溜息だって吐きたくなるわっ！〜100賢人仕込みの龍姫は万年反抗期〜

道端に咲く野菊

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　ファヴィリエ・ルカはテーブルに乗った見た事もない料理を興味深そうに見つめた。

「これは何でしょう？」

　問いかけるファヴィリエ・ルカは少年のように目を輝かしている。

「ハンバーグと言います。
　細かくした肉を丸く形成して焼いています。
　熱いうちに召し上がれ。」

　湯気立つ茶色い肉の塊には白と黄色でプルプルした物が乗っていた。

「それは目玉焼きです。
　崩して食べてるのもオススメです。」

　微笑むリリィにファヴィリエ・ルカも釣られるように微笑んだ。

「温かいパンと野菜のポタージュ用意しましたよ。
　こちらは、おかわり出来ますからね。」

　大きな食卓にはディミトリオ・ハクヤ、ファヴィリエ・ルカ、コテツにアリス、そして固辞するのを無理やり座らせたマドレーヌの侍従ギモーブが座った。

「頂くとしよう。」

　ディミトリオ・ハクヤの声にファークとナイフを手にした一同は嬉しそうにハンバーグに火を入れた。

「うわ。」

　切り込みから立ち上る湯気と肉汁にファヴィリエ・ルカは驚いた。
　そして、ハフハフしながら食べる叔父を見て、自分も真似をして口に頬張る。

「熱い・・・美味しい・・・。
　こんなの初めてだ。」

　感動するファヴィリエ・ルカの前ではコテツが容赦なく野菜のポタージュのおかわりをリリィにせがんだ。

「おかわり！」

「はいはい。
　コテツには鍋ごとあげようかしら？」

　クスクス笑うリリィを見つめるファヴィリエ・ルカは不思議そうだった。
　自分もギモーブや侍女のカヌレとは仲が良い方だが、リリィとコテツの関係は、また違う親しみを感じていた。

　チクっと胸が痛む。
　その痛みの正体を彼は知らなかった。

「このパンはソースに付けて食べると美味い。」

　ファヴィリエ・ルカの気持ちなど知らぬコテツがパンを差し出した。

「・・・有難う。
　千切れば良いのかな？」

「そう。
　千切った断面ほど、よく染みる。
　美味い。」

　ほらやってみろ。とばかりのコテツにファヴィリエ・ルカは戸惑いながらホワホワと温かいパンを千切ってソースに浸すと口に入れた。

「！！ん！！」

　目がチカチカするくらい美味しい組み合わせにファヴィリエ・ルカは再びパンを千切ってソースに浸した。

「美味いだろう？」

　ニヤリとするコテツにファヴィリエ・ルカは、先程までの胸の痛みなど忘れてウンウンと何度も頷いた。

「美味い！」

　子供の様に微笑むファヴィリエ・ルカにギモーブの口元も緩んでいる。
　この侍従、ファヴィリエ・ルカが幼少の折に失明をした事から、彼の成長を自分の目で見れた事に感動していた。
　
「コテツ、分かっているとは思いますが、目の前の方は継承順位第3位の皇子様ですよ？
　さっきから敬語を忘れています。」

　呆れた顔のアリスにコテツはしまったと頭を掻いた。

「よい。
　美味しい料理を前にして身分など関係ないのだろう。」

　ファヴィリエ・ルカの笑顔にコテツは「分かってるね。皇子。」と口にしアリスに脇腹を突っつかれていた。

「そうですね。
　私も美味しい料理が心を満たすとリリィから教わりました。」

　ディミトリオ・ハクヤが微笑むと、ファヴィリエ・ルカは眩しそうに目を細めた。

「叔父上。
　龍王島の事の教えて下さい。
　その他の旅の事も・・・。」

　ファビリエ・ルカは息子と名乗れない寂しさを感じさせずに微笑んだ。

「えぇ。是非にも。」

　そしてディミトリオ・ハクヤは事実を知らずにも、この皇子に特別な思いを持つ自分を許すのだった。