上 下
156 / 472
初めての旅 〜ダグスク〜

228

しおりを挟む
 朝起きると、イオリは潮風が鼻くすぐった。

「あぁ、海だ・・・。」

 窓を開けてベランダに出ると優しい風が吹いていた。


 昨夜はカールに別宅に案内してもらい、体を癒した。
 この別宅は元々、三代前のダグスク公爵夫婦が息子に爵位を譲り屋敷を出て市民と同じくゆっくりと過ごす為に造られたらしい。
 とは言え公爵家、市民と同じと言えど立派な邸宅だった。
 御二人が亡くなってからは、客人の宿泊場所として保存されていて望めばメイドなどを付けてくれると言っていたが
 丁重にお断りをした。

『おはようー。』

 のんびりと起きてきたゼンがまだ眠そうにイオリの側にやってきた。
 頭の上にはご機嫌なソルがピョンピョンと跳ねている。

「おはよう。気持ちの良い朝だよ。」

『本当だー。』

 手摺りに前脚をかけて覗くゼンの背をイオリは摩った。

「さてさて。
 子供達の様子を見に行こうか?」

 部屋の数があるこの別宅で昨夜はちょっとした問題が起こった。
 いつも一緒に寝ていたイオリ達だが今回のベットは一緒に寝るには小さかった。
 別れて寝ることになったのだが、ヒューゴが奴隷の自分達に部屋があるなんてと固辞したのだ。
 それにはイオリではなく、双子とナギが《まだ、奴隷と言うか!》と睨む様に怒り、折れたヒューゴがニナと2人で一室を使い、双子とナギが大きなベットに3人で眠り、そばにアウラが見守った。
 そしてイオリはゼンとソルと共に眺めの良い今の部屋を使うことになったのである。

 イオリは、身支度をすると子供達の部屋をノックした。
 開けるとドアまでアウラが迎えに出てくれていて、鼻を擦りながらイオリ達に挨拶をする。

 ノックの音に気づいたのはナギで、眠る双子の間で眠い目を擦っていた。
 イオリが近づき抱き上げると一緒にカーテンを開いた。

「うわぁぁぁ。朝の海はキラキラしてるね。」

 ナギの嬉しそうな声にスコルが目覚め、パティを起こしていた。

「みんな、おはよう。」

 イオリの声に双子はニコッと笑うと、思い思いに抱きついてきた。

「俺は朝ごはんの準備をしてくるよ。身支度したらおいで。」

 ナギを下ろすとスコルに任せた。

「「「はーい。」」」

 イオリとゼンがキッチンに入ってすぐにヒューゴとニナがやってきた。

「おはよう。」

「おはよう。今、子供達が着替えているんです。
 見てやって下さい。
 ニナの髪はパティがやってくれるよ。」

 ニナの頭を撫でると、嬉しそうにニナは頷いた。

「わかった。今日は朝食はなんだ?子供達を急がせる呪文を教えてくれ。」

「ハハハ。今日は余った材料とパンケーキを焼きます。
 ギルドとグラトニーが終わったら買い出しもしたいですね。」

「確かにな。パンケーキだな?あいつらすぐに来るぞ。」

 ヒューゴに言われイオリは急いで準備に取り掛かった。

 結局、子供達がキッチンに飛び込んでくるまでに間に合わずスコルを始めとして手伝ってもらった。
 朝食は外のガーデンテーブルで頂く事にした。

 みんなで食べていると、カールが庭に顔を出し微笑んでいた。

「何か御用はありますか?」

「お気遣い、ありがとうございます。
 今日はギルドとグラトニー商会に顔を出してから、食料調達をしてきます。
 戻ってきたら、一度お屋敷に顔を出します。」

「承知いたしました。主人に伝えましょう。
 その時間の食品でしたら商店で売られていますが、ダグスクに滞在中は是非とも朝市にお越しください。
 毎日、朝一に獲れた新鮮な魚や野菜が並びます。」

「!!!!
 なんて素晴らしいんだ!
 うーん。今日は無理そうですね。
 明日にでも行ってみます。」

「喜んでいただけて良かったです。
 海沿いのエリアに朝の時間だけ開いています。
 グラトニー商会さんで聞けば分かるでしょう。」

「ありがとうございます!」

 ニヤニヤが止まらないイオリを見て、その他の家族達は顔を突き合わせた。

「出たな・・・。」

「「うん。出た出た。」」

「明日だって」

『絶対に長いよ。』

「ヒィン!」

 でも・・・。

「「「「『絶対に美味いものが食べれる!』」」」」

 ニナもニコニコしながらパンケーキを千切りソルに食べさせていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

妹に出ていけと言われたので守護霊を全員引き連れて出ていきます

兎屋亀吉
恋愛
ヨナーク伯爵家の令嬢アリシアは幼い頃に顔に大怪我を負ってから、霊を視認し使役する能力を身に着けていた。顔の傷によって政略結婚の駒としては使えなくなってしまったアリシアは当然のように冷遇されたが、アリシアを守る守護霊の力によって生活はどんどん豊かになっていった。しかしそんなある日、アリシアの父アビゲイルが亡くなる。次に伯爵家当主となったのはアリシアの妹ミーシャのところに婿入りしていたケインという男。ミーシャとケインはアリシアのことを邪魔に思っており、アリシアは着の身着のままの状態で伯爵家から放り出されてしまう。そこからヨナーク伯爵家の没落が始まった。

続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん
ファンタジー
⭐︎書籍化決定⭐︎  『拾ってたものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』  第2巻:2024年5月20日(月)に各書店に発送されます。  書籍化される[106話]まで引き下げレンタル版と差し替えさせて頂きます。  第1巻:2023年12月〜    改稿を入れて読みやすくなっております。  是非♪ ================== 1人ぼっちだった相沢庵は小さな子狼に気に入られ、共に異世界に送られた。 絶対神リュオンが求めたのは2人で自由に生きる事。 前作でダークエルフの脅威に触れた世界は各地で起こっている不可解な事に憂慮し始めた。 そんな中、異世界にて様々な出会いをし家族を得たイオリはリュオンの願い通り自由に生きていく。 まだ、読んでらっしゃらない方は先に『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』をご覧下さい。 前作に続き、のんびりと投稿してまいります。 気長なお付き合いを願います。 よろしくお願いします。 ※念の為R15にしています。 ※誤字脱字が存在する可能性か高いです。  苦笑いで許して下さい。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。