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新たな旅 ーミズガルドー

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 アースガイル国ギルバード王太子との話し合いを終え、トーレチカは椅子に座ると深い溜息を吐いた。

 会談中に願い出たポーレット公爵子息ヴァルトの話には水を打った様に一同静まり返った。

「我が国の獣人に対する考えは確かに改めなければと思っていたが・・・
 思っているだけでは遅いのだな。
 
 貴族ではない一般の市民までもが迫害に加わり、さも事件化せず当たり前に闇に葬られるとは・・・。
 人族優位の優れた国とは言ったものだ。
 なんであろうと、人の命を重視するアースガイルから見て我らは幼子よりも物を知らない愚か者だ。
 
 イグナート・・・。
 今すぐに、イオリ殿が可愛がっていると言う双子に会い、両親の遺体を引き渡してやれ。
 丁重に頼む・・・。」

「・・・承知しました。」

 イグナートは席を立つと、イオリ達への面会の為に王宮の奥に向かった。

「さぁ、何から始めよう。」

 トーレチカは自分達が為そうとしている果てしない課題を想い、空を睨みつけた。





「はぁぁぁ・・・終わったぁぁ。」

 会談が終わり、控室に戻ったギルバートはソファーに体を沈めると一気に息を吐いた。

「お疲れ様でした。」

 控室で待っていたのは未来の王妃オーブリーだった。
 ギルバートが神経をすり減らすと読んでいたトゥーレによって呼び出されていたのだ。

「オーブリー!やっと来たか!」

「はい。軍の方も順調に対処し、ヒル将軍は現在ミズガルドの兵士を相手に腕試しをしております。」

 ギルバートの喜びに反して冷静なオーブリーは事務報告の様に淡々と話した。

「あの人は!!マルクル!!」

「ヘイヘイ・・・行ってくるよ。
 おっさんも元気だねー。」

 トゥーレの怒りを感じ取ったマルクルは早々に部屋を退出した。
 ギルバートはご機嫌にオーブリーを隣に座らせるが、冷静なオーブリーは一定の距離を開けて座った。
 ヴァルトはそんな2人を苦笑して前に座ると、ギルバートに謝った。

「ギル兄様、申し訳ないです。
 突然、思い付いたんだ。」

「ん?双子の両親の事か?
 良いさ。あの子達を思って言ったんだろう?
 なんなら、今から伝えに行くか?」

 ギルバートはヴァルトの優しさを知っている。
 イオリや子供達を思う従兄弟の気持ちを尊重したかった。
 しかし、自身にはある、もう一つの思惑は口にしなかった。
 双子の両親の墓がミズガルドにあれば、イオリがミズガルドを訪問する機会が増える・・・。
 アースガイルに墓を置けば、気兼ねなく過ごす事ができるだろう。
 こんな考えを持つ自分に呆れもするが国を背負う者として必要だとも思っている。
 微笑むヴァルトに心が洗われた思いのギルバートは立ち上がるとオーブリーに手を差し出した。

「自分で立ちますので結構ですよ?」

 軍服に身を包み冷静な婚約者にギルバートはニヤリとした。

「そんな冷たいオーブリーも好きだぞ?」

 顔を赤らめるオーブリーに満足すると部屋を出ようとした時だった。

 扉からノックがして入ってきたのはイグナート・カレリン公爵だった。

「本日の会談、お疲れ様でした。
 早速ではありますが、先程のご要望をお受けしたく当事者の子供達に会わせていただけませんか?
 両親を埋葬したと言う場所も聞かねばなりませんし、是非実際に会ってミズガルドの人間として謝りたいのです。」

 ギルバートはヴァルトに視線を向けるとイグナートの提案を受け入れた。

「親を亡くした子供達です。
 どうか・・・。」

「はい。承知しております。」

 イグナートはヴァルトに微笑むとイオリ達に会いに行くと言うギルバート達に同行をした。

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