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地下牢での邂逅

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 これは想定外だった。
 まさか、男と女で収容される地下牢が別の場所だったなんて。

「アーシェ達は大丈夫かな」

 オーク面に地下牢へと連れて来られた俺達は、そこでまた別の魔族に引き渡された。
 そして、地下へと進んで行くと道が二つに分かれていて、そこで男と女に分けられたのだ。

 新たな魔族に引き渡され俺は左の道に、アーシェ達は別の魔族によって右の道に連れて行かれた。

「それにしても、結構な数が捕えられているんだな」

 俺が入れられた地下牢には多くの魔族が収容されていた。
 百人はいるだろう。
 おそらく、門番の会話から収容されているのは抵抗派の魔族なのだろうと判断できた。
 俺が中に入れられた時は彼らの視線が突き刺さったが、すぐに興味をなくしたように以降は注目を浴びることはなかった。


 地下牢の中は魔法の明かりが照らされていて、思ったほど暗くはない。
 鉄格子から近いじめじめと湿った床に、俺は所在なげに腰を下ろした。
 鉄格子の外には見張りはいない。

 少し離れたところに階段があり、そこを上った先に扉が見える。
 入る時はそこに見張りの魔族が五人いたのを確認している。

 結局、二本角は仲間だったのかどうかわからない。

 とりあえず、この状況から先に進まなければいけない。

「なぁ、ここに入れられて長いのか?」

 隣にいた男に声をかけるが、目を向けられただけで答えてくれない。
 三人ほど同じように声をかけたが同じ反応だった。

「このままここにいるのはマズい気がしてきたぞ」

 俺は鉄格子に近づいて触れてみる。
 頑丈な造りだ。
 だが、俺からすれば壊せないほどじゃない。
 そっと力を込めようとする。

「やめときな」

 背後から声がした。
 振り返ると、ミノタウロスに似た魔族の男が立っていた。

「余計な真似はしてくれるなよ。下手に騒ぎを起こして迷惑するのはこっちなんだ」
「いや、こっから出たいんだ。俺にはやることがある」
「ふん。何をするってんだ?」
「魔王を倒す。まずはこの街を支配しているエドマンドを倒したい」

 それを聞いた男は沈黙した後、別の方向を見た。
 そこにいたのはゴブリンに似た男だ。
 ゴブリン男は薄く笑った。

「どうします?」

 ミノタウロス男がゴブリン男に問いかけた。

「言うのは簡単だよ。実行するにはまだ早い」
「だそうだ」

 ミノタウロス男はその場に横たわった。
 俺が魔王を倒すと宣言しても、激怒する者もいない。
 ここにいるのは抵抗派で間違いないのか……?

 俺はゴブリン男に向かって言う。

「まだ早い……とは?」
「準備が整っていないからさ」
「戦う準備か? それともここから出る準備か? それはいつになるんだ?」

 ゴブリン男は笑みを浮かべる。

「さぁて、どうだろう」

 それ以上、誰も語ることはなかった。



 ***



 進展がないまま、三日が過ぎた。
 この地下牢には百人ほどの魔族がいる。
 その見た目は魔物モンスターに近い容姿の者から、人間の顔に角が生えた者まで様々だ。

 バジルさんそっくりのミノタウロスみたいなのもいた。
 実際に会話して声を聞かなければ、見分けがつきにくい。

 ごく少数だが、人間のような顔立ちで角もない魔族もいた。
 その数は一割にも満たなかったが、これで俺達だけがこの辺境で浮くということはなさそうだ。
 それには少し安堵した。

 鉄格子は力ずくで開けることは簡単だ。
 しかし、それを実行すれば街は混乱することは目に見えていた。
 この街にどれほどの魔族がいるかわからないが、その全てを敵に回すのは得策ではない。

 相手を傷つけずに倒すのは困難を極めるだろう。

 三日も過ぎれば、最初は俺を警戒していた魔族たちも少しは口を開いてくれるようになった。
 何かを知っていそうなゴブリン男は、眠っているのか横になって目を瞑っている。
 他の魔族の話では、ここ以外にもいくつか地下牢があり、多くの魔族が捕えられているそうだ。
 見張りがここにやって来るのは朝と夕方、一日二回の食事を運んでくる時だけだった。

「退屈かい?」

 不意に俺に声をかけてきたのは、見た目はゴブリン男だった。
 奥の方からのそっと立ち上がって、こちらに歩いて来たと思ったら俺の隣に座った。

「そっちから話しかけてくるなんて珍しいな」

 俺はゴブリン男に向かって言った。
 ここにいる魔族は俺から話しかけることはあっても、向こうから話してくることはほぼなかった。

 俺が人間だと気づかれたのかと思ったが、そうではないらしい。
 しかし、どうして今になってこのゴブリン男は俺に近づいて来たんだ?

「そろそろ、始めようか」
「……なんだって? 一体、何を始めるんだ?」
「何って、君は四天王の一角、エドマンドを倒したいんだよね?」
「ああ、そのつもりだ」

 直後、ゴブリン男は俺の腕を掴んだ。
 もの凄い力だ。
 しかも、笑みを浮かべながら徐々に力を込めてくる。
 並の冒険者なら骨が砕けてもおかしくないくらいにだ。
 だが、殺気などの敵意は感じない。
 俺は黙って耐えることにした。

「抵抗しないのかい?」
「したほうがいいならするけど、どういうつもりか教えてくれないか? 俺を試しているのか?」
「……ふふっ、なるほど。なかなか、胆が座っているようだね。こんな敵地で魔王やエドマンドを倒すと宣言するだけはあるみたいだ」

 ゴブリン男は手を離す。

「僕の名前はアルダン。君は?」
「シスンだ」
「……シスン。君は人間だね?」

 アルダンにあっさり見透かされて、俺は警戒した。
 やはり俺の腕を掴んで何かを探っていたのだろうか。
 今の力の込め方からして、実力はかなりのものだとわかる。
 戦って負けることはないと思うが、強敵には違いない。

「安心して。僕は敵じゃない。ポムが連れて来たということは、ひょっとしてお仲間かな?」
「ポム? ……何だって?」
「僕は魔王復活に反対している抵抗派のリーダーなんだ」

 アルダンは落ち着いた口調でそう言った。
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