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王都での初仕事
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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
■討伐クエスト
街の墓地にある
封印された死者の地下ダンジョン
にいるアンデッドの殲滅。
街に被害が出る前にお願いします。
前回のクエストでは最下層に
守護者が出現。
600,000点
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺はグレンデルさんから受けた依頼書を、みんなに見せた。
「アンデッド退治か。面白そうじゃの」
「遊びにいくんじゃないんだからねー」
「わかっておるわ。それで、その墓地とやらはどこにあるんじゃ?」
「墓地なら北の冒険者居住区の外れです。いつ、出発するんですか?」
「今から行く」
俺の宣言にエステルは口をぽかんと開けて驚いていた。
アーシェやティアは気にした様子もない。
この二人からしたら簡単なクエストという認識だろう。
一方、エステルからしたら今日は宿で休み準備を整えて、早くても明日出発と考えていたに違いない。
「エステル、早速だが案内してくれ。俺とアーシェがグレンデルさんから聞いた話は移動しながら詳しく話す」
「今からですか? でも、今からだと着くのはかなり遅くなりますけど……」
今はもう夕方に差し掛かろうとしている。
エステルの話だと、墓地に着く頃には夜になっているという。
「うん。だけど受けたクエストはこれひとつじゃないんだ」
「実はそうなのよ。もうひとつクエストを受けていて、その出発が明後日の朝なの。だから、このクエストをさっさと終わらせて、朝までに宿に戻って体を休めたいのよ」
それは、さっきアーシェと相談して決めたことだった。
俺もアーシェもしばらくモンスターと戦っていなかったので、早く地下ダンジョンに行きたいとウズウズしていたのも多分にあるだろう。
「そ、そうなんですね」
「時間が惜しいから移動しながら話そう。大丈夫だよ、エステル。俺達四人が力を合わせれば、そんなに難しいクエストじゃない」
俺達は北の冒険者居住区を目指して足を進めた。
歩きながら、俺はティアとエステルにクエストの概要を説明する。
死者の地下ダンジョンには定期的にアンデッドが増えるらしい。
一度全滅させても、一ヶ月ほどでまた同じくらいに増えるという。
グレンデルさんは事情を知っているふうだったが、詳しくは教えてくれなかった。
俺達で考えろってことなのかな。
普段は魔法の封印をかけているらしいのだが、その封印も増えすぎたアンデッドを押さえることはできないので、一度全滅させる必要があるのだそうだ。
そして、冒険者ギルドからは二つのスクロールを預かっている。
スクロールというのは中に魔法が入っているアイテムで筒状に丸められているが、これを開くと中に封じられた魔法が発動する代物だ。
今、俺が持っているスクロールは封印を解除する用と、再度封印する用の二つだ。
ちなみにティアに聞くと、同じ魔法を使えるらしい。
だからと言って、スクロールをぞんざいに扱おうとは思わない。
エステルは地下ダンジョンの入口を封印するような魔法は古代魔法だと言っていた。
墓地に着いた。
場所は冒険者居住区の郊外で、王都を取り囲む壁のすぐ傍だった。
「ここが墓地なのね? 夜だとちょっと不気味だわ」
「何じゃ、怖いのか? 案外ビビりなんじゃのぅ」
「そういうんじゃないわよ。ただ不気味な雰囲気だってだけよ」
確かにアーシェの言うように夜だからか人の姿はなく、墓地は静まりかえっている。
ここには街の喧騒もなりを潜めていた。
グレンデルさんに言われていた地下ダンジョンの入口はすぐに見つかった。
死者の地下ダンジョン。
かつては大貴族の墓だったようだが、その貴族の血筋が絶えて久しいらしい。
手入れがされなくなって放置された挙げ句、ある日突然地下ダンジョンと化したという。
その中に蠢くアンデッドの様相から、大貴族の呪いという噂が絶えないようだ。
いつしか、ここは死者の地下ダンジョンと呼ばれるようになった。
とエステルが説明してくれた。
「ここが入口か。中にはアンデッドがいるらしいが、今は魔法の封印があるから外には出られないみたいだな。よし、みんな行くぞ」
俺が言うと、みんなは頷いた。
スクロールを開くと、一瞬発光した後それは燃え尽きて灰になった。
これで地下ダンジョンの封印は解けたようだ。
中に足を踏み入れると真っ暗だったが、ティアが《ライティング》で照らしてくれた。
エステルもこの魔法を使えるが、魔力の多いティアに任せていいだろう。
エステルには自分の身を守ることを優先してもらいたい。
先頭は俺で、その後ろにティア、エステル、アーシェが続いた。
この隊列だと後ろからモンスターが現れても大丈夫な筈だ。
地下に続く階段を下りて行き、俺達は通路を進んだ。
「主様よ、モンスターじゃ!」
「見えた! 俺に任せてくれ」
スケルトンが三体現れたが、俺のドラゴンブレードで斬り伏せた。
今の俺の攻撃には聖属性が付与されているから、スケルトンは完全に消滅した。
あと、俺のドラゴンブレードには火属性が付与されているらしい。
完成した時にエステルの《鑑定》で見てもらったから間違いはないだろう。
この地下ダンジョンはそう広くない。
たった三階層だ。
「アーシェ、後ろは大丈夫か?」
俺はゾンビの群れを横薙ぎにしながら尋ねた。
「そうね、エステルの作った地図で端からしらみ潰しに進んでいるから、背後から襲われることはないわ」
「残った通路はもうここだけですので、後ろにモンスターは出ません。シスンが倒したので復活はしないでしょう」
「うぅむ。さっきから主様ばかりに戦わせてしまっておるのぅ。妾が前に出ようか?」
「いや、ティアが出るほどじゃないよ。スキルを使うほどでもないしな」
地下一階、二階のアンデッドを掃討した俺達は、守護者の待つ地下三階に下り立った。
そこには鉄の扉があった。
施錠はされていなかった。
「シスン、いよいよ守護者の部屋です。気をつけてください」
エステルの言葉に頷いて、俺はその扉をゆっくりと押し開けた。
部屋の床には大きな魔方陣が描かれている。
三重の円の中には模様とも文字とも取れるものが羅列されていた。
その魔方陣の一番外側の円上に、八つの魔物モンスターの石像がある。
見覚えがある。
ガーゴイルだ。
そして、魔方陣の中心には真っ黒な鎧を纏ったモンスターが三体、今まさに実体化しようとしていた。
「みんな、あの周りの石像はガーゴイルというモンスターだ! 翼があるから上空から攻撃してくるぞ!」
ガーゴイルとはナタリヤ遺跡の地下ダンジョンで戦ったことがある。
でも、あの鎧の骸骨は何だ?
知らないモンスターだが、ガーゴイルよりは強そうだな。
「シスン、あれはデスナイトよ!」
アーシェが知っていた。
そうか……確かアーシェがデスナイトよいうモンスターを倒したと、クラトスさんが興奮して話していたっけ。
あれがそうか。
「ガーゴイルは妾に任せよ」
「わかった。アーシェ、デスナイトを一体頼んだ。俺は二体やる」
「わかったわ! エステルはティアの傍から離れないでね!」
「は、はい! ティアカパンさん、宜しくお願いします!」
「うむ。妾の後ろに下がっておれ」
「行くぞ!」
俺は言うと同時にデスナイトに向かって駆け出した。
隣にはアーシェが並走している。
魔方陣に近づくとガーゴイルの石化が解けた。
しかし、次の瞬間にはガーゴイルは悲鳴を上げた。
横目で見るとガーゴイルの腹に大きな風穴が空いていた。
「はっはっはー! リオネス最強の魔法使いである妾の前では、ガーゴイルなぞ赤子の手を捻るより容易いわ!」
ティアが放った光の玉は、ガーゴイルを次々に葬っていく。
避けようとするガーゴイルを執拗に追い回しているようにも見える。
俺が知らない魔法だな。
上級か古代魔法かな。
「はああああああああっ!」
俺は目の前のデスナイトを《星河剣聖》で頭から両断した。
背後で「凄っ!」とアーシェの声が聞こえたが、俺の視線は既に二体目に向かっていた。
《朧月》で盾を攻撃すると見せかけてからの、逆方向からの攻撃で剣を持つ右腕を切り落とす。
即座に《乱れ斬り》で盾もろとも鎧を粉砕した。
骸骨の顔からはその心情は把握できないが、後ろに退いたことから恐怖したのかも知れない。
俺は躊躇わずに、ドラゴンブレードを振り下ろした。
やはり《星河剣聖》ほどのスキルを使うと消耗が激しいな。
どっと疲れを感じる。
振り返ると、丁度アーシェがデスナイトの土手っ腹に《ホーリーブロウ》を鮮やかに決めたところだった。
周りにいたガーゴイルは全てティアが倒している。
それを確認して、俺は剣を鞘に収めた。
「やったな、アーシェ」
「うん。シスンもね」
俺とアーシェはハイタッチを交した。
ティアが「妾も褒めて」というような顔で見つめている。
それに気づいたエステルがパチパチパチと拍手した。
「…………ティ、ティアカパンさんも流石でしたー! わー!」
「お主、褒め方がヘタクソじゃな」
「あぅ……」
これでアンデッドは全滅させたし、一ヶ月は安泰だろう。
俺が地上に戻ろうとすると、ティアが待ったをかけた。
「どうしたんだ?」
「モンスターの発生はこの魔方陣が原因じゃろう」
「そうなのか?」
ティアは床に膝をついて魔方陣に触れている。
そうして顔を上げて、魔方陣全体を目を細めて注視しているようだ。
「ティアカパンさん、これはもしかして魔法文明時代の……でしょうか?」
「ふむ。いや、比較的新しいのぅ。しかも三流の仕事じゃ。無駄が多すぎる」
「新しいというと、誰かがモンスターが発生するようにこの魔方陣を作ったってことなのか?」
「そうじゃろうな」
「いったい、何の目的で……」
「それはわからんのう。これがギルド長のグレンデルとやらが言っておったという厄介ごとなのかもしれぬな」
月に一度のアンデッド討伐クエストとモンスターが発生する魔方陣。
何か矛盾があるような……。
グレンデルさんはどうしてこのクエストを俺達に……?
「で、どうするんだ? 二度とアンデッドが出てこられないようにできるのか?」
「無論じゃ。主様が望むのなら、この魔方陣を二度と機能しないように書き換えよう」
「それは魔法文明時代の魔方陣で上書きするってことでしょうか?」
「そうじゃが?」
「それじゃあ駄目よ。私達の中に魔法文明時代の知識を持った者がいるって宣言するようなものだわ」
アーシェの言うとおりだ。
それなら、他の方法で魔方陣を使えなくできないか。
いっそ破壊してしまえば……。
「主様よ、どうするのじゃ?」
「ティア、これを破壊できないか?」
「そうね。じゃあ、私が……」
「言っておくが物理では壊せんぞ。それができるなら、誰かがやっておるだろう」
「じゃあ、どうするんだ?」
「こうじゃ」
ティアが魔方陣に触れて《ディスペル》とつぶやくと、一陣の風が吹いた。
彼女の銀髪が下方向からの風でふわっと舞い上がる。
魔方陣が淡く光ったかと思うと、その線はうっすらと消えていく。
「何をしたんですか……?」
エステルがティアに近づいて、魔方陣のあった辺りをキョロキョロと見回す。
魔方陣は完全に消失していた。
「妾の魔法で消した」
ティアは立ち上がると、笑みを浮かべて銀髪をかき上げた。
■討伐クエスト
街の墓地にある
封印された死者の地下ダンジョン
にいるアンデッドの殲滅。
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600,000点
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「アンデッド退治か。面白そうじゃの」
「遊びにいくんじゃないんだからねー」
「わかっておるわ。それで、その墓地とやらはどこにあるんじゃ?」
「墓地なら北の冒険者居住区の外れです。いつ、出発するんですか?」
「今から行く」
俺の宣言にエステルは口をぽかんと開けて驚いていた。
アーシェやティアは気にした様子もない。
この二人からしたら簡単なクエストという認識だろう。
一方、エステルからしたら今日は宿で休み準備を整えて、早くても明日出発と考えていたに違いない。
「エステル、早速だが案内してくれ。俺とアーシェがグレンデルさんから聞いた話は移動しながら詳しく話す」
「今からですか? でも、今からだと着くのはかなり遅くなりますけど……」
今はもう夕方に差し掛かろうとしている。
エステルの話だと、墓地に着く頃には夜になっているという。
「うん。だけど受けたクエストはこれひとつじゃないんだ」
「実はそうなのよ。もうひとつクエストを受けていて、その出発が明後日の朝なの。だから、このクエストをさっさと終わらせて、朝までに宿に戻って体を休めたいのよ」
それは、さっきアーシェと相談して決めたことだった。
俺もアーシェもしばらくモンスターと戦っていなかったので、早く地下ダンジョンに行きたいとウズウズしていたのも多分にあるだろう。
「そ、そうなんですね」
「時間が惜しいから移動しながら話そう。大丈夫だよ、エステル。俺達四人が力を合わせれば、そんなに難しいクエストじゃない」
俺達は北の冒険者居住区を目指して足を進めた。
歩きながら、俺はティアとエステルにクエストの概要を説明する。
死者の地下ダンジョンには定期的にアンデッドが増えるらしい。
一度全滅させても、一ヶ月ほどでまた同じくらいに増えるという。
グレンデルさんは事情を知っているふうだったが、詳しくは教えてくれなかった。
俺達で考えろってことなのかな。
普段は魔法の封印をかけているらしいのだが、その封印も増えすぎたアンデッドを押さえることはできないので、一度全滅させる必要があるのだそうだ。
そして、冒険者ギルドからは二つのスクロールを預かっている。
スクロールというのは中に魔法が入っているアイテムで筒状に丸められているが、これを開くと中に封じられた魔法が発動する代物だ。
今、俺が持っているスクロールは封印を解除する用と、再度封印する用の二つだ。
ちなみにティアに聞くと、同じ魔法を使えるらしい。
だからと言って、スクロールをぞんざいに扱おうとは思わない。
エステルは地下ダンジョンの入口を封印するような魔法は古代魔法だと言っていた。
墓地に着いた。
場所は冒険者居住区の郊外で、王都を取り囲む壁のすぐ傍だった。
「ここが墓地なのね? 夜だとちょっと不気味だわ」
「何じゃ、怖いのか? 案外ビビりなんじゃのぅ」
「そういうんじゃないわよ。ただ不気味な雰囲気だってだけよ」
確かにアーシェの言うように夜だからか人の姿はなく、墓地は静まりかえっている。
ここには街の喧騒もなりを潜めていた。
グレンデルさんに言われていた地下ダンジョンの入口はすぐに見つかった。
死者の地下ダンジョン。
かつては大貴族の墓だったようだが、その貴族の血筋が絶えて久しいらしい。
手入れがされなくなって放置された挙げ句、ある日突然地下ダンジョンと化したという。
その中に蠢くアンデッドの様相から、大貴族の呪いという噂が絶えないようだ。
いつしか、ここは死者の地下ダンジョンと呼ばれるようになった。
とエステルが説明してくれた。
「ここが入口か。中にはアンデッドがいるらしいが、今は魔法の封印があるから外には出られないみたいだな。よし、みんな行くぞ」
俺が言うと、みんなは頷いた。
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地下に続く階段を下りて行き、俺達は通路を進んだ。
「主様よ、モンスターじゃ!」
「見えた! 俺に任せてくれ」
スケルトンが三体現れたが、俺のドラゴンブレードで斬り伏せた。
今の俺の攻撃には聖属性が付与されているから、スケルトンは完全に消滅した。
あと、俺のドラゴンブレードには火属性が付与されているらしい。
完成した時にエステルの《鑑定》で見てもらったから間違いはないだろう。
この地下ダンジョンはそう広くない。
たった三階層だ。
「アーシェ、後ろは大丈夫か?」
俺はゾンビの群れを横薙ぎにしながら尋ねた。
「そうね、エステルの作った地図で端からしらみ潰しに進んでいるから、背後から襲われることはないわ」
「残った通路はもうここだけですので、後ろにモンスターは出ません。シスンが倒したので復活はしないでしょう」
「うぅむ。さっきから主様ばかりに戦わせてしまっておるのぅ。妾が前に出ようか?」
「いや、ティアが出るほどじゃないよ。スキルを使うほどでもないしな」
地下一階、二階のアンデッドを掃討した俺達は、守護者の待つ地下三階に下り立った。
そこには鉄の扉があった。
施錠はされていなかった。
「シスン、いよいよ守護者の部屋です。気をつけてください」
エステルの言葉に頷いて、俺はその扉をゆっくりと押し開けた。
部屋の床には大きな魔方陣が描かれている。
三重の円の中には模様とも文字とも取れるものが羅列されていた。
その魔方陣の一番外側の円上に、八つの魔物モンスターの石像がある。
見覚えがある。
ガーゴイルだ。
そして、魔方陣の中心には真っ黒な鎧を纏ったモンスターが三体、今まさに実体化しようとしていた。
「みんな、あの周りの石像はガーゴイルというモンスターだ! 翼があるから上空から攻撃してくるぞ!」
ガーゴイルとはナタリヤ遺跡の地下ダンジョンで戦ったことがある。
でも、あの鎧の骸骨は何だ?
知らないモンスターだが、ガーゴイルよりは強そうだな。
「シスン、あれはデスナイトよ!」
アーシェが知っていた。
そうか……確かアーシェがデスナイトよいうモンスターを倒したと、クラトスさんが興奮して話していたっけ。
あれがそうか。
「ガーゴイルは妾に任せよ」
「わかった。アーシェ、デスナイトを一体頼んだ。俺は二体やる」
「わかったわ! エステルはティアの傍から離れないでね!」
「は、はい! ティアカパンさん、宜しくお願いします!」
「うむ。妾の後ろに下がっておれ」
「行くぞ!」
俺は言うと同時にデスナイトに向かって駆け出した。
隣にはアーシェが並走している。
魔方陣に近づくとガーゴイルの石化が解けた。
しかし、次の瞬間にはガーゴイルは悲鳴を上げた。
横目で見るとガーゴイルの腹に大きな風穴が空いていた。
「はっはっはー! リオネス最強の魔法使いである妾の前では、ガーゴイルなぞ赤子の手を捻るより容易いわ!」
ティアが放った光の玉は、ガーゴイルを次々に葬っていく。
避けようとするガーゴイルを執拗に追い回しているようにも見える。
俺が知らない魔法だな。
上級か古代魔法かな。
「はああああああああっ!」
俺は目の前のデスナイトを《星河剣聖》で頭から両断した。
背後で「凄っ!」とアーシェの声が聞こえたが、俺の視線は既に二体目に向かっていた。
《朧月》で盾を攻撃すると見せかけてからの、逆方向からの攻撃で剣を持つ右腕を切り落とす。
即座に《乱れ斬り》で盾もろとも鎧を粉砕した。
骸骨の顔からはその心情は把握できないが、後ろに退いたことから恐怖したのかも知れない。
俺は躊躇わずに、ドラゴンブレードを振り下ろした。
やはり《星河剣聖》ほどのスキルを使うと消耗が激しいな。
どっと疲れを感じる。
振り返ると、丁度アーシェがデスナイトの土手っ腹に《ホーリーブロウ》を鮮やかに決めたところだった。
周りにいたガーゴイルは全てティアが倒している。
それを確認して、俺は剣を鞘に収めた。
「やったな、アーシェ」
「うん。シスンもね」
俺とアーシェはハイタッチを交した。
ティアが「妾も褒めて」というような顔で見つめている。
それに気づいたエステルがパチパチパチと拍手した。
「…………ティ、ティアカパンさんも流石でしたー! わー!」
「お主、褒め方がヘタクソじゃな」
「あぅ……」
これでアンデッドは全滅させたし、一ヶ月は安泰だろう。
俺が地上に戻ろうとすると、ティアが待ったをかけた。
「どうしたんだ?」
「モンスターの発生はこの魔方陣が原因じゃろう」
「そうなのか?」
ティアは床に膝をついて魔方陣に触れている。
そうして顔を上げて、魔方陣全体を目を細めて注視しているようだ。
「ティアカパンさん、これはもしかして魔法文明時代の……でしょうか?」
「ふむ。いや、比較的新しいのぅ。しかも三流の仕事じゃ。無駄が多すぎる」
「新しいというと、誰かがモンスターが発生するようにこの魔方陣を作ったってことなのか?」
「そうじゃろうな」
「いったい、何の目的で……」
「それはわからんのう。これがギルド長のグレンデルとやらが言っておったという厄介ごとなのかもしれぬな」
月に一度のアンデッド討伐クエストとモンスターが発生する魔方陣。
何か矛盾があるような……。
グレンデルさんはどうしてこのクエストを俺達に……?
「で、どうするんだ? 二度とアンデッドが出てこられないようにできるのか?」
「無論じゃ。主様が望むのなら、この魔方陣を二度と機能しないように書き換えよう」
「それは魔法文明時代の魔方陣で上書きするってことでしょうか?」
「そうじゃが?」
「それじゃあ駄目よ。私達の中に魔法文明時代の知識を持った者がいるって宣言するようなものだわ」
アーシェの言うとおりだ。
それなら、他の方法で魔方陣を使えなくできないか。
いっそ破壊してしまえば……。
「主様よ、どうするのじゃ?」
「ティア、これを破壊できないか?」
「そうね。じゃあ、私が……」
「言っておくが物理では壊せんぞ。それができるなら、誰かがやっておるだろう」
「じゃあ、どうするんだ?」
「こうじゃ」
ティアが魔方陣に触れて《ディスペル》とつぶやくと、一陣の風が吹いた。
彼女の銀髪が下方向からの風でふわっと舞い上がる。
魔方陣が淡く光ったかと思うと、その線はうっすらと消えていく。
「何をしたんですか……?」
エステルがティアに近づいて、魔方陣のあった辺りをキョロキョロと見回す。
魔方陣は完全に消失していた。
「妾の魔法で消した」
ティアは立ち上がると、笑みを浮かべて銀髪をかき上げた。
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