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第2章 「俺の【成り上がり】編」(俺が中二で妹が小四編)

第47話 あたしの【異能】は引き継がれる

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 兄様が亡くなってから一ヶ月後、あたしは本家の養子となった。後継者を喪った本家は、分家の中でもっともランクの高いあたしに白羽の矢を立てたのだ。
 あたしに兄様の代わりなんか務まるわけがないと思ったが、兄様の意思を受け継げるのはあたししかいないと感じていた。それは隣にいる葛葉も同じ想いだろう。

 高校を卒業して【異能】としてひとり立ちしたあたしは、葛葉と共に表の生業として、御伽原探偵事務所を立ち上げた。
 兄様が亡くなって以降、親交のあった【異能】研究者の進藤も事業――CDショップ――の傍ら手伝ってくれた。進藤はのちに正式にウチの社員となった。こいつは女癖が悪いのと頭の中がスケベな妄想でいっぱいなのが玉にキズだが、仕事はできるし意外と困ったヤツを放っておけないタイプらしい。何より兄様がかつて言っていたように、信頼に値する男だった。本当に今でも兄様の人を見る目には感心しきりだ。
 そして兄様が言ったように、あたしはランクS級になった。

 丁度その頃だろうか、タバコを吸うようになったのは。
 あたしたちの前では一度たりとも吸わなかったが、兄様がタバコを嗜むのは知っていた。
 現場に残された、今や兄様の形見となったオイルライター。そのオイルライターを肌身離さず持ち歩く口実が欲しかったのかもしれない。

「ラ、ランちゃん……、それ何や!?」
「見てわからないか? ただのタバコだ」
「いや、だから……何タバコ吸うてんねん! やめい! 不良や不良!」
「お前、鏡見たことあるか?」

 葛葉に初めて見られた時は、アイツにえらく怒られた。心配してくれてるのはわかるけど……。まさか見た目チンピラの葛葉に説教されるとは思わなかった。

 そうして表と裏の仕事を続けるにつれ、椎名姉妹や、加奈子と縁をもった。

 あたしは葛葉にも内緒で、兄様と戦ったあの【逆徒】を調べようとしたが、組織の者は誰も語りたがらなかった。そこで、進藤に組織のデータベースを探らせたが機密情報になっているらしく、あたしでは手が出せずに悶々と日々を過ごしていた。

 そんなある日、あたしは進藤から得た情報を手がかりに、海外旅行を偽装してアメリカのバージニア州へと飛んだ。行き先はラングレーだ。


    ◇ ◇ ◇


 ラングレーで目的のものを手に入れたあたしは、どうやらヘマをやらかしたらしい。おかげで、厄介なヤツに目をつけられてしまった。

 その数日後、国内外を問わず多数の組織から【逆徒】指定を受けている火村と遭遇する。よりにもよって、葛葉がいないときに限ってこれだ。あたしは自分の悪運を呪った。火村も【増幅者】を連れていなかったのが救いか。

「要件があるなら手早く済まそう。あたしは深夜に徘徊しているあんたと違って忙しいんだ」
「返してもらいましょうか。アレは僕のモノですから」

 狙いはわかっている。あたしが海外の組織から奪ったアレを取り返しにきたのだ。シラを切り通すしかあるまい。

「さあな、何のことを言っている」

 お互い全力で戦えない同士でやり合って、あたしは火村の左目にヤツのナイフを突き刺した。
 【異能】だけならランクS級のあたしのほうが上だ。だがそれはランクという物差しで判断したらの話。殺し合いで重要なのは、

「う、うわあああああああああああああああああああああああああっ!!」

 火村との戦闘に集中していたあたしは、部外者の乱入まで気が回らなかった。しかもその部外者は年端もいかない少年だ。
 ん……、あたしは【結界】を張ったはずだが……。
 少年は恐怖からか、後ずさろうとするが足が上手く動かずに、その場で尻餅をついてしまう。

「おやおや、子どもがこんな時間に散歩ですか? 感心しませんねぇ。見られたからには生かしてはおけませんねぇ」

 あたしが反応するより早く火村が少年に近づくと、火村は厭らしいにやけ顔を浮かべて、少年の胸に手を伸ばした。

「おやすみなさい――――永遠にね」
「貴様あああああああああああっ!!」

 直後、あたしは全身の毛を逆立てたような気迫で、顔を歪ませながら吠えると、火村に向かって駆け出した。あたしは【異能】の打撃を繰り出す。火村はそれを捌くのでいっぱいいっぱいに見えたが、不敵に笑う。

「はあああああああああああああああっ!!」

 あたしの拳が火村の顔面を捉えた。火村の負傷した左目の死角から放たれた一撃だった。火村は大きく吹っ飛んで壁に激突する。まるで車にでも撥ねられたかのような勢いで壁に叩きつけられた火村はぴくりとも動かない。
 これで、しばらくは時間を稼げるか。
 あたしは慌てて少年に駆け寄ると、その身体を抱き寄せた。

「は……ふ……、あ……」
「しゃべらなくていい! あたしが助けてやる!」

 あたしはスマホを取り出して電話をかけた。深夜にも関わらず、緊急だと察してくれたのか千尋が応答する。

「千尋! すぐ救急車を呼べ!」

 この少年の傷は致命傷だ。一目でわかる。救急車を待っていたら、確実に死を迎えるだろう。だが、死なせない。兄様があたしたちの命を繋いだように、あたしにもできることはある。
 千尋、救急車は頼んだ。しばらくはあたしも動けなくなるはずだからな……。

「おい! 死ぬなよ! きみは死なせない!」

 あたしは【異能】を無理矢理、少年の中へと流し込む。あたしの【結界】内に入ってきたということは、この少年は【異能】だ。あたしはこの少年の【増幅者】でないが、こうやって無理にでも【異能】を注げば、【異能】で体細胞が活性化するかもしれない。一か八かの賭けだが、兄様……あたしに力を貸してくれ!
 あたしは兄様の顔を頭に思い浮かべた。

「救急車を呼んだ! がんばれ! 意識をしっ……」

 あたしは言葉の途中で喀血した。口から溢れ出す血が止まらない。だが逆に、少年の出血は止まったように見えた。
 これで、助かるのか……?
 あたしは多少フラつきながらも少年を抱えると、壁際に丁寧に寝かせた。そして、思い出したように火村のほうを見る。

「――――!? い……ない! 馬鹿な……!」

 確かにそこにいたはずの火村が、忽然と姿を消していた。もう気配すら感じない。おそらくもうこの場にはいないだろうと、あたしは判断した。
 それにしても……、かなり体力をもっていかれたな……。まるで、そう……命が削られたような感覚……。
 あたしは壁に背を預けて、タバコに火をつけた。フィルターが血で真っ赤に染まっていく。

「くそ、血の味しかしやしない……」

 あたしは独りごちた。タバコを吸い終える頃、救急車のサイレンが聞こえてきた。

「安心しろ。きみは助かる。巻き込んで悪かったな」

 あたしは少年を一瞥すると、御伽原探偵事務所へと向かった。


    ◇ ◇ ◇


 少年との再会は一ヶ月と経たないうちに訪れた。
 息抜きがてらに千尋をプールに誘ったら――マイも誘ったが、その日は友達と一緒に遊ぶと断られた――、偶然再会したのだ。本当に偶然なのか……、いや、これは必然なのだろう。
 病院へは千尋を行かせて安否は確認していたので、少年が無事なのは知っていた。だが、少年の胸には一生残るであろう痛々しい傷跡を残してしまった。
 元気で良かった……ん?
 これはこれは……、中学生には刺激が強すぎたか。あたしの尻を見て大きくするなんて、あたしにもまだ女らしいところがあったのかと、自嘲気味に苦笑した。

 しばらくして、雪がちらつき始めた頃、少年――隼人は組織への加入を果たした。何度か【逆徒】と交戦して【異能】を経験し、千尋やマイ、加奈子ら事務所の面子とも上手くやっているようでなによりだ。葛葉と何かと張り合うのは、男同士だからだろうか。妹の菜月を溺愛しているのが、昔の兄様とあたしを見ているようで微笑ましくなった。気になる点は……、進藤と同じ血筋ということもあって、スケベな妄想に走ることが多々見受けられる。まぁ、思春期の男の子ならこういうものかと、あたしはひとりで納得する。

 夕暮れ時、そろそろ事務所を閉めようかと、作業を中断しPCの電源を落とした。タバコに火をつけて、誰に言うわけでもなくつぶやいてみる。

「ランクS級のポテンシャルを秘めた者が、ランクS級の【異能】を半分持っていった。それはS級+S級と言う単なる足し算なんかじゃ決してない。そうS級×S級、かけ算にもなるかもしれない。つまり、国内じゃ今だ確認されていない、ランクSSS級の可能性を秘めてるってこと」
「……俺に言ってるのか?」

 今、事務所内にはあたしとの他には進藤しかいない。その進藤があたしの言葉に反応してPCから顔を上げた。

「いや、独り言だ……」
「一応確認するが、隼人を実験動物みたいな扱いで考えているなら、俺はお前を許さないし、組織を敵に回してでも俺は隼人や菜月を守るからな」
「まさか。兄さ……いや、兄が最後に言った言葉知っているか?」
「ああ、前に訊いたことがあったな。確か、ランクS級の【逆徒】を前にして「僕の大事な妹と弟は、誰にも傷つけさせない!」って言ったんだっけ?」
「そうだ。あたしにも、あの時の兄と同じ気持ちを、今のあたしは隼人や菜月に持っている。もちろん千尋や、マイ、加奈子に対してもそうだ」
「そうか……。御伽原を信じよう。疑うような言い方して、悪かったな。どうも隼人たちが絡むとなぁ……」
「ふっ、女絡みでもだろう?」
「ば、バカ言うな。真剣な話してる時にっ」

 SSS級か……。
 あたしは単なる妄想かも知れない思いに耽りつつ、タバコに火をつける。
 いつもと同じ、オイルライターの香りが鼻孔をくすぐった。

 そして今、あたしの目の前には隼人がいる。どうやら、西野が口を滑らせてあたしの本当のランクを言ってしまったらしい。いつまでも隠し通せるとも思っていなかったが。
 それならいっそ、この機会に話しても構わないか。

「あたしの【異能】は、隼人に引き継がれた」
「…………え?」

 それを訊いた隼人は、目を丸くした。
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