6 / 78
006 ジョブ
しおりを挟む
ジョブとはステータスの項目では【職業】と記載されているものだ。現在はグレーアウトされていて選択不可となっている。呼称についてはメニュー画面上では【職業】と表示されているが、プレイヤーの多くはジョブと呼んでいるようだ。
そのジョブには大きく分けて三つの種類あるらしい。
それがクラス1、クラス2、クラス3の三種で五十以上ものジョブが存在するようだ。
ナンバリングされていることから、今後のアップデートでクラス4が実装されるという噂が出ているそうで、攻略サイトでは未知のジョブを予想されたりしているらしい。
ジョブには個別で習熟度が設定されていて、決められた値ごとにレベルが上がる仕組みだ。
クラス1は無職の者が就くジョブで、特に転職条件はなし。レベル上限は30。
クラス2はクラス1のレベルを上げきった者が就くジョブで、指定されたクラス1ジョブのレベルを最大まで上げるのが転職条件だ。レベル上限は60。
クラス3は指定された複数のクラス2ジョブのレベルを、最大まで上げるのが転職条件となっている。レベル上限は90。
同時に就けるジョブは最大でコスト10以内までで、クラス1がコスト1、クラス2がコスト2、クラス3がコスト3となっている。
「……覚えるのが大変そうだなぁ」
「すぐに慣れるわ。私もゲームというゲームはこの<DO>が初めてなんだけれど、自然と慣れてしまったのよね」
「え、他のゲームをしたことがないのか? てっきりゲーマーだと……」
「え?」
「……いや、こっちの話」
ぽろっと口に出してしまったが、ヒナには聞こえてなかったようだ。
それにしても意外だな。これだけ<DO>に詳しいから、かなりゲーム慣れしていると思ったんだけど。
「これから行く場所でクラス1のジョブに就けるから、私がタイガくんのを決めてあげるわね」
「あ……俺に選択権はないのかなー……。自分で決めたいな……なんて」
「私がお薦めのジョブを選んであげるのに。なんで嫌がるのよぅ」
ヒナはぷくっと頬を膨らませた。
このまま言うとおりに進めていくと、俺はヒナの都合のいいキャラになってしまいそうだとは言えなかった。
まぁ、彼女のことだから親切心から出た言葉なのだろうが。
理由を聞くとまだチュートリアルの件を心配しているようで、俺がピーキーなジョブを選択しかねないからということらしい。
うん……それは確かに否定はできない。
ジョブに就いたり変更や転職をするには、所定の場所に行かなければならない。主に二つの場所があり、冒険者ギルドと教会がそれに当たる。
また、特殊なアイテムがあれば制限はあるがジョブを変更することができるらしい。
俺たちはここからほど近い教会へと向かった。
「これが教会か。この世界にも宗教ってあるのか?」
「そうね、何柱かの神がいるわ。この地方だと一番信仰されているのは、女神イリスって神様よ」
「女神イリス! あ、キャラクタークリエイトの人か」
女神イリスの名前が出てきて、本当に神様だったんだと思っていると、ヒナが「うん?」と首を傾げた。
「タイガくん、女神イリスを知ってるの? ログイン初日に耳にする情報でもないけれど……」
「うん。さっきキャラクター作った時に会った人で間違いないと思う。自分でも女神イリスだと名乗っていたからな」
「……そう……なんだ。私の時と違うわね……」
どうやらヒナの時は男の神様だったらしい。ヒナが知ってるプレイヤーも、キャラクタークリエイトはその男の神様が担当していたようなので疑問が残る。
「プレイヤーによって、もしくはログインしたゲームを始めた日によって、キャラクタークリエイトを担当する神様が違うのかな?」
「どうなのかしら……。私の知り合いがたまたま女神イリスに当たらなかったという可能性も否定できないわね」
しかし、初回ログイン以降登場していないらしい。ということは俺もあの女神イリスとは、もう会うことはないのだろうか。
考えても答えが出そうにないので、俺たちは頭を切り替えて教会の中に入った。
「現実世界で教会なんて来たことないけど、何か神聖な感じがするなぁ……」
「現実世界と似たような作りよ。さあ、行きましょ」
「ああ」
中央の通路を挟んで、左右には何列にも並ぶ木製の会衆席がある。通路の奥には祭壇があり、その後ろには大きなステンドグラスが外の光を浴びて鮮やかに彩られていた。ちょうど真下には女神イリスとおぼしき彫像が、存在感を放っている。
何人かの信徒がお祈りをしているように見える。女神イリスの信者だろうか。祭壇には神父らしき老人が立っていた。
ヒナは真っ直ぐに通路を進んでいき祭壇の前で神父に一礼する。
そして、ゆっくり俺に振り返った。
「タイガくん、ジョブを決めましょ」
「どうやるんだ?」
「ここに立つとメインメニューに【職業】の項目が表示されるから、そこから設定できるわ」
「なるほど」
俺は言われたとおりヒナの隣に立った。
メインメニューを開くと【職業】の項目が出現したので、迷うことなくそれを押下する。
すると、ジョブの一覧がずらりと表示された。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【戦士】
【剣士】
【槍兵】
【弓手】
【僧兵】
ページ 1/11
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ページ1となっている。次のページにいってみよう。あと10ページあるはずだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【盗賊】
【拳士】
【冒険者】
【騎士】
【薬師】
ページ 2/11
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「おお! こんなにいっぱいあるのか! ……これは迷うな」
「チュートリアルの時みたいに、勝手に押さないでね?」
「わかってるって」
「一回タップすると転職条件やステータスへの補正に、習得可能なスキルが表示されるわ。更にタップするとそのジョブに就くかどうかの確認が出るから、『Yes』を選べば完了よ。念のために決める前に私に教えてね」
ここに表示されているのは、俺が取得可能なクラス1ジョブと現状では習得不可のクラス2ジョブだけだが、それでも三十種類以上はあった。どうも、これで全部じゃないらしい。どんだけやり込み要素あるんだよ。これじゃあ、時間がいくらあっても足りないな。
「そうだな。俺は勇者にしようかな。勇者ってある? 妥協して剣聖でも可」
表示されているジョブ一覧から目を離して、ノリで適当なことを口走る。父さんのライトノベルのおかげでその辺りの知識は充分だ。
すると、ヒナは眉間にしわを寄せつつ顎に手をやった。
「えっと……確かクラス3でも、まだ実装されていないわ」
「いや……冗談で言ってみただけだから」
「もぅ!」
俺の冗談に気づかず真面目に答えてくれたヒナは、顔を真っ赤にして顔を背けた。
「ふん」
「ごめん、ごめん。それで、お薦めのジョブがあるんだろう? 一応、参考にさせてもらうから」
「初めての人にお薦めなのは【戦士】だと思うわ。私の【精霊騎士】も【戦士】から派生したジョブなの。序盤はMPもないし魔法職は使い勝手が悪いのよ。だから生産職を目指さないなら、【戦士】がいいと思うわ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【戦士】
転職条件: なし
コスト: 1
ステータス補正: なし
習得可能スキル
■《クラッシュ》
物理攻撃ダメージに+10
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
コスト1だけどステータス補正なしにスキルが一つか。《クラッシュ》物理攻撃ダメージに+10とは貧弱もいいところだな。こんなの序盤だけしか使えないんじゃないかな。しかしクラス2ジョブで戦士系のジョブを取得するなら必須らしい。
「生産職はモンスター相手に戦って活躍するタイプじゃなくて、主に武器や防具の強化や作成、それにアイテムを合成して売買で財を成したりするタイプのプレイを好むプレイヤーが選択するジョブよ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【調合師】
転職条件: なし
コスト: 1
ステータス補正: なし
習得可能スキル
■《アイテム合成1》
Eランクのアイテムを合成
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「へぇ、そういう楽しみ方もあるんだな。てっきり仲間と魔王を倒しにいくストーリーを想像していたよ」
父さんのライトノベルもそういうストーリー一辺倒だったな。あれは父さんの好みだったか。
「いちおう世界征服を企む魔王からこの世界を守るってシナリオも存在するのよ。そのシナリオを進めているプレイヤーのことは攻略組や最前線組なんて呼ばれ方をしているわね。他には合成したアイテムを売買して財を成したり、武器や防具を作って鍛冶師として楽しんでいるプレイヤーもいるのよ」
「そうなのか。色々な楽しみ方があるんだな」
「それが<DO>の醍醐味よ。ファンタジー世界で別の人生を楽しめるってわけね。話が逸れてしまったけれど【スキル】の説明をしていいかしら?」
「ああ、頼むよ」
「【スキル】にはパッシブスキルというのがあって、一度習得さえすれば常時効果の恩恵を得られるものをいうの。ただし、他のジョブに転職してしまうと無効になってしまうから気をつけてね。もう一つはアクティブスキルよ。これは自ら選択しないと使えないスキルのこと」
「なるほど。となるとコスト10以内でジョブを組み合わせるのは、思ったより単純ではないんだな。ただ強いジョブを並べるだけじゃ駄目ってことだろ?」
「そうね。それにはコストが不足するし、パッシブスキルを最大限に活かせないわね」
ちなみにコストの上限までジョブに就けるが、ステータスに表示されるものをメイン、その他をサブという。ジョブ自体になんらかの効果がある場合、メインに据えたものだけがその効果を発揮する。
ジョブレベルを最大まで上げると、たとえばヒナの【精霊騎士】ではLUKを除く全ステータス+30という効果が追加される。これはメインジョブにした場合で、サブジョブだと効果は反映されない仕様だ。
俺は【重戦士】のジョブをタップして、その詳細を確認する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【重戦士】
転職条件: 【戦士】レベル30
コスト: 2
ステータス補正: なし
習得可能スキル
■《ヘビークラッシュ》
物理攻撃ダメージに+500
■《庇う》
任意の人物に代わってダメージを受ける
行動範囲内に限る
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ほえー」
「ふふっ」
「?」
「タイガくんて、時々変な声を上げたりするのね。学校でのイメージからは想像できなくて、ごめんなさい少し可笑しくて」
「まぁ、学校ではしゃべる機会なんてなかったからな。俺っていつもこんな感じだよ」
「そうなのね」
ヒナは本当に可笑しそうに笑っていた。つられて俺の頬も緩んでしまう。
結局、お試しプレイの俺からしてみればボスモンスターを薙ぎ倒して攻略を極めてやろうとか、生産職を極めて富豪になってのんびり楽しもうとか考えるまでもなく、無難な【戦士】というジョブを選択した。
現在レベル2である俺のコストの上限はたった1しかない。なのでジョブは一つしか就けなかった。当然、初心者向けのクラス1ジョブなので、レベルを最大まで上げてもステータスアップの効果はない。
いちおう、ヒナに最終確認を求めると笑顔で頷いてくれたので、ほっと胸を撫で下ろす。
こうして俺は【戦士】のジョブに就いたのだった。
一つしかジョブに就いていないので、これが俺のメインジョブとなる。
【戦士】タイガの誕生だ。
そこで俺は時間が気になった。ログインしてキャラクタークリエイトからここまでで、体感時間では二時間くらいは経っている気がする。そのことをヒナに伝えると、
「まだ午後七時四十分くらいじゃないかしら」
「え? まだ三十分しか経ってないのか?」
「この世界の時間じゃ私たちが会ってから一時間以上は過ぎているわ。でもこの世界と現実世界の時間には四時間の差があるの」
ヒナの説明では、現実世界での一時間はこの<DO>内では四時間に相当するという。なので現実世界で丸一日二十四時間の経過は、<DO>の四日分になる計算だ。
どおりで現実世界では三十分しか経っていないはずだ。ちなみに<DO>内での時間はメインメニューに表示されていた。
「タイガくんは何時までなら大丈夫なの?」
「特に決めてなかったけど、明日は学校もあるし十一時までには終わりたいなと考えているけど」
「それならあと十四時間もあるわね。さすがにそこまで長時間プレイすると疲れてしまうから、そうね……あとクエストを一つクリアして今日は解散しましょ」
「ああ、わかった」
クエスト。それが<DO>では何を指すのか知らないまま俺は返事をした。クエスト一つか……<DO>内で二時間、現実世界で三十分あれば終わるだろう。せっかく馴染んできたヒナと離れるのは少し名残惜しいが、学校では毎日会えるんだし、今後は学校でも話す機会が生まれるかもしれない。
そう考えると、少し気分が高揚した。
「じゃあ、次はクエストに行きましょ」
ヒナは嬉々として俺の腕を掴んだ。
そのジョブには大きく分けて三つの種類あるらしい。
それがクラス1、クラス2、クラス3の三種で五十以上ものジョブが存在するようだ。
ナンバリングされていることから、今後のアップデートでクラス4が実装されるという噂が出ているそうで、攻略サイトでは未知のジョブを予想されたりしているらしい。
ジョブには個別で習熟度が設定されていて、決められた値ごとにレベルが上がる仕組みだ。
クラス1は無職の者が就くジョブで、特に転職条件はなし。レベル上限は30。
クラス2はクラス1のレベルを上げきった者が就くジョブで、指定されたクラス1ジョブのレベルを最大まで上げるのが転職条件だ。レベル上限は60。
クラス3は指定された複数のクラス2ジョブのレベルを、最大まで上げるのが転職条件となっている。レベル上限は90。
同時に就けるジョブは最大でコスト10以内までで、クラス1がコスト1、クラス2がコスト2、クラス3がコスト3となっている。
「……覚えるのが大変そうだなぁ」
「すぐに慣れるわ。私もゲームというゲームはこの<DO>が初めてなんだけれど、自然と慣れてしまったのよね」
「え、他のゲームをしたことがないのか? てっきりゲーマーだと……」
「え?」
「……いや、こっちの話」
ぽろっと口に出してしまったが、ヒナには聞こえてなかったようだ。
それにしても意外だな。これだけ<DO>に詳しいから、かなりゲーム慣れしていると思ったんだけど。
「これから行く場所でクラス1のジョブに就けるから、私がタイガくんのを決めてあげるわね」
「あ……俺に選択権はないのかなー……。自分で決めたいな……なんて」
「私がお薦めのジョブを選んであげるのに。なんで嫌がるのよぅ」
ヒナはぷくっと頬を膨らませた。
このまま言うとおりに進めていくと、俺はヒナの都合のいいキャラになってしまいそうだとは言えなかった。
まぁ、彼女のことだから親切心から出た言葉なのだろうが。
理由を聞くとまだチュートリアルの件を心配しているようで、俺がピーキーなジョブを選択しかねないからということらしい。
うん……それは確かに否定はできない。
ジョブに就いたり変更や転職をするには、所定の場所に行かなければならない。主に二つの場所があり、冒険者ギルドと教会がそれに当たる。
また、特殊なアイテムがあれば制限はあるがジョブを変更することができるらしい。
俺たちはここからほど近い教会へと向かった。
「これが教会か。この世界にも宗教ってあるのか?」
「そうね、何柱かの神がいるわ。この地方だと一番信仰されているのは、女神イリスって神様よ」
「女神イリス! あ、キャラクタークリエイトの人か」
女神イリスの名前が出てきて、本当に神様だったんだと思っていると、ヒナが「うん?」と首を傾げた。
「タイガくん、女神イリスを知ってるの? ログイン初日に耳にする情報でもないけれど……」
「うん。さっきキャラクター作った時に会った人で間違いないと思う。自分でも女神イリスだと名乗っていたからな」
「……そう……なんだ。私の時と違うわね……」
どうやらヒナの時は男の神様だったらしい。ヒナが知ってるプレイヤーも、キャラクタークリエイトはその男の神様が担当していたようなので疑問が残る。
「プレイヤーによって、もしくはログインしたゲームを始めた日によって、キャラクタークリエイトを担当する神様が違うのかな?」
「どうなのかしら……。私の知り合いがたまたま女神イリスに当たらなかったという可能性も否定できないわね」
しかし、初回ログイン以降登場していないらしい。ということは俺もあの女神イリスとは、もう会うことはないのだろうか。
考えても答えが出そうにないので、俺たちは頭を切り替えて教会の中に入った。
「現実世界で教会なんて来たことないけど、何か神聖な感じがするなぁ……」
「現実世界と似たような作りよ。さあ、行きましょ」
「ああ」
中央の通路を挟んで、左右には何列にも並ぶ木製の会衆席がある。通路の奥には祭壇があり、その後ろには大きなステンドグラスが外の光を浴びて鮮やかに彩られていた。ちょうど真下には女神イリスとおぼしき彫像が、存在感を放っている。
何人かの信徒がお祈りをしているように見える。女神イリスの信者だろうか。祭壇には神父らしき老人が立っていた。
ヒナは真っ直ぐに通路を進んでいき祭壇の前で神父に一礼する。
そして、ゆっくり俺に振り返った。
「タイガくん、ジョブを決めましょ」
「どうやるんだ?」
「ここに立つとメインメニューに【職業】の項目が表示されるから、そこから設定できるわ」
「なるほど」
俺は言われたとおりヒナの隣に立った。
メインメニューを開くと【職業】の項目が出現したので、迷うことなくそれを押下する。
すると、ジョブの一覧がずらりと表示された。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【戦士】
【剣士】
【槍兵】
【弓手】
【僧兵】
ページ 1/11
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ページ1となっている。次のページにいってみよう。あと10ページあるはずだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【盗賊】
【拳士】
【冒険者】
【騎士】
【薬師】
ページ 2/11
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「おお! こんなにいっぱいあるのか! ……これは迷うな」
「チュートリアルの時みたいに、勝手に押さないでね?」
「わかってるって」
「一回タップすると転職条件やステータスへの補正に、習得可能なスキルが表示されるわ。更にタップするとそのジョブに就くかどうかの確認が出るから、『Yes』を選べば完了よ。念のために決める前に私に教えてね」
ここに表示されているのは、俺が取得可能なクラス1ジョブと現状では習得不可のクラス2ジョブだけだが、それでも三十種類以上はあった。どうも、これで全部じゃないらしい。どんだけやり込み要素あるんだよ。これじゃあ、時間がいくらあっても足りないな。
「そうだな。俺は勇者にしようかな。勇者ってある? 妥協して剣聖でも可」
表示されているジョブ一覧から目を離して、ノリで適当なことを口走る。父さんのライトノベルのおかげでその辺りの知識は充分だ。
すると、ヒナは眉間にしわを寄せつつ顎に手をやった。
「えっと……確かクラス3でも、まだ実装されていないわ」
「いや……冗談で言ってみただけだから」
「もぅ!」
俺の冗談に気づかず真面目に答えてくれたヒナは、顔を真っ赤にして顔を背けた。
「ふん」
「ごめん、ごめん。それで、お薦めのジョブがあるんだろう? 一応、参考にさせてもらうから」
「初めての人にお薦めなのは【戦士】だと思うわ。私の【精霊騎士】も【戦士】から派生したジョブなの。序盤はMPもないし魔法職は使い勝手が悪いのよ。だから生産職を目指さないなら、【戦士】がいいと思うわ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【戦士】
転職条件: なし
コスト: 1
ステータス補正: なし
習得可能スキル
■《クラッシュ》
物理攻撃ダメージに+10
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
コスト1だけどステータス補正なしにスキルが一つか。《クラッシュ》物理攻撃ダメージに+10とは貧弱もいいところだな。こんなの序盤だけしか使えないんじゃないかな。しかしクラス2ジョブで戦士系のジョブを取得するなら必須らしい。
「生産職はモンスター相手に戦って活躍するタイプじゃなくて、主に武器や防具の強化や作成、それにアイテムを合成して売買で財を成したりするタイプのプレイを好むプレイヤーが選択するジョブよ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【調合師】
転職条件: なし
コスト: 1
ステータス補正: なし
習得可能スキル
■《アイテム合成1》
Eランクのアイテムを合成
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「へぇ、そういう楽しみ方もあるんだな。てっきり仲間と魔王を倒しにいくストーリーを想像していたよ」
父さんのライトノベルもそういうストーリー一辺倒だったな。あれは父さんの好みだったか。
「いちおう世界征服を企む魔王からこの世界を守るってシナリオも存在するのよ。そのシナリオを進めているプレイヤーのことは攻略組や最前線組なんて呼ばれ方をしているわね。他には合成したアイテムを売買して財を成したり、武器や防具を作って鍛冶師として楽しんでいるプレイヤーもいるのよ」
「そうなのか。色々な楽しみ方があるんだな」
「それが<DO>の醍醐味よ。ファンタジー世界で別の人生を楽しめるってわけね。話が逸れてしまったけれど【スキル】の説明をしていいかしら?」
「ああ、頼むよ」
「【スキル】にはパッシブスキルというのがあって、一度習得さえすれば常時効果の恩恵を得られるものをいうの。ただし、他のジョブに転職してしまうと無効になってしまうから気をつけてね。もう一つはアクティブスキルよ。これは自ら選択しないと使えないスキルのこと」
「なるほど。となるとコスト10以内でジョブを組み合わせるのは、思ったより単純ではないんだな。ただ強いジョブを並べるだけじゃ駄目ってことだろ?」
「そうね。それにはコストが不足するし、パッシブスキルを最大限に活かせないわね」
ちなみにコストの上限までジョブに就けるが、ステータスに表示されるものをメイン、その他をサブという。ジョブ自体になんらかの効果がある場合、メインに据えたものだけがその効果を発揮する。
ジョブレベルを最大まで上げると、たとえばヒナの【精霊騎士】ではLUKを除く全ステータス+30という効果が追加される。これはメインジョブにした場合で、サブジョブだと効果は反映されない仕様だ。
俺は【重戦士】のジョブをタップして、その詳細を確認する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【重戦士】
転職条件: 【戦士】レベル30
コスト: 2
ステータス補正: なし
習得可能スキル
■《ヘビークラッシュ》
物理攻撃ダメージに+500
■《庇う》
任意の人物に代わってダメージを受ける
行動範囲内に限る
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ほえー」
「ふふっ」
「?」
「タイガくんて、時々変な声を上げたりするのね。学校でのイメージからは想像できなくて、ごめんなさい少し可笑しくて」
「まぁ、学校ではしゃべる機会なんてなかったからな。俺っていつもこんな感じだよ」
「そうなのね」
ヒナは本当に可笑しそうに笑っていた。つられて俺の頬も緩んでしまう。
結局、お試しプレイの俺からしてみればボスモンスターを薙ぎ倒して攻略を極めてやろうとか、生産職を極めて富豪になってのんびり楽しもうとか考えるまでもなく、無難な【戦士】というジョブを選択した。
現在レベル2である俺のコストの上限はたった1しかない。なのでジョブは一つしか就けなかった。当然、初心者向けのクラス1ジョブなので、レベルを最大まで上げてもステータスアップの効果はない。
いちおう、ヒナに最終確認を求めると笑顔で頷いてくれたので、ほっと胸を撫で下ろす。
こうして俺は【戦士】のジョブに就いたのだった。
一つしかジョブに就いていないので、これが俺のメインジョブとなる。
【戦士】タイガの誕生だ。
そこで俺は時間が気になった。ログインしてキャラクタークリエイトからここまでで、体感時間では二時間くらいは経っている気がする。そのことをヒナに伝えると、
「まだ午後七時四十分くらいじゃないかしら」
「え? まだ三十分しか経ってないのか?」
「この世界の時間じゃ私たちが会ってから一時間以上は過ぎているわ。でもこの世界と現実世界の時間には四時間の差があるの」
ヒナの説明では、現実世界での一時間はこの<DO>内では四時間に相当するという。なので現実世界で丸一日二十四時間の経過は、<DO>の四日分になる計算だ。
どおりで現実世界では三十分しか経っていないはずだ。ちなみに<DO>内での時間はメインメニューに表示されていた。
「タイガくんは何時までなら大丈夫なの?」
「特に決めてなかったけど、明日は学校もあるし十一時までには終わりたいなと考えているけど」
「それならあと十四時間もあるわね。さすがにそこまで長時間プレイすると疲れてしまうから、そうね……あとクエストを一つクリアして今日は解散しましょ」
「ああ、わかった」
クエスト。それが<DO>では何を指すのか知らないまま俺は返事をした。クエスト一つか……<DO>内で二時間、現実世界で三十分あれば終わるだろう。せっかく馴染んできたヒナと離れるのは少し名残惜しいが、学校では毎日会えるんだし、今後は学校でも話す機会が生まれるかもしれない。
そう考えると、少し気分が高揚した。
「じゃあ、次はクエストに行きましょ」
ヒナは嬉々として俺の腕を掴んだ。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~
神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!!
皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました!
ありがとうございます!
VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。
山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・?
それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい!
毎週土曜日更新(偶に休み)
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。
みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ!
そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。
「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」
そう言って俺は彼女達と別れた。
しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる