上 下
110 / 385
道端に咲く野菊

109

しおりを挟む
「・・・そうですか。」

 謝罪に訪れた宰相より報告を受けたリリィはポツリと言った。

 この日の衣装は白い清楚なドレスにフェイスベールをしていたリリィの顔は目しか見えていない。
 緊張のあまり額に汗を滲ませていた宰相はリリィの機嫌を見極めようとしていた。

「マム様は既に埋葬されました。
 現在、フィルズ伯爵を暗殺の首謀者として拘束しています。
 この度は龍の姫巫女様に大変申し訳ない事で御座いました。」

 小さい息を吐いたリリィのフェイスベールが揺れた。

「私は問題ありません。
 暗殺をされかけたと言っても、大した事ではありませんでした。
 私は龍に守られています。
 かの方に傷1つ付けられていません。
 ・・・そうですか。
 お亡くなりになられましたか。」

「ナイフには毒が仕込まれていたようです。
 少しでも刃が届けば女の身でも相手の命を奪える程の猛毒です。
 毒の入手経路も調べております。」

 リリィは神妙に報告する宰相を見つめた。

「聞いた話だと、そのフィルズ伯爵と宰相殿は懇意にされていたとか?
 驚かれた事でしょう?」

 痛い所を疲れた様に宰相は顔を歪めた。

「懇意にしていたのは事実で御座います。
 痛恨の極みです。」

「皇帝陛下のお気持ちを察すると、お気の毒です。
 どうぞ、マム様が安らかにお眠りになられますように、私も祈ります。
 御息女は如何されるのでしょう?
 たしか・・・シモツキ・レイ様とおっしゃられましたね。」

 宰相は神妙な顔で頷くと報告を再開した。

「シモツキ・レイ様は皇帝陛下の尊い血を受け継がれております。
 皇帝陛下の御命令で後宮にて部屋を与えご教育される予定でした。」

「予定だった?」

 リリィが首を傾げると宰相は困った様に口を歪めた。

「“桃華の宮”の方が皇帝陛下にシモツキ・レイ様を引き取りたいとの申し出をされました。
 自分の離宮には空きがあると・・・。」

 何かを考え込むような宰相を見ながらリリィは優しく微笑んだ。

「マドレーヌ様ですね?
 お優しいあの方ならば、シモツキ・レイ様をお預けするのに宜しいのではないですか?
 後は陛下のお決めになられるのを待ちましょう。」

 シモツキ・レイは継承順位第10位であり、母は伯爵家の侍女である女だ。
 今更、宰相の娘であるメッサリーナ皇妃の産んだ子供達の継承に問題を起こす事はありはしないだろう。

 しかし、何かが引っ掛かる。

 それは、いつも表の世界には首を出さないマドレーヌが動いたからなのか。
 これまで上手い事利用できていない龍の姫巫女がやって来たからなのか・・・。

 宰相ムク・フラン侯爵は、そこはかとない不安が拭えずにいたのだった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

【R18】ショタが無表情オートマタに結婚強要逆レイプされてお婿さんになっちゃう話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

処理中です...