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混沌なる後宮
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「・・・これは何をしているのだ?」
早朝からトンテンカンテンと音鳴る中をディミトリオ・ハクヤは戸惑いながら指差した。
「何って、改装してるのよ。
見ての通りの改装工事。」
昨夜、混乱の内に終わった謁見の後、リリィの離宮が用意されていない事に抗議したディミトリオ・ハクヤに対し、気を失い何も発言する事の出来ない皇帝の代わりに宰相が動いた。
しかし、空いている離宮を見繕えば、後宮の中でも最も奥にあり長年使われていなかった離宮しかなかったのだ。
慌てた宰相は他の側室と交換すると言っていたが、リリィは好んでその離宮をもらう事にした。
「手の加えがいあるわぁ。」
一晩、豪勢な客室に泊まり朝になり向かってみれば荒れ放題の離宮が現れ愕然とするディミトリオ・ハクヤ達の隣でリリィが楽しそうにケラケラと笑っていた。
「せめて職人達を連れてくる。」
そう言い離宮を離れていくディミトリオ・ハクヤを見送り、リリィはニヤリと不適な笑みを浮かべた。
「コテツ。アリス。
やろうか。」
「任せろ。」
「姫様の言う通りに。」
「皆んなもお願いね。」
リリィは小さい姿でプカプカと浮いているルーチェに声をかけた。
『おっけぇ。』
まだ眠そうなルーチェに微笑むとリリィは何処からか大きな紙を取り出すと、止まる事なく筆を動かしていく。
その背後ではコテツとアリスが無駄な草や崩れ落ちている瓦を片付けて始めた。
ものの数分で何かを書き終えたリリィは仲間達に声を掛けて紙を広げて見せた。
無言で拍手する一同はリリィの書いた紙を覗き込むと、何をするべきなのか理解した様に一様に散って行った。
ディミトリオ・ハクヤが戻ってきた時には古びた塀は取り壊され、薄暗かった建物が骨組みだけとなっていた。
「設計図?」
首を傾げたディミトリオ・ハクヤにリリィが微笑んだ。
「そう。
設計図さえあれば、全員が共通認識出来るでしょう?
使われていなかったとはいえ基礎工事や柱とかの躯体はしっかりしているのよ。
あとは増設する部分の間取りに手を入れて壁や屋根を新しくすれば問題なく使えるわ。」
設計図くらいディミトリオ・ハクヤだって知っている。
疑問に思ったのは・・・
「リリィが設計図を描いたのかい?」
「そうよ。
師匠から基礎を徹底的に仕込まれたわ。
師匠は派手で奇抜な設計を好むけど私は違う。
住む人間にとって必要なのは実用性よ。」
何でもない事のように言うリリィを見てディミトリオ・ハクヤは彼女に100人分の叡智が詰め込まれている事を思い出した。
「・・・流石だな。
今、クレイが人足達を集めている。
人手はもう少し待ってくれ。」
「あら。助かるわ。
全て魔法で造るのも良いけれど、それじゃ面白味が半減するものね。」
『あっ。魔法でも造れるんだ。』
遠い目をしたディミトリオ・ハクヤに気づくでもなく、リリィは汚れるのも構わずにコテツ達の元に飛び込んで行った。
クレイが人足を集めて戻ってくる頃には離宮の外壁が出来上がりをみせていて、集まった人々を驚かせていた。
早朝からトンテンカンテンと音鳴る中をディミトリオ・ハクヤは戸惑いながら指差した。
「何って、改装してるのよ。
見ての通りの改装工事。」
昨夜、混乱の内に終わった謁見の後、リリィの離宮が用意されていない事に抗議したディミトリオ・ハクヤに対し、気を失い何も発言する事の出来ない皇帝の代わりに宰相が動いた。
しかし、空いている離宮を見繕えば、後宮の中でも最も奥にあり長年使われていなかった離宮しかなかったのだ。
慌てた宰相は他の側室と交換すると言っていたが、リリィは好んでその離宮をもらう事にした。
「手の加えがいあるわぁ。」
一晩、豪勢な客室に泊まり朝になり向かってみれば荒れ放題の離宮が現れ愕然とするディミトリオ・ハクヤ達の隣でリリィが楽しそうにケラケラと笑っていた。
「せめて職人達を連れてくる。」
そう言い離宮を離れていくディミトリオ・ハクヤを見送り、リリィはニヤリと不適な笑みを浮かべた。
「コテツ。アリス。
やろうか。」
「任せろ。」
「姫様の言う通りに。」
「皆んなもお願いね。」
リリィは小さい姿でプカプカと浮いているルーチェに声をかけた。
『おっけぇ。』
まだ眠そうなルーチェに微笑むとリリィは何処からか大きな紙を取り出すと、止まる事なく筆を動かしていく。
その背後ではコテツとアリスが無駄な草や崩れ落ちている瓦を片付けて始めた。
ものの数分で何かを書き終えたリリィは仲間達に声を掛けて紙を広げて見せた。
無言で拍手する一同はリリィの書いた紙を覗き込むと、何をするべきなのか理解した様に一様に散って行った。
ディミトリオ・ハクヤが戻ってきた時には古びた塀は取り壊され、薄暗かった建物が骨組みだけとなっていた。
「設計図?」
首を傾げたディミトリオ・ハクヤにリリィが微笑んだ。
「そう。
設計図さえあれば、全員が共通認識出来るでしょう?
使われていなかったとはいえ基礎工事や柱とかの躯体はしっかりしているのよ。
あとは増設する部分の間取りに手を入れて壁や屋根を新しくすれば問題なく使えるわ。」
設計図くらいディミトリオ・ハクヤだって知っている。
疑問に思ったのは・・・
「リリィが設計図を描いたのかい?」
「そうよ。
師匠から基礎を徹底的に仕込まれたわ。
師匠は派手で奇抜な設計を好むけど私は違う。
住む人間にとって必要なのは実用性よ。」
何でもない事のように言うリリィを見てディミトリオ・ハクヤは彼女に100人分の叡智が詰め込まれている事を思い出した。
「・・・流石だな。
今、クレイが人足達を集めている。
人手はもう少し待ってくれ。」
「あら。助かるわ。
全て魔法で造るのも良いけれど、それじゃ面白味が半減するものね。」
『あっ。魔法でも造れるんだ。』
遠い目をしたディミトリオ・ハクヤに気づくでもなく、リリィは汚れるのも構わずにコテツ達の元に飛び込んで行った。
クレイが人足を集めて戻ってくる頃には離宮の外壁が出来上がりをみせていて、集まった人々を驚かせていた。
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