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第2章 「俺の【成り上がり】編」(俺が中二で妹が小四編)
第36話 俺の【四大元素】はここまで育った
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四月の新学期を迎えて、俺は二年生になった。
新入生が入ってきたが、その中に【異能】はいないと蘭子さんからは訊いている。
ヤンキーの大石は卒業し、自動的に大石グループは完全に俺に引き継がれた。今日も今日とて校内では、俺の後ろをゾロゾロと五人のヤンキーがついてくる。
これは新入生が俺を不良と勘違いする前に何とかしなければ……。
今も同じ学年の男子が数人避けていった。
「おい」
「な、何スか、櫛木さん?」
代表で返事をしたのは、去年俺の教室に乗り込んで来た奴だ。髪は金髪でピアスをしている。以前はタバコ臭い息を吐いていたが、俺が止めろと言ってからはそんな臭いはしなくなった。少なくとも俺の前では吸っていないだろう。良いことだ。
「お前ら校内でいちいち俺についてくるな。体育館裏のたまり場で、お前らだけで集まってりゃいいだろ?」
「え、そりゃないっス。俺ら櫛木さんのグループなんで。昼休みに一年のスーパールーキーを迎えに行くんでお願いしまっス。」
この集団は大石グループから代替わりして、恥ずかしいことに櫛木グループなどと呼ばれていた。
しかも昼休みに新入生の何とかって奴を勧誘しに行くんだそうだ。何でもたった一週間で一年生をシメた喧嘩の強い奴がいるらしい。興味はないが。
俺は舌打ちしつつ、
「それがウザいから、俺が呼んだ時だけ来てくれ」
「そ、そんな!?」
「わかったな?」
「「「「「はいっつ!」」」」」
俺の恫喝で蜘蛛の子を散らすように、櫛木グループは散り散りに去って行った。
俺がアイツらを呼び出すことはないだろう。あるとしたら、アイツらが悪さをして躾が必要な時だけだ。
俺は大きなため息を吐いた。
◇ ◇ ◇
一週間ほど経ったある日、俺はマイちゃんから貴重な情報を入手した。
その日、俺が御伽原探偵事務所に寄ってから家に帰ると、マイちゃんが遊びに来ていた。
三人でお菓子を食べながらリビングで楽しくTVゲームをしていると、マイちゃんが不意に漏らしたのだ。
「お兄さん知ってるー?」
「え、何が?」
「前になっちゃんが六年生から告白された話だよ」
「あ、ああ……。そんなこともあったらしいな」
すっかり忘れていた話を思い出してしまった。そう言うロリコン野郎がいたという事実を。
「マイちゃん、別にお兄ちゃんに言わなくてもいいよぅ」
「だって……お兄さん知りたがってるよ?」
ん、菜月が嫌がっている? ふむ、気になるな。
マイちゃんは俺に教えたそうにしているが、菜月が止めるので躊躇していた。だが、菜月も本気で嫌がってはいないようだった。
お兄ちゃんは興味津々です。
「マイちゃん。詳しく話しなさい」
「さっすがシスコンのお兄さん! そうこなくっちゃ!」
「う、……うん? シスコンでなくても気になるよ。家族だからね……うん、そう家族だから」
「じー」
マイちゃんの視線が痛い。お願い、もう止めて。
「……こほん。それで、その六年生がどうしたの? まさか菜月に再アタックでもしたのかい?」
「えっ!? お兄さん、なんでわかったの!?」
「……マジか!?」
「もう、マイちゃんったら。お兄ちゃん、ちゃんと断ったからね。だってあんまり話したこともないし、それに……」
菜月は「もー」と言いながら、マイちゃんに抱きついた。マイちゃんは楽しそうにケラケラと笑っている。
なんてこった。
ちょっと待て。六年生だったその子は、この四月から中学生になったはずだよな? 中一が小四に告ったのか。兄としては許せねえな。
俺の耳に追加の情報が入る。
「なっちゃんに告白してたあの六年生。お兄さんと同じ中学に入ったの知ってる?」
「なん……だと?」
◇ ◇ ◇
翌日、俺は校庭で行われる全校集会に、誰よりも早く校庭に一番乗りしていた。
菜月に告白したというクソガキの顔を拝むためだ。
名前は日下部晶と言うらしい。マイちゃんの話では小学校では人気があったそうだ。ふん、小学校で人気があったからと言って、中学でも人気者になれると思うなよ。
と言っても名前しか知らないし、どうするかな。
「……あれ?」
俺の次に校庭に顔を出したのは、櫛木グループの面々だった。俺の知らない間に数が増えて五人から、一気に倍の十人になっている。新しいメンバーは知らない顔だったので、一年生が五人も増えたのか。
それにしても全校集会にちゃんと参加するなんて、殊勝な奴らだ。いや、俺が参加しろって言ったんだったか。
俺はポケットに手を入れたまま、櫛木グループに近づいて行った。
「あ、櫛木さん! おはようございます! おい、お前ら櫛木さんに挨拶しろっ!」
金髪ピアスに怒鳴られて、新しく入った一年生が五人の内四人が俺に頭を下げて口々に挨拶と自己紹介をする。どこどこの小学校出身で、武勇伝がああだこうだと、どうでもいい話を三分ほど聞き流していると、ひとりだけ俺に挨拶をしなかった一年生が突っかかってきた。
「先輩、この二年の櫛木って人、ホントに強いんですか? 小学校で名前も訊いたことないんですけどぉ?」
「お、おい! 止めろ馬鹿っ!」
「殺されるぞっ!」
いや、殺すわけないだろう。ったく、こいつらは……。
金髪ピアスを含む何人かが慌ててその一年生を止めようとするが、そいつは俺の胸ぐらを掴んできた。
「櫛木さん、さーせんっ! こいつが一年のスーパールー……」
「離せ。いきなり、これはないだろう」
俺は金髪ピアスに被せ気味に言うと、ポケットに手を入れたまま眼光でその一年生を威圧した。まあ【四大元素】を少し利用したが。
「うっ……!? え……!?」
俺から放たれるプレッシャーに――【四大元素】含む――気圧された一年生は、その場にペタンと尻餅をついた。どうやら腰を抜かしてしまったようだ。
パチパチパチパチ。
櫛木グループの二年と三年の五人は俺の勝利を称えるかのように、背筋を伸ばしてかしこまって拍手をしている。
恥ずかしいから止めてくれ。
ん? そうだ、この一年生たちから日下部を教えてもらえばいいのか。
「おい一年生、ちょっと訊きたいことがあるんだけど。いいか?」
「「「「「は、はいっ!」」」」」
一年生が五人揃って返事をする。俺はものの数分で一年生を掌握してしまったようだ。
「一年生に日下部って奴はいるか?」
一年生が互いに顔を見合わせ、何やら小声でああでもないこうでもないと話している。
どうした? 俺の訊き方がおかしかったのか?
俺が若干苛つき始めたのを敏感に察して、一年生のひとりがおずおずと手を挙げた。
「日下部を知ってるのか?」
「あ、あの……多分ですけど、日下部って奴は一年でひとりだけだと思います」
「そうか。じゃあそいつだろう。もうすぐ全校集会があるから、そいつが来たら教えてくれ」
「く、櫛木先輩、……その日下部に何かあるんですか?」
「ああ?」
「ひっ!」
日下部に対する怒りから、無関係なこいつを脅かしてしまった。反省しよう。
だがこいつが気になるのはもっともだろう。俺が日下部に喧嘩を売るか、焼き入れでもすると考えてるに違いない。
「ああ、悪い。ちょっと顔貸してもらいたいだけだ。その日下部ってやつに」
「は、はぁ……」
何だ? 歯切れが悪いな。また一年生同士で、「おい、本当にあの日下部か?」「でも、なんで……」「それ、……あれじゃねぇのか?」「やっぱ、そうなのか? アイツ顔いいからな……」などと小声で話している。
何だ、違う日下部だと思っているのか?
「俺が探してるのは日下部晶って奴だ。その日下部じゃないのか?」
「あ、そ、そうです! 間違いないです……俺同小だったんで、晶って名前ならアイツのことです!」
何だ。合ってたのか。ようし、日下部とご対面といくか。
俺たちが話している間に、校庭にはちらほらと生徒が集まりだしていた。俺と櫛木グループは食い入るように、その光景を眺めていた。
十分後、一年生が校庭指さしながら俺に伝えてくる。
「櫛木先輩! アイツです! アイツが日下部晶です!」
「ん、どいつだ?」
一年生が示した先には同じ一年生の女子集団だ。四人グループか。一番手前の子なんか、ちょっと可愛いじゃないか。
その向こうには男子がいるな。二人組か。さて、どっちだ?
「おい、二人いるな。右か左どっちが日下部だ」
俺が怒っていると思ったのか、一年生は大声で日下部を呼んだ。
「おおい! 日下部ー! ちょっといいかー?」
馬鹿デカい声出しやがって!
俺は片手で耳を押さえながら、さっきの方向を見た。すると、ひとりの生徒がこっちを見て怪訝な表情で言った。
「何?」
返事をした一年生はスカートを履いていた。
……え!?
さっきの四人グループの一番手前にいた、俺が「ちょっと可愛いじゃないか」と思ってしまった女子だったのだ。
「おい、あれが日下部晶か?」
「あ、はい。そうです! おーい、日下部ー! 先輩が話があるってよー!」
一年生は俺に気を利かして、日下部を手招きして呼んだ。
日下部はヤンキー集団に動じた様子もなく、女子集団に何やら声をかけてから怪訝な顔で小走りでやってきた。
背は俺より十センチほど低いから、百五十センチぐらいだろうか。黒髪のストレートボブが似合っている。そして日下部は俺たちを一瞥すると、自分を呼んだ一年生に訊いた。
「何? 全校生徒が集まってるのに、恥ずかしいから大きな声で呼ばないでよ」
「へっ。ごめんごめん。この学校をシメてる櫛木先輩が日下部に話があるって言うからよ」
「え……く、櫛木……!?」
俺の名前を訊いた日下部が、驚いた顔で一歩下がった。
金髪ピアスは何を勘違いしたのか、「じゃ、俺らはもう行くんで、あとはお二人で楽しんでくださいッス」と言って櫛木グループを引き連れてその場から移動する。
一年生は「俺、ちょっと狙ってたんだよな……」と、俺たちを振り返りながらつぶやいていた。隣の一年生は「櫛木先輩の女はマズいだろ」などと妄言を吐いている。
「あ、あの……」
「ん……?」
クソ……金髪ピアスのせいで、この子に誤解させてしまったな。
と言うか、この子がマイちゃんの教えてくれた日下部晶なのか? ホントに……?
日下部は上目遣いに俺を見て、緊張しているのか胸を押さえながら言う。
「櫛木って名前……。もしかして、菜月ちゃんのお兄さんですか?」
「ああ、そうだけど。菜月を知ってるの?」
「もちろんです。この間まで同じ小学校に通ってました。菜月ちゃん……凄く可愛いですよね」
なんてこった。日下部晶は女の子だった。
それから俺たちは他愛もない会話を交して、最後に日下部は俺に一礼すると女子グループに戻って行った。
背後に視線を感じて振り返ると、十メートルほど後方に櫛木グループがニヤニヤして立っていた。俺が睨むと金髪ピアスが「お前ら、もう全校集会が始まるぞ! クラスに戻れ!」と慌てて解散した。
アイツらの誤解もあとで解かないといけないな……。
俺のこの何だかやり切れない気持ちをどうしてくれるっ!
そう言えば、最近の俺は【四大元素】の手応えをヒシヒシと感じていた。今日はある訓練を行うことにしよう。
この気持ちを【四大元素】で発散しよう。
俺は【四大元素】を練る。今から行うトレーニングは絶妙なコントロールを要する。いい訓練になるぞ。俺は自分に言い聞かせる。
うんうん。
「今だ!」
誰にも聞こえない声でつぶやくと、俺の【四大元素】は校庭中を縦横無尽に駆け巡る。
優しい風が俺の頬を撫でた。
次の瞬間。
ふわっ。
「きゃっ!」
「え、嘘!」
「いやんっ!」
「きゃああっ!」
全校集会中に起きた一陣の風。それは少女たちのスカートを捲り上げた。すなわち、パンチラである。
女子の悲鳴と俺の眼前に拡がるお尻たち。色とりどりのパンツが俺の目を癒やしてくれるのがわかる。
おはようございます、お尻さん。
俺は二度三度、無言で頷いた。
男子には一切影響を与えず、女子のスカートの下からのみ【四大元素】が作用するようにしたのだ。
俺の【四大元素】はここまで育ちました。
P.S.休み時間に椎名先輩に呼び出された俺は、こっぴどく叱られた。
新入生が入ってきたが、その中に【異能】はいないと蘭子さんからは訊いている。
ヤンキーの大石は卒業し、自動的に大石グループは完全に俺に引き継がれた。今日も今日とて校内では、俺の後ろをゾロゾロと五人のヤンキーがついてくる。
これは新入生が俺を不良と勘違いする前に何とかしなければ……。
今も同じ学年の男子が数人避けていった。
「おい」
「な、何スか、櫛木さん?」
代表で返事をしたのは、去年俺の教室に乗り込んで来た奴だ。髪は金髪でピアスをしている。以前はタバコ臭い息を吐いていたが、俺が止めろと言ってからはそんな臭いはしなくなった。少なくとも俺の前では吸っていないだろう。良いことだ。
「お前ら校内でいちいち俺についてくるな。体育館裏のたまり場で、お前らだけで集まってりゃいいだろ?」
「え、そりゃないっス。俺ら櫛木さんのグループなんで。昼休みに一年のスーパールーキーを迎えに行くんでお願いしまっス。」
この集団は大石グループから代替わりして、恥ずかしいことに櫛木グループなどと呼ばれていた。
しかも昼休みに新入生の何とかって奴を勧誘しに行くんだそうだ。何でもたった一週間で一年生をシメた喧嘩の強い奴がいるらしい。興味はないが。
俺は舌打ちしつつ、
「それがウザいから、俺が呼んだ時だけ来てくれ」
「そ、そんな!?」
「わかったな?」
「「「「「はいっつ!」」」」」
俺の恫喝で蜘蛛の子を散らすように、櫛木グループは散り散りに去って行った。
俺がアイツらを呼び出すことはないだろう。あるとしたら、アイツらが悪さをして躾が必要な時だけだ。
俺は大きなため息を吐いた。
◇ ◇ ◇
一週間ほど経ったある日、俺はマイちゃんから貴重な情報を入手した。
その日、俺が御伽原探偵事務所に寄ってから家に帰ると、マイちゃんが遊びに来ていた。
三人でお菓子を食べながらリビングで楽しくTVゲームをしていると、マイちゃんが不意に漏らしたのだ。
「お兄さん知ってるー?」
「え、何が?」
「前になっちゃんが六年生から告白された話だよ」
「あ、ああ……。そんなこともあったらしいな」
すっかり忘れていた話を思い出してしまった。そう言うロリコン野郎がいたという事実を。
「マイちゃん、別にお兄ちゃんに言わなくてもいいよぅ」
「だって……お兄さん知りたがってるよ?」
ん、菜月が嫌がっている? ふむ、気になるな。
マイちゃんは俺に教えたそうにしているが、菜月が止めるので躊躇していた。だが、菜月も本気で嫌がってはいないようだった。
お兄ちゃんは興味津々です。
「マイちゃん。詳しく話しなさい」
「さっすがシスコンのお兄さん! そうこなくっちゃ!」
「う、……うん? シスコンでなくても気になるよ。家族だからね……うん、そう家族だから」
「じー」
マイちゃんの視線が痛い。お願い、もう止めて。
「……こほん。それで、その六年生がどうしたの? まさか菜月に再アタックでもしたのかい?」
「えっ!? お兄さん、なんでわかったの!?」
「……マジか!?」
「もう、マイちゃんったら。お兄ちゃん、ちゃんと断ったからね。だってあんまり話したこともないし、それに……」
菜月は「もー」と言いながら、マイちゃんに抱きついた。マイちゃんは楽しそうにケラケラと笑っている。
なんてこった。
ちょっと待て。六年生だったその子は、この四月から中学生になったはずだよな? 中一が小四に告ったのか。兄としては許せねえな。
俺の耳に追加の情報が入る。
「なっちゃんに告白してたあの六年生。お兄さんと同じ中学に入ったの知ってる?」
「なん……だと?」
◇ ◇ ◇
翌日、俺は校庭で行われる全校集会に、誰よりも早く校庭に一番乗りしていた。
菜月に告白したというクソガキの顔を拝むためだ。
名前は日下部晶と言うらしい。マイちゃんの話では小学校では人気があったそうだ。ふん、小学校で人気があったからと言って、中学でも人気者になれると思うなよ。
と言っても名前しか知らないし、どうするかな。
「……あれ?」
俺の次に校庭に顔を出したのは、櫛木グループの面々だった。俺の知らない間に数が増えて五人から、一気に倍の十人になっている。新しいメンバーは知らない顔だったので、一年生が五人も増えたのか。
それにしても全校集会にちゃんと参加するなんて、殊勝な奴らだ。いや、俺が参加しろって言ったんだったか。
俺はポケットに手を入れたまま、櫛木グループに近づいて行った。
「あ、櫛木さん! おはようございます! おい、お前ら櫛木さんに挨拶しろっ!」
金髪ピアスに怒鳴られて、新しく入った一年生が五人の内四人が俺に頭を下げて口々に挨拶と自己紹介をする。どこどこの小学校出身で、武勇伝がああだこうだと、どうでもいい話を三分ほど聞き流していると、ひとりだけ俺に挨拶をしなかった一年生が突っかかってきた。
「先輩、この二年の櫛木って人、ホントに強いんですか? 小学校で名前も訊いたことないんですけどぉ?」
「お、おい! 止めろ馬鹿っ!」
「殺されるぞっ!」
いや、殺すわけないだろう。ったく、こいつらは……。
金髪ピアスを含む何人かが慌ててその一年生を止めようとするが、そいつは俺の胸ぐらを掴んできた。
「櫛木さん、さーせんっ! こいつが一年のスーパールー……」
「離せ。いきなり、これはないだろう」
俺は金髪ピアスに被せ気味に言うと、ポケットに手を入れたまま眼光でその一年生を威圧した。まあ【四大元素】を少し利用したが。
「うっ……!? え……!?」
俺から放たれるプレッシャーに――【四大元素】含む――気圧された一年生は、その場にペタンと尻餅をついた。どうやら腰を抜かしてしまったようだ。
パチパチパチパチ。
櫛木グループの二年と三年の五人は俺の勝利を称えるかのように、背筋を伸ばしてかしこまって拍手をしている。
恥ずかしいから止めてくれ。
ん? そうだ、この一年生たちから日下部を教えてもらえばいいのか。
「おい一年生、ちょっと訊きたいことがあるんだけど。いいか?」
「「「「「は、はいっ!」」」」」
一年生が五人揃って返事をする。俺はものの数分で一年生を掌握してしまったようだ。
「一年生に日下部って奴はいるか?」
一年生が互いに顔を見合わせ、何やら小声でああでもないこうでもないと話している。
どうした? 俺の訊き方がおかしかったのか?
俺が若干苛つき始めたのを敏感に察して、一年生のひとりがおずおずと手を挙げた。
「日下部を知ってるのか?」
「あ、あの……多分ですけど、日下部って奴は一年でひとりだけだと思います」
「そうか。じゃあそいつだろう。もうすぐ全校集会があるから、そいつが来たら教えてくれ」
「く、櫛木先輩、……その日下部に何かあるんですか?」
「ああ?」
「ひっ!」
日下部に対する怒りから、無関係なこいつを脅かしてしまった。反省しよう。
だがこいつが気になるのはもっともだろう。俺が日下部に喧嘩を売るか、焼き入れでもすると考えてるに違いない。
「ああ、悪い。ちょっと顔貸してもらいたいだけだ。その日下部ってやつに」
「は、はぁ……」
何だ? 歯切れが悪いな。また一年生同士で、「おい、本当にあの日下部か?」「でも、なんで……」「それ、……あれじゃねぇのか?」「やっぱ、そうなのか? アイツ顔いいからな……」などと小声で話している。
何だ、違う日下部だと思っているのか?
「俺が探してるのは日下部晶って奴だ。その日下部じゃないのか?」
「あ、そ、そうです! 間違いないです……俺同小だったんで、晶って名前ならアイツのことです!」
何だ。合ってたのか。ようし、日下部とご対面といくか。
俺たちが話している間に、校庭にはちらほらと生徒が集まりだしていた。俺と櫛木グループは食い入るように、その光景を眺めていた。
十分後、一年生が校庭指さしながら俺に伝えてくる。
「櫛木先輩! アイツです! アイツが日下部晶です!」
「ん、どいつだ?」
一年生が示した先には同じ一年生の女子集団だ。四人グループか。一番手前の子なんか、ちょっと可愛いじゃないか。
その向こうには男子がいるな。二人組か。さて、どっちだ?
「おい、二人いるな。右か左どっちが日下部だ」
俺が怒っていると思ったのか、一年生は大声で日下部を呼んだ。
「おおい! 日下部ー! ちょっといいかー?」
馬鹿デカい声出しやがって!
俺は片手で耳を押さえながら、さっきの方向を見た。すると、ひとりの生徒がこっちを見て怪訝な表情で言った。
「何?」
返事をした一年生はスカートを履いていた。
……え!?
さっきの四人グループの一番手前にいた、俺が「ちょっと可愛いじゃないか」と思ってしまった女子だったのだ。
「おい、あれが日下部晶か?」
「あ、はい。そうです! おーい、日下部ー! 先輩が話があるってよー!」
一年生は俺に気を利かして、日下部を手招きして呼んだ。
日下部はヤンキー集団に動じた様子もなく、女子集団に何やら声をかけてから怪訝な顔で小走りでやってきた。
背は俺より十センチほど低いから、百五十センチぐらいだろうか。黒髪のストレートボブが似合っている。そして日下部は俺たちを一瞥すると、自分を呼んだ一年生に訊いた。
「何? 全校生徒が集まってるのに、恥ずかしいから大きな声で呼ばないでよ」
「へっ。ごめんごめん。この学校をシメてる櫛木先輩が日下部に話があるって言うからよ」
「え……く、櫛木……!?」
俺の名前を訊いた日下部が、驚いた顔で一歩下がった。
金髪ピアスは何を勘違いしたのか、「じゃ、俺らはもう行くんで、あとはお二人で楽しんでくださいッス」と言って櫛木グループを引き連れてその場から移動する。
一年生は「俺、ちょっと狙ってたんだよな……」と、俺たちを振り返りながらつぶやいていた。隣の一年生は「櫛木先輩の女はマズいだろ」などと妄言を吐いている。
「あ、あの……」
「ん……?」
クソ……金髪ピアスのせいで、この子に誤解させてしまったな。
と言うか、この子がマイちゃんの教えてくれた日下部晶なのか? ホントに……?
日下部は上目遣いに俺を見て、緊張しているのか胸を押さえながら言う。
「櫛木って名前……。もしかして、菜月ちゃんのお兄さんですか?」
「ああ、そうだけど。菜月を知ってるの?」
「もちろんです。この間まで同じ小学校に通ってました。菜月ちゃん……凄く可愛いですよね」
なんてこった。日下部晶は女の子だった。
それから俺たちは他愛もない会話を交して、最後に日下部は俺に一礼すると女子グループに戻って行った。
背後に視線を感じて振り返ると、十メートルほど後方に櫛木グループがニヤニヤして立っていた。俺が睨むと金髪ピアスが「お前ら、もう全校集会が始まるぞ! クラスに戻れ!」と慌てて解散した。
アイツらの誤解もあとで解かないといけないな……。
俺のこの何だかやり切れない気持ちをどうしてくれるっ!
そう言えば、最近の俺は【四大元素】の手応えをヒシヒシと感じていた。今日はある訓練を行うことにしよう。
この気持ちを【四大元素】で発散しよう。
俺は【四大元素】を練る。今から行うトレーニングは絶妙なコントロールを要する。いい訓練になるぞ。俺は自分に言い聞かせる。
うんうん。
「今だ!」
誰にも聞こえない声でつぶやくと、俺の【四大元素】は校庭中を縦横無尽に駆け巡る。
優しい風が俺の頬を撫でた。
次の瞬間。
ふわっ。
「きゃっ!」
「え、嘘!」
「いやんっ!」
「きゃああっ!」
全校集会中に起きた一陣の風。それは少女たちのスカートを捲り上げた。すなわち、パンチラである。
女子の悲鳴と俺の眼前に拡がるお尻たち。色とりどりのパンツが俺の目を癒やしてくれるのがわかる。
おはようございます、お尻さん。
俺は二度三度、無言で頷いた。
男子には一切影響を与えず、女子のスカートの下からのみ【四大元素】が作用するようにしたのだ。
俺の【四大元素】はここまで育ちました。
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ぐうのすけ
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『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
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