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057 カジノのオーナー、ロキ
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「こんなところで会うなんて奇遇ですね」
「ニャアン」
相変わらず素っ気なく答えるロキと、愛らしく表情で鳴く【使い魔】の環。
「マ、マジか!? おまえが六番カジノのオーナーなのか……?」
シマンが驚いた様子で訊ねる。もちろん俺もびっくりした。
ロキはシマンを一瞥してから俺に視線を戻した。
「ええ、まぁ趣味でやっているだけですが、勝手に資金が増えていくので、おかげで不自由なく<DO>を満喫できています」
なんて羨ましいやつ。俺が【真銀の剣】を買うために必死にお金を貯めているのに、ロキはカジノの経営者という副業で稼いでいるようだ。
「立ち話もなんですから、私の部屋に行きましょう」
そう言うとロキはスタッフに飲み物とお菓子を用意するように告げて、俺たちをオーナー室に案内してくれた。
案内された場所は五番カジノのオーナー室と同じような造りで、高級そうなソファとテーブルがあった。
テーブルを挟んでロキとは向かい合わせに座る。【使い魔】の環はロキの隣で丸くなって気持ちよさそうに欠伸をしていた。
先ほどとは別のスタッフがコーヒーとクッキーを運んでくれた。あとミルクの注がれた浅い皿があった。どうやら環の飲み物らしく美味しそうにペロペロと舐めている。
「まさか、驚いたよ。ロキが六番カジノのオーナーだったなんて」
「そこまで話してはいませんでしたから」
澄ました顔でコーヒーを口に運ぶロキ。クッキーを頬張りながらシマンが訊ねた。
「自警団に捕まってなくてよかったよ。知り合いが捕まるなんて後味悪いからな」
「そもそも逮捕されるような悪いことはしてないので、なんの心配もないのですが」
五番カジノのイカサマの件でロキにまで捜査が及んでいると思ったが、そうでもないようだ。
俺はカジノ絡みのクエストで五番カジノで起こったことを話した。
「そもそも、その男と私は一切の面識もありませんし、チャットメッセージを交したこともありません。ログを見てもらえばハッキリするので、運営にはそうメールを送ってあります。しばらくすれば、私の疑いも晴れるでしょう。それに私はたいして気にしてなかったですし」
主にNPCで形成されている自警団から、捕まった男の雇用主として疑いをかけられたようだ。本人が言うようにログで確認しろと一蹴したらしい。
しかし、男が五番カジノをクビになったあと、この六番カジノに雇われていたのは事実のようだ。面接して採用したのはロキではなく部下の人事担当者らしい。
「ところで、<ハリザラ山>の山賊は一掃できたみたいですね」
「ああ、なんとかな。というか知っていたのか?」
「通行止めが解除されていたので、多分あなた方だとわかりました。今日はいないみたいですが、【精霊騎士】のお姉さんはもちろんのこと、そちらの【侍】のかたもそれなりに強いようですし」
ロキは先日の山賊戦でヒナやシマンの戦い振りを見ている。おそらく同レベル帯であるはずの彼女は二人の実力をしっかり認識していたようだ。
言うまでもないが、俺は戦力としては評価されていないだろう。
「その件については少し不満があります」
「えっ? ……何かな?」
「山賊と遭遇したらメッセージをくれるように頼んでいたはずです。どうして連絡をくれなかったのですか? これではフレンド登録した意味がないのですが」
う……連絡を怠ったせいでフレンド登録の意味がないとまで言われてしまうとは……。
「いや、それには事情があってだな……。結論から言うと、ロキと別れてから戦ったのは山賊じゃないんだ」
「と、言うと?」
俺は<ハリザラ山>の奥で予期せぬザックスとの戦闘になったことを話した。
「――というわけで、山賊を壊滅させていたザックスっていうPK野郎をなんとか倒したんだ。あのドワーフも途中で乱入してきたんだが返り討ちに遭ったんだよ。蘇生時間があったからどこかで生きてはいると思うけどな」
「そうですか。仲間の仇討ちではありませんが、私が直接山賊の頭目と決着をつけたかったですね」
「その仲間とはパーティーを組んで長かったのか?」
「いえ、一時的に雇われて同行しただけですが、仲間がやられるというのは気分がいいものではないですから」
「なるほど、そうだな」
「山賊の頭目はもういないとしてドワーフはまだいると……。では背の高いひょろっとした獣人の山賊は見ていないんですね? 顔は狼がモチーフになっていたはずです」
「狼の獣人? いや、知らないが、それがどうかしたのか?」
「先日言ったでしょう。ドワーフより手強い山賊が乱入して来て、仲間がやられたと。まさか、私の話を聞いていなかったんじゃ」
あれ……? それって山賊を仕切っているのボスのことだと思ってたけど違うのか? 山賊ナンバーツーと言われていたドワーフより上は当然ボスだと考えていたんだが……。
「え、ごめん。聞いてなかったんでもなく忘れてたわけでもなくて、俺が勘違いしてたみたいだ。てっきり山賊のボスの話かと思っていた」
「頭目も強敵でしたが、せいぜいドワーフ並でしょう。頭一つ抜けていたのは獣人のやつですね。あの男がいなければ、パーティーの全滅は免れていたと思いますし」
「えっ……そんなに?」
ロキは遠距離型の魔法職でありながら、山賊三人相手に近接戦闘を凌いでいたほどの実力者だ。
その彼女がそこまで言うからには、狼頭の獣人はただ者ではないと窺える。
「そうですか。あの男が生きているなら、ドワーフたち残党をまとめて山賊を再結成してもおかしくはないですね」
「ちょっと待って。ボスが退場して、ナンバーツーのドワーフを差し置いて、その獣人が山賊を再結成するだって……?」
ロキは深刻な表情で頷いた。そして、意外な言葉を告げる。
「相談なんですが、私をパーティーに入れてくれませんか?」
「ニャアン」
相変わらず素っ気なく答えるロキと、愛らしく表情で鳴く【使い魔】の環。
「マ、マジか!? おまえが六番カジノのオーナーなのか……?」
シマンが驚いた様子で訊ねる。もちろん俺もびっくりした。
ロキはシマンを一瞥してから俺に視線を戻した。
「ええ、まぁ趣味でやっているだけですが、勝手に資金が増えていくので、おかげで不自由なく<DO>を満喫できています」
なんて羨ましいやつ。俺が【真銀の剣】を買うために必死にお金を貯めているのに、ロキはカジノの経営者という副業で稼いでいるようだ。
「立ち話もなんですから、私の部屋に行きましょう」
そう言うとロキはスタッフに飲み物とお菓子を用意するように告げて、俺たちをオーナー室に案内してくれた。
案内された場所は五番カジノのオーナー室と同じような造りで、高級そうなソファとテーブルがあった。
テーブルを挟んでロキとは向かい合わせに座る。【使い魔】の環はロキの隣で丸くなって気持ちよさそうに欠伸をしていた。
先ほどとは別のスタッフがコーヒーとクッキーを運んでくれた。あとミルクの注がれた浅い皿があった。どうやら環の飲み物らしく美味しそうにペロペロと舐めている。
「まさか、驚いたよ。ロキが六番カジノのオーナーだったなんて」
「そこまで話してはいませんでしたから」
澄ました顔でコーヒーを口に運ぶロキ。クッキーを頬張りながらシマンが訊ねた。
「自警団に捕まってなくてよかったよ。知り合いが捕まるなんて後味悪いからな」
「そもそも逮捕されるような悪いことはしてないので、なんの心配もないのですが」
五番カジノのイカサマの件でロキにまで捜査が及んでいると思ったが、そうでもないようだ。
俺はカジノ絡みのクエストで五番カジノで起こったことを話した。
「そもそも、その男と私は一切の面識もありませんし、チャットメッセージを交したこともありません。ログを見てもらえばハッキリするので、運営にはそうメールを送ってあります。しばらくすれば、私の疑いも晴れるでしょう。それに私はたいして気にしてなかったですし」
主にNPCで形成されている自警団から、捕まった男の雇用主として疑いをかけられたようだ。本人が言うようにログで確認しろと一蹴したらしい。
しかし、男が五番カジノをクビになったあと、この六番カジノに雇われていたのは事実のようだ。面接して採用したのはロキではなく部下の人事担当者らしい。
「ところで、<ハリザラ山>の山賊は一掃できたみたいですね」
「ああ、なんとかな。というか知っていたのか?」
「通行止めが解除されていたので、多分あなた方だとわかりました。今日はいないみたいですが、【精霊騎士】のお姉さんはもちろんのこと、そちらの【侍】のかたもそれなりに強いようですし」
ロキは先日の山賊戦でヒナやシマンの戦い振りを見ている。おそらく同レベル帯であるはずの彼女は二人の実力をしっかり認識していたようだ。
言うまでもないが、俺は戦力としては評価されていないだろう。
「その件については少し不満があります」
「えっ? ……何かな?」
「山賊と遭遇したらメッセージをくれるように頼んでいたはずです。どうして連絡をくれなかったのですか? これではフレンド登録した意味がないのですが」
う……連絡を怠ったせいでフレンド登録の意味がないとまで言われてしまうとは……。
「いや、それには事情があってだな……。結論から言うと、ロキと別れてから戦ったのは山賊じゃないんだ」
「と、言うと?」
俺は<ハリザラ山>の奥で予期せぬザックスとの戦闘になったことを話した。
「――というわけで、山賊を壊滅させていたザックスっていうPK野郎をなんとか倒したんだ。あのドワーフも途中で乱入してきたんだが返り討ちに遭ったんだよ。蘇生時間があったからどこかで生きてはいると思うけどな」
「そうですか。仲間の仇討ちではありませんが、私が直接山賊の頭目と決着をつけたかったですね」
「その仲間とはパーティーを組んで長かったのか?」
「いえ、一時的に雇われて同行しただけですが、仲間がやられるというのは気分がいいものではないですから」
「なるほど、そうだな」
「山賊の頭目はもういないとしてドワーフはまだいると……。では背の高いひょろっとした獣人の山賊は見ていないんですね? 顔は狼がモチーフになっていたはずです」
「狼の獣人? いや、知らないが、それがどうかしたのか?」
「先日言ったでしょう。ドワーフより手強い山賊が乱入して来て、仲間がやられたと。まさか、私の話を聞いていなかったんじゃ」
あれ……? それって山賊を仕切っているのボスのことだと思ってたけど違うのか? 山賊ナンバーツーと言われていたドワーフより上は当然ボスだと考えていたんだが……。
「え、ごめん。聞いてなかったんでもなく忘れてたわけでもなくて、俺が勘違いしてたみたいだ。てっきり山賊のボスの話かと思っていた」
「頭目も強敵でしたが、せいぜいドワーフ並でしょう。頭一つ抜けていたのは獣人のやつですね。あの男がいなければ、パーティーの全滅は免れていたと思いますし」
「えっ……そんなに?」
ロキは遠距離型の魔法職でありながら、山賊三人相手に近接戦闘を凌いでいたほどの実力者だ。
その彼女がそこまで言うからには、狼頭の獣人はただ者ではないと窺える。
「そうですか。あの男が生きているなら、ドワーフたち残党をまとめて山賊を再結成してもおかしくはないですね」
「ちょっと待って。ボスが退場して、ナンバーツーのドワーフを差し置いて、その獣人が山賊を再結成するだって……?」
ロキは深刻な表情で頷いた。そして、意外な言葉を告げる。
「相談なんですが、私をパーティーに入れてくれませんか?」
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