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道端に咲く野菊
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女は恐怖でブルブルと震えていた。
上等な衣装をギュッと握ると、何かに耐える様に目の前にいた人物を見上げる。
「それでは、良い報告をお待ちしております。」
冷めた目の人物が部屋を出ていくと女は息も絶え絶えに己が身を抱き抱えた。
「ハァハァハァ・・・どうして・・・どうして・・・。」
どうしたら良いのか、彼女には分からなかった。
外から聞こえてくる娘の笑い声に気がつくと涙が溢れていく。
「ゔっ・・・ゔぅぅぅ。」
女は誰にも聞かれない様に鳴き声を押し殺した。
先程の人物が置いていった品がチラリと目に入る。
何処にも逃げられない・・・。
女は絶望しながら、それを握りしめた。
__________
「ルーチェ?」
リリィは、空を見上げるルーチェに不思議そうに声を掛けた。
『ん?何?』
賑やかなダイニングリビングに背を向けて外を見つめていたルーチェがリリィに甘える様に擦り付いた。
「どうしたの?
何か変よ?」
『ちょっと、変な感覚がしただけ。
でも、今は問題ないよ。』
「・・・そう。
問題あるのね。」
リリィは甘い匂いをさせた生地が入ったボールをかき混ぜながら溜息を吐く。
『大丈夫って言ってるのに。』
ルーチェがクスクスと笑う。
「ルーチェが、そう言う時は大丈夫だけど面倒な事が起きるのよ。
また誰かが悪巧みでもしている悪気を感じ取ったのね。
どうして人間って美味しい物を食べるだけじゃ満足出来ないのかしら?」
龍の立場から物事を見るリリィには人間の悪意が愚か者の転落への道に見えるのだ。
『だからこその人間なんじゃないか。
完璧なら神も龍も、この世には要らぬ存在だよ。』
ルーチェが宥めると、リリィはつまらなそうに混ぜ込んだ生地を型に入れた。
『甘くて美味しそうな匂い。』
嬉しそうにルーチェが踊るとリリィは少し機嫌が治ったのか、小さく微笑んだ。
「マドレーヌ様へのお礼よ。
ファヴィリエ・ルカ様に持って帰ってもらうの。
このフィナンシェはマドレーヌ様の桃の紅茶とピッタリだと思うの。」
オーブンを覗き込んだルーチェは尻尾をフリフリしている。
『僕のは?』
「心配しないで。
ちゃんとあげるわよ。
ほら、向こうにも欲しがっている人達がいるもの。」
ルーチェが顔を向けると、ハンバーグを食べ終えた者達が一斉にこちらを見つめていた。
「良い匂いがしているんだ。
仕方がないだろう。」
ディミトリオ・ハクヤが笑うと、隣にいたファヴィリエ・ルカも申し訳なさそうに微笑んだ。
「俺は10個ね。」
本当に主人を敬っているのか分かったもんじゃないコテツが手を振っている。
「呆れたものね。
まだ食べるの?
太るわよ。」
「それ以上に体を動かすから問題なし。」
悪びれる様子のカケラもないコテツにダイニングリビングに笑いが響き渡るのだった。
女は恐怖でブルブルと震えていた。
上等な衣装をギュッと握ると、何かに耐える様に目の前にいた人物を見上げる。
「それでは、良い報告をお待ちしております。」
冷めた目の人物が部屋を出ていくと女は息も絶え絶えに己が身を抱き抱えた。
「ハァハァハァ・・・どうして・・・どうして・・・。」
どうしたら良いのか、彼女には分からなかった。
外から聞こえてくる娘の笑い声に気がつくと涙が溢れていく。
「ゔっ・・・ゔぅぅぅ。」
女は誰にも聞かれない様に鳴き声を押し殺した。
先程の人物が置いていった品がチラリと目に入る。
何処にも逃げられない・・・。
女は絶望しながら、それを握りしめた。
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「ルーチェ?」
リリィは、空を見上げるルーチェに不思議そうに声を掛けた。
『ん?何?』
賑やかなダイニングリビングに背を向けて外を見つめていたルーチェがリリィに甘える様に擦り付いた。
「どうしたの?
何か変よ?」
『ちょっと、変な感覚がしただけ。
でも、今は問題ないよ。』
「・・・そう。
問題あるのね。」
リリィは甘い匂いをさせた生地が入ったボールをかき混ぜながら溜息を吐く。
『大丈夫って言ってるのに。』
ルーチェがクスクスと笑う。
「ルーチェが、そう言う時は大丈夫だけど面倒な事が起きるのよ。
また誰かが悪巧みでもしている悪気を感じ取ったのね。
どうして人間って美味しい物を食べるだけじゃ満足出来ないのかしら?」
龍の立場から物事を見るリリィには人間の悪意が愚か者の転落への道に見えるのだ。
『だからこその人間なんじゃないか。
完璧なら神も龍も、この世には要らぬ存在だよ。』
ルーチェが宥めると、リリィはつまらなそうに混ぜ込んだ生地を型に入れた。
『甘くて美味しそうな匂い。』
嬉しそうにルーチェが踊るとリリィは少し機嫌が治ったのか、小さく微笑んだ。
「マドレーヌ様へのお礼よ。
ファヴィリエ・ルカ様に持って帰ってもらうの。
このフィナンシェはマドレーヌ様の桃の紅茶とピッタリだと思うの。」
オーブンを覗き込んだルーチェは尻尾をフリフリしている。
『僕のは?』
「心配しないで。
ちゃんとあげるわよ。
ほら、向こうにも欲しがっている人達がいるもの。」
ルーチェが顔を向けると、ハンバーグを食べ終えた者達が一斉にこちらを見つめていた。
「良い匂いがしているんだ。
仕方がないだろう。」
ディミトリオ・ハクヤが笑うと、隣にいたファヴィリエ・ルカも申し訳なさそうに微笑んだ。
「俺は10個ね。」
本当に主人を敬っているのか分かったもんじゃないコテツが手を振っている。
「呆れたものね。
まだ食べるの?
太るわよ。」
「それ以上に体を動かすから問題なし。」
悪びれる様子のカケラもないコテツにダイニングリビングに笑いが響き渡るのだった。
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