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破壊の神デス完全体
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「シスン! おまえも来たのか」
「はい、アレを止めに来ました」
「おまえに止められるものか。俺の見立てによると、あのモンスターは魔族どもの最終兵器だ。生半可な力では通じないぞ?」
「アレはモンスターでもないし、魔族とは関係ないです」
「なんだと?」
ウェイン王子が訝しげな目を向ける。
「モンスターでないと言うなら、アレはなんだ? やつこそ魔族どもが我ら人間を駆逐するために放ったものではないか」
「破壊の神よ。あれこそ世界の敵だわ」
アーシェが俺の隣に並ぶ。
「なんだ、小娘。俺は【剣聖】と話している。しゃしゃり出てくるんじゃない」
「なんですって!?」
「シスン、破壊の神とはなんだ? わかるように説明しろ」
破壊の神デス。
おそらく、もうアンドレイの触手を取り込んで完全体になってしまったんだろう。
Sランクの冒険者ですら歯が立たない。
すぐに助けに行かなければ、さらなる犠牲者が増えるだけだ。
「話している時間はありません。俺は行きます」
俺はウェイン王子の脇をすり抜けようとして、肩を掴まれた。
「待て。説明しろ。破壊の神とはなんだ? おまえは何を知っている?」
「離してください。状況がわからないんですか? このままでは冒険者が死んでしまいます」
「まぁ、聞け。アレはとてつもない回復能力を持っている。いや、再生というのが正しいのか。とにかく、アレを倒すには瞬時に絶命させるだけのダメージを叩き込まねばならない。でだ、おまえも協力しろ」
ウェイン王子も再生能力に気づいていたか。
確かにウェイン王子の言うとおり、再生能力を上回るダメージが必要になる。
「作戦はこうだ。冒険者たちを盾にして、俺たちはアレの本体に近づく。そこで【拳聖】のゴリラスとともに、三人で一斉に攻撃をしかける。おそらく、それで勝てる」
「冒険者を盾にする……? 正気ですか!?」
「そうだ。今の触手のスピードを考えればそれしかあるまい。冒険者とて命を捨てる覚悟で魔族との戦争に参加したはずだ。俺の役に立てるのなら本望だろう。冒険者の遺族には補償はしてやる」
「あんたねぇ……!」
アーシェが俺の肩に置かれていたウェイン王子の手を掴んだ。
「一介の冒険者風情が、俺に触れるか? 立場を弁え――」
侮蔑の表情を浮かべるウェイン王子の顔面に、アーシェのパンチが炸裂した。
ウェイン王子が派手に転がった。
「……アーシェ!」
アーシェの怒りは限界だった。
バジルさんやエイヴラさんが傷つけられたこともあったし、冒険者を捨て石にするかのようなウェイン王子の発言。
度重なるウェイン王子の言動に対して、遂に痺れを切らせたようだ。
「お父さんや、お母さんを傷つけたことはこれで我慢してあげるわ。今はこんなことしている場合じゃないもの」
ウェイン王子は土を払いながら立ち上がる。
「そうか、おまえはバジルの娘だったな。薄汚い魔族の血を持つお――」
言いかけたウェイン王子に、俺は即座に近づいた。
そして正面に立ち、その目を真っ直ぐに見据える。
「それ以上言うなら、俺が許しません」
「はっ、なんだと? 誰に口を聞いている?」
ウェイン王子の背後にはティアが移動して、右手をその背中に向けている。
「仲間を愚弄するなら、背中に風穴が開くと思えよ?」
ウェイン王子は俺の胸を軽く突き飛ばす。
「貴様ら、何をしたのかわかっているな? この戦いが終わったら、きっちり償ってもらうぞ? 少なくとも、一生牢で暮らすぐらいのことは覚悟してもらうぞ」
そう吐き捨てて、ウェイン王子は破壊の神デスのほうに走り去った。
「シスン、ティアありがとう」
「いや、俺だってバジルさんの件で頭にきていたんだ。それに、冒険者を盾にするなんて考えはありえない」
「妾は主様が危険に晒されたと判断しただけじゃ、勘違いするでない」
「うん、ありがとね」
照れ隠しで顔を逸らすティアを見て、アーシェが微笑む。
「よし、俺たちも向かうぞ」
「ええ、そうね」
「うむ」
俺たちも走り出した。
状況は凄惨を極めていた。
触手の前に抵抗虚しく散っていく冒険者たち。
ここには四百人ほどの冒険者が集まっているが、その数は半分まで減っていた。
後方で気絶しているレベル100に満たない冒険者は絶対に参戦させてはならない。
マリーさんが上手く立ち回ってくれることを祈るしかない。
これが、破壊の神デスの完全体か。
触手は八本ある。
おそらくアンドレイの体内に残っていた死んだ触手三本も、シリウスが有していた再生能力によって復活したのだろう。
俺の所感では、触手一本の強さがどれだけ低く見積もっても魔王ほどに感じられた。
実質、魔王八人を同時に相手にするようなものだ。
そして本体もある。
体中の毛が逆立ったような緊張を覚える。
勝てるのか……?
俺は自分に問いかける。
「ティア、生き残った冒険者を治癒魔法で助けてくれ!」
「うむ、任せよ!」
「アーシェは冒険者を下がらせて!」
「わかったわ! シスンはどうするの?」
「俺は……」
触手の攻撃を上手く躱しながら攻撃を放つのはウェイン王子とゴリラスだ。
他にも二十人ほどの冒険者は冷静に対処しているのが窺える。
この冒険者たちは頭ひとつ、抜きん出ているな。
彼らこそ剣の神が選んだ戦士かもしれなかった。
だが、今は確認している暇はない。
「戦闘に参加する! 冒険者たちを避難させたらアーシェとティアの力を貸して欲しい」
俺とウェイン王子、ゴリラスに二十人の冒険者。
これではまだ足りない。
アーシェやティアの力が必要だ。
「もちろんよ! すぐに戻って来るわ!」
「承知した!」
頼もしい返事があった。
俺たちはそれぞれの行動を開始する。
「はい、アレを止めに来ました」
「おまえに止められるものか。俺の見立てによると、あのモンスターは魔族どもの最終兵器だ。生半可な力では通じないぞ?」
「アレはモンスターでもないし、魔族とは関係ないです」
「なんだと?」
ウェイン王子が訝しげな目を向ける。
「モンスターでないと言うなら、アレはなんだ? やつこそ魔族どもが我ら人間を駆逐するために放ったものではないか」
「破壊の神よ。あれこそ世界の敵だわ」
アーシェが俺の隣に並ぶ。
「なんだ、小娘。俺は【剣聖】と話している。しゃしゃり出てくるんじゃない」
「なんですって!?」
「シスン、破壊の神とはなんだ? わかるように説明しろ」
破壊の神デス。
おそらく、もうアンドレイの触手を取り込んで完全体になってしまったんだろう。
Sランクの冒険者ですら歯が立たない。
すぐに助けに行かなければ、さらなる犠牲者が増えるだけだ。
「話している時間はありません。俺は行きます」
俺はウェイン王子の脇をすり抜けようとして、肩を掴まれた。
「待て。説明しろ。破壊の神とはなんだ? おまえは何を知っている?」
「離してください。状況がわからないんですか? このままでは冒険者が死んでしまいます」
「まぁ、聞け。アレはとてつもない回復能力を持っている。いや、再生というのが正しいのか。とにかく、アレを倒すには瞬時に絶命させるだけのダメージを叩き込まねばならない。でだ、おまえも協力しろ」
ウェイン王子も再生能力に気づいていたか。
確かにウェイン王子の言うとおり、再生能力を上回るダメージが必要になる。
「作戦はこうだ。冒険者たちを盾にして、俺たちはアレの本体に近づく。そこで【拳聖】のゴリラスとともに、三人で一斉に攻撃をしかける。おそらく、それで勝てる」
「冒険者を盾にする……? 正気ですか!?」
「そうだ。今の触手のスピードを考えればそれしかあるまい。冒険者とて命を捨てる覚悟で魔族との戦争に参加したはずだ。俺の役に立てるのなら本望だろう。冒険者の遺族には補償はしてやる」
「あんたねぇ……!」
アーシェが俺の肩に置かれていたウェイン王子の手を掴んだ。
「一介の冒険者風情が、俺に触れるか? 立場を弁え――」
侮蔑の表情を浮かべるウェイン王子の顔面に、アーシェのパンチが炸裂した。
ウェイン王子が派手に転がった。
「……アーシェ!」
アーシェの怒りは限界だった。
バジルさんやエイヴラさんが傷つけられたこともあったし、冒険者を捨て石にするかのようなウェイン王子の発言。
度重なるウェイン王子の言動に対して、遂に痺れを切らせたようだ。
「お父さんや、お母さんを傷つけたことはこれで我慢してあげるわ。今はこんなことしている場合じゃないもの」
ウェイン王子は土を払いながら立ち上がる。
「そうか、おまえはバジルの娘だったな。薄汚い魔族の血を持つお――」
言いかけたウェイン王子に、俺は即座に近づいた。
そして正面に立ち、その目を真っ直ぐに見据える。
「それ以上言うなら、俺が許しません」
「はっ、なんだと? 誰に口を聞いている?」
ウェイン王子の背後にはティアが移動して、右手をその背中に向けている。
「仲間を愚弄するなら、背中に風穴が開くと思えよ?」
ウェイン王子は俺の胸を軽く突き飛ばす。
「貴様ら、何をしたのかわかっているな? この戦いが終わったら、きっちり償ってもらうぞ? 少なくとも、一生牢で暮らすぐらいのことは覚悟してもらうぞ」
そう吐き捨てて、ウェイン王子は破壊の神デスのほうに走り去った。
「シスン、ティアありがとう」
「いや、俺だってバジルさんの件で頭にきていたんだ。それに、冒険者を盾にするなんて考えはありえない」
「妾は主様が危険に晒されたと判断しただけじゃ、勘違いするでない」
「うん、ありがとね」
照れ隠しで顔を逸らすティアを見て、アーシェが微笑む。
「よし、俺たちも向かうぞ」
「ええ、そうね」
「うむ」
俺たちも走り出した。
状況は凄惨を極めていた。
触手の前に抵抗虚しく散っていく冒険者たち。
ここには四百人ほどの冒険者が集まっているが、その数は半分まで減っていた。
後方で気絶しているレベル100に満たない冒険者は絶対に参戦させてはならない。
マリーさんが上手く立ち回ってくれることを祈るしかない。
これが、破壊の神デスの完全体か。
触手は八本ある。
おそらくアンドレイの体内に残っていた死んだ触手三本も、シリウスが有していた再生能力によって復活したのだろう。
俺の所感では、触手一本の強さがどれだけ低く見積もっても魔王ほどに感じられた。
実質、魔王八人を同時に相手にするようなものだ。
そして本体もある。
体中の毛が逆立ったような緊張を覚える。
勝てるのか……?
俺は自分に問いかける。
「ティア、生き残った冒険者を治癒魔法で助けてくれ!」
「うむ、任せよ!」
「アーシェは冒険者を下がらせて!」
「わかったわ! シスンはどうするの?」
「俺は……」
触手の攻撃を上手く躱しながら攻撃を放つのはウェイン王子とゴリラスだ。
他にも二十人ほどの冒険者は冷静に対処しているのが窺える。
この冒険者たちは頭ひとつ、抜きん出ているな。
彼らこそ剣の神が選んだ戦士かもしれなかった。
だが、今は確認している暇はない。
「戦闘に参加する! 冒険者たちを避難させたらアーシェとティアの力を貸して欲しい」
俺とウェイン王子、ゴリラスに二十人の冒険者。
これではまだ足りない。
アーシェやティアの力が必要だ。
「もちろんよ! すぐに戻って来るわ!」
「承知した!」
頼もしい返事があった。
俺たちはそれぞれの行動を開始する。
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