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剣の神の教え

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「見事だ。限られた僅かな時間で俺を倒すほどまで力をつけるとは」

 俺の体はボロボロだ。
 かろうじて立ってはいるが、まさに満身創痍。
 対して、剣の神は片膝をついているが、その体にほとんど傷はない。

 最後に放った俺の攻撃が運良く直撃したに過ぎない。

「シスンよ、これは偶然ではない。最後の攻撃、おまえの剣は俺を越えたのだ」
「俺の剣が……?」
「そうだ。おまえの素質もあるのだろうが、指導した師がよかったのだろうな」

 爺ちゃんの教えが……。
 なんだか、爺ちゃんが褒められたようで嬉しくなる。

「いよいよ、最後だ。おまえに話しておくことがある。【剣聖】のスキルについてだ」
「【剣聖】の?」
「そうだ。【剣聖】のスキルは全部で九つある。それには意味があるのだ」
「スキルの意味? 効果とは違うのか?」
「効果ではない。スキルが存在する意味だ」

 剣の神シスンは語った。
 【剣聖】のスキルは破壊の神デスを倒すことに特化したスキルだと。
 それゆえ、九つあるのだと。


 《剣閃結界》
 あらゆる攻撃を防ぐ。
 ただし限度はあるし、スキル発動中は動けない。

 《朧月》
 変幻自在の剣。
 相手の死角から攻撃する。

 《地走り》
 地面を穿ち直線上に攻撃する。
 土属性。

 《疾風剣》
 風のように斬り裂く。
 風属性。

 《氷水剣》
 氷を纏って斬り裂く。
 氷属性。

 《残影剣》
 複数の残像を見せ感じさせ翻弄する。

 《乱れ斬り》
 八方からの連続攻撃。

 《煉獄炎剣》
 炎を纏って斬り裂く。
 火属性。

 《星河剣聖》
 剣聖最大の攻撃。大上段の構えからの振り下ろし。



「八本の触手にはそれぞれ属性というものがある。それに対応するのが【剣聖】のスキルだ。《剣閃結界》を除く攻撃スキルはそれぞれ八本の触手に対応している。一本目の触手には《朧月》、二本目の触手には《地走り》というふうにだ」
「これで八本の触手を倒せる……?」

 まさか、【剣聖】のスキルにそんな隠された意味があったなんて知らなかった。
 俺は素直に驚いた。

「しかし、それだけではまだ不十分だ。破壊の神デスが完全体となった場合、今のおまえの力ではスキル本来の威力が出せない」
「スキル本来の威力?」
「破壊の神デスを倒すための一撃ということだ。そこで、【勇者】のスキル《ブレイブモード》を使う」

 《ブレイブモード》?
 【勇者】のスキルらしいが、いったいどんな効果が。

「《ブレイブモード》は一時的に潜在能力を引き出し、身体能力を底上げするスキルだ。今のおまえならば三割増しほどの力が出せるだろう」
「そんなに……!」

 でも、【勇者】のスキルでは【剣聖】の俺じゃ使えない。
 どうすればいいんだ?

「さっきも言ったが、元々クリスタルによる職業という概念は、俺が人間たちの潜在能力を引き出しスキルを使いやすくするために作り出したものだ。その力を秘めている者なら、【勇者】でなくとも《ブレイブモード》を使うことは可能だ」
「じゃあ、俺にも《ブレイブモード》が使えるのか?」
「おまえ次第だがな」

 【勇者】のスキルということは、ウェイン王子も使えるはずだ。
 だったら、ウェイン王子が破壊の神デスを倒すことも可能なのか。

「それはどうだろうな。ウェインが【剣聖】のスキルを使えればあるいは……といったところか。【勇者】のスキルだけでは属性の相性もあり、決め手に欠けるからな」
「じゃあ、俺が《ブレイブモード》っを使って【剣聖】のスキルを使えば……」
「ああ、倒せる。俺が長年の戦いの果てに見つけたやつの弱点だ。そして、本体。本体を倒すには別のスキルが必要だ。それを今から伝授する。おまえならば使いこなせよう」

 まだ何かスキルがあるのか?


 こうして、俺は剣の神から新たなスキルを習得した。


 《星河剣神》。


 剣の神の名を宿したそのスキルは、間違いなく《星河剣聖》の上を行く。
 これが破壊の神デスを倒す、俺の切り札だ。


「問題はどのタイミングで《ブレイブモード》を使うかだな。効果が切れると消耗が激しいという話だし」

 俺は剣の神との会話を思い返してつぶやいた。
 不完全体の触手であるアンドレイには《星河剣聖》は効かなかったが、《残影剣》は効果的だった。
 やはり、剣の神が言うように属性の相性は重要だ。
 それだけに《ブレイブモード》の使いどころは慎重に見極めなければならない。

 しかも、問題はそれだけじゃない。

「まいったな。どの触手が何本目のそれかなんて、見分けがつかないぞ……!」

 どの触手も黒ずんだ色をしている。
 触手によって微妙に濃淡はあるようにも見えるが、明確な違いだと判別するのは難しいだろう。
 かといって、手当たり次第にスキルを放つのは、体力の消耗を考えるといい案とは言いがたい。

「シスン! どうしたの!?」

 冒険者を避難させたアーシェが戻って来て尋ねる。

「触手の見分けがつかない。どうやって見分けたものか……」
「見た目では見分けられんのぅ」

 ティアもこちらに駆け寄った。

「どうにかして六本目の触手を先に仕留めたい。アレには再生能力があるからな。しかし、見た目で判別できないとなると……」
「ねぇ、再生能力を持った触手とそれ以外の触手で、再生する早さに違いはあるのかしら?」
「早さに違い……いや、どうだろうな」
「主様よ、アーシェの疑問が解決の糸口になるやもしれんぞ? 試しみる価値はあると思うんじゃが」
「どうやって試す?」

 ティアが口元に笑みを浮かべる。

「妾の魔法をぶっ放してみようかの」
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