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そして混迷は次代へ

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「何故、皆、国を想う私の邪魔をする。」

 溢れ落ちるような小さな細い声だった。
 しかし、その場にいた全ての者がジャンヴィエ・リーンの声が聞こえていた。
 
 ファヴィリエ・ルカと母マドレーヌ妃は憐れみを示し、ディミトリオ・ハクヤは顔を顰める。
 
 騎士達はジャンヴィエ・リーンを見つめ、彼の采配を待っている。
 
 そんな中だった。 

「それを問われれば、邪魔をしているのは貴方自身ね。」

 場違いな程に澄み切った声が響き渡った。
 
 その場にいた全員が唖然としながら空を見上げた。

 そこには、白銀の龍に座り見下ろす美しい人が、誰の視線も気にする事なくジャンヴィエ・リーンだけを見つめていた。

「いざという時に邪魔が入ると言う事は、その前に対処してない貴方の所為でしょう?」

 その人は場の空気などお構いなしに笑っている。

「悪巧みっていうのはね。 
 最後まで成し遂げてこその悪巧みの意味があるのよ。」

 クスクス笑うその人・・・龍の姫巫女・リリィを周囲が黙り込み見上げる中、ディミトリオ・ハクヤは苦笑した。

「あの子は本当に・・・。
 この状況を楽しんでいるだろう。
 こら、リリィ!
 そんな所にいないで降りてきなさい。」

「はーい。」

 リリィが背を撫でると白銀の龍・・・ルーチェがゆっくりとジャンヴィエ・リーンの前に降りた。

 ジャンヴィエ・リーンにとって、父ハイゴール・ウィリが白銀の龍を怒らせた時以来のリリィの姿である。

 あの時も美しく神々しい彼女に目を奪われたが、今、この瞬間の圧倒的な存在感に押し潰れそうだった。

「・・・龍の姫巫女。」

 やっとの事で声を出したジャンヴィエ・リーンにリリィはクスッと笑った。
 恥ずかしさでパッと顔を赤くしたジャンヴィエ・リーンを気遣う素振りすら見せずにリリィはディミトリオ・ハクヤに声を掛けた。

「貴方はどうしたいの?」

 龍に願い乞う権利があるのは龍の使者であるディミトリオ・ハクヤだけである。
 改めて気づかされたジャンヴィエ・リーンは慌てたようにリリィに近寄った。
 
 その時だった。
 カシャッと刃物の音がしたと思えば、喉元に冷たい鋭い物が触れた。
 
 ジャンヴィエ・リーンは、いつのまにか現れた2人の若い男女に喉元と脇腹に短剣を突き付けられていた。

「それ以上、近づく事は叶わない。」

 若い男・コテツが言った。

「リリィ様が声を掛けているのはお前じゃない。」

 若い女・アリスが言った。

 「ぐっ」と苦しそうな声を上げるジャンヴィエ・リーンに騎士達はどうする事も出来ない。

「言いなさい。
 ハクヤ。
 貴方は、この状況をどうしたいの?」

 一瞬にして、場を掌握したリリィに頷くとディミトリオ・ハクヤは周囲を見渡し、大きな声を出した。

「この馬鹿らしい茶番は終わりだ!」
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