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破壊の神デス

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 俺、アーシェ、ティア、エステル、ゴリラス、最後尾にはマリーさんも続いている。
 向かうは破壊の神デス。

 足早に進んで行くとウェイン王子の側近、双子のアルスとカルスの背中が見えた。
 声をかけることもなく近づいて行く。
 すると、アルスが振り返った。

「マリーとゴリラスか。……おまえは!?」

 俺の顔を見てアルスが驚いている。
 アルスの反応が気になったのか、隣にいたカルスも振り返った。

「【剣聖】……シスンか。我々より先に辺境に着いていると思ったが、遅かったな。途中で怖じ気づいて時間を潰してでもいたのか?」

 カルスは後方から来た俺たちが今辺境に来たところだと思っているようだ。
 あえて訂正する必要もないだろう。
 そんなやり取りはどうせ無駄になるんだろうし。

「あなたたちのことですから、てっきりウェイン王子と一緒に戦っているんだと思っていましたが」

 マリーさんが尋ねた。
 それに答えるのはアルスだ。

「我らとてそこまで無能ではない。信じたくはないが、あのモンスターは俺とカルスでさえ歯が立たない。かえって王子の邪魔になるのでここで待機を命じられたのだ。王子ひとりなら思う存分力を発揮なさることだろう。ありえないことだが、もし王子が危機に瀕したら身を挺してお守りする覚悟はできている」
「そういうことだ。おまえたちに王子の邪魔はさせん。ここは通さんぞ」

 カルスが剣の柄に手をかける。

「悪いが、あれはウェイン王子ひとりの手に負える相手じゃない。俺も戦う」

 アルスが眉間にしわを寄せる。

「思い上がるのも大概にしろ。【剣聖】だからといって許される発言ではないぞ」
「あんたたちの大事なウェイン王子を死なせたくなかったら、そこをどきなさい。手遅れになるわよ」

 俺を押しのけてアーシェが言う。
 アーシェだって痛めつけられたバジルさんやエイヴラさんのことで、相当腹に据えかねているはずだ。
 それでも、破壊の神デスをどうにかするのが先決だと考えている。

 しかし、アルスとカルスは道を譲る気はないようだ。
 無理やりに通ることは簡単だが、争っている場合じゃない。

「アルスさん、ここで押し問答している時間はありません。私たちの後方をよく見てください」

 マリーさんが遙か後ろを見るようにと視線で示す。
 俺も振り返ってそれを見た。

「……冒険者か! 各国の軍の指揮官は何をしている!」

 アルスが苛立ったように声を荒げた。

 後方に待機していた冒険者たちがこちらに向かっているように見える。
 だが、各国の軍勢に動きはない。
 冒険者とてそれぞれ所属している国の命令に従うはずだ。
 つまり、冒険者の進軍は各国の意思なのか?

「アルス、冒険者が駆けつけたところで同じだ。やつらに王子の邪魔をさせるわけにはいかん。ここは通さん」
「しかし、どうして冒険者だけが進軍している? 我がシーヴァル王国の軍を率いているのは父上だぞ? まさか、父上の指示か」

 そういえば、アルスとカルスの父親はシーヴァル王国の将軍という話しだったな。

「冒険者たくさん来る。みんなで協力してアレを倒す」
「ゴリラス、何を言うかと思えば。おまえに発言を許した覚えははないぞ。王子の寛大な処置でおまえの村が生活できているのを忘れたか」

 アルスがゴリラスを睨みつけた。

「アルス殿、ゴリラスの発言は至極真っ当です。ここに招集された冒険者はSランクもしくはそれに相当するAランク冒険者たちです。戦闘経験も豊富ですし、危険だと察すれば引き際も弁えています。ここは共闘してみてはどうでしょう?」

 マリーさんが冒険者たちと一緒に破壊の神デスと交戦しようと提案する。
 だがアルスはそれが面白くないようだ。

「ふん、たかがギルド職員風情が知った風な口を聞くな」
「失礼ですが、私はギルド職員ではなく【弓聖】として呼ばれたのでは?」
「口の減らない女だ。年寄りの屁理屈は聞くに堪えんな」

 話は平行線だ。
 俺は立ち位置をずらして、前方で戦っているだろうウェイン王子の様子を窺う。

 破壊の神デス。
 その巨体は貴族の屋敷ぐらいの大きさはあるだろう。
 真っ黒な丸い体から四本の触手が伸びている。

 ウェイン王子は触手を掻い潜り攻撃を繰り返している。
 しかし、あまりにも巨体ゆえ、攻撃がどれほど効いているのか傍目には判断しにくい。
 今のところ危険はなさそうだが、破壊の神デスの力……あの程度なのか?

 俺が見た限りでは、先日戦った魔王のほうが上に見える。
 もちろん、力の一端しか見せていない可能性は大だ。

 四本の触手か。
 あれはアルダン、ポム、シリウス、デスだったものか。
 しかもシリウスの有していた再生能力を保持しているだろう。
 こいつは厄介だな。

 それにしても、シリウスがアルダンを取り込んだ状態では全く巨体でもなかったが、四本の触手であそこまで巨大になるものなのか?
 アンドレイも自身を合わせて四本の触手を持っていたはずだが、巨体ではなかった。
 巨体はデスに由来するものなのか?

 アンドレイで思い出したが、剣の神が気になることを言っていたな。
 今のアンドレイは冒険者に寄生していると。
 辺境に向かっているということだったから、もしかしてあの中にアンドレイがいるのか?

 俺は後ろを振り返り、冒険者たちを眺める。
 ざっと見ただけで五百人はいそうだな。

「お、おい待て! 止まれ! これはシヴァール王国第三王子ウェイン殿下の命令である!」
「くっ……! 止まれッ! さもなくば斬るぞ!」

 次々に冒険者が俺たちの横を駆け抜けていく。

 アルスが声を張り上げるが、興奮状態にあるのか冒険者たちの勢いは止まらない。
 カルスも剣を抜いているが冒険者を斬りつけるわけにはいかず、苛ついた表情で何人かの冒険者の進路に立ちはだかるように右往左往していた。

 ゴリラスは冒険者に揉みくちゃにされているアルスとカルスを避けて、前進を開始した。


「なんじゃ、結局ゴリラスの希望どおりになったのぅ」
「そうね、じゃ私たちも行きましょ」
「は、はいっ! わかりました! アーシェさんもティアカパンさんも思う存分暴れてください! 回復アイテムはバジルさんのお家に備蓄していた分を全部もらってきましたので!」
「よぅし、やるわよ!」
「うむ、妾も魔力を気にせずやるとしようかの」

 うちの女性陣は準備完了。
 あとは俺の合図を待つだけという状態だ。

 マリーさんは俺の様子を窺っている。

 そうこうしていると、冒険者の最後尾が見えてきた。
 何やら言い争いしながらこちらに歩いて来る。
 前を歩く男にすぐ後ろからついてくる女二人が何かを言っていた。

「なんなのよ、あのバケモノは! ちょっと、オイゲン本気なの!?」
「近づき過ぎだと思う……です」

 最後尾からやって来たのは、俺の元パーティー【光輝ある剣】だった。
 エマとソフィアを従えて、その先頭に立つのはオイゲンだった。

「やっとだ! やっとここまで来たぞ! …………遂にこの時が来ましたねぇ。私の命が尽きる前に間に合って本当に良かったです」

 しかし、様子がおかしい。
 喋っている途中から口調が変わった。

「もう、またオネエ口調になってるわよ! こんな状況で変な冗談はやめてよね」
「たまに出るその口調。ちょっとイライラする……です」
「すみませんねぇ。今まで黙ってましたが、実はこっちが素なんです」
「げ、……そうなの?」
「その口調、嫌なこと思い出すので嫌い……です」
「安心してください。もうこれで最後ですからねぇ」

 言うとオイゲンは口を大きく開いた。
 途端、その口から触手が飛び出した!


「アーシェ、ティア避けろ!」


 俺は危険を察知して叫ぶと同時にエステルを抱えて跳んだ。
 アーシェとティアは言わずもがな、回避して安全な距離を取る。
 マリーさんも上手く躱したようだ。

 触手は俺たちがいた場所を通過した。
 もし避けなければ傷を負っていただろう。
 明らかに俺たちを狙った攻撃。

 オイゲンの口から触手が飛び出したことに驚く。
 そして、ある可能性に行き着いた。

 まさか、オイゲンが……!
 そ、そうなのか……?


「きゃあああああああああっ!」


 辺りに耳をつんざくようなエマの叫び声が響いた。
 

 触手はエマとソフィアの胸を串刺しにしていた。


「な、な……なんで!? あん……た……だ……れ! おぇぇぇぇっ!」
「オイ……ゲン……違う……です! あぁ……げふっ!」

 エマとソフィアの血を吸い取るように触手が収縮を繰り返す。

「あなたたちの最後の役目です。触手の養分となりなさい。ここまで長旅ご苦労様でしたねぇ」
「オイゲン……! いや、おまえはアンドレイかっ!」

 触手……間違いない。
 こいつはアンドレイだ。
 すでにオイゲンは乗っ取られていたんだ!

「えっ、シスン! こいつがアンドレイってどういうことなの!?」
「お嬢さんもお久しぶりですねぇ。エアの街以来ですか? そのとおり私がアンドレイです。シスンさん、あの時の借りを返させてもらいましょうかねぇ」

 オイゲンの皮を被ったアンドレイが厭らしく笑った。
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