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追憶からの

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 静まり返る部屋で紙の擦れる音だけが聞こえる。

 フロドゥール国王レイド・フロドゥールは表情を動かす事なく、大叔母が残した日記に目を通していた。

「国王?」

 故国から共に来た宰相ハル・シネイの呼びかけにレイド・フロドゥールの手が止まった。

「どうやら、大叔母様はロンサンティエに来て幸せだったようだ。」

「何ですと?」

 満天の星空の様に輝く美しいステラ姫が、歳の離れた帝国の皇帝に連れ去られた話はフロドゥール国でも有名な話だった。

 婚約者がいたステラ姫は権力に物を言わせた皇帝に無理矢理に攫われたのだと・・・。

 自国で伝わっていた話と違う情報にハル・シネイが驚くのも無理のない話だった。

「この日記には、ステラの最初の婚約者との初々しい関係と、婚約者を失った悲しみ。
 そして、新しく出来た婚約者の横暴と不安。
 ロンサンティエ帝国に攫われた後の穏やかな時間が綴られているの。」

 リリィは日記に目を通していないハル・シネイに簡潔に説明した。

「最初の婚約者?
 ステラ様の婚約者はルマン侯爵家のレンク殿だったと記憶していますが?
 大変、仲睦まじかったと・・・。」

 それを聞いたロンサンティエ帝国陣営は顔を見合わせた。
 レイド・フロドゥールにしても、ハル・シネイにしても幼い時の話だ。
 彼らに誤解がある事は一目瞭然だった。

「本当に行き違いな話が伝わっているようだ。
 ステラ妃の日記には彼女の最愛の婚約者はプラント公爵家の次男ピウス殿だと書かれている。」

 ディミトリオ・ハクヤの言葉にハル・シネイは驚きで目を見開かれている。

「政略結婚であったが若き2人は愛を育んでいた。
 その頃の日記には、溢れんばかりの幸せが書かれていた。
 しかし、ピウス殿は騎士。
 国に大量の魔獣が発生し、討伐隊が組まれた。
 その折に亡くなられたそうだ。
 悲しみに暮れるステラ妃だったが、彼女は王族だ。
 国の為に他の者に嫁ぐ事を両親から求められた。
 その相手が貴殿の知っているレンク・ルマン侯爵子息だったそうだ。」

 ハル・シネイの困惑が伝わる。
 宰相である彼でさえ、ピウス・プラントの名を知らずにいたのだ。
 長い年月がピウス・プラントとレンク・ルマンを混ぜ合わせてしまったのか?

「満天の星空に生まれた美しい娘。
 時の国王は大叔母・・・ステラ姫の行く末を心配されていたらしい。
 ステラ姫を求める男は大勢いた。
 そして、国王の心配した通り、ステラ姫が攫われてフロドゥール国内でロンサンティエ帝国への反感が膨れ上がったのだ。」

 日記を大切そうにテーブルに置いたレイド・フロドゥールはリリィを見据えた。

「この騒動の裏にも“ドラゴニルス”がいる。
 龍の姫巫女は、そう考えているのだな?」

 怒りの光が灯った瞳に見つめられたリリィは、その怒りに微笑んだ。

「そうよ。」
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