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第2章 「俺の【成り上がり】編」(俺が中二で妹が小四編)

第53話 小学生の妹と遊ぶだけで俺は【四大元素】を手に入れた

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「蘭子さん!?」
「どうやら、間に合ったようだな」

 蘭子さんは【異能】を行使した反動からか、フラつきそうになるのを足を踏ん張って耐えているように見える。しかも使ったのが結構な大技っぽいので、疲労は見た目以上だろう。俺と蘭子さんの間には火村がいるが、動きはない。その場に立ち尽くしている。
 蘭子さんのかなり後ろには、走って来る伯父さんが見えた。
 俺は地面にペタンと尻餅をついた。


    ◇ ◇ ◇


 遅れて駆けつけたのは蘭子さんと伯父さんだけではなかった。火村の生家、火村家の人間がやってきたのだ。
 椎名先輩に訊くと、国内には組織とは別に【異能】四家と呼ばれる力の強い家系があり、火の【異能】を得意とする火村家の他にも水、土、風の家系があるらしい。
 火村は火村家の当主の跡取りだったが、成人する前に出奔し【逆徒】となったそうだ。

「長老、この度は愚息の件でお世話になりました。この御礼はまた……」
「うむ。幸いウチの者に死者はでておらん。その男の身柄はどうするつもりじゃ?」

 火村とその【増幅者】の身柄は、火村家が責任をもって対処するということで落ち着いた。
 西野課長や郡道さん、椎名先輩とマイちゃんは軽傷だ。菜月も怪我はない。俺は菜月を抱き寄せた。

「よかった……」
「ど、どうしたの、お兄ちゃん!?」
「菜月が無事で本当に良かった」
「うん……。私もお兄ちゃんが助かって嬉しい……」

 一番大怪我をした葛葉さんを見ると、胸の傷や【増幅者】に噛まれた手は血まみれだ。だけどちゃんと自分の足で立っているので、大丈夫なのだろう。
 俺が満身創痍の葛葉さんを眺めていると、蘭子さんが近づいて行った。

「葛葉」
「お、おう、ランちゃん……」

 そして、蘭子さんは葛葉さんの頬を拳で殴りつけた。何事かとみんなが一斉に注目する。

「……馬鹿野郎。二度とこんな真似はするな」
「言い訳のひとつも思いつかんわ。すまんな、ランちゃん」

 蘭子さんは振り返って、椎名先輩に言う。

「千尋、あたしは葛葉を病院に連れて行く。あとは頼んだ」
「は、はい!」

 蘭子さんは葛葉さんの手を引いて、行ってしまった。
 俺は椎名先輩と目が合った。

「それじゃあ、私たちも帰りましょうか」
「ええ、そうですね」

 こうして俺たちと火村の戦いは終わった。


    ◇ ◇ ◇


 三日後、御伽原探偵事務所。
 今日は珍しく全員集合している。ランクA級の【逆徒】火村の脅威がなくなり、祝勝会をしようということになったのだ。発案者は星川先輩だ。
 みんながソファに座って、出前でとった寿司やピザを食べている。

「葛葉さん、怪我はもういいんですか?」
「あん? こんなん、大したことあらへんわ」

 葛葉さんの左手は包帯でグルグル巻きになっている。その手をブラブラ振って、痛くはないとアピールしているが、蘭子さんから訊いた話では、人差し指と中指は骨が露出するほどの大怪我だったらしい。完治するまではもうしばらくかかりそうだ。

「でも、郡道さんがあんなに強いとは思いませんでしたよ。また模擬戦してみようかな」
「郡道は【増幅者】がおると爆発的に力を増すタイプやからな」
「そうだったんですね」

 しかし、あのゴリラ……じゃない西野課長が、郡道さんの【増幅者】だとは。まるで美女と野獣みたいなペアだな。本当にあのゴリラ、役得じゃないか。

「隼人くん? なんで急にニヤけたりするのかしら?」
「ちぃ姉、多分お兄さんは、またエッチな妄想してるよー」
「マ、マイちゃん!? な、ななな何を言ってるんだい? 椎名先輩、違いますよ! 俺はみんな無事で良かったなって喜びを噛みしめてただけで!」

 椎名先輩が怪訝な様子で俺をジト目で睨み、その隣でマイちゃんが「むふー」と変顔でからかってくる。
 そして、俺の隣にいた菜月が脇腹をつついてきた。

「ホントにぃ?」
「菜月まで俺を疑うのかっ!? もぅ、勘弁してくれよぉ!」
「「「あはははははは」」」

 星川先輩がピザを手に取りながら、ふいに訊ねてくる。

「でも隼人っち、よくA級とやり合えたねー。ってか凄くない? マジヤバイんだけどっ!」
「あー、あれねー。何なんですかねぇ」

 それは俺も気になっていた。火村との戦闘中に、俺は一段……、いや二段飛ばしぐらいで強くなったような……。

「強くなったんだろう。【異能】の力はどのタイミングで強くなるかわからん。寝てる間に強くなる者もいれば、訓練後すぐに力を増す者もいる。それが戦闘中であっても不思議ではない」
「はっはっはっ。運が良かったな、隼人。これに懲りたら、しばらくは危険なことはするんじゃないぞ?」
「伯父さん、笑いすぎ。それに俺だって自分から危険な目に遭ってるわけじゃないから」
「隼人くん、ランク判定受けてみたらどうかしら? またランク上がっているかもしれないし」
「いや……、あのランク判定って凄いお金かかるんですよね?」

 椎名先輩の言うように、俺もランク判定を受けたい気持ちはある。しかし、いかんせん判定にかかる費用は中学生の俺に払える額ではない。
 俺は蘭子さんに言う。

「あれって一回百万円かかるんですよね? 無理ですよ、そんなお金」
「ん? それは大丈夫だ」
「ま、まさか……、また蘭子さんのおっぱいで……?」
「「え?」」
「なぬっ!」

 椎名先輩と星川先輩が俺を睨み、伯父さんはその言葉に反応して鼻息を荒くしている。蘭子さんは舌打ちすると、伯父さんに床で正座をするように言い放った。すると伯父さんは素直に従う。
 ……え? なにこれ……?
 どうやら蘭子さんと伯父さんの間で何かあったらしく、しばらくの間伯父さんは蘭子さんの奴隷扱いらしい。まぁ、伯父さんが何かをやらかしたんだろうとは思うが……。

「火村の件で、報酬が出てる。三千万だ」
「さ、三千万!?」

 俺と椎名先輩と星川先輩は驚きの余り固まってしまった。この三千万は御伽原探偵事務所に支給されたもので、戦闘に参加した西野課長や郡道さんには別で支給されているようだ。その三千万を伯父さんを除く人数で割るので、ひとり当たり五百万だ。ようしこれで五回もランク判定ができるぞ! なんて思わない。だってもったいないもん。

「伯父さん、俺と菜月ので合わせて一千万だけど、それ俺と菜月のお金だからね?」
「わ、わかってるよ! 伯父さんが預かっておくだけだってことは……ごにょごにょ」
「ん、進藤、何か言ったか?」
「オッサン、子どもの金に手ぇつけたらアカンわ」
「お、おい葛葉! 人を泥棒呼ばわりするんじゃない!」
「「「あはははははは」」」

 祝勝会は笑いの渦に包まれた。


    ◇ ◇ ◇


 いつもと同じ朝、支度を調えた俺は靴を履き振り返った。

「おーい、菜月。遅刻するぞー」
「待って待ってー!」

 ランドセルを背負った菜月がパタパタと、可愛い足音を立てて走って来る。

「行ってきます」
「お母さん、行ってきまーす!」
「今日も仲がいいわね。忘れ物はない? 気をつけて、行ってらっしゃい」

 俺は菜月と並んで登校する。
 あれからも俺は菜月と遊んで【四大元素】の強化に努めている。日々新しい発見があるので、楽しくてしょうがない。
 思わず手が伸びて菜月の頭を撫でていた。

「ん? なあに、お兄ちゃん?」
「あ、……いや、菜月は今日も可愛いなって思ってさ」
「ホントに!? えへへ」

 学校までの僅かな道のりを、俺たちは笑いながら歩いて行った。
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感想 4

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みんなの感想(4件)

タカシトルネード

なんでいきなりモテてんだ?w

解除
タカシトルネード

椎名先輩が主人公に惚れてくれる要素ないんだがw
なんか新しい人が来るからその人のことじろじろ見ないで的なこと言ってたのもジェラってたってこと?

解除
タカシトルネード

異能は異能という名称としてはいいけど、主人公だけじゃなくて妹もマイちゃんも四大元素って呼んでる力が使えるんだったら主人公の需要があんまり分からないですね

ユズキ
2020.03.01 ユズキ

主人公の隼人も活躍していきます!
女性陣もそれぞれ見せ場ができるように考えていますので、
温かい目で見守っていただければ幸いです。
今後も応援をよろしくお願いします。

解除

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