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己の価値を知る男は好かれる

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 名門グルーバー侯爵家が無くなった。
 過去には王妃を輩出した事もある歴史ある侯爵家の爵位剥奪は王都のみならず、国の全土に広まった。
 国王陛下へのクーデターを起こし失敗に終わったと伝え聞くが、噂の中にアルデバランの名が出ると人は口を閉じた。

 グルーバー前侯爵は僻地の牢に送られ、息子は無爵位で地方の役人になり奥方や娘達は修道院に送られた。
 此度の騒動に後継者である息子が無関係ではない事を証明された事を考えれば、国王は温情を与えたと言える。
 
 国王アルベールは名君である。
 彼の美徳は己の力量を知り、人の話に耳を傾ける事だ。
 当然、そんな彼に悪意ある助言をする者も現れるものだが、国王アルベールは自分にとって必要な話かどうかを聞き分ける力があった。
 国王になる筈ではなかった国王は、人の力を借りる事を恥としなかった。
『自分1人で持てない荷物を無理して1人で持つ事もない。』
 彼の考えを身近に感じていた宰相オランド公爵は最大限に国王に力を貸した。
 オランド公爵に倣うように、次々と貴族が国王に力を貸し国は1つになっていったのだ。

 そんな国王アルベールにも秘密はある。
 
 国王という立場上、存在しあえない友と呼べる人物が彼にはいる。
 王都より離れた街ダチュラ、“犯罪の街”と言われるこの街に国王アルベールが友と呼ぶ者達がいる。
  
 国王アルベールは息子に伝え続ける言葉がある。

『ダチュラを蔑ろにするべからず。
 可の街こそ、国の柱である。』

 その息子達の友情も続いていく事になるが、時代が流れていく事でこの関係がいつ壊れるともしれない。
 しかし、痛手を産むのは国の方であろう。
 
 ダチュラがダチュラとして存在する、その上で1つの小さな酒場を多くの人間は知らない。
 ダチュラの影として存在する、この酒場・・・“Bar  Hope”。
 彼らが陽の光の下、表沙汰に現れた時。
 国の1つや2つのは避けられない悪夢であろう。

「さらばだ。」

 ダチュラからやってきたを送り出す、国王アルベールにとって、そんな日が来ない事を願うだけであった・・・。


___________



 人は時にどうしようもない選択をしなければいけない時がある。
 
 それがいかに狂った選択なのかは本人が一番分かっている。
 それでも掴まなければ“死ぬ”と言われれば嫌でもバラの蔓にしがみつくだろう。
 
 たとえ手が血ににじもうとも・・・。

 だから彼は今ここに居る。

「何で俺がこんな所に・・・。」

 彼がいるのは夜の社交場“Bar  Hope”
 何故かドアマンとして採用された男は星空を仰いで溜息を吐いた。





「しょうがねーだろ。
 ジャンケンで負けたんだから。」

 リトゥル・バーニーの隣には同じく白い息を吐いて寒さを堪えているバーテンダーのギルと同じく無言で頷くボーイのフリントが立っていた。
 3人は店の裏の桟橋で、届いたの船便から大きな木箱を運んでいた。
 通常の配達と違い、小舟で直接に店に輸送される箱の中身は希少な酒が大量に入っていた。
 寒さ痺れるこの時期には良い酒が手に入る。
 1つでも割れば大変な事になると分かっているから、3人とも必死である。

「グダグダ言わずに、とっとと働きな!」

 ゴールドの毛足の長いコートを着込んだマダム・マリエッタが腰に手を当てて睨んでいる。
 その後ろにはボーイのヒスイがニコニコと立っていた。

「ヒスイ。
 手伝っても良いんだぞ?」

 ギルの誘いにヒスイは微笑みながら首を横に振った。

「結構です。
 3人の仕事を横取り出来ません。」

 店のドアや窓からは他の従業員がニヤニヤしながら3人の作業を見つめていた。
 
 領主が戻りったダチュラの街は冬が到来し寒さの中にも日常を取り戻していた。
 Bar  Hopeにも連日、客が訪れ賑わっている。

 リトゥル・バーニーは数ヶ月前の自分を思い出し、奇跡の転職をした自分に微笑んだ。
 過去の業から逃げていた自分に依代が出来た事が不思議だった。
 親友と恩師の存在しか重石がなかった自分の命に、それだけでも幸せだったのだと知った。

「何、笑ってんだよ。
 力持ちのお前が頼りなんだから、しっかりしろよ。」

 寒空の下ニコニコと木箱を運ぶ、リトゥル・バーニーをギルは苦笑していた。

「はい。すいません!」

「くっちゃべってないで、手を動かしな。
 こっちは寒いんだよ!」

 マダム・マリエッタの小言すら楽しんでいると、バーテンダーのエドが裏扉を開けて外に出てきた。

「マスターからの連絡です。」

「全く、人使いが荒い男だね。」

 マダム・マリエッタはコートを翻すと一同に声をかけた。

「仕事だよ!
 はこの街の流儀を知らないらしい。
 しっかりとしてやんな。」

「「「「「「「はーい!!」」」」」」

「さぁ、開店時間だ。
 今日も、お客様に最高の時間を・・・。」

 振り返ったマダム・マリエッタはニヤリと笑った。

 

===============

 お客さん。ダチュラの街は初めてかい?
 良い酒場だって?
 だったらBar  Hopeに行ってみると良い。

 酒は美味いし、飯も美味い。
 音楽も良いよ。歌姫が絶世の美人だ。
 最高のおもてなしも味わえるし、何よりも安全だ。

 “犯罪の街”で唯一、安全な店だ。

 ただし、店で騒ぎを起こしちゃならねえ。
 あの店じゃ、どんなに大物マフィアも猫のように丸くなる。
 そんな店で喧嘩沙汰?
 あぁ・・・怖い怖い。

 仕事で来たってか?
 この街は犯罪者に楽園だけど、王都よりも厳しい街でもあるぜ。
 なんせ領主様が“悪魔”って呼ばれているからな。
 アンタもそうなら、気をつけなよ。

 “英雄”?
 あぁ、そりゃの事だろう。
 生きてるなんて、知らないよ。
 王都で少し話題になった?
 ははは!
 生きてなさるなら、嬉しいね。
 この街では、なんでも御座れ
 死んだ英雄の話なら、話してやるぜ。

 おおっと、残念時間切れだ。
 到着したぜ。
 ここが“Bar Hope”だよ。

 あぁ、毎度!
 それじゃ、旦那。
 Bar Hopeを堪能して下さいよ。
 でも、精々良い子にな。
 ここは他所とは違う“犯罪の街”だからね。



「いらっしゃいませ。お客様。
 Bar  Hopeへようこそ。」




 ~Close・・・~
=============================================

 ーご挨拶ー

 いつもお世話になっております。
 最後まで『地獄の沙汰も酒次第・・・街に愛された殺し屋達に会いたいのならBar  Hopeへようこそ』をご覧頂きまして有難うございます。
 本作品はこれにて完結させて頂きます。
 最後は駆け足になってしまい申し訳ありません。
 
 当初こそ、戦闘を増やして・・・と考えておりましたが、やはり難しい!と悩んだ本作品でございます。
 反省する事も多々ございますが、完結できてホッとしております。

 今後は、前作『拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~』の続編の創作に取り掛かりたいと考えています。
 まだ、お読み頂いてない方がいらっしゃいましたら是非ご覧ください。
 あまりにも誤字脱字が多く、我ながら「よく、皆さん最後まで読んでくれたものだ」と笑ってしまっておりますので続編の創作の前に修正をして参ります。
 また、お付き合い頂ければ幸いです。
 
 よろしくお願いします。
 有難うございました。

 作者・ぽん
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