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そして混迷は次代へ

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「余計なお世話だ。」

 自分と同じ言葉を発する滑らかな声の持ち主が現れるとマドレーヌは溜めていた涙を堪える事なく流した。

「どいつもこいつも人の事を木偶の坊と・・・。
 それを言って良いのは、そこの女性と龍の姫巫女だけだ。」

 憮然とした顔の男は侍従と護衛を引き連れて正面玄関から堂々と入ってきた。

「・・・ハクヤ様。」

 息子の肩越しに、かつて愛した男を見つめたマドレーヌは思わず、男の名を口にした。

「母上。
 この度の異変はリリィ様の言葉を龍が伝えてくれた事で回避出来たのです。
 叔父上・・・ディミトリオ・ハクヤ様も同じです。
 それと、カルアがレイとアンディと共に“百合の宮”に到着したそうです。
 無事だ。問題ないと龍が・・・。」

 そう言うと、ファヴィリエ・ルカは自分の指に嵌ったマカライトの指輪を見つめた。

「それは・・・?」

 子供達の無事を知り、安堵したマドレーヌはリリィに感謝しながらも、息子が持つ指輪をジッと見つめた。
 以前、“桃華の宮”を訪れたリリィの指で煌めいていた龍を型どった指輪に似ている事を思い出し不思議そうに首を傾げると、龍の指輪が独りでに首をもたげた。

『安心せよ。
 我は風の力を持つ緑龍・ジン。
 《大事を届けるもの》なり。
 龍の姫巫女の願いを聞き届け、貴殿らを守るとしよう。』

 ハスキーで尊大な声にマドレーヌだけでなく周囲の者達が驚いた声を上げる。

「龍!?」

「龍だと・・・。」

「何故、第三皇子のもとにいるのだ?」

 騒ぐ騎士達を見ながらもディミトリオ・ハクヤは大きな溜息を吐いた。

「そうか・・・。
 リリィが龍をルカに預けてくれていたか・・・。」

 納得が出来ないのはジャンヴィエ・リーンであった。

「ルカっ!
 貴様が何故、龍を!!」

 学園の成績も剣の訓練も自分よりも遥かに劣る愚弟が龍に認められている事に何よりも心が反発している。

 義兄の怒りを受けたファヴィリエ・ルカは母の背を優しく摩ると、安心させる様に頷き、兄を見据えると階段を降りてきた。

「兄上、私達は学んだのです。
 継承順位が高い者よりも優秀な者は排除されると・・・。
 大切な人達が危害を加えられるくらいなら愚か者で私は良い。」

 そう言うと、剣を縦横無尽に捌き、滑るように腰の鞘に戻すと、ファヴィリエ・ルカは悲しそうに兄を見つめた。

「父と同じ歴史は繰り返さない。」

 ファヴィリエ・ルカは、そう言うと真っ直ぐにディミトリオ・ハクヤを見つめた。

 ディミトリオ・ハクヤは口元を緩めると小さく頷いた。

「賢い子だ。
 さすが、マドレーヌの子供だよ。」

 貴方の息子でもあるのです!

 そう叫びたい想いを押し殺し、ファヴィリエ・ルカはニッコリと笑うと深く頭を下げるのだった。
 

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