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第1章 「俺の【四大元素】編」(俺が中一で妹が小三編)

第28話 俺の伯父さんは凄い

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 伯父さんの許可が下りて、俺と菜月は組織への入会を果たした。
 ある程度【四大元素】を使いこなせていた俺たちは、簡単に初心者講習を終えていた。
 指導してくれたのは二十代後半の女性教官だった。
 いかにも体育会女子という感じの見た目で気さくなお姉さんだったので、俺も話しやすかったし菜月も懐いていた。
 しかもあの訓練着を着用してだから、目の保養にもなった。
 将来は訓練施設の教官にでもなろうかな。

 そして十二月三十日。
 昨日で仕事納めだった父さんと母さんが自宅にいるので、俺と菜月は御伽原探偵事務所に行くことができず、しばらく放置していた宿題に取りかかっていた。
 菜月は少しずつやっていたのでそんなに溜まっていなかったが、俺のほうはほとんど手つかずだ。
 母さんの機嫌を損ねる前に、あえてリビングで菜月と宿題をしてアピールしておこう。
 目を離すと菜月が癖で【四大元素】でドリルのページをめくったりするので、俺は冷や冷やしながら宿題を進めていた。

  リビングではTVからニュースが流れていた。
 強風に煽られた商店の看板が人にぶつかって大怪我したとかいうニュース。台風が近づいているわけでもないのに、自然って恐いななどと考えたりする。
 まあ、それ以上は興味はないし、番組も天気予報に切り替わったので一応今日の天気を確認しておく。

 そう言えば、御伽原探偵事務所の残るひとり、星川さんだっけか? にはまだ会えてなかった。どんな人なんだろう。
 みんな個性が強い人ばかりなので、気になるなぁ……。
 宿題進めて午後からは菜月と遊びに行くついでに、探偵事務所に顔を出してみようか。
 俺はそう考えて、英語の問題集に取りかかった。


    ◇ ◇ ◇


 午後二時、御伽原探偵事務所。
 俺と菜月はソファに並んで座り、椎名先輩の淹れてくれた温かいココアを飲んでいた。
 ローテーブルに置かれた皿には、クッキーが乗っている。
 対面のソファにはマイちゃんがいて、ココアを片手に美味しそうにクッキーに齧りついていた。

 蘭子さんと先輩は自分の机でPC作業をしている。
 今日は珍しく葛葉さんも出勤していたが、自分の席に座って机に脚を乗せながら本を読んでいた。漫画雑誌かと思いきや、まともなビジネス書だった。
 蘭子さんはタバコをスパスパ吸っているが、他方葛葉さんはタバコを吸わない。
 見た目に反して読書といい意外だった。

 そんな時、ドタドタと階段を駆け上がる足音が聞こえ、あわや敵襲かとみんな身構えたがドアを勢いよく開けて入って来たのは伯父さんだった。

「おい! エレベーターいつになったら直るんだよ! この年で五階まで上がるのはキツいんだよ……」
「なんやオッサンかい。敵かと思たわ」
「いやー、急に自宅のPCがお陀仏したから、ここで作業することにした」

 伯父さんは葛葉さんをちらりと見てから、蘭子さんの斜め前の席に座る。どうやら伯父さんの机のようだ。ちなみに隣の席は葛葉さんだ。
 席に着くなり伯父さんはPCを起動させると、キーを素早く叩き始めた。

「オッサン、それなんやねん?」
「市内の監視カメラの映像だ」
「それは見たらわかるんやけど、なんや……自転車探してるんか?」
「そうだよ。監視カメラに俺の自転車が映ってないかチェックしてるんだ。ああ……やはり市の職員に撤去されていたようだ。時間は……午後二時十七分。クソっ! 俺が駐輪して五分後じゃないか!」
「あんな往来に堂々と駐輪してたら、持って行かれて当然だろう。そんなことを調べるためにここに来たのか?」

 伯父さんは昨日なくなった愛車のママチャリ――伯父さんの店で以前バイトしていた利香という女性が辞める時に置いていった――を探していただけだった。
 しかも市内の監視カメラの記録を確認するという、無駄に高いスキルを発揮していた。

 伯父さんは悪びれる様子もなく、キーを叩き続ける。
 そして一息ついて、口を開いた。

「でも、隼人と菜月がいて丁度良かったよ」
「え? 藪から棒に、どうしたの?」

 俺は伯父さんの言葉の意味が理解できなかった。
 なおも伯父さんはカチャカチャとキーボードを操作したまま、PC画面を見ながら頷いている。

「初心者講習の成績を見たけど、近年まれに見る好成績だな。流石俺の甥っ子、姪っ子だ。自慢じゃないが、菜月と戦っても負ける自信がある」
「…………」

 俺はジト目で伯父さんを見る。
 いや……ドヤ顔で言われてもな。
 小学生の菜月に負けるって、どんだけ弱いんだよ伯父さん。
 俺が残念な顔で伯父さんを見ているのに蘭子さんが気づいて、伯父さんをフォローする。

「隼人、伯父さんをバカにしてやるな。戦闘能力は皆無だが、これでも【異能】研究者としては一流だ。実際、組織内での地位はあたしより上だ」
「え!? ……マジですか?」

 俺が驚いていると伯父さんは気を良くしたのか、キーボードから手を離して腕を組んだ。

「これは自慢なんだが、訓練施設で着用している訓練着を開発したのは俺だ。動きやすく柔軟な素材であって、体の負荷も軽減してくれるし、訓練後に疲労を残さないという非常に画期的な発明だった」

 なんだって!? あのちょっとエッチなスー……訓練着を開発したのは、伯父さんだったのか!? でも、少し納得。
 自信満々に語る伯父さんを、隣で本を読んでいた葛葉さんが鼻で笑う。

「オッサン、ええように言うたなー。あれは当時、女子高生やったランちゃんに着せるために作ったんやろが」
「うっ……。葛葉、余計なことをっ……!」

 最低だよ、伯父さん……。

「とにかく! 動機はどうあれ訓練着を開発した俺は、組織内での地位も上がり長老から特別報酬までもらったのだ」
「へぇ……、特別報酬は初耳や。金か? なんぼ?」
「一千万。長老のポケットマネーだ」
「一千万!? ホンマか!?」

 す、凄い……! 伯父さんはあの長老から一千万円もらったの……!?
 葛葉さんは興味津々な様子で、読んでいた本を閉じると体を伯父さんのほうへ向けた。
 組織の人ってみんなお金持ってるのかな?
 葛葉さんも高級車乗ってるし、蘭子さんが着てるスーツやコートも高そうだしな……。

「訓練着が完成して一番喜んでたのは長老だ。完成品の試着と称して、この男と長老に舐めるように視姦されたんだ」
「人聞きが悪いぞ、御伽原。最前線で【逆徒】相手に体を張ってるお前のことを想って、俺が寝る間も惜しんで開発したんだぞ」
「長老と一緒にいやらしいこと考えてたんやろ? オッサンと長老て、上下関係の枠越えて妙に仲ええもんなぁ」
「お前も失礼な奴だな。素直に俺の才能が認められないのか? これだから脳筋は……」
「あ? どついたろか?」
「暴力反対!」

 葛葉さんが殴るフリをして拳骨を振り上げると、伯父さんは両手を前に出して抗議している。
 それを見て蘭子さんが呆れたように笑い、タバコの紫煙をくゆらせる。
 眺めているとまるでコントみたいだ。
 なんだか三人とも楽しそうだ。
 しばらくそんな感じで会話が続いたあと、ふいに伯父さんがPC画面を見て言った。

「御伽原、仕事だ。窃盗事件で警察が動いているが、容疑者の確保までは至っていない」
「容疑者は【異能】か?」
「ああ、そうだ。立った今【逆徒】指定されたようだ。銀行のATMが破壊されて現金が盗まれた。防犯カメラの映像から容疑者はすぐに特定されるだろう。その前にこちらで組織の警告だけは入れなければならない」
「居場所はわかっているのか?」
「ここだ」

 伯父さんは自分のPC画面を見るように手招きし、蘭子さんはタバコを咥えたまま席を立った。
 俺の位置からではPC画面はおろか、蘭子さんの表情さえ見えない。

「どうしてここに? 関係者か?」
「ここの教師だ。対象の【逆徒】のランクはE級だ。どうする?」
「どうするも何も、わかっててこの仕事を持ち込んだな?」

 伯父さんと蘭子さんが、同時に俺のほうを見た。

「……え!? 俺……ですか?」
「相手は【異能】を窃盗に使うような輩だ。ランクもE級だし危険はないだろう」
「俺もそう思う。俺の調べた限りじゃ戦闘向きじゃない」
「なんや、坊主の初仕事か!」

 俺と菜月の初仕事が、本人の返事を待たずに決定していた。
 そして、指定された場所は俺の通っている中学だった。
 対象の【逆徒】はATMからの現金強奪犯だ。
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