上 下
55 / 90
男が指輪を手にした時

48

しおりを挟む
 アルデバラン家の2人の兄弟が初めての茶会を終えた。

 ダチュラに住む貴族達は引きこもっていた領主の息子達を確認した事で話題が尽きなかった。

 息子達の評判も上々な事に気を良くした父であるゼス・アルデバランは様々な集いに2人を連れ出した。

 噂は輪をかけて盛り上がり、益々2人への招待状が増えていった。

 

 ・・・当然。エラ・アルデバラン・・・クロスの母の耳にも入り屋敷では癇癪を起こしていた。

 歪んだ心を隠し出席した茶会での事だった。

「先日、御子息様方とご挨拶させて頂きました。
 御二方ともご立派で夫人も鼻が高いでしょう。
 御長男のクロス様は勿論、御次男のサムエル様も若い娘達に人気ですのよ。」

「私もお聞きしました。
 何でも剣術も強く、難しい航海歴史も詳しいとか。」

「今でさえ人気ですもの。
 成人したら社交会への招待も増えるのでしょうね。」

「「「羨ましいわぁぁぁ。」」」

 こわばった表情を隠すようにエラは微笑んだ。

「幼い頃から2人で過ごしていましたからね。
 あの子もクロスと共に学んだのでしょう。」

 集まった貴族夫人達は拳が震えているエラに気づかずにサムエルを褒め称えている。

 クロスも褒められているのものの、エラの耳にはサムエルへの称賛しか耳に入らないのである。

 我慢が出来なかった。
 自分の息子よりも褒められている事が・・・。

 2人が屋敷を出る事が増え、喜ぶ使用人達により明るさが出てきた屋敷も気に食わなかった。

 気づけば、手に触れるものを投げつけて気分を発散させていた。

が!
 アレが優秀なわけがない!!
 認めない!私のクロスの方が断然優秀なのよ!!
 はっ・・・!
 もしかして、あのは私とクロスの居場所を取ろうとしているのかもしれない。
 そうよ!
 あの卑しいドブネズミが全てを狂わす!
 私の物を・・・。」

 エラの歪んだ考えは、こうして膨らんでいった。




 一方、クロスとサムエルの2人の兄弟はリゲル伯爵家次男チェイスを窓口に着々と友人を増やしていた。
 シリウス伯爵家の嫡男ロウ
 プロキオン伯爵家の兄妹ペインとナディア
 ポルックス子爵家の若き当主カミロとその姉ソニア
 マリエッタの兄姉であるカペラ子爵家嫡男ウィリアムと姉のエステル
 基本的に同世代と顔を合わせて交流を始めた。

 それぞれ、一癖も二癖もある面子であったがクロスは満足だった。
 クロスとサムエル以外の者達は大体が幼い頃からの顔見知りで慣れ親しんでいた。
 ただ、最近ではリゲル家長男のピートの横柄な態度には辟易していたらしく先日叩きのめしたサムエルは友好的に受け取られていた。

「それで?一体何故、2人は屋敷から出なかったんだい?
 流石に大事にされすぎじゃないか?」

 シリウス伯爵家のロスが首を傾げて疑問を口にした。

「滅多な事は言う物じゃないわ。
 御当主のお考えでしょう。」

 ポルックス子爵家の現当主の姉エステルが呆れたように首を振った。

 今日はシリウス家の催で人の数も制限されていた。
 大人達は屋敷の中で昼から酒を嗜み、子供達はガーデンで茶会をしていた。

「皆には私達の事や家は、どのように聞いている?」

 気心が知れてきても、クロスの問いかけに気まずそうに子息女達は顔を見合わせた。
 するとリゲル伯爵家のチェイスが代表して口を開いた。

「ダチュラの盟主アルデバラン家。
 当主ゼス・アルデバランはで領地を守る義務は怠らない。
 奥方、エラ・アルデバランは茶会などに参加し貴族の夫人の鏡としての勤めを果たしている。
 貴族夫人の中でも彼女の人気は上々だ。
  
 しかし、私生活は正反対。
 派手な遊びを好む公爵と比べ、奥方は屋敷で慎みをもって過ごしている。
 2人の息子の事は誰も知らない。
 両親の愛情ゆえに屋敷から出る事が無い息子達は大切にされているか、本当に存在するのか疑わしい。
 勿論、探りを入れる者もいたが使用人をはじめ口を閉ざす物が多く全く情報が掴めなかった。」

「そこに我々が現れた。
 当初は本物か疑いもしたが、母の顔に似た私と父の髪と瞳を持った弟に納得した・・・。
 そんなところかな。」

「そうだね。」

 クロスはチェイスが伝えた事に頷いて納得した。

「実際には複雑な話ではない。
 “閉じ込められていた”
 それだけだ。」

 子息女は目を見開き驚いた顔をした。

「閉じ込められていた?!
 どう言うこと?」

 クロスと目があったサムエルは肩を竦めた。

「私の事はお気になさらず。」

 クロスは集まった友人達を見渡した。

「チェイスは派手な手腕といったが父の領地の運営には思う事があって、幼い頃からサムエルと一緒に調べ上げていた。
 屋敷を出る事はできなかったが、するべき事は沢山あった。
 私達2人は、そうやって生きてきた。
 
 私は・・・私たちの時代こそ、このダチュラの変革の時だと思っている。
 それには皆の力が必要なんだ。
 だから君達には嘘は付かない。
 それを誓うよ。」

 クロスの言葉に同世代の子息女達は息を呑んだ。
 続いてクロスの口から2人の生い立ちを聞かされた話は壮絶なものだった。
 
 良家に生まれた為に、甘やかされて育ったと誰もが思っていた。
 世間知らずな頼りない坊ちゃん・・・それが領民達が考えていた2人の想像だった。

「サムエルが母と血が繋がっていない事は、承知のはず・・・ピートもそう言っていたからね。
 しかし、私にとって弟こそが唯一の家族だ。」

 そんなクロスに気を使ってかロウ・シリウスが話を変えた。

「領地の未来について聞かせてくれよ。
 何を考えているんだい?」

 そんな質問にクロスは、これからの領地の展望を話して聞かせた。
 随分と突飛なクロスの案に最後に聞いていた者は笑い出していた。

「面白そうじゃないか!
 私は乗るよ!」

 最初にチェイス・リゲルが手を挙げ立ち上がった。

「普通の領地では味わえないスリリングな政策だね。」

 ペイン・プロキオンもクスクスしながらも立ち上がった。

「もう、お兄様!
 通常、スリリングな領地など誉められた物ではありませんのよ?」

 ナディア・プロキオンは呆れたように兄に追随した。

「冷静な話し相手が必要だろう?
 私も仲間に入った方が良いだろう。」

 ロス・シリウスは静かに立ち上がるも顔は楽しそうに笑っていた。

「全く・・・この中で唯一、すでに家を継いでいる者にも話は通してくれ。
 同世代の下級貴族を纏めるのに力を貸そう。」

 カミロ・ポルックスが苦笑しながらも賛同した。

「面白いって大切よ。
 私は結婚せずに商売をするつもりですの。
 そうだわ。ホテルでも建てようかしら・・・。
 役に立つでしょう??」

 ソニア・ポルックスは扇子で仰ぎながらも優雅な笑みを浮かべた。

「やれやれ、それじゃ私も手を挙げるしかないじゃないか。
 しがない下級貴族は餌にでもなりましょうかね。」

 ウィリアム・カペラは太々しい笑顔で立ち上がった。

「それなら私もお兄様を支えなくてはね。」

 エステル・カペラは立ち上がると妹に手を伸ばした。

「みんな・・みんな馬鹿じゃないの?
 何言ってんのよ。
 
 それが領の為になるって言うの?
 どうかしてるわ・・・。ふふふ。」

 マリエッタ・カペラは悪態をつくと姉の手を握って立ち上がった。

 一同は立ち上がるとチェイスに習いクロスに片膝をついた。

「我が血にかけてダチュラの発展にを向かい入れる貴方を守ると誓いましょう。
 そして我ら一同、次期ダチュラ当主クロス・アルデバラン様に忠誠と友情を。」

 それを聞いたサムエルは微笑むとチェイスの隣に行き片膝をつき首を垂れた。

「私も一同に誓う。
 私が選択した未来に光は無い。
 それを受け入れてくれた皆に私の命を捧げよう。
 何かあった時、私の命1つで事をおさめろ。
 それは、その未来を決めた私の責任である。
 高い壁に遮られていた私達兄弟を友と呼んでくれる君達に感謝する。」

 チェイスは立ち上がるとティーカップを持ち上げた。

「地獄を生き抜いてきたアルデバラン兄弟に乾杯!」

「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」

 ここに秘密を共有する友人達の集まりが出来た。
 それはシリウス家の庭で結成された事から可の家の愛犬からとって『ディアマンの庭』と名付けられた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

階段落ちたら異世界に落ちてました!

織原深雪
ファンタジー
どこにでも居る普通の女子高生、鈴木まどか17歳。 その日も普通に学校に行くべく電車に乗って学校の最寄り駅で下りて階段を登っていたはずでした。 混むのが嫌いなので少し待ってから階段を登っていたのに何の因果かふざけながら登っていた男子高校生の鞄が激突してきて階段から落ちるハメに。 ちょっと!! と思いながら衝撃に備えて目を瞑る。 いくら待っても衝撃が来ず次に目を開けたらよく分かんないけど、空を落下してる所でした。 意外にも冷静ですって?内心慌ててますよ? これ、このままぺちゃんこでサヨナラですか?とか思ってました。 そしたら地上の方から何だか分かんない植物が伸びてきて手足と胴に巻きついたと思ったら優しく運ばれました。 はてさて、運ばれた先に待ってたものは・・・ ベリーズカフェ投稿作です。 各話は約500文字と少なめです。 毎日更新して行きます。 コピペは完了しておりますので。 作者の性格によりざっくりほのぼのしております。 一応人型で進行しておりますが、獣人が出てくる恋愛ファンタジーです。 合わない方は読むの辞めましょう。 お楽しみ頂けると嬉しいです。 大丈夫な気がするけれども一応のR18からR15に変更しています。 トータル約6万字程の中編?くらいの長さです。 予約投稿設定完了。 完結予定日9月2日です。 毎日4話更新です。 ちょっとファンタジー大賞に応募してみたいと思ってカテゴリー変えてみました。

没落貴族と拾われ娘の成り上がり生活

あーあーあー
ファンタジー
 名家の生まれなうえに将来を有望視され、若くして領主となったカイエン・ガリエンド。彼は飢饉の際に王侯貴族よりも民衆を優先したために田舎の開拓村へ左遷されてしまう。  妻は彼の元を去り、一族からは勘当も同然の扱いを受け、王からは見捨てられ、生きる希望を失ったカイエンはある日、浅黒い肌の赤ん坊を拾った。  貴族の彼は赤子など育てた事などなく、しかも左遷された彼に乳母を雇う余裕もない。  しかし、心優しい村人たちの協力で何とか子育てと領主仕事をこなす事にカイエンは成功し、おまけにカイエンは開拓村にて子育てを手伝ってくれた村娘のリーリルと結婚までしてしまう。  小さな開拓村で幸せな生活を手に入れたカイエンであるが、この幸せはカイエンに迫る困難と成り上がりの始まりに過ぎなかった。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

【完結】捨てられ令嬢は王子のお気に入り

怜來
ファンタジー
「魔力が使えないお前なんてここには必要ない」 そう言われ家を追い出されたリリーアネ。しかし、リリーアネは実は魔力が使えた。それは、強力な魔力だったため誰にも言わなかった。そんなある日王国の危機を救って… リリーアネの正体とは 過去に何があったのか

処理中です...