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第2章 「俺の【成り上がり】編」(俺が中二で妹が小四編)
第38話 俺は椎名姉妹とポ●キーゲームや尻相撲をした
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昨日はランクC級の星川先輩に勝った。
次のランク測定が楽しみだ。と言うかランク測定って定期的に実施されるものなのか、それとも不定期なのか。それも椎名先輩に訊いてみよう。
今日の模擬戦は先輩とマイちゃんだ。俺ひとりの【四大元素】で【増幅】した先輩の【異能】とどこまでやれるか。それを試すのに絶好の相手だ。
申し訳ないが先輩には、部活は今日だけ休んでもらった。顧問には家の用事と伝えたようだ。
放課後になり俺は先輩と一緒に、マイちゃんを小学校まで迎えに行き三人で御伽原建設本社ビルへと向かった。
途中で駅前のコンビニに、トイレと偽って買い物を済ませる。このあとの罰ゲームで使う貴重なアイテムだ。俺はそれをカバンに入れると、素知らぬ顔で椎名姉妹と合流した。
ちなみに小学校へマイちゃんを迎えに行く途中で、先輩には普通の模擬戦じゃつまらないから負けた人は簡単な罰ゲームでもしましょうと、さらっと話した。先輩は深く考えずに「いいわよ。じゃあ、私が勝ったら隼人くんに何してもらおうかしら。うふふ」と笑っていた。すみません先輩、言質はとりましたよ。勝つのは俺ですから。
訓練施設のお姉さんを呼んでもらって、椎名先輩とマイちゃんと地下の訓練施設へ向かう。
お姉さんからは「櫛木くん、今日は遊んでちゃダメよ」と釘を刺されたが、「でも今日は椎名さんがいるから大丈夫ね」と安心した表情で言っていた。やっぱり先輩はちゃんとした人だと信頼されているんだ。星川先輩は見た目がギャルだからな。
予定通りお姉さんは自主トレのために別の部屋へ移動した。
俺たちは更衣室で着替えをして、模擬戦前の準備運動をした。
「今日はどういう風に模擬戦をするのかしら? 三人で総当たりでもするの?」
「はーい! 私が一番にお兄さんとやるー!」
「ははは、マイちゃんはやる気満々だな。先輩、今日は俺ひとり対先輩&マイちゃんで模擬戦しましょう」
「え……? 本気なの? それは【増幅】込みの【異能】と戦うってことなのよ? いくら隼人くんが自分の【異能】に自信を持っていると言っても、流石にそれは……」
予想通り、椎名先輩は二人がかりだと俺に勝ち目はないと思っている。
貴重な時間をここで使うわけにはいかないから、怒られるかも知れないが正直に言うか。
「正直に言います。それでも俺が勝つと断言します。先輩が【増幅】を使ってもです」
「なっ……!?」
あ、流石に怒った……かな?
椎名先輩の眉がピクッと反応したのを、俺は見逃さなかった。
マイちゃんは俺と先輩の会話に興味がないのか、得意の変顔で変なダンスをしながら先輩の周りをグルグルと回っている。
「時間が惜しいので始めましょう。マイちゃん、先輩と一緒に俺と戦って」
「いいのー? むふー」
「は、隼人くん! ちょっと待ってっ!?」
マイちゃんは可愛い動作で戦闘の構えをとるが、椎名先輩はまだ納得していなく戸惑っている。
先輩のことだから本気で心配してくれてるんだろうけど、ハッキリ言って心配無用なんです。俺の実験に付き合ってもらいます。それに、このあと罰ゲームの予定もあるからさっさと済ませたいんです。
「俺から行きますよ!」
「そんなっ!? 隼人くん、私はまだやるとは――」
申し訳ないですが無理矢理始めさせてもらいます。俺が攻撃を開始したら、嫌でも応戦するしかないだろう。
椎名先輩が言い終わる前に、俺は全力でダッシュする。先輩の正面五十センチの距離で止まって、右ストレートで顔面を狙った。
「ちぃ姉!」
マイちゃんが椎名先輩を咄嗟に押しのけたので、俺のパンチは先輩の髪を掠めた。バランスを崩し駆けた先輩は、右足を踏ん張って体勢を維持する。適切な判断をしたマイちゃんは、俺のガラ空きの右脇腹に、小っちゃな拳を握って殴りかかる。
「甘いっ!」
俺は伸ばした右腕を【四大元素】で加速させると、マイちゃんの右拳に引き戻した肘で合わせる。マイちゃんの右拳は、俺の脇腹に届く前に鋭利な肘に阻まれた。【四大元素】と【異能】が接触した独特な感覚が、俺の肘を通して腕にまで伝わってくる。
俺たちは互いに後ろに跳んで、十分な距離をとった。俺と椎名先輩の距離は四メートル。先輩のすぐ隣には、右拳を左手でさするマイちゃんがいる。
「痛ぁい! お兄さんの肘、カッチカチに堅いんだもん!」
「マイ! 大丈夫?」
「うん、平気だよ。ちょびっと痛かったけど」
「隼人くん……、どうやら本気で私たち二人を相手にするようね……」
ようやく椎名先輩もやる気になってくれたか。
最初の俺の右ストレートは本気で殴るつもりはなく、マイちゃんの機転がなくても顔面手前一センチで寸止めするつもりだった。それに避けやすくするために、わざわざ真っ正面からいったのだ。マイちゃんが上手く先輩をフォローしてて、俺も何だか嬉しくなった。
続くマイちゃんの右パンチは、俺の攻撃後の隙をついたいい判断だった。だが俺の【四大元素】のスピードが上回っていたため、右パンチに俺の肘をカウンターで合わせることができた。【四大元素】最大出力の本気で肘をぶつけていたら、マイちゃんの右手は骨折どころでは済まなかっただろう。
二人の表情からすると俺が手加減してるなどとは、夢にも思っていないはず。
せっかく先輩の【増幅者】であるマイちゃんも誘ったんだ。【増幅】を使ってもらわないと意味がない。
「先輩、【増幅】したほうがいいですよ」
「それは……、隼人くんが怪我をしてしまうわ」
ふむ。椎名先輩にわからせないといけないな。もっと追い込むか。
俺は椎名姉妹を相手に【四大元素】を調整しながら、徐々にスピードや威力を上げていく。俺の攻撃を上手く捌けていた二人も、次第に全力でないと凌げなくなってくる。
「先輩、お腹が空いてますよ」
「くっ……!?」
「マイちゃん、もっと周りをよく見て」
「お、ぬ、ぬおおっ!」
頃合いか。
俺は大袈裟に大きな動作をとって、
「今から俺の【四大元素】を全力でブチ込みます。今の二人じゃ防げないと思うので、【増幅】してください。十秒待ちます」
「そんなっ! ちょっと、隼人くん!?」
「ちぃ姉! お兄さん本気だよ! 【増幅】使わないと、アレは防げないよ!」
「六、五……」
「でも……!」
俺のカウントダウンを前にしても、椎名先輩は判断を迷っている。
焦ったマイちゃんは素早く先輩の後ろに移動すると、先輩の腰に手を回して強制的に【増幅】準備に入った。
それでも先輩は【増幅】しない。【増幅者】側が【増幅】体勢に入っても、受け入れる【異能】側が【増幅】体勢に入らないと、二者間での【増幅】は正しく作用しない。
十秒経った。
「行きます」
「ちぃ姉! 早くっ、お願いっ!」
「んっ……!」
もう一押しか。
俺は身を低くして、これからダッシュする素振りを見せる。
頼むから早く【増幅】してくれ。…………クソッ!
椎名先輩がまだ決めかねているので、俺は全力で走り出した。そして先輩の直前で来ると、腰を捻って右拳を振りかぶった。
「ちぃ姉ぇ!」
「くっ……! マイ、【増幅】!」
「オッケェェッ!」
ようやくかよ。最悪【増幅】してくれなかったら、怪我しない程度にブン殴るしかなかったんだけど、良かった。
だが【増幅】には数秒かかるので、俺は振りかぶった拳をそのままで待機している。
五秒後、【増幅】を完了した椎名先輩が、正拳突きの構えをとった。
「そこまで言うなら……、行くわよ! 隼人くん!」
「ええ、俺も行きますよ! せーのっ!」
次の瞬間、俺の右ストレートと椎名先輩の正拳突きが交差した。
「嘘っ……でしょ……!?」
「ちぃ姉!?」
俺の【四大元素】と椎名先輩とマイちゃんの【増幅】込みの【異能】。
勝ったのはもちろん俺だ。
先輩とマイちゃんは体ごと三十センチ後ろに後退していた。自ら移動したのではなく、俺の【四大元素】に押し負けたのだ。
互いに怪我はない。実験は成功した。俺の【四大元素】はランクE級どころじゃない力を秘めているのだろう。俺はそう確信した。
先輩は驚きと戸惑いが入り乱れた表情で、憔悴しきってその場にへたり込んでいる。心配したマイちゃんが、先輩の肩に手をかけて顔を覗き込んでいた。
「ちぃ姉……、大丈夫?」
「…………負けたわ。隼人くんの【異能】がこんなに成長しているなんて……、想像以上、いえ、あり得ない……!?」
「昨日は星川先輩と模擬戦をしましたが、結構普通の訓練よりこういった実戦形式のほうが学べることは多いです。俺で良ければ、また模擬戦しましょう」
俺は爽やかに言い放って、椎名先輩に手を差し伸べる。俺史上、最高に格好良く決めた。
椎名先輩は大きく息を吐き苦笑すると、俺の手を取って立ち上がる。マイちゃんは俺に負けたのが悔しかったのか、少し拗ねた顔を見せた。めっちゃ可愛い。
五分後、落ち着いたところで俺は罰ゲームを告げた。
「ポ●キーゲームをします」
「え? なんでそんなゲームするの?」
「え?」
「それって、その……エッチなゲームじゃないの?」
「違います。仲良くお菓子を食べるだけです」
「え?」
「え?」
「面白そー! 私やりたい! ちぃ姉もやろうよー!」
マイちゃん、助かる。小学生は好奇心旺盛で良い。
椎名先輩は若干呆れつつも、拒絶の反応は見せていない。
「マイ、あなた……。もう、わかったわ。もう好きにして」
「ありがとうございます。では早速」
俺は更衣室からカバンを持ってきて、中からコンビニで購入したお菓子を取りだした。このお菓子は棒状の菓子にチョコレートでコーティングしてあるものだ。俺が提案した罰ゲームのルールは、このお菓子の両端を二人で咥えて、同時に食べるという至極簡単な遊びだ。俺はルールを知らないマイちゃんのためにも、詳しく説明してあげた。
それでは、ゲームスタート!
「ふぁい、ひいなへんはい。はやひゅ、ふわえてふらはい」
「えっ? ホ、ホントにこれ……咥えるの?」
「ふぁい!」
俺はお菓子を咥えたまま、椎名先輩に早く反対側を咥えろと催促した。マイちゃんは二試合目に備えて、俺に言われるまでもなくお菓子を咥えてスタンバっていた。
戸惑いながらもお菓子を咥える先輩。先輩が咥えたと同時に、俺はそれがスタートの合図だと言わんばかりに、脅威のスピードでお菓子をむさぼり食っていく。
「……はっ! ちょっと!? 隼人くんっ!」
椎名先輩は急接近する俺の顔面に引いて、思わず咥えていたお菓子を口から離してしまった。俺は先輩が咥えていた部分まで口に収め、しかっりと咀嚼してから嚥下した。
もぐもぐ、ごっくん。間接キスゲット。
「先輩、口から離したら負けですよ。ルール説明したじゃないですかー」
「え!? でも……私が離さなかったら、その……隼人くんとキ、キスになっちゃう……から」
「失敬な。いかがわしいゲームじゃないって言ったでしょう? キスしそうになったら止まりますよ。当然じゃないですか」
「そ、そう……だったの?」
「はい」
疑うことを知らず戸惑う先輩に、俺は真面目な顔で頷いた。
そんな俺の腕を「むふー、むふー」と鼻息荒く引っ張ったのは、ゲームに興味津々のマイちゃんだ。
「先輩、マイちゃんを見習ってください。何事にも興味を持ってチャレンジする精神。小学生からも学ぶことは多いです」
「……え、ええ。ご、ごめんなさい。隼人くんって結構真剣に考えていたのね……」
「むふー、おひーはん、はやひゅはやひゅ!」
「おっと、待たせて悪かった。ようし勝負だ、マイちゃん!」
俺は真面目に反省している椎名先輩を放置して、二試合目はマイちゃんと遊ぶ。
マイちゃんが咥えている反対側の端を、俺はそっと咥えた。その瞬間、マイちゃんがもの凄い勢いで迫ってきた。さっきの逆だ。俺は一センチも進むことができずに……。
ちゅっ。
柔らかいものが、俺の唇に触れた。こ、これって……!?
「ぐわっ!」
気が緩み魂が抜けそうになった俺の鼻っ柱に、マイちゃんのおでこが激突した。
「い、いってええええっ!」
「隼人くん、大丈夫!? もの凄い音したわよっ!」
「むふー。むしゃ、むしゃ、ごっくん」
俺は声にならない呻き声を上げて、激痛でのたうち回りながら手で鼻を触る。手を見ると血がついていた。情けないことにマイちゃんの頭突きで鼻血を出してしまったのだ。
心配した椎名先輩がまるで自身の怪我のような痛そうな顔で、俺の傍に来てくれる。
「更衣室からティッシュ持ってくるわ!」
「ぬ……、ずみばぜん……」
痛みに堪えつつ横目でマイちゃんを見ると、「むふー」と変顔で勝利のダンスを踊っていた。
い、痛いけど……、さっきのはキスだよな……。ど、どうしよう……。俺、偶発的な事故とはいえ小学生とキスしちゃったああぁっ!?
「う、あああああぁああぁあああっ!」
「お、お兄さん!? どしたっ!?」
「え? 隼人くん、どうしたの!? さっきより血が出てるわ!?」
丁度、更衣室からポケットティッシュを手に出てきた椎名先輩が、俺の異変に気づき大慌てで駆けつける。マイちゃんもダンスを一旦中断して、俺の腰に飛びついてきた。
俺の興奮によって鼻血が止まるまで十分を要した。今俺の鼻の両穴にはティッシュが詰め込まれている。その半分近くは鼻血で赤く染まっていた。
気を取り直して。
「え? 尻相撲?」
「そうです。お尻とお尻で押し合って、線からはみ出したら負けです」
「え?」
「え?」
「これは勝負の駆け引きが重要なゲームです。先輩、今後【異能】同士の戦いにおいて、同ランクや格上と戦う事態がないとも限りません。【逆徒】の火村然りです。だから俺は【異能】の戦闘は駆け引きがすべてと言っても過言ではないと思っています」
「……確かに、それはそうだと思うけれど……」
「やりたーい! むふー」
マイちゃん、ナイスぅ!
マイちゃんはお尻を突き出して、すでに臨戦態勢だ。
俺は無茶苦茶な理論を早口でまくし立てると、第二のゲームを提案した。
それは尻相撲である。
椎名先輩はマイちゃんが俺を怪我させてしまったことを、申し訳なく思っていたはずだ。その隙をつくようで気が引けたが、俺は自分の欲望に正直だった。ポ●キーゲームだけの予定を、うやむやのうちにこれはチャンスと尻相撲――本来は明日の罰ゲームでやる予定だった――をねじ込んだのである。
俺はカバンから取り出したビニールテープで、床に円の形になるように貼っていく。ようし、準備は完了だ。
それでは……ゲーム、スタート!
「あ、それっ」
「むふー」
この身長差では、マイちゃんのお尻は俺の膝裏にしか当たらない。ぷにぷにした感触を思う存分味わった俺は、椎名先輩の鋭い視線を感じて気まずくなり、マイちゃんの背中を尻で押して円から追い出した。
「はい、俺の勝ち! じゃあ次は先輩ですね!」
「え、ええ。どうしてこんなことになったのかしら……?」
マイちゃんが見守る中、俺と椎名先輩は背中合わせで開始の合図を待っている。お互いの尻間は五センチもないだろう。おまけにこの訓練着だ。先輩のお尻に触れるということは即ち、ほぼ生尻の感触だろう! 期待せずにはいられない。今、俺の戦いが始まる。
「お兄さんも、ちぃ姉もいい? いくよ……、始めー!」
「よっ、はっ! ほいっ!」
「え、え、えっ!?」
「はいっ!、はいっ!、はいっ!」
「ああん、もぅ! な、何なの? もしかして……作戦なの!?」
椎名先輩が戸惑うのも無理はない。俺はお尻に軽くタッチを繰り返しているだけだ。だが、一定のリズムで刻んでいた俺の挙動は、すぐに読まれて――俺は先輩のお尻に集中していて、そこまで頭が回らなかった――タイミングをずらした先輩のヒッップアタックで俺はバランスを崩し円から片足をはみ出してしまった。
「ちぃ姉の勝ちー!」
「ちきしょうっ!」
こうして俺と椎名姉妹との楽しいひとときは過ぎていった。
帰り道、三人並んで電車に揺られながら、俺と椎名先輩は二人の間に座っているマイちゃんを眺めていた。穏やかな寝顔だ。どうやら疲れて眠ってしまったらしい。先輩はマイちゃんの頭を撫でている。
俺と先輩は他愛もない学校話で盛り上がって、たった四駅、時間にしてたった十分弱の会話を楽しんだ。
駅で椎名姉妹と別れて、俺は家路に就く。
夜になってから考えているのは、俺の【四大元素】のことだ。まだ進化する。俺は手応えを感じていた。
今日も模擬戦も俺の勝利だった。椎名先輩とマイちゃん合わせて二勝としておくか。
これで模擬戦三勝。
次のランク測定が楽しみだ。と言うかランク測定って定期的に実施されるものなのか、それとも不定期なのか。それも椎名先輩に訊いてみよう。
今日の模擬戦は先輩とマイちゃんだ。俺ひとりの【四大元素】で【増幅】した先輩の【異能】とどこまでやれるか。それを試すのに絶好の相手だ。
申し訳ないが先輩には、部活は今日だけ休んでもらった。顧問には家の用事と伝えたようだ。
放課後になり俺は先輩と一緒に、マイちゃんを小学校まで迎えに行き三人で御伽原建設本社ビルへと向かった。
途中で駅前のコンビニに、トイレと偽って買い物を済ませる。このあとの罰ゲームで使う貴重なアイテムだ。俺はそれをカバンに入れると、素知らぬ顔で椎名姉妹と合流した。
ちなみに小学校へマイちゃんを迎えに行く途中で、先輩には普通の模擬戦じゃつまらないから負けた人は簡単な罰ゲームでもしましょうと、さらっと話した。先輩は深く考えずに「いいわよ。じゃあ、私が勝ったら隼人くんに何してもらおうかしら。うふふ」と笑っていた。すみません先輩、言質はとりましたよ。勝つのは俺ですから。
訓練施設のお姉さんを呼んでもらって、椎名先輩とマイちゃんと地下の訓練施設へ向かう。
お姉さんからは「櫛木くん、今日は遊んでちゃダメよ」と釘を刺されたが、「でも今日は椎名さんがいるから大丈夫ね」と安心した表情で言っていた。やっぱり先輩はちゃんとした人だと信頼されているんだ。星川先輩は見た目がギャルだからな。
予定通りお姉さんは自主トレのために別の部屋へ移動した。
俺たちは更衣室で着替えをして、模擬戦前の準備運動をした。
「今日はどういう風に模擬戦をするのかしら? 三人で総当たりでもするの?」
「はーい! 私が一番にお兄さんとやるー!」
「ははは、マイちゃんはやる気満々だな。先輩、今日は俺ひとり対先輩&マイちゃんで模擬戦しましょう」
「え……? 本気なの? それは【増幅】込みの【異能】と戦うってことなのよ? いくら隼人くんが自分の【異能】に自信を持っていると言っても、流石にそれは……」
予想通り、椎名先輩は二人がかりだと俺に勝ち目はないと思っている。
貴重な時間をここで使うわけにはいかないから、怒られるかも知れないが正直に言うか。
「正直に言います。それでも俺が勝つと断言します。先輩が【増幅】を使ってもです」
「なっ……!?」
あ、流石に怒った……かな?
椎名先輩の眉がピクッと反応したのを、俺は見逃さなかった。
マイちゃんは俺と先輩の会話に興味がないのか、得意の変顔で変なダンスをしながら先輩の周りをグルグルと回っている。
「時間が惜しいので始めましょう。マイちゃん、先輩と一緒に俺と戦って」
「いいのー? むふー」
「は、隼人くん! ちょっと待ってっ!?」
マイちゃんは可愛い動作で戦闘の構えをとるが、椎名先輩はまだ納得していなく戸惑っている。
先輩のことだから本気で心配してくれてるんだろうけど、ハッキリ言って心配無用なんです。俺の実験に付き合ってもらいます。それに、このあと罰ゲームの予定もあるからさっさと済ませたいんです。
「俺から行きますよ!」
「そんなっ!? 隼人くん、私はまだやるとは――」
申し訳ないですが無理矢理始めさせてもらいます。俺が攻撃を開始したら、嫌でも応戦するしかないだろう。
椎名先輩が言い終わる前に、俺は全力でダッシュする。先輩の正面五十センチの距離で止まって、右ストレートで顔面を狙った。
「ちぃ姉!」
マイちゃんが椎名先輩を咄嗟に押しのけたので、俺のパンチは先輩の髪を掠めた。バランスを崩し駆けた先輩は、右足を踏ん張って体勢を維持する。適切な判断をしたマイちゃんは、俺のガラ空きの右脇腹に、小っちゃな拳を握って殴りかかる。
「甘いっ!」
俺は伸ばした右腕を【四大元素】で加速させると、マイちゃんの右拳に引き戻した肘で合わせる。マイちゃんの右拳は、俺の脇腹に届く前に鋭利な肘に阻まれた。【四大元素】と【異能】が接触した独特な感覚が、俺の肘を通して腕にまで伝わってくる。
俺たちは互いに後ろに跳んで、十分な距離をとった。俺と椎名先輩の距離は四メートル。先輩のすぐ隣には、右拳を左手でさするマイちゃんがいる。
「痛ぁい! お兄さんの肘、カッチカチに堅いんだもん!」
「マイ! 大丈夫?」
「うん、平気だよ。ちょびっと痛かったけど」
「隼人くん……、どうやら本気で私たち二人を相手にするようね……」
ようやく椎名先輩もやる気になってくれたか。
最初の俺の右ストレートは本気で殴るつもりはなく、マイちゃんの機転がなくても顔面手前一センチで寸止めするつもりだった。それに避けやすくするために、わざわざ真っ正面からいったのだ。マイちゃんが上手く先輩をフォローしてて、俺も何だか嬉しくなった。
続くマイちゃんの右パンチは、俺の攻撃後の隙をついたいい判断だった。だが俺の【四大元素】のスピードが上回っていたため、右パンチに俺の肘をカウンターで合わせることができた。【四大元素】最大出力の本気で肘をぶつけていたら、マイちゃんの右手は骨折どころでは済まなかっただろう。
二人の表情からすると俺が手加減してるなどとは、夢にも思っていないはず。
せっかく先輩の【増幅者】であるマイちゃんも誘ったんだ。【増幅】を使ってもらわないと意味がない。
「先輩、【増幅】したほうがいいですよ」
「それは……、隼人くんが怪我をしてしまうわ」
ふむ。椎名先輩にわからせないといけないな。もっと追い込むか。
俺は椎名姉妹を相手に【四大元素】を調整しながら、徐々にスピードや威力を上げていく。俺の攻撃を上手く捌けていた二人も、次第に全力でないと凌げなくなってくる。
「先輩、お腹が空いてますよ」
「くっ……!?」
「マイちゃん、もっと周りをよく見て」
「お、ぬ、ぬおおっ!」
頃合いか。
俺は大袈裟に大きな動作をとって、
「今から俺の【四大元素】を全力でブチ込みます。今の二人じゃ防げないと思うので、【増幅】してください。十秒待ちます」
「そんなっ! ちょっと、隼人くん!?」
「ちぃ姉! お兄さん本気だよ! 【増幅】使わないと、アレは防げないよ!」
「六、五……」
「でも……!」
俺のカウントダウンを前にしても、椎名先輩は判断を迷っている。
焦ったマイちゃんは素早く先輩の後ろに移動すると、先輩の腰に手を回して強制的に【増幅】準備に入った。
それでも先輩は【増幅】しない。【増幅者】側が【増幅】体勢に入っても、受け入れる【異能】側が【増幅】体勢に入らないと、二者間での【増幅】は正しく作用しない。
十秒経った。
「行きます」
「ちぃ姉! 早くっ、お願いっ!」
「んっ……!」
もう一押しか。
俺は身を低くして、これからダッシュする素振りを見せる。
頼むから早く【増幅】してくれ。…………クソッ!
椎名先輩がまだ決めかねているので、俺は全力で走り出した。そして先輩の直前で来ると、腰を捻って右拳を振りかぶった。
「ちぃ姉ぇ!」
「くっ……! マイ、【増幅】!」
「オッケェェッ!」
ようやくかよ。最悪【増幅】してくれなかったら、怪我しない程度にブン殴るしかなかったんだけど、良かった。
だが【増幅】には数秒かかるので、俺は振りかぶった拳をそのままで待機している。
五秒後、【増幅】を完了した椎名先輩が、正拳突きの構えをとった。
「そこまで言うなら……、行くわよ! 隼人くん!」
「ええ、俺も行きますよ! せーのっ!」
次の瞬間、俺の右ストレートと椎名先輩の正拳突きが交差した。
「嘘っ……でしょ……!?」
「ちぃ姉!?」
俺の【四大元素】と椎名先輩とマイちゃんの【増幅】込みの【異能】。
勝ったのはもちろん俺だ。
先輩とマイちゃんは体ごと三十センチ後ろに後退していた。自ら移動したのではなく、俺の【四大元素】に押し負けたのだ。
互いに怪我はない。実験は成功した。俺の【四大元素】はランクE級どころじゃない力を秘めているのだろう。俺はそう確信した。
先輩は驚きと戸惑いが入り乱れた表情で、憔悴しきってその場にへたり込んでいる。心配したマイちゃんが、先輩の肩に手をかけて顔を覗き込んでいた。
「ちぃ姉……、大丈夫?」
「…………負けたわ。隼人くんの【異能】がこんなに成長しているなんて……、想像以上、いえ、あり得ない……!?」
「昨日は星川先輩と模擬戦をしましたが、結構普通の訓練よりこういった実戦形式のほうが学べることは多いです。俺で良ければ、また模擬戦しましょう」
俺は爽やかに言い放って、椎名先輩に手を差し伸べる。俺史上、最高に格好良く決めた。
椎名先輩は大きく息を吐き苦笑すると、俺の手を取って立ち上がる。マイちゃんは俺に負けたのが悔しかったのか、少し拗ねた顔を見せた。めっちゃ可愛い。
五分後、落ち着いたところで俺は罰ゲームを告げた。
「ポ●キーゲームをします」
「え? なんでそんなゲームするの?」
「え?」
「それって、その……エッチなゲームじゃないの?」
「違います。仲良くお菓子を食べるだけです」
「え?」
「え?」
「面白そー! 私やりたい! ちぃ姉もやろうよー!」
マイちゃん、助かる。小学生は好奇心旺盛で良い。
椎名先輩は若干呆れつつも、拒絶の反応は見せていない。
「マイ、あなた……。もう、わかったわ。もう好きにして」
「ありがとうございます。では早速」
俺は更衣室からカバンを持ってきて、中からコンビニで購入したお菓子を取りだした。このお菓子は棒状の菓子にチョコレートでコーティングしてあるものだ。俺が提案した罰ゲームのルールは、このお菓子の両端を二人で咥えて、同時に食べるという至極簡単な遊びだ。俺はルールを知らないマイちゃんのためにも、詳しく説明してあげた。
それでは、ゲームスタート!
「ふぁい、ひいなへんはい。はやひゅ、ふわえてふらはい」
「えっ? ホ、ホントにこれ……咥えるの?」
「ふぁい!」
俺はお菓子を咥えたまま、椎名先輩に早く反対側を咥えろと催促した。マイちゃんは二試合目に備えて、俺に言われるまでもなくお菓子を咥えてスタンバっていた。
戸惑いながらもお菓子を咥える先輩。先輩が咥えたと同時に、俺はそれがスタートの合図だと言わんばかりに、脅威のスピードでお菓子をむさぼり食っていく。
「……はっ! ちょっと!? 隼人くんっ!」
椎名先輩は急接近する俺の顔面に引いて、思わず咥えていたお菓子を口から離してしまった。俺は先輩が咥えていた部分まで口に収め、しかっりと咀嚼してから嚥下した。
もぐもぐ、ごっくん。間接キスゲット。
「先輩、口から離したら負けですよ。ルール説明したじゃないですかー」
「え!? でも……私が離さなかったら、その……隼人くんとキ、キスになっちゃう……から」
「失敬な。いかがわしいゲームじゃないって言ったでしょう? キスしそうになったら止まりますよ。当然じゃないですか」
「そ、そう……だったの?」
「はい」
疑うことを知らず戸惑う先輩に、俺は真面目な顔で頷いた。
そんな俺の腕を「むふー、むふー」と鼻息荒く引っ張ったのは、ゲームに興味津々のマイちゃんだ。
「先輩、マイちゃんを見習ってください。何事にも興味を持ってチャレンジする精神。小学生からも学ぶことは多いです」
「……え、ええ。ご、ごめんなさい。隼人くんって結構真剣に考えていたのね……」
「むふー、おひーはん、はやひゅはやひゅ!」
「おっと、待たせて悪かった。ようし勝負だ、マイちゃん!」
俺は真面目に反省している椎名先輩を放置して、二試合目はマイちゃんと遊ぶ。
マイちゃんが咥えている反対側の端を、俺はそっと咥えた。その瞬間、マイちゃんがもの凄い勢いで迫ってきた。さっきの逆だ。俺は一センチも進むことができずに……。
ちゅっ。
柔らかいものが、俺の唇に触れた。こ、これって……!?
「ぐわっ!」
気が緩み魂が抜けそうになった俺の鼻っ柱に、マイちゃんのおでこが激突した。
「い、いってええええっ!」
「隼人くん、大丈夫!? もの凄い音したわよっ!」
「むふー。むしゃ、むしゃ、ごっくん」
俺は声にならない呻き声を上げて、激痛でのたうち回りながら手で鼻を触る。手を見ると血がついていた。情けないことにマイちゃんの頭突きで鼻血を出してしまったのだ。
心配した椎名先輩がまるで自身の怪我のような痛そうな顔で、俺の傍に来てくれる。
「更衣室からティッシュ持ってくるわ!」
「ぬ……、ずみばぜん……」
痛みに堪えつつ横目でマイちゃんを見ると、「むふー」と変顔で勝利のダンスを踊っていた。
い、痛いけど……、さっきのはキスだよな……。ど、どうしよう……。俺、偶発的な事故とはいえ小学生とキスしちゃったああぁっ!?
「う、あああああぁああぁあああっ!」
「お、お兄さん!? どしたっ!?」
「え? 隼人くん、どうしたの!? さっきより血が出てるわ!?」
丁度、更衣室からポケットティッシュを手に出てきた椎名先輩が、俺の異変に気づき大慌てで駆けつける。マイちゃんもダンスを一旦中断して、俺の腰に飛びついてきた。
俺の興奮によって鼻血が止まるまで十分を要した。今俺の鼻の両穴にはティッシュが詰め込まれている。その半分近くは鼻血で赤く染まっていた。
気を取り直して。
「え? 尻相撲?」
「そうです。お尻とお尻で押し合って、線からはみ出したら負けです」
「え?」
「え?」
「これは勝負の駆け引きが重要なゲームです。先輩、今後【異能】同士の戦いにおいて、同ランクや格上と戦う事態がないとも限りません。【逆徒】の火村然りです。だから俺は【異能】の戦闘は駆け引きがすべてと言っても過言ではないと思っています」
「……確かに、それはそうだと思うけれど……」
「やりたーい! むふー」
マイちゃん、ナイスぅ!
マイちゃんはお尻を突き出して、すでに臨戦態勢だ。
俺は無茶苦茶な理論を早口でまくし立てると、第二のゲームを提案した。
それは尻相撲である。
椎名先輩はマイちゃんが俺を怪我させてしまったことを、申し訳なく思っていたはずだ。その隙をつくようで気が引けたが、俺は自分の欲望に正直だった。ポ●キーゲームだけの予定を、うやむやのうちにこれはチャンスと尻相撲――本来は明日の罰ゲームでやる予定だった――をねじ込んだのである。
俺はカバンから取り出したビニールテープで、床に円の形になるように貼っていく。ようし、準備は完了だ。
それでは……ゲーム、スタート!
「あ、それっ」
「むふー」
この身長差では、マイちゃんのお尻は俺の膝裏にしか当たらない。ぷにぷにした感触を思う存分味わった俺は、椎名先輩の鋭い視線を感じて気まずくなり、マイちゃんの背中を尻で押して円から追い出した。
「はい、俺の勝ち! じゃあ次は先輩ですね!」
「え、ええ。どうしてこんなことになったのかしら……?」
マイちゃんが見守る中、俺と椎名先輩は背中合わせで開始の合図を待っている。お互いの尻間は五センチもないだろう。おまけにこの訓練着だ。先輩のお尻に触れるということは即ち、ほぼ生尻の感触だろう! 期待せずにはいられない。今、俺の戦いが始まる。
「お兄さんも、ちぃ姉もいい? いくよ……、始めー!」
「よっ、はっ! ほいっ!」
「え、え、えっ!?」
「はいっ!、はいっ!、はいっ!」
「ああん、もぅ! な、何なの? もしかして……作戦なの!?」
椎名先輩が戸惑うのも無理はない。俺はお尻に軽くタッチを繰り返しているだけだ。だが、一定のリズムで刻んでいた俺の挙動は、すぐに読まれて――俺は先輩のお尻に集中していて、そこまで頭が回らなかった――タイミングをずらした先輩のヒッップアタックで俺はバランスを崩し円から片足をはみ出してしまった。
「ちぃ姉の勝ちー!」
「ちきしょうっ!」
こうして俺と椎名姉妹との楽しいひとときは過ぎていった。
帰り道、三人並んで電車に揺られながら、俺と椎名先輩は二人の間に座っているマイちゃんを眺めていた。穏やかな寝顔だ。どうやら疲れて眠ってしまったらしい。先輩はマイちゃんの頭を撫でている。
俺と先輩は他愛もない学校話で盛り上がって、たった四駅、時間にしてたった十分弱の会話を楽しんだ。
駅で椎名姉妹と別れて、俺は家路に就く。
夜になってから考えているのは、俺の【四大元素】のことだ。まだ進化する。俺は手応えを感じていた。
今日も模擬戦も俺の勝利だった。椎名先輩とマイちゃん合わせて二勝としておくか。
これで模擬戦三勝。
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