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第2章 「俺の【成り上がり】編」(俺が中二で妹が小四編)
第40話 俺は蘭子さんと模擬戦をした
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俺は破竹の模擬戦五連勝の結果に満足して、調子に乗っていた。このままの勢いで今日、蘭子さんとの模擬戦を迎える。
蘭子さんには事前に話を通していたので、電車で御伽原建設本社ビルへと向かう。何故かどこからか話を聞きつけた伯父さんが同行していた。
「なんで伯父さんがいるんだよ?」
「抜け駆けは感心しないぞ、隼人。まあ、訓練施設の使用者データを見た限りじゃ、今日か明日にでも御伽原と訓練するのは予想できたからな。事務所に顔を出して正解だった」
「蘭子さんからも何とか言ってやってくださいよ。絶対、伯父さんは蘭子さんの訓練着姿が見たいだけなんですから」
俺は蘭子さんを味方につけて、伯父さんの排除を試みた。しかし、俺の思惑は外れ、蘭子さんは腕を組みながらため息を吐いた。そして、半ば呆れた顔で俺の心の内を見透かしたように断言した。
「隼人も進藤も考えていることは、大体似通ったものだろう。星川や千尋と何をしていたかは訊いている」
「……え!? お、俺は実戦に備えて模擬戦をしたいだけです……よ?」
「模擬戦のあとに、何やら楽しげなゲームをしたらしいじゃないか? セクハラや痴漢まがいなゲームだと訊いたが、違うのか?」
「あ……」
「おい、隼人! お前というヤツは! ……詳しく教えなさい」
おいいいいいっ! 誰だよ罰ゲームのことを蘭子さんに言ったのは! 星川先輩か、椎名先輩か……いずれにしろ、今日は罰ゲームを提案するのは無理か……。
ツバを飛ばしながら激しく詰め寄る伯父さんを無視した俺は、玩具を取り上げられた子どものようにがっくりと肩を落とした。
「どうしてもやりたいなら、付き合ってもいいぞ。そのいかがわしいゲームを」
「え!? ホントですか!? というか、いかがわしいを前提で言わないでください。友達同士でするような軽いノリのゲームですから」
「御伽原、吐いたツバを飲むんじゃないぞ? 今の発言しっかり録音したからな。あとになって、やっぱやーめたは通用しないぞ」
録音って……伯父さんキモ……。
伯父さんが大きな声で言うもんだから、いつの間にか俺たちは周囲の視線を集めていた。電車内では周りの学生や二十代のカップル、はたまた外回り中のサラリーマンが、奇異な目で俺たちを見ていた。俺は恥ずかしくなり、目的の駅に着くまで口を噤んだ。だが今日の模擬戦に絶対勝ってやるという闘志は、メラメラと燃え上がっていた。
◇ ◇ ◇
今日はランクB級の蘭子さんが同行しているため、郡道さんを呼ぶ必要はない。昨日の尻文字当てゲームで欲望に忠実過ぎて失敗したので、今日顔を合わせると非常に気まずい思いをしただろう。今でも郡道さんのお尻は鮮明に思い出せる。
「……うっ」
だが同時に菜月に言われた「お兄ちゃんって、やっぱりみんなの言ってるとおりエッチなの?」という言葉を思い出して、自己嫌悪に陥った。
ひとまず目先の模擬戦に集中しよう……。
既に俺と蘭子さんは訓練着に着替えを済ませている。伯父さんは着替えるつもりがないのに更衣室に一緒に入って来て、蘭子さんがいないのをいいことに罰ゲームの内容を教えてくれと迫ってきたのだ。あまりにもしつこいので、俺は何のゲームをしたかだけを伝えると、伯父さんは想像しての興奮や体験できなかった悔しさなど、色んな感情が入り交じりひとりで悶絶していた。
「模擬戦は一戦だけか?」
「はい、そのつもりですけど……何か?」
「星川や千尋に勝ったとは訊いているが、それなら十戦しよう」
「じ、十戦!? 十回も蘭子さんと戦うんですか?」
「そうだ。十戦中、一度でもあたしに勝てれば何でもしてやる」
「……マジですか? ……一回でも勝てばいいんですね?」
「その条件受けた! 録音したからな! 隼人やっちまえ!」
いや、戦わない伯父さんが勝負を受けてどうするの。既に伯父さんは蘭子さんの肢体を見て鼻の下を伸ばしていた。
でも真面目な話、九回は負けてもいいとなると……勝機は全然あるな。
俺は頭の中でざっくりとシミュレートする。十戦あるなら何戦かは手の内を探るために捨ててもいい。俺は体力に自信があるし、逆に蘭子さんは【異能】を使ったあとはいつもバテバテだ。となると、勝負は最後の十戦目で決めるか。
「オッケーです。十戦やりましょう」
「よし。では早速始めよう」
俺は様子見のつもりで、無防備に蘭子さんの間合いへと侵入した。
その直後、
「うおええええっ!」
「無警戒にもほどがあるだろう」
一気に間合いを詰めた蘭子さんのボディーブローをまともに受けて、俺はくの字に体を折っていた。
俺は最低限の【四大元素】しか纏っていなかったので、蘭子さんは【異能】を使わずに攻撃してきた。それでも俺は三分も立ち上がれなかった。
「油断しました。次は全力でいきます」
「そうしてくれ。これじゃあ訓練にならない」
気を取り直して二戦目。
俺は【四大元素】を駆使して、蘭子さんに迫った。俺のパンチを左手で捌くと、蘭子さんは俺の腹に強烈な一撃を食らわせた。
またもや床に這いつくばったのは俺だった。
「立てるか? もう無理だと思ったらギブアップでも構わないが」
「くっ……! まだまだ……、やれますよ!」
「そうか。なら三戦目だ」
三戦目も、四戦目も、五戦目も俺はボディーブロー一発で沈められていた。
これがランクB級なのか……!? 同じB級の郡道さんと違い過ぎる!
ここまで、手の内を探るどころか為す術もなく負け続ける俺だったが、蘭子さんにも変化はあった。予想どおり蘭子さんは息を切らしていた。やはり体力がないんだ。次はできるだけ時間を稼いで、体力をもっと消耗させるか。
「うおええええええっ! げほおおっ!」
「六戦目もあたしの勝ちだ。まだ続けるか?」
吐きそうだが、俺は防御に徹して二分は保たせた。蘭子さんの体力をかなり消耗させたはずだ。俺は若干腹に痛みというか違和感が残っているが、息は切らしてはいない。対して蘭子さんは荒い呼吸を懲り返して、今も呼吸を整えるのに必死なように見えた。
俺が蘭子さんを観察していると、伯父さんが近づいてきて耳元で囁いた。
「隼人、大丈夫か? お前凄いな。御伽原にあれだけ殴られて、まだ立ち上がるなんて……。俺には無理だよ。腹は痛くないのか?」
「マジで痛えよ。というか、同じB級でも郡道さんと差があり過ぎだろ」
「……え? 隼人、何言って――――」
「来ないなら、こちらから行くぞ」
「伯父さん危ないから、どいてて!」
俺は伯父さんを手で押しやると、ダッシュで向かってくる蘭子さんに備えて、【四大元素】を展開した。蘭子さんのパンチの雨。しかし六戦もしたからか、明らかにスピードは落ちている。俺はギリギリで何とか捌くと、反撃に転じた。前蹴りで蘭子さんを退かせると、そのまま蹴り足で床を蹴って蘭子さんの懐に飛び込んだのだ。追撃がくると思わなかった蘭子さんは防げないはず。俺は渾身の右ストレートを放つ。
「どうだああっ!」
「なかなか……やるっ!」
しかし蘭子さんはそれを弾き返すと、お返しとばかりに右ストレートを繰り出した。俺もそれを見て【四大元素】で加速した右ストレートで勝負する。
カウンターが決まれば、俺が勝つ!
「ぐへぇ!? あ……れ……?」
カウンターを食らったのは俺だった。しこたま脳を揺さぶられた俺は、腰が砕けてその場にへたり込んだ。
「隼人! おい、しっかりしろ!」
「八戦目はどうする?」
「おい、御伽原! ちょっとは手加減しろ! 相手は【異能】を覚えたての中学生だぞ!? ランク差を考えてくれ!」
俺を心配した伯父さんが抗議をするが、蘭子さんはそれを無視して俺を見据える。もうだいぶ息が上がっている。
蘭子さんの体力的にはそろそろ限界か? なら俺にはまだ勝機があるっ!
「俺はまだやれますよ! 続けましょう!」
「おい、隼人! 無理するな!」
「大丈夫だよ、伯父さん。見た目ほどのダメージはないから心配しないで」
立ち上がって構える俺を見て、蘭子さんが嬉しそうに口元に笑みを浮かべる。
八戦目は二人同時に床を蹴って始まった。
五分後、八戦目と九戦目と敗北した俺は、片膝をつきながら考えていた。
とうとう残り一戦。蘭子さんはバテバテだ。もうスピードもかなり落ちている。
俺は深く息を吐いて立ち上がる。と、その時、
パシャ、パシャ、パシャ。
突然鳴り響くシャッター音。なんと伯父さんがタブレットを構えて、蘭子さんの周囲を忙しなく移動しながら撮影を開始した。
「いいねー御伽原! いい表情だ! とっても綺麗だよ! その吐息がまたそそる! さあ、次はもっとセクシーに決めてみようか!」
「お、伯父さん……俺が恥ずかしいからやめてくれ……」
「チッ、ウザい」
蘭子さんは本当に嫌そうな顔で舌打ちして、カメラマン気取りの伯父さんを睨んだ。
あれ……? 伯父さんもしかして、蘭子さんの隙を作るために敢えてやってる……? 確かに伯父さんの動きが気になって、蘭子さんの邪魔になっている。うーん、どうなんだろう?
伯父さんは腹ばいになってローアングルで蘭子さんを激写していた。……やっぱり伯父さんは単に蘭子さんを写真に収めたいだけかもしれない。だけど、これはチャンスだ。
蘭子さんは「この変態が」と、伯父さんの顔を踏みつけている。伯父さんは痛そうに……いや、とても興奮していた。
今なら蘭子さんの注意は伯父さんのほうに向いている。俺は不意打ち気味だが、この瞬間を逃すまいと全力でダッシュした。
蘭子さんは俺の接近に気づくと、伯父さんの腹を蹴って邪魔にならない位置まで転がした。伯父さんは「うへぇ」という痛いのか喜んでいるのか微妙な呻きを漏らしていた。
俺のパンチを蘭子さんが捌く、だが俺の攻撃は止まらない。
蘭子さんに反撃する間も与えずに、このまま連打を浴びせるっ!
俺の攻撃を捌く蘭子さんのおっぱいがブルンブルンと揺れている。それを見る余裕があるほど、俺と蘭子さんの力の差は縮まってきている。
そして遂に、蘭子さんが俺の攻撃を捌けなくなりガード姿勢をとった。
これはチャンス!
俺は今日一の【四大元素】で右拳を振りかぶった。蘭子さんのガードごとブチ破るつもりだ。
「おらあああああっ!」
勝った――――……。
勝利を確信した俺の右側頭部に、蘭子さんの踵が直撃した。
「あ……、嘘……だろ……!?」
「隼人!?」
薄れゆく意識の中、伯父さんの心配そうな声が聞こえる。俺はそのまま意識を手放した。
蘭子さんには事前に話を通していたので、電車で御伽原建設本社ビルへと向かう。何故かどこからか話を聞きつけた伯父さんが同行していた。
「なんで伯父さんがいるんだよ?」
「抜け駆けは感心しないぞ、隼人。まあ、訓練施設の使用者データを見た限りじゃ、今日か明日にでも御伽原と訓練するのは予想できたからな。事務所に顔を出して正解だった」
「蘭子さんからも何とか言ってやってくださいよ。絶対、伯父さんは蘭子さんの訓練着姿が見たいだけなんですから」
俺は蘭子さんを味方につけて、伯父さんの排除を試みた。しかし、俺の思惑は外れ、蘭子さんは腕を組みながらため息を吐いた。そして、半ば呆れた顔で俺の心の内を見透かしたように断言した。
「隼人も進藤も考えていることは、大体似通ったものだろう。星川や千尋と何をしていたかは訊いている」
「……え!? お、俺は実戦に備えて模擬戦をしたいだけです……よ?」
「模擬戦のあとに、何やら楽しげなゲームをしたらしいじゃないか? セクハラや痴漢まがいなゲームだと訊いたが、違うのか?」
「あ……」
「おい、隼人! お前というヤツは! ……詳しく教えなさい」
おいいいいいっ! 誰だよ罰ゲームのことを蘭子さんに言ったのは! 星川先輩か、椎名先輩か……いずれにしろ、今日は罰ゲームを提案するのは無理か……。
ツバを飛ばしながら激しく詰め寄る伯父さんを無視した俺は、玩具を取り上げられた子どものようにがっくりと肩を落とした。
「どうしてもやりたいなら、付き合ってもいいぞ。そのいかがわしいゲームを」
「え!? ホントですか!? というか、いかがわしいを前提で言わないでください。友達同士でするような軽いノリのゲームですから」
「御伽原、吐いたツバを飲むんじゃないぞ? 今の発言しっかり録音したからな。あとになって、やっぱやーめたは通用しないぞ」
録音って……伯父さんキモ……。
伯父さんが大きな声で言うもんだから、いつの間にか俺たちは周囲の視線を集めていた。電車内では周りの学生や二十代のカップル、はたまた外回り中のサラリーマンが、奇異な目で俺たちを見ていた。俺は恥ずかしくなり、目的の駅に着くまで口を噤んだ。だが今日の模擬戦に絶対勝ってやるという闘志は、メラメラと燃え上がっていた。
◇ ◇ ◇
今日はランクB級の蘭子さんが同行しているため、郡道さんを呼ぶ必要はない。昨日の尻文字当てゲームで欲望に忠実過ぎて失敗したので、今日顔を合わせると非常に気まずい思いをしただろう。今でも郡道さんのお尻は鮮明に思い出せる。
「……うっ」
だが同時に菜月に言われた「お兄ちゃんって、やっぱりみんなの言ってるとおりエッチなの?」という言葉を思い出して、自己嫌悪に陥った。
ひとまず目先の模擬戦に集中しよう……。
既に俺と蘭子さんは訓練着に着替えを済ませている。伯父さんは着替えるつもりがないのに更衣室に一緒に入って来て、蘭子さんがいないのをいいことに罰ゲームの内容を教えてくれと迫ってきたのだ。あまりにもしつこいので、俺は何のゲームをしたかだけを伝えると、伯父さんは想像しての興奮や体験できなかった悔しさなど、色んな感情が入り交じりひとりで悶絶していた。
「模擬戦は一戦だけか?」
「はい、そのつもりですけど……何か?」
「星川や千尋に勝ったとは訊いているが、それなら十戦しよう」
「じ、十戦!? 十回も蘭子さんと戦うんですか?」
「そうだ。十戦中、一度でもあたしに勝てれば何でもしてやる」
「……マジですか? ……一回でも勝てばいいんですね?」
「その条件受けた! 録音したからな! 隼人やっちまえ!」
いや、戦わない伯父さんが勝負を受けてどうするの。既に伯父さんは蘭子さんの肢体を見て鼻の下を伸ばしていた。
でも真面目な話、九回は負けてもいいとなると……勝機は全然あるな。
俺は頭の中でざっくりとシミュレートする。十戦あるなら何戦かは手の内を探るために捨ててもいい。俺は体力に自信があるし、逆に蘭子さんは【異能】を使ったあとはいつもバテバテだ。となると、勝負は最後の十戦目で決めるか。
「オッケーです。十戦やりましょう」
「よし。では早速始めよう」
俺は様子見のつもりで、無防備に蘭子さんの間合いへと侵入した。
その直後、
「うおええええっ!」
「無警戒にもほどがあるだろう」
一気に間合いを詰めた蘭子さんのボディーブローをまともに受けて、俺はくの字に体を折っていた。
俺は最低限の【四大元素】しか纏っていなかったので、蘭子さんは【異能】を使わずに攻撃してきた。それでも俺は三分も立ち上がれなかった。
「油断しました。次は全力でいきます」
「そうしてくれ。これじゃあ訓練にならない」
気を取り直して二戦目。
俺は【四大元素】を駆使して、蘭子さんに迫った。俺のパンチを左手で捌くと、蘭子さんは俺の腹に強烈な一撃を食らわせた。
またもや床に這いつくばったのは俺だった。
「立てるか? もう無理だと思ったらギブアップでも構わないが」
「くっ……! まだまだ……、やれますよ!」
「そうか。なら三戦目だ」
三戦目も、四戦目も、五戦目も俺はボディーブロー一発で沈められていた。
これがランクB級なのか……!? 同じB級の郡道さんと違い過ぎる!
ここまで、手の内を探るどころか為す術もなく負け続ける俺だったが、蘭子さんにも変化はあった。予想どおり蘭子さんは息を切らしていた。やはり体力がないんだ。次はできるだけ時間を稼いで、体力をもっと消耗させるか。
「うおええええええっ! げほおおっ!」
「六戦目もあたしの勝ちだ。まだ続けるか?」
吐きそうだが、俺は防御に徹して二分は保たせた。蘭子さんの体力をかなり消耗させたはずだ。俺は若干腹に痛みというか違和感が残っているが、息は切らしてはいない。対して蘭子さんは荒い呼吸を懲り返して、今も呼吸を整えるのに必死なように見えた。
俺が蘭子さんを観察していると、伯父さんが近づいてきて耳元で囁いた。
「隼人、大丈夫か? お前凄いな。御伽原にあれだけ殴られて、まだ立ち上がるなんて……。俺には無理だよ。腹は痛くないのか?」
「マジで痛えよ。というか、同じB級でも郡道さんと差があり過ぎだろ」
「……え? 隼人、何言って――――」
「来ないなら、こちらから行くぞ」
「伯父さん危ないから、どいてて!」
俺は伯父さんを手で押しやると、ダッシュで向かってくる蘭子さんに備えて、【四大元素】を展開した。蘭子さんのパンチの雨。しかし六戦もしたからか、明らかにスピードは落ちている。俺はギリギリで何とか捌くと、反撃に転じた。前蹴りで蘭子さんを退かせると、そのまま蹴り足で床を蹴って蘭子さんの懐に飛び込んだのだ。追撃がくると思わなかった蘭子さんは防げないはず。俺は渾身の右ストレートを放つ。
「どうだああっ!」
「なかなか……やるっ!」
しかし蘭子さんはそれを弾き返すと、お返しとばかりに右ストレートを繰り出した。俺もそれを見て【四大元素】で加速した右ストレートで勝負する。
カウンターが決まれば、俺が勝つ!
「ぐへぇ!? あ……れ……?」
カウンターを食らったのは俺だった。しこたま脳を揺さぶられた俺は、腰が砕けてその場にへたり込んだ。
「隼人! おい、しっかりしろ!」
「八戦目はどうする?」
「おい、御伽原! ちょっとは手加減しろ! 相手は【異能】を覚えたての中学生だぞ!? ランク差を考えてくれ!」
俺を心配した伯父さんが抗議をするが、蘭子さんはそれを無視して俺を見据える。もうだいぶ息が上がっている。
蘭子さんの体力的にはそろそろ限界か? なら俺にはまだ勝機があるっ!
「俺はまだやれますよ! 続けましょう!」
「おい、隼人! 無理するな!」
「大丈夫だよ、伯父さん。見た目ほどのダメージはないから心配しないで」
立ち上がって構える俺を見て、蘭子さんが嬉しそうに口元に笑みを浮かべる。
八戦目は二人同時に床を蹴って始まった。
五分後、八戦目と九戦目と敗北した俺は、片膝をつきながら考えていた。
とうとう残り一戦。蘭子さんはバテバテだ。もうスピードもかなり落ちている。
俺は深く息を吐いて立ち上がる。と、その時、
パシャ、パシャ、パシャ。
突然鳴り響くシャッター音。なんと伯父さんがタブレットを構えて、蘭子さんの周囲を忙しなく移動しながら撮影を開始した。
「いいねー御伽原! いい表情だ! とっても綺麗だよ! その吐息がまたそそる! さあ、次はもっとセクシーに決めてみようか!」
「お、伯父さん……俺が恥ずかしいからやめてくれ……」
「チッ、ウザい」
蘭子さんは本当に嫌そうな顔で舌打ちして、カメラマン気取りの伯父さんを睨んだ。
あれ……? 伯父さんもしかして、蘭子さんの隙を作るために敢えてやってる……? 確かに伯父さんの動きが気になって、蘭子さんの邪魔になっている。うーん、どうなんだろう?
伯父さんは腹ばいになってローアングルで蘭子さんを激写していた。……やっぱり伯父さんは単に蘭子さんを写真に収めたいだけかもしれない。だけど、これはチャンスだ。
蘭子さんは「この変態が」と、伯父さんの顔を踏みつけている。伯父さんは痛そうに……いや、とても興奮していた。
今なら蘭子さんの注意は伯父さんのほうに向いている。俺は不意打ち気味だが、この瞬間を逃すまいと全力でダッシュした。
蘭子さんは俺の接近に気づくと、伯父さんの腹を蹴って邪魔にならない位置まで転がした。伯父さんは「うへぇ」という痛いのか喜んでいるのか微妙な呻きを漏らしていた。
俺のパンチを蘭子さんが捌く、だが俺の攻撃は止まらない。
蘭子さんに反撃する間も与えずに、このまま連打を浴びせるっ!
俺の攻撃を捌く蘭子さんのおっぱいがブルンブルンと揺れている。それを見る余裕があるほど、俺と蘭子さんの力の差は縮まってきている。
そして遂に、蘭子さんが俺の攻撃を捌けなくなりガード姿勢をとった。
これはチャンス!
俺は今日一の【四大元素】で右拳を振りかぶった。蘭子さんのガードごとブチ破るつもりだ。
「おらあああああっ!」
勝った――――……。
勝利を確信した俺の右側頭部に、蘭子さんの踵が直撃した。
「あ……、嘘……だろ……!?」
「隼人!?」
薄れゆく意識の中、伯父さんの心配そうな声が聞こえる。俺はそのまま意識を手放した。
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