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新たな旅 ー王都ー

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 その後はたわいない話をしてラックとの時間を過ごしていた。

「ラック、昨日の事はハッキリと覚えてるかい?」

「わからない。」

「俺の他にも牢屋の外に人がいたんだけど?」

「・・・大人の人は怖いから見ないようにしてる。」

 ラックの言葉にイオリは唸った。

「うーん。そうだよな。説明するとね。
 ラックがこの街に来た時に襲ってきた人がいただろう?」

「うん。死んじゃうかと思った。」

「ははは。実はね。
 俺はその人にラックを助けてくれって頼まれたんだ。」

「!!!!なんで?」

 自分を襲った相手がなぜ助けてくれたのか分からないラックにイオリは説明をした。

「その人もラックと同じ、怖い大人に奴隷印を付けられて言うことを聞かされていた人なんだ。
 ラックを助けようと、ラックの身代わりになって敵に紛れ込んだんだ。」

「どうしよう!!その人が危ないよ!!」

「大丈夫・・・。無事だよ。
 昨日も牢屋に付き添ってくれてね。
 ラックから奴隷印がなくなると嬉しそうに泣いていたよ。」

 ラックは自分を助けてくれた人にお礼が言いたいとイオリに頼み込んだ。
 イオリは頷くとヒューゴに合図を送った。

 庭から出て行ったヒューゴを見送るとラックは自分の身に起きた事を話し始めた。
 村が焼けた事。両親が死んだ事。獣人の子供が檻に入れられた事。仲間達が乱暴に連れて行かれた事。
 主人のもとで何をしてきたか、イオリと子供達は静かに聞いた。

「本当は嫌だったんだ。何もかも・・・。
 でも、そうじゃないと・・・。」

「頑張って生きてきたんだな。よく耐えてきたよ。
 自分のしてきた事を反省しても恥じるべきではないよ。
 ラックは生きる為に自分の出来る事をしてきたんだ。」

 イオリの言葉に救われた思いのラックは安心したように頷いた。

「そうだ!恥じるな!
 お前の罪はこれからの行動で償っていけば良い!!」

 大人の声にビクッとしたラックはイオリに抱きつき震えた。

「なんで・・・王様が盗み食いをしているんですか?」

 そこにはスープの残りを自らよそい、隠れるようにして食べていた国王アルフレッドがいた。

「アル。行儀悪い!!
 ちゃんとこっちで食べなよ!」

「そうだよ!パンもいる?」

「欲しい!!旨いなこのスープ!」

 双子に怒られ、パティの横に座るとニナにパンを渡され喜んだ。

「このパンはなんだ!?
 なぜ、こんなに柔らかいのだ!?」

「イオリのパンは特別なんだよ。」

 ニッコリするナギに誘われ一口食べて吠えるアルフレッドにイオリは呆れていた。

「ラック・・・この人はアースガイルの王様だよ。
 この国で1番偉くて、この城の主人だ。」

 それを聞くとラックはビクビクしながらもアルフレッドに近寄った。

「お城に勝手に入ってごめんなさい。」

 アルフレッドは小さい少年の懺悔に持っていたパンを置き頭を撫でた。

「己が間違っていたと認める事は大人でも難しい。
 間違っていたと思うのならば、次からは正しき道を歩んでまいれ。」

 王様の言葉にラックは涙ながらに頷いた。

「うん。・・・はい。助けてくれてありがとう。
 あと、タヴァロス侯爵の屋敷に侵入して書類とってごめんなさい。
 あと、ターナーって侯爵の家に侵入してごめんなさい。
 あと、お城の武器庫のありかをバラしてごめんなさい。
 あと、王妃様のスリーサイズを盗み取ってごめんなさい。
 あと、フロルって伯爵の馬を借りてごめんなさい
 あと、・・・・・。
 あと、・・・・・。
 あと、・・・・・。」

「「おいおいおい・・・。」」

 アルフレッドとイオリの声が重なったのであった。
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