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道端に咲く野菊

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「これもダメ・・・こっちもダメ・・・あっ、これは大丈夫・・・いやダメね。」

 大きなテーブルを前にしてアリスが仕事に励んでいる。

「どう?」

 問いかけるリリィにアリスは口をへの字に曲げて首を横に振った。

「どれもこれも焼却対象です。
 これなんか釣書ですよ?
 姫様が後宮にいる意味を分かっていない御仁がおられるとは驚きです。
 あぁ・・・撤回します。近隣の王族からの打診でした。
 丁重にお断りの返事を出しておきます。
 ・・・いや、この際は王宮に回して、あちらから断って頂きましょう。」

「ほどほどにね。」

 ファヴィリエ・ルカがリリィの離宮を訪れた翌日の昼下がり、アリスが不機嫌な理由はひとえに大きなテーブルに並べられた手紙や何が入っているのか分からぬ箱の所為であった。
 皇妃と第一側妃との茶会を経て、宴で人々を魅了したリリィの元には各所から目通りを願う手紙や贈り物が届けられていた。

 皇帝とリリィの関係が上手くいっていない事を良い事に自国へ来る事を進める近隣諸国の王族達。
 早い内にディミトリオ・ハクヤへ鞍替えしようと画策する国内貴族達。

 どちらにせよ。
 リリィと繋ぎをとる事で事態を動かそうとする人々の思惑が形として現れてしまっているのだった。

「あぁ。これは開拓地が干上がってしまった土地の領主からの助力を求める手紙ですね。
 王宮に言っても手を貸してくれなかったから、こちらに直接送ってきたようです。
 一度、大公様にご相談しておきます。」

 アリスは重要と認めた手紙を大切そうに木箱に入れるのを見ながらリリィは小さな息を吐く。

「ハクヤも難儀な事ね。
 決して、一度として王を目指すなど口にした事もないのに期待されてるなんて。」

「むしろ、自分は臣下のままで良いと公言されていますよ。
 これは、今まで蔑ろにしてきた者達が慌てて大公様との関係を構築しようと足掻いている証拠でしょう。
 滅ぶ者たちは勝手に滅んでいけば良いのです。
 我らが姫に面倒をかけるなと、手紙を送った者自身を燃やしてやりたい気分ですよ。」

 リリィが絡むと辛辣なアリスは焼却確定となった手紙を、もう1つの箱にポイポイと放り込んでいく。

 その時だった。
 思い思いの場所で昼寝をしていた龍達の目が一斉に開いた。

『なにか来たな。』
 
 緑龍のジンがゆっくりとリリィに近づいた。

「危険かしら?」

 問いかけるリリィにジンは首を横に振った。

『いいや・・・こりゃ、子供だな。』

「子供・・・。
 何処の子かしら?」

 首を捻るリリィに双子の琥珀龍サンとノームが部屋を飛び出して行く。

『『見てくるぅ』』

「あっ。待って!」

 それを余計な事が起こっては敵わんとアリスが追いかけて行った。
 
 この出会いが、リリィに齎す事件の始まりだとは誰も予想していなかった。
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