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053 カジノ
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ヒナがいたら嫌な顔をしたかもしれない。
カジノへの好奇心を高めつつも、俺はヒナに対して後ろめたい気持ちを感じていた。
それを察したように、シマンが俺の耳元へ顔を近づける。
「心配するなって。カジノへ行く前に立派な口実を作ろうじゃないか」
「……口実?」
「ああ、ついて来いよ」
そう言うと、シマンは大通りを少し進んでから右の脇道へ入った。
そこにあったのは冒険者ギルドだった。
本当にカジノ中心の町なんだな。冒険者ギルドが大通りに拠点を構えられないのか……。装備品やアイテムを扱う店はもっと追いやられていそうだな。
「タイガ、冒険者ランクはいくつになった? 確か最近上がってたよな?」
「えっと……この間Cランクになった」
ハオリオ地方ではレベル上げに固執するあまりクエストを重視していなかったので、コンリス地方では積極的に冒険者ギルドに通いクエストをこなしていた。
といっても最短でランクを上げるため、☆印のクエストしか受けてはいないが。
そのおかげで、今や俺はAからEの五段階のちょうど真ん中であるCランクになっていた。
ちなみにヒナとシマンはBランクだ。
「そいつは上出来だ。この<ポルカの町>ではCランクだと、ある特殊なクエストが受けられる」
「えっ……、そうなのか?」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【特殊クエスト】☆
クエスト: イカサマを見極めろ
<ポルカの町>の五番カジノでイカサマ集団を摘発しろ
出現モンスター: なし
難度:C
最近、五番カジノでイカサマ行為に手を染める集団が現れて売り上げが激減している。
イカサマ集団の証拠を押さえ、五番カジノを助けて欲しい。
詳しくは五番カジノのオーナー『モス』まで。
報酬:10,000G
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「イカサマ集団の摘発? あっ……! ☆印が付いてるぞ!」
「運がいいなタイガ。☆が付いてりゃヒナちゃんも文句は言わないだろう。なんせ、ランクを上げるためには必須のクエストなんだからな」
シマンの言うとおりこれでカジノに入る口実はできた。
だけど、☆印が付くかどうかはプレイヤーによって完全にランダムだったはず。
「どうしてこのカジノに関連したクエストに☆印が付いているってわかったんだ?」
「いやぁ、まさか引き当てるとは思わなかったけど、これにはちょっとした理由がある」
☆印が付くクエストはプレイヤーによりランダムに変更される。だが、クエストの中には高確率で☆印が付くものや、逆に絶対に――実は超低確率かもしれないが――☆印が付かないものが存在する。
さらに、仮にAというクエストに☆印が付いていた場合、Bのクエストには☆印は付かないなど、ランダムと言われながらも規則性のようなものがあるらしい。
運営はノーコメントを貫いているが、攻略サイトでは様々な考察が飛び交っていた。
攻略サイトによると、今回シマンが目を付けていたこのクエストはおよそ三割の確率で☆印が付くようだ。さらに男女比率で見ると、七対三というデータもあるらしい。
「というわけで、俺たちは堂々とカジノに行くことができる」
「いや、俺はクエストがあるからいいとして、おまえはこのクエストに関係ないだろ?」
「はっはっは、何を言ってんだ。俺は不慣れなタイガのサポートとして同行するだけだ」
「はいはい」
俺は受付でクエストを受け、さっそく五番カジノへ向かった。
シマンは熱心にこの<ポルカの町>のことを調べていたようだ。
一番カジノから九番カジノまであると聞いて、大通りにあったカジノはもっと多かったと反論すると、シマンは得意気に語り出した。
<ポルカの町>では九人のカジノ店オーナーがしのぎを削っているらしい。この町で初めて出店したオーナーの店が一番カジノと名付けられ、別のオーナーがそれに続いて二番カジノ、三番カジノと店を増やしていったようだ。
ちなみに六番カジノ以降のオーナーは全員プレイヤーという噂だ。
そして、それぞれのオーナーが十から三十店舗もカジノ店を経営しているというのだから驚いた。
クエストの依頼主である五番カジノは大通りから外れた通りに面していた。やはり大通りはパイオニアである一番カジノが独占しているらしい。
それでも立地的には悪くないようだ。人の往来はかなり多く賑やかだ。
「この一画が全部五番カジノなんだろ? 二十ぐらい店が並んでるぞ!」
「凄えよなぁ。こんだけ店があったらウハウハだろうな。オーナーの中にはプレイヤーもいるってんだから、いったいどんだけ儲けてるんだろうな」
ひとしきり二人して「凄い、凄い」と興奮してから、目的の店に辿り着くことができた。そこは冒険者ギルドで教えてもらった五番カジノのオーナーがいるという、一際大きな店だった。
「ここか。カジノか……中はどうなってるんだろうな。スロットやルーレットなんかがあるんだろ?」
中に入るからには一度ぐらいはゲームを楽しみたい。そう思ってからぷっと吹き出してしまう。<DO>の世界があまりにリアルなのでゲームの中だということを時々忘れそうになる。
ゲームの中でゲームか……なんだか不思議な気分だな。
「残念ながらこの店はポーカーやブラックジャックなんかのテーブルゲーム専門みたいだな。どうもゲームの種類で店を分けているみたいだぞ」
「なんだ、そうなのか」
シマンが扉を開いて、俺はあとに続いて中に入った。
「おおっ……!」
思わず声が漏れる。
広い空間に数十台のテーブルが並んでいる。それぞれのテーブルはギャンブルに興じる客で賑わっていた。
スタッフらしき白シャツにフォーマルな黒ベストの男が近づいてきて「いらっしゃいませ」と頭を下げた。
シマンはクエストを受けてオーナーに会いに来たと告げると、男は「少々お待ちください」と一礼して奥へと歩いて行った。
少しして男が戻って来たときには、別の痩せぎすの男が一緒だった。痩せぎすの男は五十歳前後でタキシードを着ていた。
「お待たせしました。私が五番カジノのオーナー、モスです」
俺たちの目の前に登場した男はそう言った。
カジノへの好奇心を高めつつも、俺はヒナに対して後ろめたい気持ちを感じていた。
それを察したように、シマンが俺の耳元へ顔を近づける。
「心配するなって。カジノへ行く前に立派な口実を作ろうじゃないか」
「……口実?」
「ああ、ついて来いよ」
そう言うと、シマンは大通りを少し進んでから右の脇道へ入った。
そこにあったのは冒険者ギルドだった。
本当にカジノ中心の町なんだな。冒険者ギルドが大通りに拠点を構えられないのか……。装備品やアイテムを扱う店はもっと追いやられていそうだな。
「タイガ、冒険者ランクはいくつになった? 確か最近上がってたよな?」
「えっと……この間Cランクになった」
ハオリオ地方ではレベル上げに固執するあまりクエストを重視していなかったので、コンリス地方では積極的に冒険者ギルドに通いクエストをこなしていた。
といっても最短でランクを上げるため、☆印のクエストしか受けてはいないが。
そのおかげで、今や俺はAからEの五段階のちょうど真ん中であるCランクになっていた。
ちなみにヒナとシマンはBランクだ。
「そいつは上出来だ。この<ポルカの町>ではCランクだと、ある特殊なクエストが受けられる」
「えっ……、そうなのか?」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【特殊クエスト】☆
クエスト: イカサマを見極めろ
<ポルカの町>の五番カジノでイカサマ集団を摘発しろ
出現モンスター: なし
難度:C
最近、五番カジノでイカサマ行為に手を染める集団が現れて売り上げが激減している。
イカサマ集団の証拠を押さえ、五番カジノを助けて欲しい。
詳しくは五番カジノのオーナー『モス』まで。
報酬:10,000G
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「イカサマ集団の摘発? あっ……! ☆印が付いてるぞ!」
「運がいいなタイガ。☆が付いてりゃヒナちゃんも文句は言わないだろう。なんせ、ランクを上げるためには必須のクエストなんだからな」
シマンの言うとおりこれでカジノに入る口実はできた。
だけど、☆印が付くかどうかはプレイヤーによって完全にランダムだったはず。
「どうしてこのカジノに関連したクエストに☆印が付いているってわかったんだ?」
「いやぁ、まさか引き当てるとは思わなかったけど、これにはちょっとした理由がある」
☆印が付くクエストはプレイヤーによりランダムに変更される。だが、クエストの中には高確率で☆印が付くものや、逆に絶対に――実は超低確率かもしれないが――☆印が付かないものが存在する。
さらに、仮にAというクエストに☆印が付いていた場合、Bのクエストには☆印は付かないなど、ランダムと言われながらも規則性のようなものがあるらしい。
運営はノーコメントを貫いているが、攻略サイトでは様々な考察が飛び交っていた。
攻略サイトによると、今回シマンが目を付けていたこのクエストはおよそ三割の確率で☆印が付くようだ。さらに男女比率で見ると、七対三というデータもあるらしい。
「というわけで、俺たちは堂々とカジノに行くことができる」
「いや、俺はクエストがあるからいいとして、おまえはこのクエストに関係ないだろ?」
「はっはっは、何を言ってんだ。俺は不慣れなタイガのサポートとして同行するだけだ」
「はいはい」
俺は受付でクエストを受け、さっそく五番カジノへ向かった。
シマンは熱心にこの<ポルカの町>のことを調べていたようだ。
一番カジノから九番カジノまであると聞いて、大通りにあったカジノはもっと多かったと反論すると、シマンは得意気に語り出した。
<ポルカの町>では九人のカジノ店オーナーがしのぎを削っているらしい。この町で初めて出店したオーナーの店が一番カジノと名付けられ、別のオーナーがそれに続いて二番カジノ、三番カジノと店を増やしていったようだ。
ちなみに六番カジノ以降のオーナーは全員プレイヤーという噂だ。
そして、それぞれのオーナーが十から三十店舗もカジノ店を経営しているというのだから驚いた。
クエストの依頼主である五番カジノは大通りから外れた通りに面していた。やはり大通りはパイオニアである一番カジノが独占しているらしい。
それでも立地的には悪くないようだ。人の往来はかなり多く賑やかだ。
「この一画が全部五番カジノなんだろ? 二十ぐらい店が並んでるぞ!」
「凄えよなぁ。こんだけ店があったらウハウハだろうな。オーナーの中にはプレイヤーもいるってんだから、いったいどんだけ儲けてるんだろうな」
ひとしきり二人して「凄い、凄い」と興奮してから、目的の店に辿り着くことができた。そこは冒険者ギルドで教えてもらった五番カジノのオーナーがいるという、一際大きな店だった。
「ここか。カジノか……中はどうなってるんだろうな。スロットやルーレットなんかがあるんだろ?」
中に入るからには一度ぐらいはゲームを楽しみたい。そう思ってからぷっと吹き出してしまう。<DO>の世界があまりにリアルなのでゲームの中だということを時々忘れそうになる。
ゲームの中でゲームか……なんだか不思議な気分だな。
「残念ながらこの店はポーカーやブラックジャックなんかのテーブルゲーム専門みたいだな。どうもゲームの種類で店を分けているみたいだぞ」
「なんだ、そうなのか」
シマンが扉を開いて、俺はあとに続いて中に入った。
「おおっ……!」
思わず声が漏れる。
広い空間に数十台のテーブルが並んでいる。それぞれのテーブルはギャンブルに興じる客で賑わっていた。
スタッフらしき白シャツにフォーマルな黒ベストの男が近づいてきて「いらっしゃいませ」と頭を下げた。
シマンはクエストを受けてオーナーに会いに来たと告げると、男は「少々お待ちください」と一礼して奥へと歩いて行った。
少しして男が戻って来たときには、別の痩せぎすの男が一緒だった。痩せぎすの男は五十歳前後でタキシードを着ていた。
「お待たせしました。私が五番カジノのオーナー、モスです」
俺たちの目の前に登場した男はそう言った。
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