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再起の果て
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ロンサンティエ帝国の西の国境沿いの小さな街の宿に1人の男が険しい顔で酒を呑んでいた。
彼の護衛として雇われた者達も各々で食事をしたり酒を楽しんだりしている頃だろう。
「何で私がこんな目に・・・。」
ブツブツと呟くように文句を垂れながらも酒を呑む手を止めない男は、かつてロンサンティエ帝都で利益を欲しいままにしていたダチェット侯爵だった。
「あの生意気なシオン・ポリティスめがっ!
アイツのせいで、私はこんな辺鄙な場所までやってくる羽目になったのだ。」
市場に新たな風を吹き込ませた龍の姫巫女のリリィ。
帝都の大部分は既に彼女の息のかかった商人や職人が増えてきていた。
それまで、その職人や利益の恩恵を享受していたのは、このダチェット侯爵のはずだった。
ハンターギルドや商人ギルド、彼らが豪腕を振るう今の帝都にダチェット侯爵の居場所はない。
龍の姫巫女が推進したと言われているが、ダチェット侯爵に言わせれば、リリィの力を利用しているのはシオン・ポリティスという化かしキツネの様な男だった。
シオン・ポリティス伯爵という男は貴族でありながら、自ら積極的に商売に絡む珍しい男だった。
根っからの守銭奴であるダチェット侯爵に比べて、ポリティス伯爵は稼ぐプロセスに意味を持たせる商人だった。
彼がリリィの仕事の補佐をしているのは、彼女が打ち出す商売が実に魅力的で面白そうだからであった。
着実に結果を残しているポリティス伯爵は皇帝陛下の信頼も厚い。
そんな宿敵に呪いの言葉を吐きながら帝国の端っこで安い酒を啜っているダチェット侯爵からは、かつての自信は失われている。
目の下にはクマが現れ、肌もカサついていた。
落ち着かずに足を揺らす様から余裕は見られない。
コンコンコン
訪問者の合図にダチェット侯爵は焦りながら立ち上がった。
慣れた帝都から苦労してまで国境まで来た理由は、この訪問者に会う為であった。
震える手でドアを回し扉を開けると目の前にローブを纏った男が立っていた。
「貴方がダチェット侯爵ですか?」
「・・・如何にも。」
ローブを纏った男は懐から木札を取り出すとダチェット侯爵に差し出した。
「これがあれば、いつでも国境は越えられます。
我が主人は貴方の訪問を楽しみにしておられる。」
「私のロンサンティエは潰えた。
今や役立たずの息子が皇帝となって偉そうにしている。」
ダチェット侯爵の言葉にローブの男の表情は見えない。
見えないが、どこか微笑んでいるように見えた。
「心中お察し致します。
我が主人は実力主義者です。
仕事のできる貴殿を迎え入れる事でしょう。
明朝、出発します。
ご準備をしてお待ちください。」
「あぁ、分かった。」
扉を閉めたダチェット侯爵は男が去っていく音に耳を立てると息も荒く呼吸をした。
「これで良い。これで良いのだ・・・。」
その彼の手には“龍の爪に鍵がかかっている紋章”が書かれた木札が握りしめられていた。
彼の護衛として雇われた者達も各々で食事をしたり酒を楽しんだりしている頃だろう。
「何で私がこんな目に・・・。」
ブツブツと呟くように文句を垂れながらも酒を呑む手を止めない男は、かつてロンサンティエ帝都で利益を欲しいままにしていたダチェット侯爵だった。
「あの生意気なシオン・ポリティスめがっ!
アイツのせいで、私はこんな辺鄙な場所までやってくる羽目になったのだ。」
市場に新たな風を吹き込ませた龍の姫巫女のリリィ。
帝都の大部分は既に彼女の息のかかった商人や職人が増えてきていた。
それまで、その職人や利益の恩恵を享受していたのは、このダチェット侯爵のはずだった。
ハンターギルドや商人ギルド、彼らが豪腕を振るう今の帝都にダチェット侯爵の居場所はない。
龍の姫巫女が推進したと言われているが、ダチェット侯爵に言わせれば、リリィの力を利用しているのはシオン・ポリティスという化かしキツネの様な男だった。
シオン・ポリティス伯爵という男は貴族でありながら、自ら積極的に商売に絡む珍しい男だった。
根っからの守銭奴であるダチェット侯爵に比べて、ポリティス伯爵は稼ぐプロセスに意味を持たせる商人だった。
彼がリリィの仕事の補佐をしているのは、彼女が打ち出す商売が実に魅力的で面白そうだからであった。
着実に結果を残しているポリティス伯爵は皇帝陛下の信頼も厚い。
そんな宿敵に呪いの言葉を吐きながら帝国の端っこで安い酒を啜っているダチェット侯爵からは、かつての自信は失われている。
目の下にはクマが現れ、肌もカサついていた。
落ち着かずに足を揺らす様から余裕は見られない。
コンコンコン
訪問者の合図にダチェット侯爵は焦りながら立ち上がった。
慣れた帝都から苦労してまで国境まで来た理由は、この訪問者に会う為であった。
震える手でドアを回し扉を開けると目の前にローブを纏った男が立っていた。
「貴方がダチェット侯爵ですか?」
「・・・如何にも。」
ローブを纏った男は懐から木札を取り出すとダチェット侯爵に差し出した。
「これがあれば、いつでも国境は越えられます。
我が主人は貴方の訪問を楽しみにしておられる。」
「私のロンサンティエは潰えた。
今や役立たずの息子が皇帝となって偉そうにしている。」
ダチェット侯爵の言葉にローブの男の表情は見えない。
見えないが、どこか微笑んでいるように見えた。
「心中お察し致します。
我が主人は実力主義者です。
仕事のできる貴殿を迎え入れる事でしょう。
明朝、出発します。
ご準備をしてお待ちください。」
「あぁ、分かった。」
扉を閉めたダチェット侯爵は男が去っていく音に耳を立てると息も荒く呼吸をした。
「これで良い。これで良いのだ・・・。」
その彼の手には“龍の爪に鍵がかかっている紋章”が書かれた木札が握りしめられていた。
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