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遠く昔の誰かの記録

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「ねぇ。本当に私も入っていいの?」

 ファヴィリエ・ルカが皇室しか入室が認められていない秘蔵書簡庫の鍵を開けている間にリリィはディミトリオ・ハクヤに問い掛けた。

「いいさ。
 どの道、リリィは皇室の一員になるんだ。
 それに・・・。」

 ディミトリオ・ハクヤはファヴィリエ・ルカが鍵穴に自分の血を一滴垂らしているのを指差した。

「この部屋の扉には龍の加護で護られていると言われている。
 不思議な事にフランコトワの血筋以外が扉を開ける事が出来ない仕様になっているんた。
 龍の加護ならば、リリィも大丈夫だろう。
 龍がリリィを拒むなんてあり得ない。」

「開きました。」

 ファヴィリエ・ルカがドアノブを押し込むと、小さく軋む音を立てながら扉が開け放たれた。

 書簡庫と言われていたから小さい部屋を想像していたリリィであったが、入って見れば奥行きの広い立派な図書館の様な造りになっていた。

 ディミトリオ・ハクヤが中央に置かれた広いテーブルを優しく撫でた。

「父と入った子供の時以来だ。
 多分、その時から誰か入室した事はないだろう。
 何せ、我が一族は勤勉ではないからな。」

 自嘲するディイトリオ・ハクヤの背中に、どこか哀愁が漂っていた。
 恐らく、兄ハイゴール・ウィリの時代には近寄る事も禁じられいたのだろう。

「初めて入りました。
 もっと古く埃っぽいイメージがあったのですが、何とも空気も澄んでいて保管されている蔵書の状態もいい様ですね。」

 これが龍の加護を得ていると言われる要因なのかもしれない。
 キラキラとした光の玉が浮遊しているのを見ると、此処にも妖精がいるようだ。

「この書簡庫には皇族にしか伝わらない話が纏められている。
 中には日記などもあるそうだ。
 幼少期には、こんな部屋があると言う事を教えてもらったくらいで本を手にした事はない。」

 振り返ったディミトリオ・ハクヤにリリィは小さく頷いた。
 
「少し離れていて。」

 リリィが前に出ると、ディミトリオ・ハクヤはファヴィリエ・ルカを守ように立った。

「何が始まるんです?」

 不思議そうなファヴィリエ・ルカにディミトリオ・ハクヤがニヤリと笑った。

「リリィのズルだ。」

 それを耳にしたリリィはディミトリオ・ハクヤを揶揄うように意地悪な顔で笑顔を見せた。

「ズルで結構。
 ある能力を使わない方が馬鹿よ。
 それに、結構疲れるのよ。これ。」

 リリィは胸の前で手を握ると祈るような体勢になった。
 ブツブツと何かを唱えるとリリィの美しい白い髪が輝きを見せる。
 その白銀の髪が踊るように舞いだすと、腕を広げたリリィに誘われるように本や書簡が自ら棚から飛び出てグルグルと空中で回転し始めた。

「あれは・・・。」

「読んでいるんだよ。」

 邪魔をしないようにディミトリオ・ハクヤが息子の口元に指を当てた。

 その光景が暫く続くと本は元の場所に戻り、再び眠りについたように大人しくなった。

 それと同時に髪も落ち着いたリリィが振り返り自分の頭を指でトントンとした。

「知識は全部入れ終わったわ。」

 それを聞いたファヴィリエ・ルカは言わずにはいられなかった。

「ズルッ!!」
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