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そして混迷は次代へ
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頭の整理がつかずにいた皇姫アブリエル・エマは体をグラつかせ倒れ込む母を助ける事もなく呆然と兄を見つめていた。
アブリエル・エマにとって兄であるジャンヴィエ・リーンは父ハイゴール・ウィリ、母メッサリーナに続く庇護者であった。
幼少期より兄との仲は良かったと自負している。
しかし、今はそんな兄が遠い存在に見えた。
倒れた母を騎士に命じて強引に立ち上がらせると、今度は冷たい視線をアブリエル・エマに向けた。
「さて、エマ。
お前には嫁いで貰うよ。
お相手は“バベリー”のバレンテ王だ。」
それを聞き、アブリエル・エマの全身が寒くなり、母メッサリーナは驚愕の顔をした。
「・・・ぃや。いやよ!
だってバベリーって・・・!!」
あまりの事に言葉に詰まったアブリエル・エマはパクパクと口を動かすだけだった。
バベリーとは、王とは名ばかりの男がまとめ上げた武装集団であり、国境などお構いなしで部族や小国を狙い金品財宝を荒稼ぎする盗賊達の事だった。
件のバベリーのトップであるバレンテという男は国を持っていもいないのに、自身を王と名乗り周囲を威嚇していた。
ジャンヴィエ・リーンは密かにバベリーのバレンテと繋ぎをとり、報酬を与える代わりに自身の傘下入る事を約束させたのだ。
彼は悪名高いバレンテが欲する物を与えた。
すなわち、それは小国を興す為の纏まった土地だった。
しかし、ロンサンティエ帝国の周辺には主人のいる土地しかない。
そこでジェンヴィエ・リーンは考えた。
皇帝陛下が妹アブリエル・エマに与えた所領地をバレンテに授けると・・・。
それにはアブリエル・エマがバレンテと婚姻を結ぶ事が簡単だと結論付けられた。
「盗賊の野蛮人に嫁ぐなんて絶対に嫌っ!」
「その通りです。
エマはロンサンティエの皇姫なのですよ。」
喚き暴れるアブリエル・エマと恐怖に震えながらも抗議するメッサリーナをジャンヴィエ・リーンは、疲れた様に見下ろした。
「無法者で人への害悪を持ち合わせているのは理解しているが、あの男は使える。
私の治世に役立たってもらわなければならない。
何をそんなに否定しるのだ?
国の為の己を差し出すのが皇族の在り方だろう?」
それまで以上に凍て付く瞳に見つめられて震える間も無くアブリエル・エマは硬直した。
「バレンテ殿は既に数人の妻をお持ちだが、エマを受け入れると言ってくれた。
父上が用意して下された土地で過ごすのだ。
エマの行く末も安心だな。」
目を見開き恐怖と戦う妹を抱きしめるジャンヴィエ・リーンは耳元で囁いた。
「これまで、贅を尽くす我儘な生活を楽しんだんだ。
少しは国の役に立ってみろ。」
声を押し殺した様な鳴き声を背にジャンヴィエ・リーンは“薔薇の宮”を後にするのだった。
アブリエル・エマにとって兄であるジャンヴィエ・リーンは父ハイゴール・ウィリ、母メッサリーナに続く庇護者であった。
幼少期より兄との仲は良かったと自負している。
しかし、今はそんな兄が遠い存在に見えた。
倒れた母を騎士に命じて強引に立ち上がらせると、今度は冷たい視線をアブリエル・エマに向けた。
「さて、エマ。
お前には嫁いで貰うよ。
お相手は“バベリー”のバレンテ王だ。」
それを聞き、アブリエル・エマの全身が寒くなり、母メッサリーナは驚愕の顔をした。
「・・・ぃや。いやよ!
だってバベリーって・・・!!」
あまりの事に言葉に詰まったアブリエル・エマはパクパクと口を動かすだけだった。
バベリーとは、王とは名ばかりの男がまとめ上げた武装集団であり、国境などお構いなしで部族や小国を狙い金品財宝を荒稼ぎする盗賊達の事だった。
件のバベリーのトップであるバレンテという男は国を持っていもいないのに、自身を王と名乗り周囲を威嚇していた。
ジャンヴィエ・リーンは密かにバベリーのバレンテと繋ぎをとり、報酬を与える代わりに自身の傘下入る事を約束させたのだ。
彼は悪名高いバレンテが欲する物を与えた。
すなわち、それは小国を興す為の纏まった土地だった。
しかし、ロンサンティエ帝国の周辺には主人のいる土地しかない。
そこでジェンヴィエ・リーンは考えた。
皇帝陛下が妹アブリエル・エマに与えた所領地をバレンテに授けると・・・。
それにはアブリエル・エマがバレンテと婚姻を結ぶ事が簡単だと結論付けられた。
「盗賊の野蛮人に嫁ぐなんて絶対に嫌っ!」
「その通りです。
エマはロンサンティエの皇姫なのですよ。」
喚き暴れるアブリエル・エマと恐怖に震えながらも抗議するメッサリーナをジャンヴィエ・リーンは、疲れた様に見下ろした。
「無法者で人への害悪を持ち合わせているのは理解しているが、あの男は使える。
私の治世に役立たってもらわなければならない。
何をそんなに否定しるのだ?
国の為の己を差し出すのが皇族の在り方だろう?」
それまで以上に凍て付く瞳に見つめられて震える間も無くアブリエル・エマは硬直した。
「バレンテ殿は既に数人の妻をお持ちだが、エマを受け入れると言ってくれた。
父上が用意して下された土地で過ごすのだ。
エマの行く末も安心だな。」
目を見開き恐怖と戦う妹を抱きしめるジャンヴィエ・リーンは耳元で囁いた。
「これまで、贅を尽くす我儘な生活を楽しんだんだ。
少しは国の役に立ってみろ。」
声を押し殺した様な鳴き声を背にジャンヴィエ・リーンは“薔薇の宮”を後にするのだった。
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