上 下
426 / 472
束の間のポーレット

498

しおりを挟む
「気をつけて帰れよ!!」

「またね。」

 手を振っているダンとローズの夫婦に別れを告げ、暗くなり街灯が明るくなり出した道を歩き出したイオリ達は武防具職人のカサドの工房へ向かった。

 夕飯を食べ、疲れたのかニナはスヤスヤと眠ってしまい、ヒューゴに抱かれている。

「双子とナギは疲れてないかい?」

「「平気!」」
「ぼくも」

 双子は本当に平気そうにピョンピョン飛んでいるが、ナギは少しばかり疲れてそうだ。
 イオリが抱き上げるとナギは嬉しそうに抱きついてきた。

「カサドさん元気かなー。」
「また、ドンドン叩いたらさ。
 ウルセー!!って出て来るんじゃない?」

 双子はクスクスと笑いながら、目の前まで来たカサドの工房まで走っていくと扉をドンドンと叩き出した。

「ウルセー!!
 静かに帰ってこれねーのか!?」

 ゲラゲラ笑う双子に苦笑しイオリはカサドに手を振った。

「すみません。
 ただいま帰りました。武防具のメンテナンスをお願いしたいんですけど、今から良いですか?」

 カサドは元気な姿のイオリ達を見て安心したのか、ニヤッと笑い手招きした。

「入れよ。
 王都の噂はここいらでも聞こえてたぜ。
 オークの集落を潰したんだって?冒険者どもが騒がしいのなんの。
 何処かで知ったのか、お前らの武防具を俺が作ってるのを聞いた客が後を立たねー。
 面倒だから、冒険者ギルドで対応してもらって俺は作る事に専念してる。
 ダメな客はキッパリ断ってるがな。」

 変わらず剛気なカサドは散乱していたテーブルを一気に手で払い除けイオリ達が武防具を置く場所を作った。
 真っ先に置いた双子の剣を手に取るとカサドは唸った。

「使い方が様になってきたんじゃねーか?
 以前のような、無駄切りが少ねーな。
 特にパティは手数が多いからな。
 調整しておこう。
 スコルはグリップだな。よしよし・・・。」

 イオリ達は奥で普段着に着替えると旅でお世話になった防具達をテーブルに並べた。

「おうおうおう。
 なかなか酷使してやがんな。
 イオリ!お前背中から落ちたのか?大丈夫かよ。」

「大丈夫でした。
 防具のおかげで軽症ですみましたよ。」

 イオリの言葉にニッコリとしたカサドは次々に手に取っては、直す箇所を記憶し始めた。

「それと、ニナ何ですけど魔法が使えるようになったんです。
 まだまだ威力や魔力量はないけれど力の使い方は学ばせようと思って、戦闘服を作ってもらえませんか?
 他にも子供達は成長も早いしカサドさんの目から見て最適なのをお願いします。
 新しいのでも構いません。」

 カサドはソファーに寝かされているニナを驚いた顔で見てから、頷いた。

「分かった。魔法使いとなれば、それなりの準備も必要だな。
 測量は眠らせたままでやろう。
 お前らも測量するぞ。
 特にナギは新しい動き方や力の使い方を教えろ。
 お前は予測し辛いからな。」

 ヒューゴとイオリの手を借りてカサドはニナの測量を進めた。

「やっぱり、小せえな。
 こんな小せえ体に魔力を溜め続けると良い事ないぜ。
 お前らは武器職だろう?ちびっ子に師匠はいるのか?」

「サブマスのエルノールさんが教えてくれる事になりました。
 修行に入ります。」

 カサドは満足したように頷いた。

「エルノールなら良い。間違いないからな。
 修行って、街を離れるのか?
 急がないとまずいな。」

「いつも急かしてスミマセン。
 魔の森の奥に行こうと思います。」

 カサドは目を見開くと小さいニナの頭を撫でた。

「そうか・・・。
 それなら最高なのを作らないとな。
 任せとけ。」

 その後は順調に子供達を測量し直し、イオリとヒューゴはメンテナンスの依頼だけにとどまった。
 カサドは子供達から貰ったお土産をニコニコしながらも「仕事が終わったら」と棚に仕舞い込んだ。

 イオリはデザインを《あーでもない、こーでもない》と話し合うカサドと子供達を見てヒューゴと苦笑した。
 カサドに頼んだ武防具ができれば“明けない魔の森”に出発する。

 イオリは1人、数日後に迫る魔の森へ思いを馳せた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

転生幼女の愛され公爵令嬢

meimei
恋愛
地球日本国2005年生まれの女子高生だったはずの咲良(サクラ)は目が覚めたら3歳幼女だった。どうやら昨日転んで頭をぶつけて一気に 前世を思い出したらしい…。 愛されチートと加護、神獣 逆ハーレムと願望をすべて詰め込んだ作品に… (*ノω・*)テヘ なにぶん初めての素人作品なのでゆるーく読んで頂けたらありがたいです! 幼女からスタートなので逆ハーレムは先がながいです… 一応R15指定にしました(;・∀・) 注意: これは作者の妄想により書かれた すべてフィクションのお話です! 物や人、動物、植物、全てが妄想による産物なので宜しくお願いしますm(_ _)m また誤字脱字もゆるく流して頂けるとありがたいですm(_ _)m エール&いいね♡ありがとうございます!! とても嬉しく励みになります!! 投票ありがとうございました!!(*^^*)

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。