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災いは何でもない事から発覚する

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「さてさて、ボビー?
 貴方は何をさせられていたのかしら?」

 リリィの鋭い視線にかつてのトラウマが蘇ったカランカのボビーは、早急に腹を見せて降伏の意を表した。
 
 不安そうなロメオの鼻をツンとすると、リリィはボビーを抱き上げて瞳を覗き込んだ。

「このカランカに特別な力があるとお考えですか?」

 何とも言えない顔で問いかける宰相フィリックス・ガルシアにリリィは不思議そうに首を傾げた。

「人にも魔法が使える者と使えない者がいるじゃない。
 力が強い者や非力な者。言葉巧みな者と口下手な者。
 みんな違うでしょ?
 どうして、カランカが魔法を使えないと思うの?」

 人間以外の・・・ましてや、魔獣でもない小動物に魔力があるだなんて考えもした事のないフィリックスは、リリィの言葉に驚いた。
 それは皇帝であるファヴィリエ・ルカとて同じだった。

『人間こそ至高・・・それ以外が野蛮である。
 常識とされていた事柄でさえ考えを改めねば、これからの帝国を導く上で大きな障害となるであろう。』

 ポツリと言葉を発したのは緑龍・ジンであった。
 緑龍・ジンは毎日リリィの元からファヴィリエ・ルカの執務室に通い。
 今のような教えを伝えていた。

「はい。世界の理からすれば、我ら人間の方が非常識である。
 今まさに、その事を教えられている気分です。」

 ファヴィリエ・ルカと共にフィリックスは頷き、リリィに頭を下げた。

「中断させて申し訳ありません。どうぞ、続くを。」

 リリィはニッコリと笑うと再び視線をボビーに集中させた。

「うん。この子は魔力値が高いわね。
 ボビーが定期的に魔法印に魔力を込めていたのね?
 そして、貴方の目を通して奴らは様子を見ていた・・・。
 使い潰される前にロメオに保護されて良かったわ。
 愛玩動物として違法に手入れたカランカを、こんな事で利用するなんて・・・。」

 リリィの言葉を理解しているボビーは大粒の瞳からポロリと涙を流した。

 リリィはボビーの頭を優しく撫でると、ロメオに手渡した。
 
「カシャ。」

 再び名を呼ばれた赤龍は嬉々としてリリィを背に乗せて木の上に向かった。

「私がボビーの使役契約を解除してから、この魔法印は使われてないはずよ。
 ボビーは自分で見たものを、この魔法印を通して主人に送っていたのでしょう。
 それならば、ボビーの主人・・・いや、この魔法印を使った人間の魔力を感じる事が出来る可能性があるわね。」

 木に刻まれた魔法印に手を触れたリリィは何かをブツブツと唱え始めた。
 すると、彼女の背には真っ白な百合の花が咲いた。 

「あれは・・・。」

 その光景を見ていたファヴィリエ・ルカに緑龍・ジンが「クククッ」と笑った。

「あれこそが、リリィの魔法の形態の1つだ。
 百合の花は、使っている魔法の特性の色に染める。
 今、百合が白いのは光魔法を使っているからだ。」

「百合の花の色が染まる・・・。」

 ファヴィリエ・ルカは以前、義兄と戦うリリィの姿を思い出していた。
 
 惚ける彼らであったが、衝撃な事を目撃する事になる。
 次の瞬間。リリィが咲かせた百合の花が真っ赤に染まったのだ・・・。
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