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新たな旅 ー王都ー

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「何だ?何が起こっている?」

 ロザリンダの滞在している部屋で1人の老婆が震えていた。

「まさか!あれがバレるわけがない!!」

 ロザリンダに渡していた魔石の反応がない。
 焦りながらも思考を止めない老婆は急いで身支度を始めた。

「クソっ!後少しの所だったのに!」

 ロザリンダの部屋の隣にある自室を乱暴に開けると、近くにあったカバンに金品やら書類やら瓶やらを詰め込んだ。
 再び煌びやかな部屋にやってくると、そこに黒い影が現れてビクッとしながらも安堵した。

「お前か・・・。
 すぐさま撤退する。準備をしなさいブリエ。」

 黒いローブが首を傾けた。

「撤退とは?
 ロザリンダ姫はいかがすれば・・・。」

 苛立った老婆は黒いローブを掴み怒鳴りつけた。

「お前は黙って私に従えば良いんだ!!
 我らが使えるのはミズガルド国、ましてやミズガルド王家ではない!!
 ルッツ・ヴァハマン様だ!
 それが分かっていながらお前は・・・。」

 そこで老婆はローブの手を握ると、ピクリと固まった。

「お前・・・は・誰だ?」

 次の瞬間、ローブから瓶が飛び出し老婆に液体が掛かった。

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!顔が!顔が!」

 熱さと痛みで悶える老婆の顔がドロドロに溶けていく。
 間も開けず、襲いかかるローブの攻撃を老婆は辛うじて避けていた。
 老婆の抵抗よろしくローブのフードが取れると耳が尖った美女が短剣を握りしめていた。

「ララノア・・・?お前!」

 そこには、かつてダグスクにてイオリに捕まったヴァハマン侯爵の暗部であったララノアが立っていた。

「その名で呼ぶな。大嫌いだ!
 お前を逃すわけにはいかない・・・。」

「お前につけた奴隷印はどうした!?
 アレは契約者にしか外せないはず!」

 老婆はララノアに奴隷印がなくなっている事に驚いた。

「幸運にもなくなったのさ!」

「まさか・・・。」

 老婆が顔から手を離すと、先程よりシワが少し薄れた中年の男の顔が現れた。

「前任のブリエが使い物にならなくなれば、お前が新しいのを用意すると分かっていた。
 だから入れ替わってやった。」

 静かにネタバラシをするララノアに老婆だった男は顔を顰めた。

「それでアースガイルの手先に寝返ったか?」

「アースガイルなんて、どうでも良い。
 私には願いがある。
 お前をその一歩にする。」

 再び短剣を構えたララノアの後ろから、スッと人が現れた。

「どうでも良いとは言ってくれるな。」

「事実だ。」

 近衛騎士団長トレバーが剣を構えるとララノアの隣に立った。

「それで、こいつは誰た?」

 トレバーの問いかけにララノアは鼻で笑った。

「ヴァハマン侯爵直属の暗部のリーダー。
 侯爵に代わり現場で工作活動をしている。
 私の元上司。
 まぁ、今は女装が趣味の変態だけど。」

 侍女の格好をしている男を顎でしゃくって見せたララノアの言葉にトレバーは苦笑した。

「なるほど。
 女性の寝室に出入りする女装男か。
 それは、なかなかの変態だ。」

 2人の会話を苦渋の顔で聞いていた男は何とか逃げ出そうと考えていた。

「どうしたの?変態って知られて恥ずかしい?
 どうせなら脱がしてあげるわよ。」

「ぬかせ!裏切り者が!」

「もともとお前達の仲間だったわけじゃない!!」

 ララノアは怒りに任せて男に攻撃を仕掛けた。
 すぐさまトレバーも参戦すると2人は男を追い詰めていった。

「ぎゃぁぁぁぁ!!腕が!俺の腕が!!」

 ララノアの短剣により切り落とされた腕がボトリと床に落ちた。
 血が流れる片腕を必死に抑える男が息も荒く2人を睨みつける。

「許さん!許さんぞ!ララノア!
 そしてお前らアースガイルがミズガルドに滅ぼされるのも、もうすぐだ!」

 失った腕をチラリと見ると男は窓から飛び出した。

「「しまった!!」」
 
 ララノアとトレバーが割れた窓に走り寄ると怪我をした男を抱えて逃亡する2人の影を確認した。

「無駄だと思うが、捜索隊を派遣しよう。」

 トレバーは急ぎ廊下に出て行った。
 ララノアは消えて行った影を目で追いながらも決意の目を向けていた。

「私はララノアじゃない・・・。
 私の名前はリルラだ。」
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