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第1章 「俺の【四大元素】編」(俺が中一で妹が小三編)

第19話 俺を誘惑するのは誰だ?

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 椎名先輩は顔を紅潮させ恥じらいながらも、スカートの端を掴むとたくし上げていく。
 俺はそんな先輩を前に一歩も動けずに、生唾を飲み込んだ。

「櫛木くんが黒がいいって言うから……だよ?」

 あと少しで見えるというところで場面は切り替わる。
 現れたのは蘭子さんだ。
 蘭子さんは探偵事務所の所長机に手をついて片膝を乗せ、俺のほうにお尻を向けている。

「おっぱいより、お尻のほうがいいんだろ?」

 蘭子さんが俺を挑発するように艶めかしく微笑むと、その姿は次第にぼやけていき消えてしまった。
 俺は手を伸ばすが、その手が虚しく空を切る。
 場面は変わって登場したのは菜月とマイちゃんだった。

「もう、お兄ちゃん! プール行くって約束したでしょ!」
「にゃはは! お兄さーん! 早く早くぅ!」

 俺の両腕を菜月とマイちゃんがそれぞれ引っ張って、目の前のプールに誘導する。
 もちろん二人ともスクール水着だ。
 だがプールに辿り着く前に、場面は暗転する。
 学校の校庭に立っている俺の前には椎名先輩が再登場していた。
 さっきの表情とは一転して、軽蔑するような目で俺を睨みつける。

「マイのお尻触ったんですって? このロリコン!」
「いや! 違うんです! 待って下さい先輩っ!」

 ピロリロリロリロリロリロリロ……

 俺の手がけたたましく目覚まし時計のアラームを止める。
 眠気まなこを擦りながら、俺は大きな欠伸をする。
 カーテンの隙間からは朝の日差しが差し込んでいる。
 朝の冷え込みに身体を震わせると、もう一度頭から布団を被り目を瞑る。
 二度寝で夢の続きをみられますように。神様お願いします…………。あと、最後のはナシで!
 五分後。

「だあああっ! というか、やっぱり夢かよ!」

 この時の俺は、のちに彼女たちが俺のハーレムを形成するための重要なファクターだと知る由もなかった……なんてね。
 俺はリビングに下りて行き、いつもどおり母さんの用意した朝食に手を伸ばすと、

「ちょっと隼人。コートの袖がどうして焦げてるの? もうこれ着れないじゃない」
「あ……ごめん」

 コートをリビングに脱ぎっぱなしで忘れていた。
 母さんも昨日は見落としていたようだ。
 あれやこれやと詮索されたが、本当のことを正直に話すわけにはいかず、気づかなかったで終始通した。
 俺が新聞を読みながら朝食を食べている間も、ずっとコートの話を繰り返していた。

 昨日と同じ時間に菜月が起きてきて、朝食を食べるのを見守る日課を終えた。

「お兄ちゃん……」
「ん?」

 菜月が俺の足にしがみつく。
 昨日の変質者(俺の自演)が相当応えたらしい。トラウマにならなきゃいいが……。

「大丈夫だよ。昨日の変態は俺がやっつけたからな! もう安心だ! にぃ!」
「……わかった。早く帰ってきてね」
「用事が済んだらすっ飛んで帰ってくるから、またゲームして遊ぼうな!」
「うん」

 菜月の頭を撫でてやる。
 俺は戸締まりをきちんとするように菜月に教えて、自転車に跨がりまずは叔父さんの店へと向かった。


    ◇ ◇ ◇


 店はシャッターが下りていて営業している様子はない。
 シャッターに手をかけて鍵がかかってないことを確認すると、俺はシャッターをゆっくり押し上げて店内に入る。
 照明は消えていて、店内は薄暗い。外からの光を頼りに俺はカウンターまで歩いて行く。
 物音すらしない。耳を澄ましても聞こえてくるのは、外を走る車の音やスマホで電話しながら行き交う通行人の声だけだ。
 俺はカウンター越しに、二階の住居へと繋がる階段に向けて叔父さんに呼びかけた。

「叔父さーん! いるー?」

 返事はない。
 俺は脳裏に最悪の状況を想像してしまう。あの【増幅者】のお姉さんに無残に焼かれ、焼死体となった叔父さんの姿だ。
 俺はカウンターに足をかけて飛び越えると、一気に階段を駆け上がった。

「叔父さん! どうか無事でいてくれっ!」

 勢いよくドアを開け放った俺は、ガツンと衝撃を受けた。
 事務所として使っていた部屋には誰もいない。その奥の部屋はドアが開いていて、ベッドに座る叔父さんが見えた。その手には女性用のパンティが握られていた。

「叔父さん?」
「あ……隼人か。もうそんな時間か……」
「何かあったの?」

 叔父さんは俺のほうを見ない。
 くしゃくしゃにしたパンティを両手に握りしめて、ずっと見つめている。
 目にはうっすらと涙さえ浮かべていた。

「昨日俺を面接してくれたお姉さんは?」
「う、うううっ……」
「え!?」

 急に何だよ!?
 あろうことか叔父さんは大粒の涙を流して、俺がいるにも関わらず号泣し始めた。
 涙でぐしゃぐしゃになった顔を、真っ赤なパンティで拭いている。
 俺は叔父さんの肩に手をおいて、無言で頷いた。

「あの女……俺の貯金持って逃げやがった! くそっ!」
「はい?」

 叔父さんは壁にパンティを叩きつけると、舌打ちしてパンティを拾いにいった。
 拾うのかよっ! 俺はその場で軽く目眩を覚えた。

「お金持ち逃げされたんだ……いくら?」
「現金で持ってた二百万。今朝起きたらなくなってた」

 俺は部屋に散乱するいかがわしき物品を目に留めて、深く息を吐いた。
 叔父さんも十分楽しんだみたいだし、いい夢を見させてもらったと思って反省すればいいだろう。

「叔父さん。とりあえずパンツ履きなよ。風邪引くからさ」
「あ、すまん……」

 叔父さんは自分の下半身が露出していることに、今さら気づいたようで手に持ったパンティに右足を通そうと……。

「いや、自分のパンツ履いて」

 俺は無表情で注意した。

「大丈夫。叔父さんならこの先ひとりでも十分やっていけるよ」
「くっ……! お前まで……この先ひとりでって。お前までいい年こいて独身の俺をバカにするのかよ。まるでお前の母さんみたいだな」
「叔父さんと母さんって、いくつ離れてたっけ?」
「うん? 四つだよ。丁度、隼人と菜月と同じだな」
「あ……そう」
「子どもの頃は随分可愛がってやったのに、アイツめ! ははは」

 はははじゃねえよ。俺の未来予想図悲惨過ぎるだろ。そうなったら別の世界線に行くしかないな。
 叔父さんは切り替えが早かった。すっかり気を取り直した叔父さんは、早速スマホを取り出しどこかへ電話する。
 相手はすぐに電話に出たみたいで、「店でバイトしないか」と気さくに話している。
 電話相手の声が漏れ聞こえる。女性の声だ。
 しばらく黙って見ていたが、会話は途切れるどころか盛り上がり始め、俺は諦めて首を横に振って店を出た。

 叔父さんは大丈夫そうだな……。
 【増幅者】のお姉さんは行方をくらませたか……。

「とりあえず、蘭子さんの事務所に行くか」

 俺は自転車に跨がり、ペダルに足をかけた。
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