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災いは何でもない事から発覚する

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 フロドゥールの脅威よりも龍の暴走の方が問題とされた話し合いは、今も尚続いていた。

 コテツやアリスも加わると、2人とも面倒臭そうに「「消し炭にしてしまえ」」と言うものだから、皇帝は再び頭を抱える事になる。

「大体において勘違いも甚だしいのよ。
 龍が齎す龍気によって集まった精霊が人々に力をかしてくれるのよ。
 龍は力の源であって兵器じゃないの。」
 
 リリィの怒りに一同は頷いた。
 龍の姫巫女と過ごす様になり、彼等は十分に理解していた。

「ロンサンティエ帝国内でも周知されずにいるのだ。
 他国などもっと理解し難い事だろう。」

 ディミトリオ・ハクヤが顔を顰めた。
 秘匿していた事で問題が大きくなろうとしていると悟ったのだ。

「妖精についての認識を広めたらどうだろう。
 予定よりも早いが、再び間違った解釈が広まり、龍や妖精に迷惑がかかる前に帝国だけでも理解を広げておきたい。」

 妖精の庇護を受けるディミトリオ・ハクヤの言葉に皇帝ファヴィリエ・ルカは頷いた。

「何から始めたら良いだろうか・・・?」

 問いかけられたリリィは立ち上がり、外を見つめた。

「貴族達に宝樹を訪問させましょう。
 宝樹は龍気の塊よ。
 今や、その周囲には妖精が沢山いる。
 共に過ごす事で精霊が人に手を貸そうとするかもしれない。
 ハクヤやクレイ。
 護衛のスサにセキエイがいれば貴族とて無闇に妖精に横暴になる事はないでしょう。」

 光輝く宝樹を愛おしそうに見つめるリリィに男達は追随した。

「妖精との関係を深めれば魔力を感じる者も出てくるでしょう。
 それは今よりも魔法が多用されると言うこと。
 妖精との良好な絆が結ばれてこその力よ。
 私はね。龍の姫巫女として・・・森羅万象の代弁者として妖精を人間の言うがままに酷使させない。
 妖精を愛せない者は龍の恩恵を受ける資格すらないの。」

 リリィの言葉を男達は心に刻んだ。

「リリィの言葉。しかと受け取った。
 貴族達に龍と妖精について学び直す事を厳命しよう。
 それが出来ぬ者には宝樹へ近づかせない。
 本来は精霊の自由な行動範囲があるだろうが、愚か者にはそれすら分からない。
 みな、宝樹に来なければ妖精に会えないと勘違いするだろう。」

 最後は悪戯っ子の顔になったファヴィリエ・ルカにリリィは口元を緩めた。

「貴族は妖精との契約を貴族の特権とでも勘違いするでしょうね。
 恐らく、市井には妖精の光が見える人間もチラホラと出始めていると思うわよ。」

 それを聞いた宰相フィリックス・ガルシアはギョッとした。

「本当ですか?」

「当たり前じゃない。
 妖精は自由なのよ。
 人間の生活に興味を持つ子がいてもおかしくないわ。
 その後に契約出来るかは別問題。
 ・・・ハンターギルドとかには妖精の事を周知させても良いかもしれない。
 ガク爺さまにも声を掛けましょう。」

 ロンサンティエ帝国と龍。
 そして、妖精との付き合いが再び始まろうとしていた。
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