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新たな旅 ーミズガルドー

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 コツコツコツ・・・

 ミズガルドの王都にある“クレムゾンパレス”に見慣れない人物が姿を現した。

「あれは、カレリン公爵では?」

「珍しい。今年の登城は初めてではありませんか?」

「式典には出席されないと思っておりましたがな。」

「にしても、相変わらず見目麗しい・・・。」

 野次馬のように見つめてくる貴族達を当の本人は道端のゴミと同じと無視して歩いていた。
 その冷淡な雰囲気も醸し出して美しさに磨きがかかっている。

「これはこれは、カレリン公爵ではありませんか。
 随分とお久しぶりでございます。
 今回の式典にはご参加を?」

 イグナートは話しかけてきた相手を一瞥した。

「久しぶりだな。フェドー伯爵。」

 愛想など持ち合わせないイグナートにフェドー伯爵はコメカミをピクピクとさせた。

「毎年式典には参加されませんのに、どうされました?」

「招待状が届いたから来てみただけだ。
 今年の冬は雪が酷いとの予測を聞いた。
 年始の行事など来れないだろうからな。」

 フェドー伯爵の言葉に淡々と返すイグナートは冷めた目で見つめると最後に言った。

「大体、王宮の催しなど同じようなものだろう。
 いつ来るかは貴族の判断。
 国王に呼ばれたのだから一々人に言われることでも無いがな。
 失礼する。」

 歩みを始めたイグナートの背にフェドー伯爵は舌打ちをした。
 
「ヴァハマン侯爵にお伝えしなければならんな。
 王宮を追い出された田舎貴族め。」

 フェドー伯爵は踵を返すと足早に去って行った。



《早速探りを入れてきたか。面倒な腰巾着だ。》

 イグナートは顔を顰めると王宮の奥、王族が住う部屋に続く廊下を進むと目的の部屋をノックした。





「やぁ、久しぶりだね。
 何もこんな時に来なくても良いんじゃないかい?
 ポリーナの魂は王都ではなくカレリンにあるのだから。」

 出窓に腰をかけ本を手にした男はイグナートの顔を見ると微笑んだ。
 肩から落ちる白銀の髪は長くサラサラとしていた。

「お久しぶりにございます。トーレチカ兄上・・・。」

 トーレチカ・・・現王イヴァンの腹違いの弟にして第3王子だった男。
 現在は“大公”の爵位を持ち、領地もあるが生まれながらの病弱を理由に人に任せっきりで今も王宮の奥に引きこもっている男である。

 トーレチカは出窓から立ち上がるとイグナートに近寄り抱きしめた。

「会えて嬉しいよ。唯一の弟よ。
 弟が愛した妻の御霊に癒しを・・・。」

 イグナートはトーレチカを抱きしめると溜息を吐いた。

「それで、もう愚王には会ってきたのかい?」

「はい。今日も妻を紹介しろと面倒でした。」

 トーレチカは弟をソファーに誘うと紅茶を入れ出した。

「全く、期待を外さないほどの愚かしい男だね。
 ソフィアは元気かい?
 ここにいたら、会えないけれど私はいつも2人を想っているよ。」

「ありがとうございます。
 元気です。
 ・・・兄上。聞いていただきたい話があります。」

「うん。話してごらん?
 この時期にわざわざ来たんだ。
 何か大切な話があるんだろう?」

 トーレチカは久々に会えた弟の顔に以前の活力が戻っている事に喜びを覚えた。
 しかし、その想いはすぐに消えた。
 愚王の懐の中で様々な悪が蔓延っている事は知っていた。
 しかし事は思いの外、深刻である事にトーレチカは知る事になった。

 弟の話に己の持っていた愚王に対しての唯一の哀れみの糸が切れる音をトーレチカは聞こえた気がした。
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