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英傑の記憶②〜帰還〜

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 漁村から離れた場所に防壁に囲まれた大きな砦があった。
 
 自然の中に聳え立つ要塞の如く強固な砦・・・これこそが盗賊の本拠地である。
 
 天災が鎮まり、人々が安寧を求めて生活を営む中、武力を持って己達の欲を満たそうと試みた者。
 それが多くの村を強襲し、得た食料や財産で私服を肥やしてきた盗賊達だ。

 畑仕事や狩猟などでコツコツ生活するよりも他人の物を奪う生活の方が効率が良い。
 しがない漁村を襲ったのも、そんな考えの持ち主達だった。

 本拠地と呼ばれる砦には、山1つ分を丸々と囲い込んだ柵が先が鋭く削られた木で作られたり、幾重にも重ねられた石で作られたりしていた。
 厳つい門扉には御丁寧に『入ったら殺す』と言いたげな、縛首された魔獣が吊り下げられている。

 近隣で息を潜めて生活している者は近づこうともしない。
 門扉が開く時は盗賊が出入りする時と捕虜達が連行されて行く時だけだ。
 
 その門扉にボロな馬車がギコギコと近づいてきた。

「おい。」

 見張りの1人が、もう1人に顎で合図を送った。

「漁村に行ったやつの交代だ。」

「それは、昨日の奴等の事だろう戻るのが遅くねーか?」

「あっちで何か楽しんでたんだろう?」

「馬鹿言えよ。あの漁村に楽しむものなんか無いだろう。
 みんな砦が天国だと思ってるのは知ってるだろう?」

「まぁな。
 おい。今日もいつもの場所で酒飲もうぜ。
 俺、明日休みなんだ。」

「俺は明日も仕事だよ。
 でも、ずっと見張り台にいて辟易してるんだ。
 鬱憤払いに付き合うぜ。」

 盗賊達は自分達の身に何か起こるなど思ってもいない。 
 さらに近づいてきた馬車から男が手を挙げると、迷う事なく門扉を開いた。

「随分と時間かかったな。」

 馬車に乗ってきた男は古びたローブを頭から被っていて顔が見えなかった。
 1人が確認を取る為に見張り台から降りてきた。

「このオンボロ馬車が壊れたのさ。
 修理に時間が掛かったんだ。」

「なるほどな。
 まぁ、漁村までの距離の為に上の連中が良い馬車くれるわけないもんな。
 で、お前は?」

 誰がどう見ても崩壊寸前の馬車に目をやると、盗賊の1人はローブの中を覗き込んだ。

 その瞬間だった。
 盗賊はギョッとして体を離した。

 ローブから太い手が伸びてきて、男の首を鷲掴んだ。

「ぐぇぇ。」

 苦しみ悶える盗賊に、見張り台に残っていたもう1人が慌てた様子で木槌を手にした。
 そして、砦中に響き渡る釣鐘を叩こうとした時だった。
 フッと意識を失い、力無くダラリと柵に腕を掛けてもたれると、それは誰かが見れば、まるで立っているかの様だった。

 首を掴まれていた盗賊も、もう少しで意識を失いそうであったが太い腕の力が弱まった。

「西の洞穴っての何処だ?」

「えっ?」

 もう既に怯えきっている盗賊は慌てたように聞き返した。
 するとローブを剥ぎ取った男はニカっと笑った。

「洞窟だよ。西にある洞穴ってのに案内してくれ。」

 ローブの男・・・フランコ・トワに戸惑う盗賊は、仲間達と自分の命と天秤に掛けコクンと頷くのだった。
 

 
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