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第2章 「俺の【成り上がり】編」(俺が中二で妹が小四編)
第49話 俺は菜月との連携を知らしめる
しおりを挟む 一ヶ月後、俺はランクC級の【逆徒】を追いかけていた。人気のない袋小路に【逆徒】を追い詰める。【逆徒】は二十代の眼鏡をかけたビジネススーツ姿の男だ。【逆徒】は逃げ場はないと悟ったのか、こちらに向き直って戦闘の意思を示す。
「もう逃げられないぞ」
「うるさい! まだ子どもじゃないか、大人に勝てると思って……」
【逆徒】の声が尻すぼみに小さくなっていく。走って追いかけた俺に待機していた仲間が続々と追いついてきたのを目にしたからだ。俺のすぐ後ろには菜月、椎名先輩とマイちゃん、星川先輩がいる。最近【逆徒】を相手にする時は、たいていこのメンバーだ。相手の【逆徒】がランクD級以下なら、星川先輩を除いた四人か、そこから菜月を抜いた三人で対処している。
「クソッ……!」
この面子相手に勝てないとわかっていながら、【逆徒】はヤケクソ気味に特攻してくる。俺は菜月に目配せすると、【四大元素】を発動させる。
「菜月!」
「任せて!」
菜月は【四大元素】で足場を形成すると、ジャンプしてそれに飛び移った。足場のおかげで菜月は丁度、俺の身長と同じぐらいの高さになっている。俺は力を抜いて菜月に背中を預ける。菜月は【四大元素】を行使して、俺をしかっり抱きとめる。この一ヶ月試行錯誤して考えた、これが俺たち兄妹の【増幅】の基本姿勢だ。
菜月によって【増幅】された俺の【四大元素】が【逆徒】に炸裂する。
「しゃあああっ!」
「う、うわああぁっ!」
【逆徒】の体はくの字に曲がりそのまま吹っ飛んで、背後の壁にあわや激突する瞬間、椎名先輩が【異能】で壁との間にクッションを作ってダメージを和らげた。
「隼人くん、威力が強すぎるわ。これじゃあ、【逆徒】が大怪我してしまうじゃない」
「あ、すみません。つい力が入りすぎました……」
「ちぃ姉、ごめんなさい。私の【増幅】必要なかったかも……」
「隼人っち、C級に昇格してから、格段に強くなったよねー。あーしも同じC級として、もっと頑張らなきゃって思うし」
【逆徒】は俺の攻撃で既に失神していたので、確保は簡単だった。あとは組織が対処してくれるだろう。
しばらくして、組織の車が来て【逆徒】を連行していった。御伽原探偵事務所に戻ると、蘭子さんが労ってくれた。
「ご苦労。お茶でも飲んで一息ついてくれ」
椎名先輩が全員分の飲み物を用意してくれたので、みんなでソファに座ってお茶にする。星川先輩が通学カバンから常備しているお菓子を取り出して、ローテーブルに広げる。
「みんな食べてー。これ最近のお気になんだー」
「あ、このお菓子知ってます。前にお兄ちゃんが買ってきてくれたことあります」
「ああ、結構いけるんだよな」
アイスティーを飲んでいると、葛葉さんと目が合った。
「坊主、ちょっと顔貸せや」
「え? 何ですか?」
「ええから来い。そんな時間は取らせんから」
「はぁ……」
「むふー」
「マイ、拗ねんでもええやんか。あとで遊んだるさかいに」
「にゃははは」
俺が戸惑いながらみんなを見ると、一同に首を傾げている。蘭子さんだけは、コーヒーを飲みながら葛葉さんに視線を向けていた。俺はソファから立ち上がって、事務所を出て行った葛葉さんを追いかける。葛葉さんは階段を下りて四階のドアの前で待っていた。
「あれ……? ここって空室ですよね?」
「そうや。まぁ、入れや」
葛葉さんはおもむろにポケットから鍵の束を取り出すと、鍵を開けてドアを開けた。
「え!?」
「このビルのオーナーは御伽原家や。事務所にここの鍵があっても不思議やないやろ」
「そうだったんですか!? 初耳ですよ」
葛葉さんに続いて部屋に入る。空室なので部屋の中には何もない。葛葉さんは部屋の中央付近まで歩くと、俺のほうに振り向いた。
「火村の潜伏場所がわかった」
「え、マジですか!?」
「デカい声出すなや。ランちゃんに聞かれたないねん。オッサンからの情報やから、ほぼ間違いないやろ」
「伯父さんの情報……ですか」
伯父さんもちゃんと仕事してるんだな。というか、どうして蘭子さんに内緒なんだろう?
「これって、蘭子さんに聞かれたらマズいんですか?」
「そうや。ランちゃん抜きで火村とやり合うつもりや」
正気か? 蘭子さん抜きだと、こっちの戦力が半減したようなもんじゃないのか? それであのランクA級の【逆徒】火村に勝てるのだろうか……。
「何でまた。蘭子さん抜きで勝負になるんですか? 葛葉さんは戦ったことないから知らないでしょうけど、俺は一度対峙しましたからね。ハッキリ言って滅茶苦茶強いですよ?」
「そらA級やからな。それでもランちゃんを戦わせるわけにはいかんのや」
「理由を訊いてもいいですか?」
葛葉さんは躊躇うように逡巡してから、意を決したように話し始めた。
「ぶっちゃけ、ランちゃんの体は限界や。今みたいに【異能】を使い続けたら、最悪命を落とすかも知れん」
「…………え?」
俺が予想もしなかったことを葛葉さんは語ったのだ。葛葉さん曰く、【異能】を俺に分け与えたことで、今の蘭子さんは【異能】を発動するだけでも過剰に体力を消耗する。それは俺も見ていて知っていた。だけど、それは一時的な消耗ではなく、命を削ってまで【異能】を発動させているらしかった。普通の【異能】が力を行使しても、体に異常をきたすことはないし、ましてや命の危険に晒されるようなことはないと言う。しかし蘭子さんの場合は別だ。単に【異能】がランクS級からB級にまで落ちたということではない。今の蘭子さんは、例えばランクE級が【異能】を発動するよりも、【異能】を発動させるのが困難な状態らしい。葛葉さんによれば、文字どおり自らの命を削って【異能】を使っているのだ。これは伯父さんも同じ意見だという。それなら、葛葉さんの言葉は真実なんだろう。
「まさか……、じゃあ蘭子さんは俺との訓練も体に負担を強いていたってことですか?」
「そうや。ランちゃんは律儀に兄ちゃんとの約束守ってるんやろな……」
「あ……、御伽原樹さんの……?」
「【異能】の正しい使い方を教える。つまり、後進の指導やな。後輩を正しく導いてやれっていう約束や。自分の命を削ってまでやれとは、死んだ兄ちゃんも思てないやろけどな」
樹さんとの約束か。確か、樹さんと葛葉さんとの約束は……、蘭子さんを守ることだったな。葛葉さんも約束を守っているんだな。
しかし、こんな話を訊かされたら、蘭子さんを戦闘に参加させるのはもう無理だな。俺も蘭子さんの体が心配だし、事務所のみんなも同じ気持ちになるだろう。
「蘭子さん抜きでの勝算はあるんですか?」
これは確認しておかなければならない。蘭子さんの体も心配だが、菜月や他のみんなを危険に晒すんじゃ意味がない。
「ある」
葛葉さんは真剣な顔で断言した。前に蘭子さんに質問したことがある。火村に勝てるかどうかを。その時は俺と椎名先輩とマイちゃん、蘭子さんと葛葉さんの五人で火村に勝てるか訊いたのだ。あの時蘭子さんは視線を逸らした。勝てるとも負けるとも答えてくれなかったが、おそらく勝算はなかったのだろう。その面子から蘭子さんを外して、菜月と星川先輩が加わる。それで本当に勝てるのか?
「今回はウチの事務所のもんだけやない。組織からも【異能】が派遣されるからな」
「組織からですか!?」
「そらそうや。相手はランクA級の【逆徒】やぞ。しかも敵陣に乗り込むからには【増幅者】もおるやろ。S級やったランちゃんならともかく、今の戦力やと俺らは個人で言ったら、最高でもB級の俺やからな」
葛葉さんは組織から三人の【異能】が派遣されると言う。ランクA級がひとりと、B級が二人だそうだ。ランクだけ訊くと、その三人で御伽原事務所チームを全滅できそうだな……。総勢九人で火村と戦うのか。これなら葛葉さんが勝てると断言するのも頷けるし、菜月が危険な目に遭う確率もグッと下がるだろう。
既に決行日も決定しているらしい。三日後だそうだ。
俺はその晩、菜月に蘭子さんの体のことも含めてすべて話した。菜月は「うん、頑張る!」とやる気満々だ。この一ヶ月で菜月は随分と成長した。ランク判定をしていないが、もうE級の域は脱していると断言できる。
こうして俺たちは、火村との決戦の日を迎えた。
◇ ◇ ◇
待ち合わせに指定された場所は、自宅の最寄り駅から六駅離れた場所だ。自宅からだと直線距離で十キロぐらいはあるだろう。この駅で下車するのは初めてだった。そんなに大きな駅ではなく、午後五時過ぎという時間にも関わらず、人の数はまばらだ。
俺たち蘭子さんと伯父さんを除く御伽原探偵事務所のメンバーは、目的のマンションの前まで歩いて辿り着いた。そこに待っていたのは、意外な助っ人だった。
「時間どおりだな。お前たち準備はできているか?」
「ふぉっ、よう来たのう」
「きゃっ! 何で今お尻触ったんですか!?」
見知った顔が三人。しかもひとりは相変わらずのセクハラだ。
「え、組織から派遣された【異能】って……」
「坊主、びっくりしたやろ? 豪華過ぎる助っ人やろが」
エロじじい……じゃなくて、長老と西野課長、そして訓練教官の郡道さんだ。
俺は途端に不安になった。西野課長と郡道さんは俺より弱いし、長老は本当にランクA級なのだろうかと疑問に思ったからだ。今でも長老は杖をついている。ダメだ……、長老が戦う姿が想像できない。
唖然として口をパクパクさせていると、葛葉さんが俺の肩を叩いて不敵な笑みを浮かべる。
「坊主の考えてることは、ようわかっとる。B級舐めんなよ?」
「え?」
「少なくとも郡道は坊主より強いで」
「ええっ!?」
そんなバカな!? と思わざるを得ない。郡道さんに苦戦した覚えはまったくないんだけど……。
名前が出た郡道さんは、驚いたよりも葛葉さんに抗議していた。
「葛葉くん。前から言っているけれど、あたしのほうが年上で【異能】でも先輩なのよ? 呼び捨てはないでしょ」
「ええやんか。同じB級なんやし」
「もう!」
体育会系の郡道さんは葛葉さんからの呼び捨てが気に入らなかったらしい。上下関係にうるさいんだな。俺も今後は気をつけよう。
「よし、そしたら俺と郡道がまず乗り込んで、対象をおびき出すわ。長老は【結界】頼んます」
「よかろう。お前たち、抜かるなよ?」
「はい!」
「わかっとる」
長老が周囲に【結界】を張った。俺は長老の【結界】に驚愕した。目の前のマンションも含めて、周囲三十メートルはすっぽり収まる【結界】だ。ランクA級は伊達じゃないな……。
そして、葛葉さんと郡道さんはマンションに入って行った。
「もう逃げられないぞ」
「うるさい! まだ子どもじゃないか、大人に勝てると思って……」
【逆徒】の声が尻すぼみに小さくなっていく。走って追いかけた俺に待機していた仲間が続々と追いついてきたのを目にしたからだ。俺のすぐ後ろには菜月、椎名先輩とマイちゃん、星川先輩がいる。最近【逆徒】を相手にする時は、たいていこのメンバーだ。相手の【逆徒】がランクD級以下なら、星川先輩を除いた四人か、そこから菜月を抜いた三人で対処している。
「クソッ……!」
この面子相手に勝てないとわかっていながら、【逆徒】はヤケクソ気味に特攻してくる。俺は菜月に目配せすると、【四大元素】を発動させる。
「菜月!」
「任せて!」
菜月は【四大元素】で足場を形成すると、ジャンプしてそれに飛び移った。足場のおかげで菜月は丁度、俺の身長と同じぐらいの高さになっている。俺は力を抜いて菜月に背中を預ける。菜月は【四大元素】を行使して、俺をしかっり抱きとめる。この一ヶ月試行錯誤して考えた、これが俺たち兄妹の【増幅】の基本姿勢だ。
菜月によって【増幅】された俺の【四大元素】が【逆徒】に炸裂する。
「しゃあああっ!」
「う、うわああぁっ!」
【逆徒】の体はくの字に曲がりそのまま吹っ飛んで、背後の壁にあわや激突する瞬間、椎名先輩が【異能】で壁との間にクッションを作ってダメージを和らげた。
「隼人くん、威力が強すぎるわ。これじゃあ、【逆徒】が大怪我してしまうじゃない」
「あ、すみません。つい力が入りすぎました……」
「ちぃ姉、ごめんなさい。私の【増幅】必要なかったかも……」
「隼人っち、C級に昇格してから、格段に強くなったよねー。あーしも同じC級として、もっと頑張らなきゃって思うし」
【逆徒】は俺の攻撃で既に失神していたので、確保は簡単だった。あとは組織が対処してくれるだろう。
しばらくして、組織の車が来て【逆徒】を連行していった。御伽原探偵事務所に戻ると、蘭子さんが労ってくれた。
「ご苦労。お茶でも飲んで一息ついてくれ」
椎名先輩が全員分の飲み物を用意してくれたので、みんなでソファに座ってお茶にする。星川先輩が通学カバンから常備しているお菓子を取り出して、ローテーブルに広げる。
「みんな食べてー。これ最近のお気になんだー」
「あ、このお菓子知ってます。前にお兄ちゃんが買ってきてくれたことあります」
「ああ、結構いけるんだよな」
アイスティーを飲んでいると、葛葉さんと目が合った。
「坊主、ちょっと顔貸せや」
「え? 何ですか?」
「ええから来い。そんな時間は取らせんから」
「はぁ……」
「むふー」
「マイ、拗ねんでもええやんか。あとで遊んだるさかいに」
「にゃははは」
俺が戸惑いながらみんなを見ると、一同に首を傾げている。蘭子さんだけは、コーヒーを飲みながら葛葉さんに視線を向けていた。俺はソファから立ち上がって、事務所を出て行った葛葉さんを追いかける。葛葉さんは階段を下りて四階のドアの前で待っていた。
「あれ……? ここって空室ですよね?」
「そうや。まぁ、入れや」
葛葉さんはおもむろにポケットから鍵の束を取り出すと、鍵を開けてドアを開けた。
「え!?」
「このビルのオーナーは御伽原家や。事務所にここの鍵があっても不思議やないやろ」
「そうだったんですか!? 初耳ですよ」
葛葉さんに続いて部屋に入る。空室なので部屋の中には何もない。葛葉さんは部屋の中央付近まで歩くと、俺のほうに振り向いた。
「火村の潜伏場所がわかった」
「え、マジですか!?」
「デカい声出すなや。ランちゃんに聞かれたないねん。オッサンからの情報やから、ほぼ間違いないやろ」
「伯父さんの情報……ですか」
伯父さんもちゃんと仕事してるんだな。というか、どうして蘭子さんに内緒なんだろう?
「これって、蘭子さんに聞かれたらマズいんですか?」
「そうや。ランちゃん抜きで火村とやり合うつもりや」
正気か? 蘭子さん抜きだと、こっちの戦力が半減したようなもんじゃないのか? それであのランクA級の【逆徒】火村に勝てるのだろうか……。
「何でまた。蘭子さん抜きで勝負になるんですか? 葛葉さんは戦ったことないから知らないでしょうけど、俺は一度対峙しましたからね。ハッキリ言って滅茶苦茶強いですよ?」
「そらA級やからな。それでもランちゃんを戦わせるわけにはいかんのや」
「理由を訊いてもいいですか?」
葛葉さんは躊躇うように逡巡してから、意を決したように話し始めた。
「ぶっちゃけ、ランちゃんの体は限界や。今みたいに【異能】を使い続けたら、最悪命を落とすかも知れん」
「…………え?」
俺が予想もしなかったことを葛葉さんは語ったのだ。葛葉さん曰く、【異能】を俺に分け与えたことで、今の蘭子さんは【異能】を発動するだけでも過剰に体力を消耗する。それは俺も見ていて知っていた。だけど、それは一時的な消耗ではなく、命を削ってまで【異能】を発動させているらしかった。普通の【異能】が力を行使しても、体に異常をきたすことはないし、ましてや命の危険に晒されるようなことはないと言う。しかし蘭子さんの場合は別だ。単に【異能】がランクS級からB級にまで落ちたということではない。今の蘭子さんは、例えばランクE級が【異能】を発動するよりも、【異能】を発動させるのが困難な状態らしい。葛葉さんによれば、文字どおり自らの命を削って【異能】を使っているのだ。これは伯父さんも同じ意見だという。それなら、葛葉さんの言葉は真実なんだろう。
「まさか……、じゃあ蘭子さんは俺との訓練も体に負担を強いていたってことですか?」
「そうや。ランちゃんは律儀に兄ちゃんとの約束守ってるんやろな……」
「あ……、御伽原樹さんの……?」
「【異能】の正しい使い方を教える。つまり、後進の指導やな。後輩を正しく導いてやれっていう約束や。自分の命を削ってまでやれとは、死んだ兄ちゃんも思てないやろけどな」
樹さんとの約束か。確か、樹さんと葛葉さんとの約束は……、蘭子さんを守ることだったな。葛葉さんも約束を守っているんだな。
しかし、こんな話を訊かされたら、蘭子さんを戦闘に参加させるのはもう無理だな。俺も蘭子さんの体が心配だし、事務所のみんなも同じ気持ちになるだろう。
「蘭子さん抜きでの勝算はあるんですか?」
これは確認しておかなければならない。蘭子さんの体も心配だが、菜月や他のみんなを危険に晒すんじゃ意味がない。
「ある」
葛葉さんは真剣な顔で断言した。前に蘭子さんに質問したことがある。火村に勝てるかどうかを。その時は俺と椎名先輩とマイちゃん、蘭子さんと葛葉さんの五人で火村に勝てるか訊いたのだ。あの時蘭子さんは視線を逸らした。勝てるとも負けるとも答えてくれなかったが、おそらく勝算はなかったのだろう。その面子から蘭子さんを外して、菜月と星川先輩が加わる。それで本当に勝てるのか?
「今回はウチの事務所のもんだけやない。組織からも【異能】が派遣されるからな」
「組織からですか!?」
「そらそうや。相手はランクA級の【逆徒】やぞ。しかも敵陣に乗り込むからには【増幅者】もおるやろ。S級やったランちゃんならともかく、今の戦力やと俺らは個人で言ったら、最高でもB級の俺やからな」
葛葉さんは組織から三人の【異能】が派遣されると言う。ランクA級がひとりと、B級が二人だそうだ。ランクだけ訊くと、その三人で御伽原事務所チームを全滅できそうだな……。総勢九人で火村と戦うのか。これなら葛葉さんが勝てると断言するのも頷けるし、菜月が危険な目に遭う確率もグッと下がるだろう。
既に決行日も決定しているらしい。三日後だそうだ。
俺はその晩、菜月に蘭子さんの体のことも含めてすべて話した。菜月は「うん、頑張る!」とやる気満々だ。この一ヶ月で菜月は随分と成長した。ランク判定をしていないが、もうE級の域は脱していると断言できる。
こうして俺たちは、火村との決戦の日を迎えた。
◇ ◇ ◇
待ち合わせに指定された場所は、自宅の最寄り駅から六駅離れた場所だ。自宅からだと直線距離で十キロぐらいはあるだろう。この駅で下車するのは初めてだった。そんなに大きな駅ではなく、午後五時過ぎという時間にも関わらず、人の数はまばらだ。
俺たち蘭子さんと伯父さんを除く御伽原探偵事務所のメンバーは、目的のマンションの前まで歩いて辿り着いた。そこに待っていたのは、意外な助っ人だった。
「時間どおりだな。お前たち準備はできているか?」
「ふぉっ、よう来たのう」
「きゃっ! 何で今お尻触ったんですか!?」
見知った顔が三人。しかもひとりは相変わらずのセクハラだ。
「え、組織から派遣された【異能】って……」
「坊主、びっくりしたやろ? 豪華過ぎる助っ人やろが」
エロじじい……じゃなくて、長老と西野課長、そして訓練教官の郡道さんだ。
俺は途端に不安になった。西野課長と郡道さんは俺より弱いし、長老は本当にランクA級なのだろうかと疑問に思ったからだ。今でも長老は杖をついている。ダメだ……、長老が戦う姿が想像できない。
唖然として口をパクパクさせていると、葛葉さんが俺の肩を叩いて不敵な笑みを浮かべる。
「坊主の考えてることは、ようわかっとる。B級舐めんなよ?」
「え?」
「少なくとも郡道は坊主より強いで」
「ええっ!?」
そんなバカな!? と思わざるを得ない。郡道さんに苦戦した覚えはまったくないんだけど……。
名前が出た郡道さんは、驚いたよりも葛葉さんに抗議していた。
「葛葉くん。前から言っているけれど、あたしのほうが年上で【異能】でも先輩なのよ? 呼び捨てはないでしょ」
「ええやんか。同じB級なんやし」
「もう!」
体育会系の郡道さんは葛葉さんからの呼び捨てが気に入らなかったらしい。上下関係にうるさいんだな。俺も今後は気をつけよう。
「よし、そしたら俺と郡道がまず乗り込んで、対象をおびき出すわ。長老は【結界】頼んます」
「よかろう。お前たち、抜かるなよ?」
「はい!」
「わかっとる」
長老が周囲に【結界】を張った。俺は長老の【結界】に驚愕した。目の前のマンションも含めて、周囲三十メートルはすっぽり収まる【結界】だ。ランクA級は伊達じゃないな……。
そして、葛葉さんと郡道さんはマンションに入って行った。
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