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ロンサンティエ帝国の明暗

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「それに私は自分の力の使い方は知っている。」

 そう言い放ったリリィは片手を天井に掲げた。
 その美しいの手に赤色と緑色の百合の花が浮かび上がりクルクルと回転し、次第に真っ白な筈のリリィの髪が赤色と緑色に染まっていくのを、ディミトリオ・ハクヤは周囲の人間と同じく驚く事しかできないずに見つめていた。

「龍が帰って来たぞ!!
 疲弊した国に風穴をあけよ!」

 上に向かって放たれた力は大広間の天井を突き抜けて、大きな穴を作り集まった人々に夜空を覗かせた。

「なんとっ!」

 凄まじい威力に貴族達が慄き逃げ惑う中、小さかった白銀の龍が巨体に変化し飛び立った。

 ガギャァァァ!

 月夜に浮かぶ1匹の白銀の龍の咆哮は王都中に響き渡り、龍の姫巫女の帰還を帝国内外に知らしめた。 


 かつて龍は人間に幻滅した。
 龍達の力を利用し繁栄したにも関わらず、己が力を過信し龍を支配しようとした。
 幼龍を無理やり捕まえ酷使した非道を龍達は忘れていない。

 フランコ・トワ・ロンサンティエの存在が再び龍と人間との交流に一役買ったとは言え、それは決してロンサンティエ帝国が永遠に龍に愛された盤石な国ということではないのだ。

 この日、人々は知ってしまった。
   
 ロンサンティエの皇帝になった者が龍の使者なのではない。
 フランコ・トワ・ロンサンティエの血筋で、龍王島にて龍王に認められた者が龍の使者となるのだ。
 此度、ディミトリオ・ハクヤ・ロンサンティエ大公が龍王に認められた事を知った小国を任された他の兄弟達は、自分にも龍の使者の権利が会った事に気づき騒ぎ出す事だろう。
 皇帝の姉妹達を迎え入れた婚姻近隣諸国は自国に誕生した王子や姫にもロンサンティエの血筋の資格がある事に希望を持つ事だろう。

 ロンサンティエの皇帝が己の立場を守る為に兄弟姉妹を散りばめた事で、他国にも選択肢を与えてしまった。
 人間達の平和の安泰を思えば選択肢は多い事に困る事はないが、ロンサンティエ帝国の一強の時代が終わるキッカケを作ってしまったのも現皇帝ハイゴール・ウィリ・ロンサンティエで間違いない。
 
 そして、誰よりも何よりも疎んじていた弟ディミトリオ・ハクヤに龍の使者としての大いなる力を与える羽目になったのも“陛下の我儘”を言った皇帝ハイゴール・ウィリ・ロンサンティエの選択である。

 満天の月夜に白銀の龍が姿を現したこの日、ロンサンティエ帝国の明暗が逆転したのは明らかだった。


「兄上。
 私は国に尽くします。
 例え、どんな皇帝であろうとも変われば国に大きな変革が起こります。
 国民を危険に晒すわけにはいきません。
 どうか、ご自身の命にしがみ付いて下さい。」

 すでに意識の飛んでいる皇帝にディミトリオ・ハクヤが言った言葉だった。
 
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