メートル、奥行き百メートルの空間を地面の下に造ろうとすれば千人分のコストが必要になる。
さらに壁や様々なギミックを造るのにもコストが必要だ。
「雑魚モンスターのゴブリンやウルフ一匹でも、プレイヤーやNPCでも等しくコスト1か。はん、命は平等ってか?」
ザックスが《ダンジョン創造》を使用するために用意したコストは10,000を越える。
これをたった四十五日で用意した。
「さて、俺様の造ったダンジョンはいったい何人のプレイヤーを喰ってくれるか。少なくとも、かけたコスト以上は稼ぎたいところだぜ。赤字だと労力の無駄だからな」
ザックスはリスタート直後に出会ったある男から《ダンジョン創造》について教えてもらった。
それまでは好きなだけPKしてやろうと思っていたのだ。所持していた【殺戮者】の称号のように。
「このダンジョンはいわば練習みたいなもんだ。ここでたんまりコストを稼いで、もっと厳ついダンジョンを造ってやるぜ。おまえが造った<ウルカタイの迷宮>以上のやつをな」
ザックスは壁に張りついていた黒い塊に言った。
黒い塊はサッカーボールぐらいの大きさで、中央には眼球が付いていた。そして、その眼球はザックスに応えるように声を放つ。
『ふっ、そうなってくれれば面白い。俺も《ダンジョン創造》を指南した甲斐がある。しかし<ウルカタイの迷宮>は俺の最高傑作だ。そう簡単にはいかないと思ってくれ』
「未だにクリアしたプレイヤーいないらしいじゃねぇか。だが、一緒にすんじゃねぇ。俺が造るのは一度入ったら二度と出れない地獄だ。おまえみたいにクリアはできないが、脱出できる造りじゃねぇんだよ」
『俺のダンジョンも甘く造ったつもりはないんだがな。だけど雑魚をいたぶるのは趣味じゃない。俺の眼鏡にかなうプレイヤーしか相手にしないんだよ』
「そうかよ。そういえば高レベルのプレイヤーで帰還していないやつもいたな。まさか俺様にも教えてないギミックがまだあるんじゃねぇだろうな? もし隠してたら殺すぞ」
『ふっ、そんなことでいちいち殺されたらたまらないな。もちろん全部は教えてないよ。ザックスさんの発見の楽しみを奪うなんて俺にはできないさ。じゃあ、またな』
そう言うと目玉は壁にめり込んでいく。数秒とかからずに全身を壁に溶け込ませると、気配そのものがなくなった。
ザックスはそれを睨みつけたまま地面に唾を吐く。
「ちっ、食えねぇヤツだ。……そろそろ時間だな。最後の仕上げといくか」
あとはダンジョンの入口を造るだけだ。それ以外は完成している。
入口を最後に回したのは造っている途中のダンジョンを誰にも気づかせないためだ。そして誰も地下にダンジョンができつつあることなど知る由もなかっただろう。
「時間だ。これで俺様のダンジョンの完成だッ!」
ザックスは声を張り上げた。
***
マキュラリウス地方の<ウルカタイの迷宮>。
その最深部に一人の男がいた。
見た目は獣人に似ている。しかし男の種族は魔神だった。先ほどまで目玉を通してザックスと話をしていた張本人である。
「ふっ、ザックスさんの初ダンジョンは、ルスタリオ祭より盛り上がってくれるかな。ここは高みの見物としゃれこもうか」
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