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束の間のポーレット

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 燻製という名の新しい物に“牧場の恵み”が沸いていた頃、ポーレット公爵家でも慌ただしい準備が始められていた。

「砂糖と塩はできるだけ多くね。
 イオリちゃんなら、沢山持っていけるから。
 小麦やお米もいるわね。
 どれ位の間、森の奥に行くのか分からないから、できるだけ持たせたいわ。」

「畏まりました。
 あるだけ手配します。」

「着る物も必要でしょう?
 子供達なんて、すぐに大きくなるのだか、いくらあっても良いわよね?」

「そうですね。
 日中は戦闘服をおめしかと思いますが、寛ぎ用に用意致しましょう。」

 オルガ夫人は侍女頭モーナを相手に持ち物のリストを作っていく。
 側で聞いていたヴァルトや従魔のクロムスは呆れた顔で立っていた。

「母上・・・。イオリ達なら森の中で食材調達はお手の物ですよ?」

「何を言ってるの!!
 お肉や野菜は手に入っても小麦粉やお米は無理でしょう?
 砂糖や塩・・・それにスパイスだって簡単じゃないのよ?」

 すごい剣幕で言われヴァルトは思わず逃げ出した。
 屋敷のあちこちでイオリ達の修行の為の準備に使用人や侍女達が走り回っていた。

「ふふふ。
 みんなイオリ達が心配なんだな。」

 ヴァルトはクロムスと微笑みながら父・テオルドの執務室に向かって行った。

「今日中には届くはずだ。
 1つ1つ確認してくれ。」

「畏まりました。」

 ヴァルトが部屋を覗くとテオルドが執事クリストフにリストを渡し、新しい書類を読み込んでいた。
 テオルドの従魔であるバンデはそんな主人の足元で、ぬいぐるみ相手に遊んでいる。
 それを見つけたクロムスがバンデの元へ一直線に走っていくと2匹は楽しそうに戯れ始めた。

「おお。ヴァルトか・・・。
 後でな通信用の魔道具が届く事になっている。
 イオリ達に持たせようと思ってな。」

 母オルガに負けず、父テオルドもイオリ達には過保護である事にヴァルトは苦笑するしかない。
 真剣な顔で、「あとは何が必要か」と悩んでいる父と筆頭執事に声を掛けるのをやめてヴァルトは執務室を離れた。

「父上も母上も焦りすぎだろう。」

 呟くヴァルトに後ろから優しい声がかかった。

『そんな貴方も落ち着かないのでは?』

 もう1匹の従魔ルチアがニヤけた顔で座っていた。

「ルチア・・・。
 そうは言っても私の出来る事なんて、イオリ達の無事を祈るくらいで、やれる事は限られているよ。」

『それで良いのではないですか?
 人は出来る事をコツコツやれば良いです。
 ニコライとデニもコソコソ何かしていましたよ。』

「兄上も!?」

 ヴァルトはルチアを抱え上げると兄ニコライが居るはずの彼の執務室まで駆けて行った。



 ニコライの部屋からは賑やかな声が聞こえてきた。
 ヴァルトが顔を出せば従者のエドガーが微笑んで手招きをしてきた。

「何をしてるんだ?」

「今ですね。ニコライ様とデニ様の魔力を魔石に移しておりまして・・・。」

 エドガーの話にヴァルトは驚いた。
 自分の魔力を貯蓄型の魔石に入れているのだとういう。

「ニコライ様もデニ様もシールドのスキルをお持ちの方です。
 子供達に万が一が起こった際に、シールドスキルが発動すれば一定時間は守られると考えたんです。
 その間にイオリさんやヒューゴが駆けつければ良いと。
 まぁ、最終手段ではありますけどね。」

「ないよりはマシだろう。」

 ニコライはヴァルトを一瞥すると、小さな赤いガーネットを光に照らしならが言った。

「イオリ達が持っているスキルの腕輪や指輪を思い出してな。
 邪魔にならないように指輪にしようと思う。
 職人の手配は済んでいるから、あとは魔石化した宝石類に俺達の魔力を組み込むだけだ。
 せめて子供達には持たせたい。」

 テーブルにはブルーサファイア、グリーンベリル、モルガナイトと子供達の色が並べられていた。
 
 両親に引けを取らずのニコライの過保護にヴァルトは微笑んだ。

「俺も、何か探そうかな。」

『それなら探すのを手伝いましょう。
 貴方なら彼らが喜ぶ物が見つかるはずですよ。』

 ルチアが慈しむように擦り寄るとヴァルトは優しく撫でながらニコライの執務室を後にした。
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