上 下
256 / 436
とある男の転換期

254

しおりを挟む
 新たな事業の原案が纏まった事で一息ついた頃にシオン・ポリティス伯爵がリリィに伝えた。

「先程、廊下で宰相閣下とお会いしましたよ。
 リリィ様のお求めの土地の確保が出来たようです。」

「あら、本当? 
 王都で広めの土地なんてなかなか難しいと思っていたのだけど・・・。」

 報告を受けたリリィは、望みを口にした本人であるにも関わらず不思議そうに首を傾げた。

「既にマーケットで十分な敷地を利用してますからね。
 私も厳しいと思っていたんですがね。
 フフフ。」

 含み笑いをしたポリティス伯爵にリリィとディミトリオ・ハクヤの視線が合わさった。

「何かあったのかい?」

 ディミトリオ・ハクヤの問いかけにポリティス伯爵は今度は堪えられない様にクククッと笑った。

「恐らく、まだ確保出来ていないんですよ。
 いや・・・今日出来るのかもしれませんが。
 宰相閣下もお人が悪い。」

 首を傾げるディミトリオ・ハクヤとリリィはポリティス伯爵に説明を求めるが、彼が笑を止める事が出来ずにいた。

 そこに、スッと近づいてきたのはディミトリオ・ハクヤの従者であるクレイだった。

「本日、皇帝陛下に目通りを願った商人はトンパ商会を始めとして、イディオ商会、ドゥラーク商会など8の商会です。
 リストはこちらです。
 そして、こちらの帝都の地図をご覧ください。」

 いつ情報を集めてきたのか。
 リストまで作り上げていたクレイには感心するしかないが、ディミトリオ・ハクヤとリリィはリストと地図を見比べた。
 
 すると、どこも揃いも揃って同じ区画に固まっているのが分かる。

「中心地よりも少しズレていますが、マーケットの位置と程よく離れているので人の停滞を心配する必要はないかと思います。」

 気の利くクレイは地図上に分かりやすく印をつけていく。
 確かに全てを合わすと纏まった土地の出来上がりだ。

 しかし、その中に1つ大きなタウンハウスがあった。

「ここは?」

 素直にリリィが問い掛ければ、全てを悟ったディミトリオ・ハクヤまでが楽しそうに笑っている。

「今、皇帝と謁見している最中のダチェット侯爵の屋敷だな。」

 それを聞いたリリィは目を見開いた。

「・・・うわ。
 あの人達・・・えげつない事してるわね。」

 事業を邪魔する新たな商会をなんとかして欲しいと願いでた貴族や商人の屋敷や店が偶々近隣だったのか?
 
 いや、そんなはずはない。
 リリィが仕掛けた事業の裏で若き皇帝と宰相が巧妙に画策してきたのだろう。

 リリィは自分を囮にされた事に怒るわけではない。
 寧ろ、やってるわぁと呆れている程だ。
 目の前の2人の男が楽しそうに笑うのも理解できる。

「とんだ飛んでに火に入る夏の虫ね。」

 訳のわからない事を口にしたリリィにキョトンとした3人の目が「何それ」と問いかけている。

「焚き火などの火に虫が飛び込んで行くのを見た事ない?
 何処かの国では気付きもせずに災難や危険に飛び込んで行く事を、そう言うらしいわ。
 炎の明るさに集まった虫欲を求める男達は、業火に焼かれる運命を選んでしまうのかもね。」

 リリィの言葉にディミトリオ・ハクヤは欲を追い求める人の業を憂うのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす

こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

【完結】聖女ディアの処刑

大盛★無料
ファンタジー
平民のディアは、聖女の力を持っていた。 枯れた草木を蘇らせ、結界を張って魔獣を防ぎ、人々の病や傷を癒し、教会で朝から晩まで働いていた。 「怪我をしても、鍛錬しなくても、きちんと作物を育てなくても大丈夫。あの平民の聖女がなんとかしてくれる」 聖女に助けてもらうのが当たり前になり、みんな感謝を忘れていく。「ありがとう」の一言さえもらえないのに、無垢で心優しいディアは奇跡を起こし続ける。 そんななか、イルミテラという公爵令嬢に、聖女の印が現れた。 ディアは偽物と糾弾され、国民の前で処刑されることになるのだが―― ※ざまあちょっぴり!←ちょっぴりじゃなくなってきました(;´・ω・) ※サクッとかる~くお楽しみくださいませ!(*´ω`*)←ちょっと重くなってきました(;´・ω・) ★追記 ※残酷なシーンがちょっぴりありますが、週刊少年ジャンプレベルなので特に年齢制限は設けておりません。 ※乳児が地面に落っこちる、運河の氾濫など災害の描写が数行あります。ご留意くださいませ。 ※ちょこちょこ書き直しています。セリフをカッコ良くしたり、状況を補足したりする程度なので、本筋には大きく影響なくお楽しみ頂けると思います。

とある婚約破棄の顛末

瀬織董李
ファンタジー
男爵令嬢に入れあげ生徒会の仕事を疎かにした挙げ句、婚約者の公爵令嬢に婚約破棄を告げた王太子。 あっさりと受け入れられて拍子抜けするが、それには理由があった。 まあ、なおざりにされたら心は離れるよね。

衣食住保障してください!~金銭は保障外だったので異世界で軽食販売始めます〜

桃月とと
ファンタジー
 どこにでもいる普通の社畜OL漆間蒼はついにブラック企業に辞表を叩きつけた!  遊ぶ時間などなかったおかげで懐には余裕がある。  家にはいつかやろうと揃えていたお料理グッズにキャンプ用品、あれやらこれやらが溢れたまま。  現実逃避が具現化した品々である。 「……これを片付けたら海外旅行でもしようかな!」  収入は途絶えたが蒼には時間がある。  有限だが、しばらくは働かなくても生きていけるだけの蓄えも。  なんとも晴れやかな……いや、それどころではない!  浮かれてルンルン気分でこれからの生活を想像していた。  だがそれも長くは続かない。 「あおいねーちゃんっ!!!」 「しょうくん!!?」  コンビニからの帰り道、隣に住む好青年、桐堂翔がなにやら神々しい光に包まれていたかと思うと、  足元には怪しげな魔法陣が……そのままゆっくりと沈むように吸い込まれている翔を助けようと  手を繋ぎ踏ん張るも、あえなく蒼の体も一緒に魔法陣の中へ。 「え!? なんか余計なのがついてきた……!?」  これまた荘厳な神殿のような場所に転がった蒼の耳に、  やっちまった! という声色で焦り顔の『異世界の管理官』が。  残念ながら蒼は、予定外の転移者として異世界に召喚されたのだ。 「必要ないなら元の世界に戻してくれます!?」 「いや〜〜〜残念ながらちょっと無理ですね〜」  管理官は悪びれながらも、うんとは言わない。  こうなったら蒼はなんとしてもいい条件で異世界で暮らすしかないではないかと、  しっかり自分の希望を伝える。 「じゃあチート能力ください!」 「いや〜〜〜残念ながらそれもちょっと……」 「ちょっと偉い人呼んできて!!!」  管理官に詰め寄って、異世界生活の保障をお願いする。  なりふり構ってられないのだ。  なんたってこれから暮らしていくのは剣と魔法と魔物が渦巻く世界。  普通のOLをやっていた蒼にとって、どう考えても強制人生ハードモード突入だ。 「せめて衣食住保証してください!!!」  そうしてそれは無事認められた。  認められたが……。 「マジで衣食住だけ保障してくれとるっ!」  特別な庭付き一軒家は与えられたが、異世界で生活するにも『お金』が必要だ。  結局蒼は生きていくために働く羽目に。 「まだ有給消化期間中だってのに〜!!!」  とりあえず家の近くに血まみれ姿で倒れていた謎の男アルフレドと一緒に露天で軽食を売りながら、  安寧の地を求めるついでに、前の世界でやりのこした『旅行』をこの異世界で決行することにした。 「意地でも楽しんでやる!!!」  蒼の異世界生活が始まります。

さようなら、家族の皆さま~不要だと捨てられた妻は、精霊王の愛し子でした~

みなと
ファンタジー
目が覚めた私は、ぼんやりする頭で考えた。 生まれた息子は乳母と義母、父親である夫には懐いている。私のことは、無関心。むしろ馬鹿にする対象でしかない。 夫は、私の実家の資産にしか興味は無い。 なら、私は何に興味を持てばいいのかしら。 きっと、私が生きているのが邪魔な人がいるんでしょうね。 お生憎様、死んでやるつもりなんてないの。 やっと、私は『私』をやり直せる。 死の淵から舞い戻った私は、遅ればせながら『自分』をやり直して楽しく生きていきましょう。

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

猫ばっかり構ってるからと宮廷を追放された聖女のあたし。戻ってきてと言われてももう遅いのです。守護結界用の魔力はもう別のところで使ってます!

友坂 悠
ファンタジー
あたし、レティーナ。 聖女だけど何もお仕事してないって追放されました。。 ほんとはすっごく大事なお仕事してたのに。 孤児だったあたしは大聖女サンドラ様に拾われ聖女として育てられました。そして特別な能力があったあたしは聖獣カイヤの中に眠る魔法結晶に祈りを捧げることでこの国の聖都全体を覆う結界をはっていたのです。 でも、その大聖女様がお亡くなりになった時、あたしは王宮の中にあった聖女宮から追い出されることになったのです。 住むところもなく身寄りもないあたしはなんとか街で雇ってもらおうとしますが、そこにも意地悪な聖女長さま達の手が伸びて居ました。 聖都に居場所の無くなったあたしはカイヤを連れて森を彷徨うのでした……。 そこで出会った龍神族のレヴィアさん。 彼女から貰った魔ギア、ドラゴンオプスニルと龍のシズクを得たレティーナは、最強の能力を発揮する! 追放された聖女の冒険物語の開幕デス!

処理中です...