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第1章 「俺の【四大元素】編」(俺が中一で妹が小三編)
第17話 俺は【四大元素】でいく
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嫌な空気だ。
沈黙が場の空気を支配する。
その沈黙を破ったのは椎名先輩だった。
「やっと思い出したんだ」
「いや……思い出したというより、今気づいた……が正しいですね」
「私があの時、救急車を呼んだんだよ」
「ええっ!?」
「深夜に蘭子さんから電話がかかってきたと思ったら、第一声が『救急車を呼べ!』なんだもの。びっくりしちゃった」
椎名先輩は顎に手をあてて、あの夜の記憶を辿っているようだ。
でも目の前の蘭子さんがあの女なら、この人はあの時、男の目にナイフを突き刺したんだぞ。
それって、めっちゃヤバい奴じゃねーか……!?
相手の男を殺す気だったんだろうか?
「【異能】のことはわかったか?」
はい? 今の説明で?
「ぜんっっぜんっ、わかりませんよ」
蘭子さんは小さくため息をついた。
「あれがその【異能】だって言うんですか!?」
「そうだ」
「あんなの……」
あれは……殺人じゃないか……。
俺は言いかけて口ごもった。
言っていいのか? 椎名先輩に聞かせてもいいのだろうか? あのことを。蘭子さんは人を殺そうとしてたんだぞ! 目を刺したんだぞ? 相手はもう死んでいるかもしれない……。
「どうした? 言いたいことがあるなら遠慮せずに言ってみろ」
俺はちらりと椎名先輩を見た。
それに気づいたのか先輩は頷いた。先輩はどこまで知っているんだろう?
「大丈夫だよ。私は蘭子さんの【異能】を知っているから、何を訊いても驚かないわ」
いや、【四大元素】のことを言いたいんじゃない。蘭子さんは人を……。
俺が言い淀んでいると、蘭子さんは何でもない風にあっさり白状した。
「あたしがあの男の目をナイフで抉ったことを気にしているのか? だったら気兼ねなんかしなくてもいい」
俺の心の中の葛藤を見抜いたかのように、蘭子さんは腕を組みながら告げる。
「えっ!?」
声を上げたのは椎名先輩だ。
先輩は驚いたように目を見開いている。
そりゃあ驚くだろうな。自分と親しい人間がそんなことをしていたら……。
だが先輩は俺の予想だにしない反応を見せた。
「そんな報告、私訊いていませんよ! 蘭子さん何してたんですか!?」
「千尋には説明したはずだけどな。言ったろ? 【異能】と遭遇したと」
椎名先輩は「まさか!?」と思い出したように手を打った。
「あの、火の家系の【異能】ですか?」
「そうだ。櫛木くんは目撃してしまった。あたしとあの男との戦い……いや、殺し合いをな。それで、あたしを訝しんでいるんだろう? 違うか?」
……殺し合いっだって!? 何を言ってるんだ!?
蘭子さんは淡々と話を続ける。
「そ、そうですよ。あんなの見たら誰だって……」
「ああでもしなければ、あたしが殺されていただろうな。それにきみも見たろ? あれぐらいじゃ死にやしない。詳しく説明すると……」
蘭子さんが言うにはこうだ。
ナイフを突き刺す直前に、男は【四大元素】を使ってナイフに細工をしたか、身体の防御をしたらしい。
何故なら男の目には確実にナイフが突き刺さっていた。蘭子さんの手には、眼球を貫いた確かな感触があったようだ。
だけど普通ああも深く刺されば、ナイフは脳幹まで達する。つまり死ぬ。
しかし男は生きていた。
「話が逸れてしまったな。これは一旦置いといて本題に戻そう。きみには【異能】があって、あたしはきみに【異能】を見せたことがある」
「俺に……ですか?」
「そうだ。あの時あたしはきみの存在に気がつかずに、戦いに巻き込んでしまった。その結果きみは大怪我をした」
「あの瞬間、俺は血を噴きだして……ホントに死ぬかと……」
「だからあたしはきみに応急処置を施したした。【異能】を使わなければ、死体になっていたのはきみだ」
なっ……!? 俺は蘭子さんの【四大元素】で命を救われていた……?
俺は動揺を隠せなかった。
膝の上で固く握られた拳が小刻みに震えているのがわかる。
震える俺を椎名先輩が優しく手で包み込んでくれた。
いつもなら喜ぶところだが、あの夜に俺は死んでいたかもしれないと考えると憂鬱になる。
それでも先輩の手の温もりは、俺の抱える不安を多少は紛らわせる効果はあった。
「お願いだから、蘭子さんの話を最後まで訊いて。そして櫛木くんに決断して欲しいの」
「……決断?」
ドン!
突然、探偵事務所のドアを何かが叩く音が聞こえた。
蘭子さんが静かに立ち上がる。
椎名先輩は俺の手を握ってくれている。しかしドアの向こうを警戒しているように見える。
俺たちの三人視線はドアに注がれている。
「誰だ? 返事をしないなら敵と見なして攻撃する」
蘭子さんが物騒な発言をして、素早くドアの前まで移動した。
隣に座っていた椎名先輩も、それを見て追いかける。
俺はその場を動けずにいた。首だけはドアのほうに向けている。
何が起こるんだろう……?
ドアノブが回り、ドアがゆっくりと開く。
現れたのは二十歳前後のお姉さんだ。俺と同じぐらいの背丈で、ショートカットの茶髪だった……え!?
あのお姉さんは、さっき俺を面接した叔父さんの彼女(愛人?)の店員じゃないか!?
「こんにちは。突然ですが、邪魔なので死んでもらいますね?」
お姉さんは、とんでもないことを口にした。
どうしてここに!? ちょ、死んでもらうだって!?
動揺する俺とは対照的に、蘭子さんと椎名先輩は険しい表情でお姉さんを睨みつける。
「火村の仲間……いや【増幅者】か?」
「そう私はあの方のためだけに存在するのよ。だから死になさいっ!」
蘭子さんが俺の知らない固有名詞を口走る。
叔父さんの彼女もとい、蘭子さんに【増幅者】と呼ばれたお姉さんは、身を低くしたかと思うと一気に加速し蘭子さんに襲いかかった。
蘭子さんは躱す動きを利用して一回転し、後ろ回し蹴りを放った。
右側頭部に蘭子さんの蹴りを受けた【増幅者】は、一瞬よろめいたあとニメートルほど後ろに跳んだ。
たいしたダメージはないようだ。
「蘭子さん!?」
「千尋動くな。ただの【増幅者】じゃない。この女は火村の【増幅者】だ。しかも相当訓練されてるな」
何が起こってるんだ!? 目の前で突然バトルが始まったぞ!?
蘭子さんの言葉の意味も理解できない。
ただ【増幅者】のお姉さんが悪い奴だというのはわかった。
面接をしてくれた時とは打って変わって、凶悪な面構えだ。目を剥いて、口元を大きく歪めて笑っている。完全にイッてしまった顔だ。
【増幅者】がポケットからライターを取り出して、自らの唇にそっと近づける。
そして、ライターで着火。
途端、【増幅者】が口から火を吹いたように、まるで火炎放射器を思わせる攻撃を放った。
炎は相対する蘭子さんと椎名先輩に、直線的に伸びていく。
危ないっ!? 直撃したら大火傷になる!
「千尋!」
「はいっ!」
蘭子さんは椎名先輩に合図をすると、炎に向かって手をかざした。
先輩も別の動作に移る。
シュウウウウッ!
蘭子さんと椎名先輩は【四大元素】を使ったのか炎を消火していた。
二人で何か連携みたいなことをしたようだが、俺にはさっぱりわからない。
探偵事務所内には炎の臭いが立ちこめている。
「くっ! 【異能】の力が不十分だわ! マイがいれば……!」
「やはり【増幅者】がいなければ【異能】は全開で使えない。敵もそれを狙ってここへ来たんだな。こんな時に限って葛葉も星川もいやしないっ!」
椎名先輩は歯を食いしばって、悔しそうに声を絞り出した。
二人の会話は、もはや俺には意味不明だ。
だけど……今、聞き慣れた名前が……!?
……マイ? マイちゃん!? いや、そんなわけないか……!
それよりも、今は!
「だ、大丈夫ですかっ!?」
俺は二人に叫んだ。
だがその行為は、【増幅者】の気を引いてしまったようだ。
【増幅者】が首を傾けて、俺のほうを見る。
そして、笑った。
「あら? あなたはさっきの……。見られたのなら、殺すしかないわ」
【増幅者】がライターを口元にあてる。あの火炎放射器みたいな攻撃をするのだろう。
しかも、その標的は俺だ。
「櫛木くんっ!」
椎名先輩が俺を助けようと動く。
同時に俺はソファから立ち上がる。
突然の展開に驚いたが、はっきり言って俺の【四大元素】で勝てそうに思える。
俺は胸を張り少し斜にに構えると、右の拳を前に突き出して堂々と宣言する。
「俺は【四大元素】でいく!」
「「「え?」」」
「え?」
俺の決めゼリフに、蘭子さんと椎名先輩、そして【増幅者】までもが困惑した顔でハモった。
うん? 何かマズいことを言ってしまったのだろうか?
「……ああ、【異能】のことか。【四大元素】か……あながち間違いじゃないが、きみ頭は大丈夫か? これが中二病とかいうやつか?」
「いや、俺はこの力のことをずっとそう呼んでるんです。今さら【異能】とか言われてもしっくりこないんですよ」
「確かに【異能】だけじゃなく、他の呼称を使ってる組織もあるけれど……。うん! いいんじゃない? 櫛木くんは【四大元素】で!」
「先輩、何でにやけながら言うんですか? 絶対バカにしてるでしょう?」
命のかかったバトル中に、俺たちは何て間抜けな会話をしているんだろう。
だが、俺の緊張や不安を払拭するには十分だった。
来るなら来い!
【増幅者】は口元でライターを着火した。
炎が俺に向かって迫ってくる。
思ったよりスピードを感じない。
俺はTVで見た格闘家のように、格好良くファイティングポーズをとった。
あの程度の炎なら、俺の【四大元素】で十分防げるっ!
俺の周囲の【風】の流れが変わる。
この【風】の壁がっ! 炎を止め――――
「バカなのか!? 火に風を注ぐなっ!」
「熱っ!? うわっ……火がっ!?」
蘭子さんの叫びも虚しく、俺のコートに火が燃え移った。
沈黙が場の空気を支配する。
その沈黙を破ったのは椎名先輩だった。
「やっと思い出したんだ」
「いや……思い出したというより、今気づいた……が正しいですね」
「私があの時、救急車を呼んだんだよ」
「ええっ!?」
「深夜に蘭子さんから電話がかかってきたと思ったら、第一声が『救急車を呼べ!』なんだもの。びっくりしちゃった」
椎名先輩は顎に手をあてて、あの夜の記憶を辿っているようだ。
でも目の前の蘭子さんがあの女なら、この人はあの時、男の目にナイフを突き刺したんだぞ。
それって、めっちゃヤバい奴じゃねーか……!?
相手の男を殺す気だったんだろうか?
「【異能】のことはわかったか?」
はい? 今の説明で?
「ぜんっっぜんっ、わかりませんよ」
蘭子さんは小さくため息をついた。
「あれがその【異能】だって言うんですか!?」
「そうだ」
「あんなの……」
あれは……殺人じゃないか……。
俺は言いかけて口ごもった。
言っていいのか? 椎名先輩に聞かせてもいいのだろうか? あのことを。蘭子さんは人を殺そうとしてたんだぞ! 目を刺したんだぞ? 相手はもう死んでいるかもしれない……。
「どうした? 言いたいことがあるなら遠慮せずに言ってみろ」
俺はちらりと椎名先輩を見た。
それに気づいたのか先輩は頷いた。先輩はどこまで知っているんだろう?
「大丈夫だよ。私は蘭子さんの【異能】を知っているから、何を訊いても驚かないわ」
いや、【四大元素】のことを言いたいんじゃない。蘭子さんは人を……。
俺が言い淀んでいると、蘭子さんは何でもない風にあっさり白状した。
「あたしがあの男の目をナイフで抉ったことを気にしているのか? だったら気兼ねなんかしなくてもいい」
俺の心の中の葛藤を見抜いたかのように、蘭子さんは腕を組みながら告げる。
「えっ!?」
声を上げたのは椎名先輩だ。
先輩は驚いたように目を見開いている。
そりゃあ驚くだろうな。自分と親しい人間がそんなことをしていたら……。
だが先輩は俺の予想だにしない反応を見せた。
「そんな報告、私訊いていませんよ! 蘭子さん何してたんですか!?」
「千尋には説明したはずだけどな。言ったろ? 【異能】と遭遇したと」
椎名先輩は「まさか!?」と思い出したように手を打った。
「あの、火の家系の【異能】ですか?」
「そうだ。櫛木くんは目撃してしまった。あたしとあの男との戦い……いや、殺し合いをな。それで、あたしを訝しんでいるんだろう? 違うか?」
……殺し合いっだって!? 何を言ってるんだ!?
蘭子さんは淡々と話を続ける。
「そ、そうですよ。あんなの見たら誰だって……」
「ああでもしなければ、あたしが殺されていただろうな。それにきみも見たろ? あれぐらいじゃ死にやしない。詳しく説明すると……」
蘭子さんが言うにはこうだ。
ナイフを突き刺す直前に、男は【四大元素】を使ってナイフに細工をしたか、身体の防御をしたらしい。
何故なら男の目には確実にナイフが突き刺さっていた。蘭子さんの手には、眼球を貫いた確かな感触があったようだ。
だけど普通ああも深く刺されば、ナイフは脳幹まで達する。つまり死ぬ。
しかし男は生きていた。
「話が逸れてしまったな。これは一旦置いといて本題に戻そう。きみには【異能】があって、あたしはきみに【異能】を見せたことがある」
「俺に……ですか?」
「そうだ。あの時あたしはきみの存在に気がつかずに、戦いに巻き込んでしまった。その結果きみは大怪我をした」
「あの瞬間、俺は血を噴きだして……ホントに死ぬかと……」
「だからあたしはきみに応急処置を施したした。【異能】を使わなければ、死体になっていたのはきみだ」
なっ……!? 俺は蘭子さんの【四大元素】で命を救われていた……?
俺は動揺を隠せなかった。
膝の上で固く握られた拳が小刻みに震えているのがわかる。
震える俺を椎名先輩が優しく手で包み込んでくれた。
いつもなら喜ぶところだが、あの夜に俺は死んでいたかもしれないと考えると憂鬱になる。
それでも先輩の手の温もりは、俺の抱える不安を多少は紛らわせる効果はあった。
「お願いだから、蘭子さんの話を最後まで訊いて。そして櫛木くんに決断して欲しいの」
「……決断?」
ドン!
突然、探偵事務所のドアを何かが叩く音が聞こえた。
蘭子さんが静かに立ち上がる。
椎名先輩は俺の手を握ってくれている。しかしドアの向こうを警戒しているように見える。
俺たちの三人視線はドアに注がれている。
「誰だ? 返事をしないなら敵と見なして攻撃する」
蘭子さんが物騒な発言をして、素早くドアの前まで移動した。
隣に座っていた椎名先輩も、それを見て追いかける。
俺はその場を動けずにいた。首だけはドアのほうに向けている。
何が起こるんだろう……?
ドアノブが回り、ドアがゆっくりと開く。
現れたのは二十歳前後のお姉さんだ。俺と同じぐらいの背丈で、ショートカットの茶髪だった……え!?
あのお姉さんは、さっき俺を面接した叔父さんの彼女(愛人?)の店員じゃないか!?
「こんにちは。突然ですが、邪魔なので死んでもらいますね?」
お姉さんは、とんでもないことを口にした。
どうしてここに!? ちょ、死んでもらうだって!?
動揺する俺とは対照的に、蘭子さんと椎名先輩は険しい表情でお姉さんを睨みつける。
「火村の仲間……いや【増幅者】か?」
「そう私はあの方のためだけに存在するのよ。だから死になさいっ!」
蘭子さんが俺の知らない固有名詞を口走る。
叔父さんの彼女もとい、蘭子さんに【増幅者】と呼ばれたお姉さんは、身を低くしたかと思うと一気に加速し蘭子さんに襲いかかった。
蘭子さんは躱す動きを利用して一回転し、後ろ回し蹴りを放った。
右側頭部に蘭子さんの蹴りを受けた【増幅者】は、一瞬よろめいたあとニメートルほど後ろに跳んだ。
たいしたダメージはないようだ。
「蘭子さん!?」
「千尋動くな。ただの【増幅者】じゃない。この女は火村の【増幅者】だ。しかも相当訓練されてるな」
何が起こってるんだ!? 目の前で突然バトルが始まったぞ!?
蘭子さんの言葉の意味も理解できない。
ただ【増幅者】のお姉さんが悪い奴だというのはわかった。
面接をしてくれた時とは打って変わって、凶悪な面構えだ。目を剥いて、口元を大きく歪めて笑っている。完全にイッてしまった顔だ。
【増幅者】がポケットからライターを取り出して、自らの唇にそっと近づける。
そして、ライターで着火。
途端、【増幅者】が口から火を吹いたように、まるで火炎放射器を思わせる攻撃を放った。
炎は相対する蘭子さんと椎名先輩に、直線的に伸びていく。
危ないっ!? 直撃したら大火傷になる!
「千尋!」
「はいっ!」
蘭子さんは椎名先輩に合図をすると、炎に向かって手をかざした。
先輩も別の動作に移る。
シュウウウウッ!
蘭子さんと椎名先輩は【四大元素】を使ったのか炎を消火していた。
二人で何か連携みたいなことをしたようだが、俺にはさっぱりわからない。
探偵事務所内には炎の臭いが立ちこめている。
「くっ! 【異能】の力が不十分だわ! マイがいれば……!」
「やはり【増幅者】がいなければ【異能】は全開で使えない。敵もそれを狙ってここへ来たんだな。こんな時に限って葛葉も星川もいやしないっ!」
椎名先輩は歯を食いしばって、悔しそうに声を絞り出した。
二人の会話は、もはや俺には意味不明だ。
だけど……今、聞き慣れた名前が……!?
……マイ? マイちゃん!? いや、そんなわけないか……!
それよりも、今は!
「だ、大丈夫ですかっ!?」
俺は二人に叫んだ。
だがその行為は、【増幅者】の気を引いてしまったようだ。
【増幅者】が首を傾けて、俺のほうを見る。
そして、笑った。
「あら? あなたはさっきの……。見られたのなら、殺すしかないわ」
【増幅者】がライターを口元にあてる。あの火炎放射器みたいな攻撃をするのだろう。
しかも、その標的は俺だ。
「櫛木くんっ!」
椎名先輩が俺を助けようと動く。
同時に俺はソファから立ち上がる。
突然の展開に驚いたが、はっきり言って俺の【四大元素】で勝てそうに思える。
俺は胸を張り少し斜にに構えると、右の拳を前に突き出して堂々と宣言する。
「俺は【四大元素】でいく!」
「「「え?」」」
「え?」
俺の決めゼリフに、蘭子さんと椎名先輩、そして【増幅者】までもが困惑した顔でハモった。
うん? 何かマズいことを言ってしまったのだろうか?
「……ああ、【異能】のことか。【四大元素】か……あながち間違いじゃないが、きみ頭は大丈夫か? これが中二病とかいうやつか?」
「いや、俺はこの力のことをずっとそう呼んでるんです。今さら【異能】とか言われてもしっくりこないんですよ」
「確かに【異能】だけじゃなく、他の呼称を使ってる組織もあるけれど……。うん! いいんじゃない? 櫛木くんは【四大元素】で!」
「先輩、何でにやけながら言うんですか? 絶対バカにしてるでしょう?」
命のかかったバトル中に、俺たちは何て間抜けな会話をしているんだろう。
だが、俺の緊張や不安を払拭するには十分だった。
来るなら来い!
【増幅者】は口元でライターを着火した。
炎が俺に向かって迫ってくる。
思ったよりスピードを感じない。
俺はTVで見た格闘家のように、格好良くファイティングポーズをとった。
あの程度の炎なら、俺の【四大元素】で十分防げるっ!
俺の周囲の【風】の流れが変わる。
この【風】の壁がっ! 炎を止め――――
「バカなのか!? 火に風を注ぐなっ!」
「熱っ!? うわっ……火がっ!?」
蘭子さんの叫びも虚しく、俺のコートに火が燃え移った。
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