356 / 472
新たな旅 ーミズガルドー
428
しおりを挟む
コツコツコツ・・・
ミズガルドの王都にある“クレムゾンパレス”に見慣れない人物が姿を現した。
「あれは、カレリン公爵では?」
「珍しい。今年の登城は初めてではありませんか?」
「式典には出席されないと思っておりましたがな。」
「にしても、相変わらず見目麗しい・・・。」
野次馬のように見つめてくる貴族達を当の本人は道端のゴミと同じと無視して歩いていた。
その冷淡な雰囲気も醸し出して美しさに磨きがかかっている。
「これはこれは、カレリン公爵ではありませんか。
随分とお久しぶりでございます。
今回の式典にはご参加を?」
イグナートは話しかけてきた相手を一瞥した。
「久しぶりだな。フェドー伯爵。」
愛想など持ち合わせないイグナートにフェドー伯爵はコメカミをピクピクとさせた。
「毎年式典には参加されませんのに、どうされました?」
「招待状が届いたから来てみただけだ。
今年の冬は雪が酷いとの予測を聞いた。
年始の行事など来れないだろうからな。」
フェドー伯爵の言葉に淡々と返すイグナートは冷めた目で見つめると最後に言った。
「大体、王宮の催しなど同じようなものだろう。
いつ来るかは貴族の判断。
国王に呼ばれたのだから一々人に言われることでも無いがな。
失礼する。」
歩みを始めたイグナートの背にフェドー伯爵は舌打ちをした。
「ヴァハマン侯爵にお伝えしなければならんな。
王宮を追い出された田舎貴族め。」
フェドー伯爵は踵を返すと足早に去って行った。
《早速探りを入れてきたか。面倒な腰巾着だ。》
イグナートは顔を顰めると王宮の奥、王族が住う部屋に続く廊下を進むと目的の部屋をノックした。
「やぁ、久しぶりだね。
何もこんな時に来なくても良いんじゃないかい?
ポリーナの魂は王都ではなくカレリンにあるのだから。」
出窓に腰をかけ本を手にした男はイグナートの顔を見ると微笑んだ。
肩から落ちる白銀の髪は長くサラサラとしていた。
「お久しぶりにございます。トーレチカ兄上・・・。」
トーレチカ・・・現王イヴァンの腹違いの弟にして第3王子だった男。
現在は“大公”の爵位を持ち、領地もあるが生まれながらの病弱を理由に人に任せっきりで今も王宮の奥に引きこもっている男である。
トーレチカは出窓から立ち上がるとイグナートに近寄り抱きしめた。
「会えて嬉しいよ。唯一の弟よ。
弟が愛した妻の御霊に癒しを・・・。」
イグナートはトーレチカを抱きしめると溜息を吐いた。
「それで、もう愚王には会ってきたのかい?」
「はい。今日も妻を紹介しろと面倒でした。」
トーレチカは弟をソファーに誘うと紅茶を入れ出した。
「全く、期待を外さないほどの愚かしい男だね。
ソフィアは元気かい?
ここにいたら、会えないけれど私はいつも2人を想っているよ。」
「ありがとうございます。
元気です。
・・・兄上。聞いていただきたい話があります。」
「うん。話してごらん?
この時期にわざわざ来たんだ。
何か大切な話があるんだろう?」
トーレチカは久々に会えた弟の顔に以前の活力が戻っている事に喜びを覚えた。
しかし、その想いはすぐに消えた。
愚王の懐の中で様々な悪が蔓延っている事は知っていた。
しかし事は思いの外、深刻である事にトーレチカは知る事になった。
弟の話に己の持っていた愚王に対しての唯一の哀れみの糸が切れる音をトーレチカは聞こえた気がした。
ミズガルドの王都にある“クレムゾンパレス”に見慣れない人物が姿を現した。
「あれは、カレリン公爵では?」
「珍しい。今年の登城は初めてではありませんか?」
「式典には出席されないと思っておりましたがな。」
「にしても、相変わらず見目麗しい・・・。」
野次馬のように見つめてくる貴族達を当の本人は道端のゴミと同じと無視して歩いていた。
その冷淡な雰囲気も醸し出して美しさに磨きがかかっている。
「これはこれは、カレリン公爵ではありませんか。
随分とお久しぶりでございます。
今回の式典にはご参加を?」
イグナートは話しかけてきた相手を一瞥した。
「久しぶりだな。フェドー伯爵。」
愛想など持ち合わせないイグナートにフェドー伯爵はコメカミをピクピクとさせた。
「毎年式典には参加されませんのに、どうされました?」
「招待状が届いたから来てみただけだ。
今年の冬は雪が酷いとの予測を聞いた。
年始の行事など来れないだろうからな。」
フェドー伯爵の言葉に淡々と返すイグナートは冷めた目で見つめると最後に言った。
「大体、王宮の催しなど同じようなものだろう。
いつ来るかは貴族の判断。
国王に呼ばれたのだから一々人に言われることでも無いがな。
失礼する。」
歩みを始めたイグナートの背にフェドー伯爵は舌打ちをした。
「ヴァハマン侯爵にお伝えしなければならんな。
王宮を追い出された田舎貴族め。」
フェドー伯爵は踵を返すと足早に去って行った。
《早速探りを入れてきたか。面倒な腰巾着だ。》
イグナートは顔を顰めると王宮の奥、王族が住う部屋に続く廊下を進むと目的の部屋をノックした。
「やぁ、久しぶりだね。
何もこんな時に来なくても良いんじゃないかい?
ポリーナの魂は王都ではなくカレリンにあるのだから。」
出窓に腰をかけ本を手にした男はイグナートの顔を見ると微笑んだ。
肩から落ちる白銀の髪は長くサラサラとしていた。
「お久しぶりにございます。トーレチカ兄上・・・。」
トーレチカ・・・現王イヴァンの腹違いの弟にして第3王子だった男。
現在は“大公”の爵位を持ち、領地もあるが生まれながらの病弱を理由に人に任せっきりで今も王宮の奥に引きこもっている男である。
トーレチカは出窓から立ち上がるとイグナートに近寄り抱きしめた。
「会えて嬉しいよ。唯一の弟よ。
弟が愛した妻の御霊に癒しを・・・。」
イグナートはトーレチカを抱きしめると溜息を吐いた。
「それで、もう愚王には会ってきたのかい?」
「はい。今日も妻を紹介しろと面倒でした。」
トーレチカは弟をソファーに誘うと紅茶を入れ出した。
「全く、期待を外さないほどの愚かしい男だね。
ソフィアは元気かい?
ここにいたら、会えないけれど私はいつも2人を想っているよ。」
「ありがとうございます。
元気です。
・・・兄上。聞いていただきたい話があります。」
「うん。話してごらん?
この時期にわざわざ来たんだ。
何か大切な話があるんだろう?」
トーレチカは久々に会えた弟の顔に以前の活力が戻っている事に喜びを覚えた。
しかし、その想いはすぐに消えた。
愚王の懐の中で様々な悪が蔓延っている事は知っていた。
しかし事は思いの外、深刻である事にトーレチカは知る事になった。
弟の話に己の持っていた愚王に対しての唯一の哀れみの糸が切れる音をトーレチカは聞こえた気がした。
983
お気に入りに追加
18,113
あなたにおすすめの小説
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた
甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。
降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。
森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。
その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。
協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。
【第一部完結】忘れられた王妃様は真実の愛?いいえ幸せを探すのです
Hinaki
ファンタジー
敗戦国の王女エヴァは僅か8歳にして14歳年上のルガート王の許へと国を輿入れする。
だがそれはぶっちゃけ人質同然。
住まいも城内ではあるものの少し離れた寂れた離宮。
おまけに侍女 一人のみ。
離宮の入口には常に彼女達を監視する為衛兵が交代で見張っている。
おまけに夫となったルガート王には来国した際の一度切しか顔を合わせてはいない。
それから約十年……誰もが彼女達の存在を忘れていた?
王宮の情報通である侍女達の噂にも上らないくらいに……。
しかし彼女達は離宮で実にひっそりと、然も逞しく生きてきた。
何と王女は侍女と交代しながら生きぬく為に城下で昼間は働き、仕事のない時は主婦として離宮内を切り盛りしていたのである。
全ては彼女達が誰にも知られず無事この国から脱出し、第二の人生を謳歌する為。
だが王妃は知らない。
忘れられた様に思い込まされている隠された真実を……。
陰謀と執着に苛まれる王女の心と命を 護る為に仕組まれた『白い結婚』。
そしてまだ王女自身知らない隠された秘密が幾度も彼女を襲う。
果たして波乱万丈な王妃様は無事生き抜き真実の愛を見つけられるでしょうか。
因みに王妃様はかなり天然な性格です。
そしてお付きの侍女はかなりの脳筋です。
また主役はあくまで王妃様ですが、同時に腹心の侍女であるアナベルの幸せも極めていく予定……あくまで予定です。
脱線覚悟で進めていくラブファンタジーならぬラブコメ?脳筋万歳なお話になりそうです。
偶にシリアスやドロドロ、胸糞警報もありです。
魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
転生幼女の怠惰なため息
(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン…
紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢
座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!!
もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。
全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。
作者は極度のとうふメンタルとなっております…
妹に出ていけと言われたので守護霊を全員引き連れて出ていきます
兎屋亀吉
恋愛
ヨナーク伯爵家の令嬢アリシアは幼い頃に顔に大怪我を負ってから、霊を視認し使役する能力を身に着けていた。顔の傷によって政略結婚の駒としては使えなくなってしまったアリシアは当然のように冷遇されたが、アリシアを守る守護霊の力によって生活はどんどん豊かになっていった。しかしそんなある日、アリシアの父アビゲイルが亡くなる。次に伯爵家当主となったのはアリシアの妹ミーシャのところに婿入りしていたケインという男。ミーシャとケインはアリシアのことを邪魔に思っており、アリシアは着の身着のままの状態で伯爵家から放り出されてしまう。そこからヨナーク伯爵家の没落が始まった。
続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜
ぽん
ファンタジー
⭐︎書籍化決定⭐︎
『拾ってたものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』
第2巻:2024年5月20日(月)に各書店に発送されます。
書籍化される[106話]まで引き下げレンタル版と差し替えさせて頂きます。
第1巻:2023年12月〜
改稿を入れて読みやすくなっております。
是非♪
==================
1人ぼっちだった相沢庵は小さな子狼に気に入られ、共に異世界に送られた。
絶対神リュオンが求めたのは2人で自由に生きる事。
前作でダークエルフの脅威に触れた世界は各地で起こっている不可解な事に憂慮し始めた。
そんな中、異世界にて様々な出会いをし家族を得たイオリはリュオンの願い通り自由に生きていく。
まだ、読んでらっしゃらない方は先に『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』をご覧下さい。
前作に続き、のんびりと投稿してまいります。
気長なお付き合いを願います。
よろしくお願いします。
※念の為R15にしています。
※誤字脱字が存在する可能性か高いです。
苦笑いで許して下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。