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第1章 「俺の【四大元素】編」(俺が中一で妹が小三編)

第9話 女子に人気の出始めた俺は、ヤンキーに呼び出された

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 夏休みが終わって、二学期が始まった。
 しかし一学期までの俺とは違う。
 【四大元素】の力をみっちり鍛えたおかげで、今の俺は菜月がいなくても十分な力が使えるのだ。
 もちろん菜月が一緒にいるときは、その力は何十倍にも跳ね上がる。
 理屈はわからないが、現状【四大元素】について把握しているのはその程度だ。

「次は体育の授業か。確か今日は体育館でバスケだったな」

 体育の授業は隣のクラスの男子と合同だ。
 俺は体操服に着替えて、クラスメイトと体育館に向かった。

「今日の授業はバスケを試合形式で行うぞー」

 体育教師が宣言して、名簿順にチームを振り分けた。
 今日は女子も体育館で授業をしていた。女子はバレーボールの試合をするみたいだ。
 うちの中学の体育館は結構広めの作りをしていて、今日みたいに男子がバスケで女子がバレーみたいに同時にコートを取れる面積は十分にあるのだ。

 俺は授業が始まる前から、あることを考えていた。
 今日の体育は女子も体育館でやると事前に決まっていたので、俺は【四大元素】の力を実験するつもりだった。
 試合待ちの女子の目当ては、十中八九バスケ部の佐藤だろう。一年でレギュラーらしいし。
 だが残念だったな。女子に「きゃー、きゃー」言われている佐藤と今から対戦するのは俺のチームだ。
 佐藤は声援を送る女子に手を振っていた。

「「佐藤くーん!」」

 授業中だというのに、女子はこれから活躍する佐藤に大興奮だ。
 試合が始まると、さっそく俺の手元にボールがきた。【四大元素】を最大限活かして、俺は対峙する男子を躱した。
 佐藤が少し驚いた顔をしている。俺はそんな佐藤に正面からドリブルで向かっていく。ボールを奪おうとする佐藤の手がボールに触れる瞬間、ボールはそれを逃れるような挙動をして俺の手に吸い付くように動いた。
 一瞬のことだったので佐藤は自分の目測を誤ったか、俺が上手く躱したようにしか感じていないだろう。この場合はおそらく前者だな。だが何度も繰り返すうちに、後者の考えに至るはずだ。
 俺はそのまま呆然とする佐藤を抜き去り、レイアップシュートを決める。
 同じチームの奴らとハイタッチして、素早くディフェンスに戻った。

 今度はディフェンスだ。
 佐藤にもバスケ部のレギュラーというプライドがあるらしく、フェイントを駆使した華麗なドリブルで次々と抜きながら俺のほうに向かってきた。

「さっきは油断したよ櫛木。元サッカー部のレギュラーだけあって、身体能力は高いみたいだな。だけど、俺を止められるか?」

 俺はそれが佐藤の油断ではないことを証明するために、隣をすり抜けようとした佐藤の手から容易くボールを奪った。
 佐藤がボールを奪われたことに気づいたのは、二歩進んだあとだった。
 その時には、俺はもう3ポイントシュートを放つ体勢に入っている。
 体育教師や男子女子が見守る中、俺の放ったシュートは大きく弧を描いてリングを通過した。

 まだまだこれからだ。今日は徹底的に活躍してやるぞ。
 そこからは俺の独壇場だった。
 佐藤は目に見えて、精神的に疲労している。明らかに戦意を喪失していた。

「マジか!? また櫛木が佐藤を抜いたぞ!?」
「櫛木のフェイントからのドリブルやばくね!?」
「ああーっ! 櫛木の3ポイントシュート何本目だよ? 全部決めてるぞ!?」

 男子や体育教師までもが驚いていた。佐藤を応援していた女子の声は尻すぼみに小さくなっていくのがわかる。
 当たり前だ。【風】を使ってボールをコントロールしているから、シュートが外れるわけがない。
 俺はまたも佐藤を抜き去り、今度は豪快にダンクシュートを決めた。

「せーのっ! 櫛木くーん!」
「きゃー! 櫛木くんがこっち見てくれたよぅ!」
「櫛木くんって、サッカーだけじゃなくてバスケも上手いんだあ!?」

 女子の声援が、佐藤から俺への声援へと変わるのにそう時間はかからなかった。
 佐藤が疲れ果てて、肩で息をしていた。もうテンションだだ下がり状態だ。
 女子の声援がすべて俺に流れてしまったのも影響しているかもしれない。

「櫛木……。何だよ凄いじゃないか。俺は……全然ダメだな」
「気を落とすなよ佐藤。俺は趣味でバスケもやってたから、まったくの素人ってわけじゃないんだ」
「そうなのか?」

 佐藤が可愛そうだったので、俺はバスケ経験者ということにした。
 今回は俺が【四大元素】を使ったから佐藤に勝てただけで、本来の実力なら当然佐藤が勝っていただろう。
 そこまで教える気はないが。

「お前バスケ部に入れよ。レギュラー取れるって。俺と一緒にやらないか?」
「ああ、ごめん。俺忙しくて部活どころじゃないんだ」

 妹と遊ぶ予定が何年先までも埋まってるからな。

 この一件で、女子の俺の見る目は一変した。
 わずか一週間だ。一週間で俺の環境は激変した。
 口コミというのは凄い。俺のスーパープレイを直接見てない別のクラスの女子や、二年生や三年生の女子からも人気が出始めた。
 こんなことがあっていいのだろうか。ここまで効果があるなんて思いもしなかった。

 放課後に教室で帰宅準備をしていると、今日も女子たちの会話が聞こえてくる。
 俺はカバンに教科書を詰めながら、菜月と遊ぶことを考えていた。

「ねぇ、最近櫛木くんって、いい感じじゃない?」
「でしょ? あたしも思ってたし」
「だよねー! 彼女とかいるのかな?」

 ふっ。聞こえてるぜ。でも、気づかないフリをしておこう。
 というか、学校じゃモブだった俺が、急にモテ始めるなんて……。体育の授業以来だな。やっぱり運動できると、モテるのか。
 夏休み中【四大元素】を鍛えていた甲斐があったな。
 俺が帰宅しようと席を立った時だった。

「おい! 櫛木はいるか?」

 教室のドアを乱暴に開けて入って来たのは、二年生のヤンキーだった。
 ヤンキーは近くにいた男子生徒に、「櫛木はどいつだ?」などと訊いていた。
 このままでは無関係な生徒が被害を被ると思った俺は、堂々と名乗り出ることにする。

「俺が櫛木だけど。二年生の先輩ですか? 一年の教室に何の用です?」

 ヤンキーが目の前まで近づいて来る。
 身長百六十センチの俺と同じぐらいの身長だ。髪は金色に染めて、耳にはピアスをしている。
 息はタバコ臭かった。

「お前が櫛木か? 最近、調子に乗ってるみたいだな! ちょっと顔かせや!」

 いきなり喧嘩越しかよ。っていうか、俺をシメる気だな……。
 正直負ける気はしないんだが。ここは素直について行ってみるか。

「いいよ。どこに行くんだ?」
「ちっ! 何だ、その余裕の面は! ああん? いいから来いよ!」
「はいはい」

 周囲の生徒が怯える中、俺は席を立つと二年生のヤンキーを睨みつけた。

「おいっ! てめー、マジでふざけんなよっ!」

 キレたヤンキーが俺の胸ぐらを掴むが、俺はその手を手刀で叩く。
 実際には叩いたのではなく、【風】を圧縮して手刀で押したのだ。
 ヤンキーの右手が【風】に弾かれる。勢いがつきすぎて、そのまま股間に直撃した。

「うげっ! あ……つぅ!」

 俺は股間を押さえて悶絶するヤンキーを見下ろす形だ。
 周りで様子を見ていた生徒たちが怯えている。
 しかし女子の一部は俺を期待の眼差しで見ていた。
 さあて、ここは格好良く決めておくか。

「さて、どこに行けばいいんだ? 先輩?」

 俺は余裕の笑みで言い放った。
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