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とある男の転換期

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 破産の危機に助けを求めてきた貴族や商人と謁見室で対峙していたファヴィリエ・ルカから少し離れた場所。
 ーーー皇妃の執務室は賑わいを見せていた。

 広い空間はマホガニーを使用した一体化したインテリアに囲まれ、所々に愛らしいさが見えるのは皇妃の執務室だからかもしれない。

 チリンチリンと鳴っているウィンドチャームに緑龍の姿はないが、ランタンの炎の中で赤龍が眠っているし、白銀のルーチェは楽しそうに部屋中を浮遊していた。

 水妖精のジョーディとフロウが青龍の拠り所である水皿を覗き込み、キャッキャと楽しそうに水草を突っついている。
 当の青龍は離宮の池の淵を枕に昼寝を敢行しているが、誰か不審者が侵入すれば彼の餌食となるだろう。

 ジョーディとフロウの主人である大公ディミトリオ・ハクヤは軽やかなハーブティーとほろかに甘いクッキーを楽しんでいた。

「双子龍は今日も子供達のところか?」

 オリーブの植木鉢に姿の見えない龍を思いディミトリオ・ハクヤが問いかけるとリリィは微笑んで笑った。

「サンとノームは子供が好きだもの。
 休憩時間になると皇子や皇姫が遊んでくれるのが嬉しいのよ。
 それに、立派な番犬ならぬ番龍になってくれてるはず。」

 この日、ディミトリオ・ハクヤは侍従のクレイと護衛のスサとセキエイを伴ってリリィを訪ねて来ていた。

 彼等には既にリリィの市場改革の話は通してある。

 ハンターギルドの運営は始まったばかりだが、ガク・ブランチがハンター達の心を掴んでいる事から心配はしていない。

「王宮内での評判も上々のようですね。
 混乱は貴族や商会の不正を暴き出す良い囮になります。
 財務監査局が手ぐすね引いて待っているようですよ。」

 クレイは真っ黒な猫、影妖精のノワールを優しく撫でた。

「それは良かったわ。
 物理的に悪い事をしている人間は分かりやすいけれど、経済的な犯罪って隠れるの上手いのよね。
 財務の人達には頑張って貰わないと。」

「そうですね。
 餌に掛かった獲物が今も謁見室に来ているのでしょう?
 宰相が悪い顔で笑っていましたよ。」

 そのクレイも負けないくらい悪い顔をしている。
 自分の侍従の表情に苦笑するとディミトリオ・ハクヤは感慨深そうに呟いた。

「ルカとフィリックスは相性が良い。
 素直そうに見えるルカも実は好戦的の側面があるし、何かを企んでいそうに見えるフィリックスは本来、常識人だ。
 経験を積めば良い国政が行えるはずだ。」

 親バカな側面を見せたディミトリオ・ハクヤにリリィは微笑んだ。

「その為には私達が掻き回す必要があるわね。
 もっと大胆に派手にね。」

 そして、その重要な駒の1人が案内されリリィの元にやって来た。

「ご苦労様。
 廊下で因縁つけられたって?」

「因縁にもならない愚痴ですかね。あれは。」

 肩を竦めたシオン・ポリティスにリリィ達は笑うのだった。
 
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