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第1章 「俺の【四大元素】編」(俺が中一で妹が小三編)

第4話 妹との秘密の遊び

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 翌日から俺と妹の秘密の遊びが始まった。
 この話を知られたところで、誰も信じてくれないだろう。

 菜月は午後になると、すぐに病院へと来てくれた。
 午前中は母さんが来るので、菜月には昼からおいでと声をかけていた。
 左右を目視して部屋の扉を閉めると、ベッドの脇にある台にランドセルを無造作に置く。

「準備はいいか?」
「うん……。いいよ」

 菜月も今日は何をするのかわかっている。昨日二人で秘密を共有したのだから。
 俺は菜月がベッドの横にある椅子に座るのを待ってから、窓を指さした。窓のカーテンが閉まっている。
 今朝、母さんが来たときに、今日は日差しが強いからカーテンを閉めてと頼んでいたからだ。
 正直、日差しなんかどうでもいい。これは菜月と遊ぶための準備なのだから。

「俺から行くぞ。そいやー」
「わあ!」

 俺がカーテンに向かって手を振った。すると、カーテンはまるで強風に煽られたように、大きくなびいた。
 菜月が感心して、パチパチパチと手を叩いてくれる。

「次は菜月の番だ。やってみろ」
「うん! いっくよー!」

 菜月が両手を耳の真横で広げてから、「えいっ!」と押し出す動作をとった。
 俺の予想通りカーテンは菜月の操作した風を受けて、ゆらゆらと揺れている。
 昨日、菜月の【四大元素】を見せてもらったが、操れる力は俺のほうが大きいみたいだ。

 俺と菜月はカーテンに風を送るという遊びを、ひたすら繰り返した。
 繰り返すことでわかったのは、この【四大元素】の力は……例えば今使ってる【風】で言うと、手から風を出しているのではなく、今この部屋にある空気を自在に操って風を作っているということだ。
 この理屈でいくと、まだ試してはいないが屋外で【風】を使った場合、おそらく台風並みの暴風を作ることも可能だろう。
 だけど今のままじゃ、【四大元素】を自在に操る力が足りない。
 前から薄々感づいてはいたが、どうやら菜月と一緒だと俺の力は増すようだ。と言うか菜月がいないと、ほとんど力が出せない。これについては理由はわからない。
 菜月は俺がいなくても、ひとりでできたというのに……。
 だから、菜月と遊んで遊んで遊びまくって、できることを増やしていこう。

 その日は【風】を使って遊んだ。
 明日は【水】、その次は【火】というように、まんべんなく力をつけていくべきか、とにかく【風】を重点的にやるのか、悩むところだ。
 俺がそう考えていると、菜月はもう飽きてしまったようだった。仕方ない……もうかれこれ二時間はやっていたからな。
 菜月が今日は帰ると言うので、今日の遊びはこれで切り上げよう。

「あのね、お兄ちゃん。明日はクラスの友達を連れて来てもいい?」
「……えっ?」
「お兄ちゃんが入院してることをSNSで話してたら、みんなが来たいっていうの。駄目?」
「SNSって……。いいか、菜月。病院は遊ぶところじゃないんだぞ。他にも入院している患者さんや、通院している人もいるんだから、駄目に決まってるだろ」
「え……でも、私とお兄ちゃんのこれは遊びなんでしょ?」
「あう……。そ、そうだな。わかった。みんなは無理だけど……じゃあ、ひとりだけだ。ひとりだけなら連れてきていいぞ」
「ほんと!? やったー! じゃあマイちゃん連れてくるね」
「ああ。わかったよ」

 俺と菜月で秘密の遊びをするつもりだったが、明日は友達を連れてくるようだ。……貴重な一日が。

「じゃあね、お兄ちゃん。ばいばーい」
「また明日な」

 菜月が帰った。
 もうすぐ夕食の時間だな……。
 軽く目を閉じたつもりだったが、俺はそのまま眠ってしまった。


    ◇ ◇ ◇



 女は躊躇することなく男の目を抉った。

 俺は信じられない現場を目撃した。女が男の目にナイフを突き刺したのだ。
 恐怖で足が竦み、小刻みに震えているのがわかる。

 女に殺されたと思った男が、左目にナイフが刺さったまま立ち上がったのだ。
 もはや、その顔からは笑みは消えていた。

「いやぁ……、お強い。僕の初撃をこんな返し方するなんてねぇ。このままだと負けそうですよ」
 
 女は後ろに跳びすさる。
 男が左目に刺さったままのナイフの柄に手を触れると、ナイフはガラス細工のように砕け散った。
 俺には何が起こったのか、理解できない。
 女も表情は見えないが、全く動じた様子もない。

 その時、俺は汗で手を滑らしてコンビニのビニール袋を落としてしまった。
 真下の水たまりに、カップのアイスと炭酸飲料のペットボトルをぶちまける。
 まずい! と思ったが、足がすくんで動かない。
 俺は恐る恐る、首だけをゆっくりあげて二人を見る。
 女も振り返ってこちらを凝視していた。
 二人とも、訝しげな表情をしている。

「う、うわあああああああああああああああああああああああああっ!!」

 俺は恐怖のあまり叫んだ。後ずさろうとするが、足が上手く動かずに、その場で尻餅をついてしまう。

「おやおや、子どもがこんな時間に散歩ですか? 感心しませんねぇ。見られたからには生かしてはおけませんねぇ」
 
 男は再び厭らしいにやけ顔を浮かべると、俺の胸に手を伸ばした。

「おやすみなさい――――永遠にね」
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