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老師との訓練という名の戯れ

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「・・・これは一体?」

 戸惑うディミトリオ・ハクヤ・ロンサンティエが見つめていたのは、平伏している船長と船員の姿だった。

「本当に、あの時の者達で合っているか?」

 行きの時の対応と随分違いしおらしい姿に眉を顰めた。

「あの者達で合っています。
 主様が忘れても、私は忘れません。」

 クレイの冷たい声に船長の肩がビクリと跳ねる。

「申し訳ございませんでしたっ!!」

 謝り続け頭を上げない船長にディミトリオ・ハクヤは困った様にリリィを見つめた。

「アリスの仕業ね。」

 苦笑したリリィと共にアリスを探せば老師の背に隠れチラチラと此方を見ていた。

「らちが明かないわ。 
 どうぞ、大公様の宜しい様に。」

 小声のリリィにディミトリオ・ハクヤは頷いた。

「迎え、ご苦労。
 直ぐにでも出発がしたい。
 準備は?」

「ハッ!
 既に出向の準備は出来ております。」

 船長は顔をガバッと上げると血走った目で頷いた。
 余程の恐怖があったのだろう。
 何があったのか・・・想像できてしまい小さく微笑んだ。

「ならば、こちらに座す龍の姫巫女殿を無事に帝国まで送り届けよ。」

「ハハァー!
 天地神明にかけましても大役、務めます。
 野郎共!
 出向だ!!」

「「「「おおおおおおお!!」」」」

 いそいそと船に乗り込む船長と船員を見つめディミトリオ・ハクヤはアリスに問いかけた。

「何をしたんだ?」

「・・・しました。」

「ん?何だって?」

「・・・・しました。」

 聞き取りにくいアリスにリリィが笑った。

「アリス。」

「大公閣下を馬鹿にした上に皇帝陛下の命に背くのなら命はないぞ。
 と言いました。」

 白状したアリスにリリィとディミトリオ・ハクヤは微笑んだ。

「代わりに怒ってくれたのだな?
 有難う。」

 ディミトリオ・ハクヤが優しく礼を言うとリリィは恥ずかしそうに俯いた。
 
「正確には、大公閣下の命を軽んじ龍の姫巫女を連れてこいと言う皇帝陛下の勅命を邪魔する貴様等は帝国に帰れば口封じで殺されるのだから、今此処で首を叩き切ってやると言っていた。」

 老師の告げ口にアリスは慌てて老師を睨みつけた。

「やっぱりな。」

 コテツが口を開いた。

「見事。」

 スサが口を開いた。

「俺、絶対にアリスは怒らせない。」

 セキエイが口を開いた。

「流石、アリスです。
 私も奴等には言ってやりたい事があったのですが、今のを聞いて胸がスカッとしました。
 有難う御座います。」

 クレイが満面の笑みで嬉しそうに口を開いた。

 教え子達の賑やかな雰囲気に老師が和やかに微笑む。

「最後まで騒がしいのぅ。
 まぁ、寂しいよりは良いさ。
 リリィよ。別れだ。
 存分に暴れておいで。」

「・・・老師。
 今まで、有難う。
 龍の皆んなと仲良くね。
 大好きだよ。」

 老師はリリィを抱きしめると、ディミトリオ・ハクヤに場所を譲った。

「お世話になりました。」

「さらばだ。」

 老師が杖を揺らすと大きな球体が一同を包み込んだ。
 そして、優しく優しく船の看板に誘導する。
 自然と船が動きだすと、砂浜に残った老師と黄色の龍、そして見送る他の龍達にリリィは手を振った。

「行ってきまーす!」

「さぁ、若人よ。
 行け、輝かしい未来は己の手で作り出すのだ。」

 水飛沫を上げて船は前進する。

「バイバイ。
 マーリン。」
  
 リリィは最後に恩師の名を呟いたのだった。
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